11/25週間パイオニア禁止&考察(黒単はなぜ強いのか)

※Notice:
 この記事は2019/12/2の禁止改定前に書かれたものです。12/2の禁止改定で、《密輸人の回転翼機》は《むかしむかし》《死者の原野》とともに禁止となりました。

Pioneer:
No changes

 レガシーはともかく、対話拒否系安定なモダンや禁止後も2アーキしか活躍できないスタンよりはよっぽど健全。
 プレイヤーの懸念は「黒単の支配率がどこまで上がるか」。
 そもそも「黒単」とはどんなデッキなのか、なぜ強いのか、対抗策はあるのか、について考察してみた。

■黒単とはどんなデッキなのか

 デッキ分類的には「アグロ」と呼ばれる範疇で、マナコストの頂点が4マナで、1マナ域が大量に採用されている。手札のダンプから早期展開で殴りきるデッキであり、その目的をハンデスや万能除去、機体やミシュラランドでサポートする。フィニッシュは速攻・飛行・打点4の《ランクル》が務めることが多い。
 速いクロックを押し付けるためコンボの隙を与えず、またリアニメイト生物を2種採用、機体やミシュラランドも入っておりスイーパー耐性も高くコントロールにも強い。ミッドレンジにもピンポイントで的確に除去できる万能除去を採用しており、アグロながら他の戦略に対して非常に器用に立ち回ることができる。
 
 
 
 
 


■黒単アグロはなぜ強いのか

1.歴代パワーカードが「より強く」使える

 《思考囲い》《変わり谷》《密輸人の回転翼機》のパイオニア3種の神器が一番強く使えるのが黒単。《思考囲い》はアグロで使うほうが強いし、《回転翼機》はディスカードシナジーが多い方が強いし、《変わり谷》は単色のみが使うことを許されたパワーカード。
 当然《思考囲い》も《回転翼機》も、様々なデッキに採用され、その強さを一段上に押し上げているが、黒単アグロほど強く使えていない。《血に染まりし勇者》というピースが黒単の根幹を支えている。

2.デッキ構造全体でアドバンテージに優れており、事故が少ない

 《血に染まりし勇者》も含め、少し小粒な、頼りなさそうなクリーチャーが採用されているが、《思考囲い》による牽制や、豊富なリソース回復手段を考えれば、展開力優先のカード採用で問題ない。2種のリアニメイト生物のおかげで、手札が空の場から勝てることも往々にしてある。《夜市の見張り》という一見リミテッドレベルのカードが採用されているのは、あくまで「展開力優先」を重視した結果である。
 この手のアグロは盤面の一掃で詰むことが多いが、黒単アグロはリセットにも強い。《変わり谷》《回転翼機》で攻めが途切れず、手札ダンプからのアドバンテージ差を《ランクル》で固定することができる。少々のマナフラ・マナスクリューは《回転翼機》で解消できる。
 このマナフラ・マナスクリューの解消はもちろんのこと、色事故がない点も黒単の強みである。ダブルシンボル要求カードは非常に少ないため《変わり谷》の運用もさして気にならない。

3.対抗馬となるメタ上のデッキに有利

 対抗馬となるシミックフードは飛行戦力が少ないため、《ランクル》+《回転翼機》でライフを詰められる展開が苦手。さらに《屑鉄場のたかり屋》の3/2というサイズが《オーコ》相手に強く、またリアニメイト生物は《オーコ》の影響を最も受けづらい性質のクリーチャー(余談だが、イゼットフェニックスがトップメタの一角なのは、リアニメイト生物かつ飛行を持つ点で《弧光のフェニックス》が強力なために他ならない)。速度も早いため相手の生物を鹿化する時間も与えない。総じて《オーコ》が蔓延するが故に黒単が強い、という構図になっている。
 イゼットフェニックスはあくまでドロー・除去連打からの《弧光のフェニックス》、あるいは《氷の中の存在》が主軸。1マナ域が多いアグロを捌ける程の除去は(現状のメインには)積んでおらず、デッキの性質上《神々の憤怒》もサイドボード含め控えめな採用のため、リアニメイトによるリソース差や手数で負けてしまう
 青赤ハサミ系にはとにかく《致命的な一押し》がよく効く。速度は同等(もしくはやや黒単側が遅い)ながら、ハンデスによる干渉と最強除去による援護があれば攻めをいなすことは不可能ではない。消耗戦に持ち込んだ場合、相手にリソース回復手段がないのもプラス要因。そもそも青赤ハサミがオールイン系なので個々のカードが弱い点に構造的な問題がある。
 緑単信心に対してはブン回り勝負、先手ゲーな部分があるが、《思考囲い》による牽制と小刻みなクロックから序盤の展開にそこまでの不利はつかず、ブン回りされれば負け/消耗戦に持ち込めばほぼ勝ち。《豊穣の力戦》《夏の帳》禁止でようやく五分、といったところ。
 パイオニアには多様性があり、他にも種々様々なデッキがあるものの、ミッドレンジとコンボにハンデスからの速度勝負を挑める点、除去系デッキにリソース勝負を挑める点で、プロアクティブなデッキながら、バランスの良さがあるデッキだと言える。

