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多剤処方を解決するために、薬の専門家である薬剤師さんとコミュニケーションしてみよう

                 日本薬剤師会 常務理事 岩月進さん

精神医療ユーザーの多くが抱える向精神薬の多剤処方。この問題を解決して回復に向かうために、薬を慎重に、安全に減薬する方法について、医療関係者や当事者に取材を続けています。今回は薬剤の専門家である薬剤師さんの仕事について、日本薬剤師会の常務理事 岩月進さんにインタビューをさせていただきました。薬局のオーナーでもある岩月さんに、制度のこと、薬局の使い方、薬剤師さんとのコミュニケーション、そして実際に減薬する時のアイディアなどをお聞きしました。

医薬分業システムの中で薬の適正使用をチェックする薬剤師の仕事


月崎 私は約25年間精神保健福祉の取材を続けていますが、ここ数年は、向精神薬のことについて調べるとともに精神科の患者さんのコミュニティの世話人をしています。精神科の患者さんの回復にとって、薬の適正な処方はとても重要な課題であり、そのためには薬剤師さんの協力も欠かせないものだと思います。今日は薬剤師さんから適切な支援を得るためには、どんなことを知っておいたらいいのかを教えていただきたいと思います。
まず一般の人々の多くは「薬剤師さんは、薬局で薬を渡してくれる人」と単純に考えているかなと思うのですが・・・。

岩月 まず理解していただきたいのは、私たち薬剤師が担っているのは、「監査する仕事である」と言うことです。

月崎 えっ「監査」ですか?

岩月 はい。まず医薬分業の意味から説明しましょう。医師は患者さんを診察して診断をし、治療のための薬を決めて処方箋を書きます。そこで、医師が書いた処方箋を受け取った薬剤師が、薬の専門家の視点で薬をチェックします。もし処方箋に書いてある情報に間違いがあったとしても、薬剤師がそれに気づいて、薬の現物を出さなかったら、事故にはなりません。つまり薬局は、薬剤師が医師の書いた処方箋の内容をきちんと監査し、正しく調剤した薬を患者さんに手渡すチェック機能を備えた場所であり、それが医薬分業の目的なのです。

月崎 薬局に処方箋を持っていって、薬をもらうという一連の行為の背景には、薬剤師さんによる「薬の監査」というチェック機能が働いているということですね。

岩月 はい。薬剤師というのは、処方箋を見て、数や量だけでなく飲み合わせなども含め、チェックします。薬剤師はそういう教育を受けていますから、例えば同じ薬局内でも自分の仕事を常に他の薬剤師に監査をしてもらうことが当たり前になっています。

月崎 薬剤師同士で確認し合うことが前提ということですね。これは医師が一人で治療方針や処方を決めて、お互いのやり方にはほとんど干渉しないという医師たちの関係とは違う部分ですね。

岩月 私たち薬剤師の仕事は基本的に「監査」を前提にしているわけです。だからいつも第三者に見られているわけです。それが前提です。チェック機能の恩恵をよりわかりやすくするために医薬分業になっているわけです。医師が処方箋を書いて、薬剤師が調剤するというのは、監査のための役割の分離です。これは世界中で行われているシステムです。処方と調剤を分離することで、安全性や適正使用を担保してくということです。

多剤処方を減らすためには、患者自身の理解や意識改革も必要

月崎 はい。まず前提を理解できました。今日は、特に精神科の患者さんの事情をテーマにお話を伺いたいと思いますが、ご存知のように向精神薬の多剤処方は精神科の患者さんたちを大変苦しめていると思います。しかしその一方で減薬もそう容易ではありません。多剤処方を調整すると、体調が回復する方が少なからずいることは、取材をしていて明らかですし、実際に断薬ですっかり元気になった方もかなりいらっしゃる。しかし上手に協力や支援をしてくれる仕組みがあるわけではないのが実情です。

岩月 「多剤処方をやめたら体調がよくなった」というのはまさに、チェック機能の問題ですが、薬の種類が多いこと自体は、疑義のある処方にはなりません。患者さんが希望した結果の多剤であれば、患者さん自ら多剤であることの問題を発言しないと処方した医師にも、調剤した薬剤師にも伝わりません。

月崎 薬剤師さんは、薬の専門職として処方について意見を言えるはずだけれど、それは薬学的な観点から出会って、多剤併用そのものについての意見を述べるのは、疑義照会の仕組みの中にもそのチャンスが少ないのだなということがなんとなくわかりました。
薬剤師さんという専門職の立場で教えていただきたいのですが、なぜ特に精神科ではこれほど多剤処方になってしまっているのでしょうか?

