ヨーグルト真上

戦慄のヨーグルト

投稿コンテストのテーマ「#ヨーグルトのある食卓」を見て、
一つ思い出したヨーグルトの話があるので、書いてみたいと思う。


私が中学生の頃。

女子校に通っていたため、男子に出会う機会は無く、恋愛とは無縁の日々を送っていた。

しかしクラスには、ごく少数ではあるが、彼氏持ちの女子もいて、
ある時、その彼氏持ちの女子がニヤニヤしながら、

「彼氏の男友達が、集合写真のゆう(私)を見て、この子に会いたいって言ってるんだけど、どうする?」

と言ってきた。
ずっと夢見てきた漫画のような展開に、
私は「えっ!?本当に!?」と有頂天になった。

その後、お見合いがセッティングされ、男子と初対面した。
背は高く、清潔感があり、可愛らしい男子だった。
緊張したけれど、それなりに楽しく時を過ごした。

その日のことは、家族には秘密にしていたのだが、
ネットもスマホもない時代、連絡は自宅の電話にかけるしか手段がなく、
後日、意を決してかけてきた男子からの電話によって、秘密はすぐさま露呈した。


母「……はい、そうですけど……え?どなた?」

不信感むき出しにして電話口で話す母。

慌てて母から受話器を奪い、男子と話をしたけれど、
母が怖すぎて、男子はドン引きしており、それっきりとなってしまった。

電話を切ると母がやってきて、あれこれ詮索。
いくら説明しても母の眉間のシワは消えない。
先日男子と会ったことを、母に黙っていたせいだ。

この一件で、母と私は、ぎくしゃくして気まずくなってしまった。


そんなある朝のこと。

食卓を見て、私は戦慄した。

朝食の定番メニューである“ブルガリアヨーグルト”の代わりに、
見慣れないヨーグルトが置かれていたのだが、

そのヨーグルトというのが、

男子の名字“タカナシ”と同名のヨーグルトだったのだ!

買ってきたのは母だ。
男子の名字が印字されたこのヨーグルトを、絶対に、ワザと選んだに違いない!!

そう確信した私は、母の意図を頭フル回転で推理した。

ひやかしているつもりなのか…
娘と話をするきっかけに仕込んだネタなのか…
いやいや、まさか。そんな穏やかな話ではなさそうだ。

このヨーグルトからは、まるで、
「怪しげな男子発生!危険!注意!警戒!」母の中に鳴り響くサイレンが聞こえてくるようだった。

娘の初ロマンスに戸惑ったであろう母が用意したヨーグルトは、
それはそれで美味しかったけれども、朝から心臓に悪い。

一刻も早く“ブルガリアヨーグルト”が食卓に復活するように、
私は一心不乱で、その戦慄のヨーグルトをたいらげた。


なお、この件について、母も私も話題に出来ないまま25年が経った。
ヨーグルトに込めた母のメッセージとは何だったのかは、いまだ解明されていない。

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