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ゴリラとチンパンジーとヒトの性について

注意

※この記事はなんの専門家でもない、趣味として小説を創作している一般人が書いています。
※科学的に正確な記述を心がけていますが、作者の無知・勘違い等で間違いが含まれる可能性も大いにあります。

本文

 今、私は《性》についてのSF小説を書いてるところだが、私の小説は基本的に科学的知識を基盤に作るので、書く前後で本や論文やネット記事なんかを調べるという作業が発生する。前作の小説は人類史と脳の進化に関するものだったが、取り上げた科学的トピックはごく限られたものだった。しかし今回《性》について取り上げるトピックが複数あるので、調べるジャンルも多岐に渡る。やはりマイブームというかその時の興味があるので、ちょっと前は原核生物の性について調べていたが、今はゴリラの性生活について調べている。
 前作を書いたときもチンパンジーとボノボについて調べたので、ちょっとこれらの繁殖戦略の違いについて考えてみようと思う。(一般的にこういうのを現実逃避とも言う。)

 ゲノム研究の発展により、類人猿の系統分岐がどのように起こったかがだいたいわかるようになっている。
 11年前の下記Nature Japanの記事によるとゴリラとヒト・チンパンジーが共通祖先から分岐したのが1000万年前で、ヒトとチンパンジーが分岐したのがだいたい700万年前と言われている。(研究によってこの年代は前後にずれるが、それほど大きくは変わらない。)

 この3種の動物は多くのDNAを共有する遺伝的に近い種ということなのだが、皆さんがご存知のとおり、それぞれがわりと違う見た目や生活をしている。《性》についても、この3種はけっこう違った行動様式を持っている。
 まず、各種の社会構成から見ると、ゴリラはオス1~2:メスたくさん(最大30頭くらい?)のハーレムと、あぶれたオスが単体で暮らすか、オスだけの集団を作るパターンの構成。チンパンジーは最大50頭くらいのオス・メス(割合は1:2くらい)のグループで乱婚制。1匹で生きるはぐれチンパンジーは存在しない。ヒトは基本的に1:1の夫婦制。
 ヒトは本来は一夫多妻制じゃないのかと言うヒトを見かけるが、私が読んだ人類学関係の本だと、たいていどれも「ヒトはもともと進化の初期から一夫一妻制であると考える」と書いてあることが多い。

「ヒトのセクシャリティの生物学的由来」長谷川寿一

https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/11/79-5-8.pdf

 チンパンジーの集団内オスメス構成比が1:2で、単体で生活するオスがいないとなると、残りのオスはどうなった?と思うだろう。(生まれてくるときはどの種でも男女比は約1:1である。)残りのオスは死んでいる。チンパンジーのオスは生まれた集団内にずっといるのだが、その集団内外のオス同士の抗争などで死ぬことが多いので、男女比がかたよるのである。男はつらいよ。
 もちろんすべての集団でこのようになるわけでは無く、実際にはオスが多い集団なども存在するが、統計的にみるとこんな感じになるようである。

 ボノボはチンパンジーと同じ乱婚制だが、男女比は1:1に近いようだ。ボノボはチンパンジーと違ってオス同士が血みどろの抗争をせず、社会的トラブルは疑似セックスして解消するというのが有名だ。
 チンパンジーとボノボのメスは《性皮》と呼ばれる、発情期に巨大化する性器周辺の器官がある。メスのお尻にぶら下がる大きくて赤いモノを動物番組なんかで見たヒトも多いだろう。性皮が腫れていると群れのオスがいっせいに群がってセックスしようとする。性皮が腫れていなければオスはメスの存在を無視する。チンパンジーに関しては、オスは妊娠の可能性が無いメスやその(自分の子の可能性がある)子にはまったく興味がなく、ひたすらオス同士の社会的地位闘争、または近隣グループのオスとの抗争に熱中している。このへんの話はフランス・ドゥ・ヴァールという学者がたくさん本を出している。

 ゴリラはどうなのかというと、メスには性皮などは無いが、自分の排卵時期は(ヒトのメスと違って)わかるらしく、発情期のメスがハーレムのオスに近づいて行って、ジーッと顔をのぞきこんだりするのだそうだ。オスはメスのそういう行動によって発情し、交尾にいたるという。