4.《オーコ》デッキの台頭によって苦手デッキが淘汰された

 《血に染まりし勇者》《密輸人の回転翼機》《屑鉄場のたかり屋》《夜市の見張り》など、受けに弱いカードを採用しているため、本来は黒単よりも速く展開しライフを詰めてくるデッキは苦手。《思考囲い》のライフロスも大きく響く。具体的には赤単白単などの単色アグロはかなり苦手な部類に入る。ところが、これらのデッキは《オーコ》が苦手なため環境から締め出されている。継続的なライフゲインがあるためアグロにとっては基本逆風となっている。
 同じアグロのはずの黒単は、《オーコ》に対して《思考囲い》+《残忍な騎士》という明確な一発回答があり、また前述の通りリアニメイト生物の無力化は基本的に不可能なため《オーコ》を苦にしない。なので、アグロでありながら《オーコ》頼りのデッキに負けることはない。

5.禁止の影響を受けづらい

 単純なパワーカードとして《思考囲い》《密輸人の回転翼機》があり、《変わり谷》《致命的な一押し》がそれを後押ししているものの、少なくとも「環境を歪めるレベルではない」というのが(今のところの)WotCの判断だと思われる。《囲い》禁止は一方的なコンボゲームを許容するし、《回転翼機》はパイオニアの強力なスイーパー群への抑止力になっている。
 
 
 
 


■黒単に勝つためには

1.呪禁、プロテクション生物軸の戦略

 実は黒単アグロは布告系除去が《ランクル》ぐらいしかなく、サイドボードも色対策カードに寄っている。そのためプロテクションや呪禁生物への対処が非常に難しい。
 そのため、呪禁生物にオーラで絆魂を付与すれば、処理にはかなり手を焼く。《林間隠れの斥候》を軸にしたオーラ戦術が成立することはPioneer Leagueでも実証済。《バサーラ塔の弓兵》は先制・警戒付与で《回転翼機》を止められる。《魔女跡追い》《蔦草牝馬》等、緑の呪禁生物はもともと黒に耐性があるものがほとんど。とはいえ問題は《思考囲い》によるピーピングなので、《豊潤の声、シャライ》《神聖の力戦》でシャットアウトするのもひとつの手。なお最強候補は《龍王オジュタイ》
 別のアプローチとして、《贖いし者、フェザー》デッキも《アジャニの存在》《神々の思し召し》という軽量対処手段があり、速度負けもしづらいため、ハンデスさえ乗り越えればそのまま勝てるポテンシャルもある。ただしよりハンデスに弱いため、《神聖の力戦》は必須か。サイドボードから《神々の憤怒》《轟音のクラリオン》が使えるのも大きい。
 若干性質は異なるが、破壊不能クリーチャーがナチュラルに採用できるとよい。青赤ハサミの《ダークスティールの城塞》+《アーティファクトの魂込め》《熱烈の神ハゾレト》、緑単信心の《狩猟の神、ナイレア》や《不屈の神ロナス》は対処手段が限られるため強力。デッキを使う/使われる際はお互いに意識をしておくと吉。

