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「婆娑羅の玄孫」〜いしさんの「涙声」〜

 轟悠さんの退団公演「婆娑羅の玄孫」を観た。開演前、休憩中、客席は静まりかえってる。轟さん登場。割れんばかりの拍手。歌い出す…舞台が始まる…

  この一瞬がもう二度と無いと思うと、なんとも言えない寂しさがある。これは、一つの時代の終わりなんだと思う。これから宝塚は、残された生徒一人一人がもっと大きな責任を背負って、宝塚歌劇を守っていかなければならなくなってしまったのだと思う。それは、無意識に轟さんが守ってくれている、引っ張って下さるという安心が無くなるからだと思う。伝統を守る。これは大変な事で、宝塚の芸は殆どが先輩から後輩へ、口頭伝達によって伝えられる。だからどんな先輩に教わったか、どんな先輩の元で舞台を創ったかが、どんな舞台人になるかに大きく影響してくる。宝塚の演技メソッド等は存在しない。だからこそ、独創的で個性的なんだと思う。そして、宝塚や舞台に対する愛情や感謝、感動が繋がって繋がって守られている。私にも忘れられない先輩の言葉、舞台への姿勢、宝塚への想いがある。それは自分を前進させ、希望に変えてくれた。

 轟さんとは、一緒に多くの舞台に立たせて頂いた。皆さんが抱くイメージとは違う、女性らしさや、少年の様な可愛らしさもお持ちの方。組長として接する様になってからは、轟さんの宝塚を背負っていく孤独感の様な面を感じた事もあった。勿論沢山の人に守られ助けられているのだけれど、最後に舞台に向かう時は、たった一人。皆そうだけれど、皆とは違う決意であった様に思う。当たり前の様で当たり前でなかった轟さんという存在の大きさをこれから宝塚は思い知るんだと思う。
 ただ、今回何より感動したのは、星組生の真っ直ぐな、いし先生への想い。轟さんは恐らく、いつも通りやろうとしていらっしゃるけれど、星組生の静かな気合いが凄い。この舞台を必ずやり尽くしてやるというなんだか凄いエネルギー。長い年月の間に育まれた星組と轟悠さんとの絆だと思う。そして、それは、脚本、演出をされた植田先生のとてつもない轟さんへの愛情を星組生が感じたからだと思う。こんな後輩がいる。それが未来への希望だ。

想いが繋がって繋がって大きくなって、お客様へ。宝塚は人の想いで出来ている。それがあるから宝塚。お客様もまた、舞台の参加者である。

最後の場面、いしさんの「涙声」…一生忘れん。

「いし先生!ありがとうございました!」

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