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心に響く言葉とは?

 ようやく、秋の風を感じる様になりました。皆様、如何お過ごしでしょうか?世間はなんだか騒がしくて、毎日の新しい情報に踊らされがちですが、重陽の節供を迎えて菊の花を部屋に飾ると、ようやく移ろいゆく季節を感じられ、自分に意識が戻ってきた気がしました。
 組長だった頃、自分で言うのも何ですが「挨拶」が上手いと言われた事もありました。組長の「挨拶」は就任した時に「誰かが考えてくれるんですか?」なんて言われたりもしたけれど、全て自分で考えていました。それはそれは、聞きかじりの知識で、確かこんな事を仰っていた筈…なんて思い出しながら、本番の10日位前から考え出していました。最初の言い出しからラストの締めまでどう持っていこうか…と、何回も何回も読んでいる内に引っかかってくる所を洗い出し、最終的に自分の気持ちがすんなりと最初から最後まで入る様になれば完成である気がしました。そんな私なりに「挨拶」にはポリシーがあって…

① その時間を楽しい時間にする事
② 自分がお稽古場で感じた事、エピソードを入れる事
③ 「お客様は敵じゃ無い…」と念じて話す事

を、大切にしていました。スラスラ言おうとか、良い事を言おうとか、そういった無駄な欲がチラッとでも頭をよぎるとたちまちお客様は白けてしまいました。自分にいくら言い聞かせても、退団公演の初日には、雑念があったのでしょう。覚えた言葉を失って、「あー」とか「うー」とか言いながらどうにか繋いだ事を覚えています。
 本番前には国語の教師だった母に言葉と聞いた感じを確認してもらうのが常でした。繋がりや言葉の選び方一つで、自分本位になったり、お客様の気持ちを無視していたり、必要の無い事をアピールしたりしている事によく気がついて修正をしていました。人に聞いてもらって初めて分かる事が沢山ありました。上手くいくと、自然に気持ちがこもって、言葉に心が宿るのは台詞と同じなのだなと思いました。それは人の心にもすんなり深く入っていく様に感じました。また「挨拶」をする時に、自分がどんなコンディションであるのかによって、その時お客様がどんなお気持ちでいるかによっても反応は違っていました。反応として笑いは分かり易く、途中で笑いが起こると気持ちが乗ってくるのでその後はスラスラと出てきましたが、何となく途中で間延びしていると感じると最後まで取り戻すのが大変なのでした。また、お客様が興味を抱き、夢中になって聞いていると分かると、お客様がこっちに押し寄せてくる様な感覚がしました。そんな時は熱気で熱くなり、相思相愛の様な感覚になりました。盛り上がっていないと凄く空気は冷たいのです。そういった経験は私にとって、「伝える力」を学んだ時間になっていました。段々と経験を積む度に怖くなってきて、それは人を「感動させよう」としてしまう時で、これは凄い間違いの始まりで、そういった自分のエゴが出てくるときは「やばいやばい」と思って修正をしていましたが、なかなか難しく、「挨拶」のスランプ、お客様との「倦怠期」がありました(笑)。

 さて、ホテルに来てからも私は何度も「挨拶」をする機会に恵まれました。私は同じ様に考えて、言葉を選びながら何度も登壇させて頂きました…。が…、
…全然、上手くいかないのです。何度やっても、聞いているお客様はピクリとも反応しません。何度やっても同じで、ただそう感じるものの何故かは分からなくて、他の人の挨拶を聞く様にしてみました。ある日の宴会の席で、50代位の男性のお客様が、月組公演「今夜、ロマンス劇場で」をご観劇された後の挨拶をされていました。

「あー、いやー、今日の舞台はー、家の夫婦と同じでしたなー。家も一切触れ合いませんから〜。」
※この作品の主人公とヒロインの関係性より

場内は爆笑。何げない夫婦のエピソードをお話されて、笑わせていました。その時に、
「情景が浮かびやすいんだな」と分かりました。同じ様な生活リズムの中で生きている仲間の集いだからこそ、リアルに響く言葉だなと…私の「挨拶」にはまだ、聞いているお客さんにとってのリアルが無く共感を生まないんだと思いました。

 状況が変わるとこんなにも違うとは、人に響く言葉を伝えるには、相手の気持ちと自分の気持ち、その時の状況、いろんな共感力が必要だと。ホテルのお客様が押し寄せて来る様な感覚を得るには、まだまだ時間がかかりそうです。「話す」「言葉」「伝える」は面白い。皆さんは言葉を発する前、発している時、発した後にどんな感覚を抱いていますか?

すーさん

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