 類人猿の研究というと有名な学者が何人もいて、古くはチンパンジーと言えばジェーン・グドール、ゴリラと言えばダイアン・フォッシーだが、日本の場合もチンパンジーで有名なヒト、ゴリラで有名なヒトがいる。多くが京都大学に関係するのは日本の伝統。
 日本のチンパンジー研究者は何人もいるが、ゴリラでは山極壽一先生が独走してる感じだ。少なくともネットで調べても山極先生しか出てこない。
 どの研究者にも言えるが、研究者は自分の研究対象の動物は良く言う傾向があると思う。山極先生の本を読んでると特にそれを感じる。山極先生は著書で「ゴリラはレイプをしない、礼儀正しい動物」みたいなことを書いていたが、NHKで見た動物番組(ダーウィンの特番)で単独オスがハーレムのメスを拉致しようとし、その際にメスの子に障害を負わせたという話があったので、それはレイプと言うんじゃないかと私は思っている。(ゴリラは『チンパンジーやヒトとくらべると、あまり』レイプをしない、という意味なら、まあ、そうかも…)
 また、上記のゴリラの性的行動を見ると、まるでメスが誘わないかぎりオスはセックスしないみたいに見えるが、山極先生の本によると、あぶれオスがグループを作って共同生活することもあり、その集団内ではオス同士の交尾行動が見られたということなので、オスだけでも発情するね。

 さて、いよいよヒトについてだが、ヒトがなぜ古くから(いつからかは研究者によって違うが、チンパンジーと分岐した700万年前の初期からという話もある)一夫一妻制だと考えられているかというと、複数の要因がある。

●出産間隔の短さ
 下記の古市先生の本によると、ゴリラやチンパンジーとくらべてヒトの出産間隔は短く、それだけ多産となる。古市先生は、多産なのはヒトが食物を求めて安全な樹上からサバンナへ降りる必要があり、その分捕食者に襲われてたくさん死んだので、多産で無ければ生き残れなかったからということである。その多産性を支えるのに、オスがメスに食料を運ぶなどの支援があったのではないかという「食料運搬仮説」がある。

●隠された排卵
 ヒトのメスは自分の排卵時期がわからない。生理日はわかるが、生理が来ている日と排卵が起きる日は違う。排卵が起きているという感覚も無いので、いつセックスしたら自分が妊娠するかということがわからない。こういう動物も珍しいんじゃないか。
 当然オスもいつセックスしたらメスに自分の子を妊娠させられるかの判断材料が無い。この場合にオスは多数のメスの間を飛びまわって年中セックスしまくるという戦略も可能だが、他のオスも同じことをすると結局は自分の子ができたのかどうかわからないし、上記の理由で子供が次々と捕食者に食べられてしまったらやがて絶滅する。自然は特定のメスのそばにずっといて食料を運び、メスが多産になるようなオスの子孫が生き残る方向にヒトを進化させた。メスは特定のオスが常に自分に食料を持ってくると有利なので、排卵が隠されるように進化したんじゃないかと言ってる学者もいる。

隠された排卵 Concealed Ovulation

https://academic-accelerator.com/encyclopedia/jp/concealed-ovulation

●若い女の子が好き
 これは進化仮説というよりも傍証みたいなもので、マット・リドレーの有名な本『赤の女王』に書いてあって、とても納得した話である。
 男性はたいてい若い女性が好きだが、もしヒトが一夫多妻制や乱婚制だったなら、オスにとっての性戦略はオス同士の競争に勝つことであり、勝てばより多くのセックスの機会を獲得することでまわりのメスを片っぱしから妊娠させることができるので、メスの属性などどうでも良いはずである。特定のメスにコストをかけてずっと自分の子を産んでもらう前提だからこそ、なるべく長くたくさん出産できる若い女性にこだわるのだ、という話。

 ゲノム系統が近い動物でもこんなふうに性戦略が違うという話でした。

タイトル画像:"A human, a chimpanzee and a gorilla face each other" by Stable Diffusion Online(ヒトがいないけど)








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