岩月 多剤処方の理由ですね。これは精神科領域に限りませんが、例えばインフルエンザという病気を例に説明しましょう。発熱などの症状があって、医療機関で診察を受けたとします。検査をして「インフルエンザです」と確定診断がつくと、抗インフルエンザ薬だけが処方されます。他の薬は処方されない。一方同じような発熱という症状でも「風邪をひいた」ということになると、解熱剤と咳止め薬と鼻水を止める薬とついでに胃薬とビタミン剤といった処方がされます。これですでにもう5つの薬になってしまいます。つまり同じような症状であっても、原因となる診断名があり、それに対処する薬があれば、1つの薬で済むということです。

月崎 なるほど。そういうことなのですね。原因がわからないと、医師としては1つひとつの訴えに対症療法をしなければいけないので、お薬が増えるというわけですね。

岩月 だから、原因がはっきりしていない精神科領域の疾患の場合、多剤処方になりがちなんです。原因がわからないから、患者さんの言う症状に合わせて薬が出るのです。だから、多剤処方になるのはある意味で当たり前なんですよ。「風邪をひいた」と言うと薬が増えるのと同じ理屈です。これは悪気があってしていることではないですよね。

月崎 悪気はないといっても、患者さんが手のひらいっぱいの薬を見せてくれて、これを一回に飲むと聞くと驚きます。

岩月 医師は患者さんとディスカッションしながら、「眠れないなら眠るお薬を出しましょうね」となるんです。しかしそもそも例えば鬱病とか鬱状態と診断された場合には気分が落ち込んでいるので、全体的に気分を持ち上げる薬を出すわけです。そうすると眠りにくくなるのは当然ですから睡眠薬を処方する。矛盾しているように見えますよね。精神科領域の診断は
患者さんの訴えや周囲の印象など数値に基づいた診断名ではないため、その結果、症状に対処した薬を追加するということが起きてしまいがちになる。

月崎 つまり、医師の質問に患者さんが症状で困っていることを伝えれば伝えるほど薬が増えやすいという傾向があると考えた方がよいわけですね。

岩月 はい。だから多剤処方が起きてしまうわけです。本来は何が原因でその症状が起きているのかがわからないと薬物療法は難しいのですが、精神科は原因を探求することが困難な病気でもあり、機会がないままきてしまった。

月崎 精神科を受診する状況の患者さんの方も心身が疲れていて、理解力や思考力も低下している。また医療や薬に依存しやすい傾向の方が多いかもしれません。

岩月 患者さん自身が状況を理解し現状に気づいて欲しいと思います。「まず言えば薬が増えるんだ」という診察状況であることを知っておいてほしいですね。一度増えた薬を減らすのはなかなか大変なことなので、増やさないことが大事だと思います。

月崎 まず患者さん自身が薬を増やさないことを意識するということですね。精神科にかかる時は初診から注意が必要ですね。

岩月 はい。なおかつメンタルのことは、内科医よりも、精神科の専門医にかかることをおすすめします。やはり専門性が違いますから。

薬剤師さんは「減薬」を応援したいと考えている

月崎 薬剤師さんが薬学的な専門知識で処方箋をチェックしてることがわかりましたが、「減薬」ということに関してはどんな意識なのでしょうか?やはり薬が減ると経営的には売り上げが減り不利になるので本音では減薬を推進したくないという感じですか?

岩月 いえいえ。減薬は薬剤師の大切な仕事ですよ。実は減薬したほうが仕事は効率的なんです。なぜかというと薬局の仕事は処方箋単位で技術料という収入があり、例えば薬を5種類出したときと、1種類しか出さないときでは、調剤報酬にはさほど大きな差はないのです。

月崎 そうなんですね。

岩月 そもそも、薬剤師という専門職の立場でも薬は必要なければ使わないほうがいいです。ただ、薬が出ないと安心しない患者さんも中にはいらっしゃるため、なかなかこういったことを言い出しにくいというのはあります。

月崎 薬剤師法24条で薬剤師には疑義照会の義務というのがありますね。
疑義照会というのは医師が処方した薬について疑問に感じた時に、医師に確認しなければ調剤してはいけないということですよね。

岩月 はい。私たち薬剤師は医師の処方箋に問題・疑問があったときには医師に確認しなければいけないんです。それが業務の一つとして明確に法律で求められているのは、医療職の中で薬剤師だけです。もちろん看護師も医師が間違っていることに気づけば指摘することもありますが、処方箋に関する疑問を医師に尋ねて解決することを法律で明記されているのは薬剤師だけです。