2.墓地追放と《回転翼機》《谷》への対処

 上でチラッと出た《神々の憤怒》自体は黒単相手にかなり有効。タフネス4以上の生物はいないし、別途《回転翼機》と《変わり谷》に対処すればいい。他、《肉儀場の叫び》あたりも有効だし、《漁る軟泥》ならメイン投入から相手の墓地活用戦略を咎められる。
 とはいえ《回転翼機》《変わり谷》への対処は非常に難しいが、《致命的な一押し》《削剥》のようなレンジの広い軽量リアクションは積極的に採用すべき。特に《削剥》は対黒単アグロの除去として優秀で、他パイオニアの主力生物にはタフネス3以下が多いので、《神々の憤怒》とセットで使用するとよい。
 最大の問題は、《削剥》《神々の憤怒》では《オーコ》に対処できないことである。+2から入られると《丸焼き》レンジ外となり、無理をしてでも落としにいく格好になるか、ターン跨ぎの生還を許してしまう。《害悪な掌握》《威圧の誇示》などの一発回答を別の色に求めるしかない。裏を返せば、赤単は使ってはいけない、ということになる。

3.相手の速度を上回る攻め

 相手に1マナ域がしこたま入っているのに速度もクソもあったもんか、と思われがちだが、機体とミシュラに頼っている分受け身の展開は苦手。具体的には先制攻撃持ちの多い赤系デッキで早々にライフを削り取ってしまうのが吉。赤には《ゴブリンの鎖回し》《灰の盲信者》など後手時にも強いカードが多いため受け身の戦いを取りやすく、リソースゲーになれば《実験の狂乱》という相手が実質対処不可能な最終兵器がある。
 ただし、繰り返しになるが、赤単は《オーコ》が大の苦手で、これといった有効な対処手段も限られる。黒単が非常に多いなら悪い選択ではないが、採用率の高いカードなので、今のメタでは厳しい。使うならタッチカラーの検討が大前提になるが、《オーコ》への回答を持つ色が、タッチしづらい有効色である点は非常に悩ましいところである。

4.横展開

 黒単にはスイーパー(マスデストラクション)や単純な1対2交換の除去は採用されていない。そのため、8Scalesの《搭載歩行機械》緑白トークンの《大集団の行進》など、相手を上回る横並び展開ができれば当然ながら優位に立てる。一番の回答は序盤を耐えた後の《約束の刻》→《死者の原野》であり、バントランプに勢いがあるのは《思考囲い》が効きづらいアーキタイプかつ横並びをしてくる、という点で黒単に比較的与しやすい。しかし《回転翼機》や《ランクル》への耐性を考えると、飛行機械トークン、もしくは絆魂を持つトークンが望ましい。
 そこまでの展開力がなくても、継続的な展開のタネが作れれば有効。意外と活躍するのが《つむじ風の巨匠》。ティムール・エネルギーは序盤の猛攻を耐えれば《栄光をもたらすもの》からの逆転が見えてくる。

5.禁止を待つ

 メタの支配率は一時期のコピーキャットや緑単信心程ではないし、《オーコ》という対抗軸があるため禁止の可能性は低くなってはいるが、メタ回転の観点から禁止が出る可能性もある。候補としては《密輸人の回転翼機》が最有力で、次いで《思考囲い》。黒単はディスカードシナジーが強力なデッキであり、逆にいえばこの2種+《変わり谷》に強く依存した構成をとっているため、禁止をされれば形を変えざるを得なくなる。
 その場合も、おそらくは《アスフォデルの灰色商人》軸の信心シナジーに移行するか、《傲慢な血王、ソリン》を軸とした吸血鬼部族デッキに生まれ変わるので、黒単自体は生き残るだろう。どちらのデッキでも《変わり谷》が強いことに変わりはない。そのデッキがそれでも《オーコ》軸、《原野》軸のデッキと戦えるかどうかが争点となる。


 余談になるがプロプレイヤー・市川ユウキ氏は自身のTwitterアカウントで「当時、軽いマナコストの《梅沢の十手》はモダンで最初から禁止なのに(以下略)」という旨で《密輸人の回転翼機》の禁止必要性を説いていた。


■目下の試合を戦い抜くために

 安定性と丸さから、4~5戦のスイスラウンド上位卓でさえ、黒単とマッチアップしないことは稀だろう。有り難いことに、一時期の緑単やコピーキャットほどの支配力を持っているデッキではない。
 対抗するなら意識すること、そして対策を怠らないこと。使うなら、意識されている事実や対策カードの存在を忘れないこと。パイオニアはデッキアーキタイプも多く、まだ好みでデッキを選んでいる人も多いだろう。自分のデッキなら何ができるのか、何が有効なのか、そもそもそのデッキを使うべきなのか、黒単がトップメタの環境下で一度考えてみるのが大切だろう。


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