月崎 強い権限なのですね。

岩月 はい。まず疑義を確認し、解決した後でなければ調剤できない。このことは最初にお話しした医薬分業という仕組みの大前提によるものです。

月崎 はい。

岩月 薬剤師はそれに基づいて仕事をしているので、ときには医師と意見の相違が生じることもあります。

月崎 先日の『日経メディカルオンライン』の記事で疑義照会に関して、「調査した医師の27.5%が薬剤師からの疑義照会を鬱陶しいと感じたことがある」という調査結果が出ていたのを見て、現場での疑義照会もなかなか難しいものだなと感じたところでした。

岩月 そういった結果が出る理由の1つに、冒頭に申し上げた、医師側には「監査される」という習慣があまりないためということが考えられます。薬剤師は基本的に不必要な薬を出さないようにしたり減らしたりする仕事をしているので、常に「この薬は本当に必要なのか」というチェックの視点で見ているわけです。

月崎  薬剤師さんが「不要な薬を減らす」という監査の視点で仕事をしているという理念はわかってきました。しかし、特に精神科領域ではその実現がなかなか難しいというのも感じます。

岩月 そうですね。それが簡単にいかない背景にはいろいろな状況があります。例えば、「患者が要望して処方しているのになぜ薬剤師がいらないというんだ!」と医師から指摘されることもあります。治療方針の話になると、医師の考え方や患者さんとの関係性などの結果として薬が処方されている場合もあり、薬学的視点だけでは介入できないことも少なくありません。

減薬の支援者という視点で対話し、信頼できる薬剤師さんをみつける

月崎 医薬分業という役割分担によって薬を「監査」するという業務であっても、診察室での医師と患者さんの関係もあり簡単にはいかないということですね。そういった難しさがあるということを前提に、それでも多剤処方に悩む患者さんたちが、薬剤師さんに支援者の一人になっていただくためにはどんな方法があるのでしょうか?

岩月 まずいろいろな薬剤師と話してみてください。そして患者さん自身の希望について真剣に対応してくれる人を見つけることです。薬剤師にもいろいろな人がいます。ただ医療機関に近いといった理由ではなく、馴染みの店やレストランを探すように、信頼できる支援者を探すという視点でコミュニケーションしてみるのがいいと思います。

月崎 確かに話してみるということなのだと思いますが、薬局が混んでいるときはみなさん忙しそうですし、早く薬をもらって帰りたいという気持ちもあると思います。また患者さんたちの多くは、薬剤師さんは、処方箋に書いてある薬を渡してくれる人で、「眠れていますか?」とか「なにか気になることはありますか」「お大事に」といった受け答えもいわゆる職業上の社交辞令で、特に自分のことを知ってくれているとか、自分の薬に関心を持ってもらっているとは感じていないような気がします。

岩月 薬剤師側は処方箋に書かれた薬を見ているし、過去の記録もあるので大体どのような診断名がついているか推論ができます。また精神科の薬の場合は、適用外の処方など、使い方に多少の疑問を感じるようなこともあります。

月崎 おっしゃるように薬剤師さんと患者さんの間をつなぐ情報は、医師の作った処方箋のみですよね。薬剤師さんは、職業的に病名などを推察しているということですが、これだけでは減薬を支援してもらうコミュニケーションとしては不十分な感じですね。

岩月 そうです。医師は診察の場で患者に診断名をつけ、○○の薬を出しましょうと処方箋を交付することで、医師と患者間の問題解決を共有します。だから患者さんがその処方箋を持って薬局に来たときには、患者さんの問題はすでに解決していますよね。それで処方箋を受け取った側の私たち薬剤師は何をチェックするかというと、薬の相互作用、量などの問題点を薬学的に判断しているわけです。ところが薬剤師がこの問題をみつけても患者さんにとっては専門的な場合が多く、薬剤師側か指摘したり、すぐに患者さんと共有したりするのは難しいです。

「減薬したい」を薬剤師さんとコミュニケーションを始めるきっかけにする

月崎 なるほど。ではもし「薬理学的に、ちょっと問題があるな。大丈夫かな」と薬剤師さんが感じても、医師の処方箋ではその指示が出ているわけだし、明らかに間違った処方ではないということで疑義照会にはあたらない場合、薬剤師さん側からは、いい出しかねるという感じなんですね。

岩月 そうですね。それで薬剤師という専門職が感じたことの共有をどうやって患者さんとするかというきっかけとなるのが、実は「減薬」という言葉なんです。

月崎 ちょっとびっくりしました。薬剤師さんがこの言葉をきっかけに患者に向き合ってくれるなんて想像していませんでした。

岩月 患者さんのほうから、薬剤師に「薬を減らしたいのだけどどうしたらいいか」といった問いかけがないと、私たち薬剤師の感じている処方の問題点を患者さんとなかなか共有しにくいのです。薬剤師側から「この薬多いみたいですけど減らしたらいかがですか」というようなことは、医師の診療方針や処方権を侵害することになりかねないのでなかなか言いづらいのです。

月崎 精神科の患者さんたちは長年薬を減らしたいというと、医療従事者から「再発しますからダメです」と言われたり、「一生飲み続けるものです」と言われたりしてきて、「減薬」についての相談を薬剤師さんにしてもよいのだという発想がないような気がします。

岩月 もちろん実際にどのように薬の調整を進めるか、支援するか、ということになると、薬剤師のコミュニケーション能力や熱意、例えば精神科ならその分野の知識の問題もあります。でも、まず薬についての様々な問題を薬剤師と共有するきっかけとしては、「薬を減らしたい」ということを患者さんから伺うのが一番わかりやすいです。

月崎 薬剤師さんが取り合ってくれないとか、減らすなんてこといってはダメですというような対応をすることはないでしょうか?

岩月 いろいろな状況や判断があるので一概には言えませんが、患者さんから相談があった時に、詳しい話を聞こうとしないで「減らしちゃだめです」「できません」というようなことを言い、真摯に対応しない薬局にはいかなくていいです。薬局はたくさんあるのですから、自分に合う薬局を見つけてください。

月崎 さらに特定の薬局や薬剤師さんといろいろな相談をしたりサービスを提供してもらったりする「かかりつけ薬剤師」という仕組みもあると聞いています。かかりつけ薬剤師は、過去の服薬記録も含め、患者がほかの医療機関や薬局で受け取った薬や市販薬、健康食品、サプリメントなどをまとめて把握し、薬の成分や内容が重複していないか、薬や食品どうしの相互作用が出ていないかなど、患者の服薬後の経過を継続してチェックして薬の服用にかかわる注意点などをアドバイスしてくれるとのことですね。

岩月 はい。『かかりつけ薬剤師指導料』という診療報酬上の仕組みがあります。

月崎 とても魅力的な仕組みだと思いますが、『かかりつけ薬剤師』の同意をしたことで、薬剤師さんが患者さんの減薬の伴走者になってくれるような信頼関係が自動的にできるわけではないという理解でいいでしょうか?また精神科の薬の減薬はかなり難しいところもあり、向精神薬のことをよく理解していることに加えて心理的なサポートが必要という意味で難易度は高い気がします。

岩月 そうですね。あくまで『かかりつけ薬剤師指導料』は診療報酬上の仕組みですが、その算定有無にかかわらず、まずは患者さんが信頼できる薬剤師を見つけるのが良いと思います。その人に様々な相談などをしてみてコミュニケーションを取り、減薬についての患者さんと薬剤師との間に信頼関係を作っていく。その結果として『かかりつけ薬剤師』として同意するという選択肢もあるということです。

月崎 様々な事情をもった患者さんの対応の仕方を考えてるような薬剤師さんがいる薬局なら安心してかかることができますね。

岩月 熱心に患者さんを支援している薬局では、例えば新しい薬が入るたび、毎日のように添付文書を見直し情報を更新していきます。そういったチェック機能が働かない薬局に行って、薬のことで何か不満を感じる場合、薬局を変えるというのは1つの方法です。しかしなんとなく変えるだけではダメで、「自分の症状や薬にはどういう問題点があるのか」ということを、患者さん自身も把握して、それを薬剤師と話したりすることで判断していくことが大事です。これはどんな病気でも同じだと思います。

月崎 そうですね。最近はネットの発達で、自分で薬を減らす方法を調べるなど、イギリスの精神科医のアシュトン先生が作成されたベンゾジアゼピンを減薬するための『アシュトンマニュアル』というマニュアルも世界中の言葉に翻訳され、ダウンロードできるため患者さんたちの間に広まっています。また当事者の体験談もブログだけでなく電子書籍などできちんとしたものが読めるようになりました。私の冊子もゆっくり慎重な減薬を考えるために作っていて、これを使いながらワークショップなどを行なっています。そこで慎重な減薬について岩月先生のご意見を伺えたらと思います。特にベンゾジアゼピンの減薬を考える場合のことをお聞きしてもよいでしょうか。

岩月 はい。

月崎 減薬に関心が高く多くの患者さんを支援している医師は少ないのが実情です。特にベンゾジアゼピン服用者の大体3分の1くらいが、この薬に対して常用量依存があったり、減薬時に激しい離脱症状を感じるなどさまざまな困難を抱えていることがわかっています。そしてこの状態についてかなり関心の高い実践的な医師でも、薬の減らし方のスピードといいますか、減薬の単位は最小でも1剤の4分の1程度と考えている場合が多いようです。それに対して患者さんのほうは、薬を粉砕したり、水に溶かしたりして1剤の1%単位での減薬を行なうかたがかなり出てきています。しかしこういった微量の減薬でも身体依存があり離脱症状が出現するという方が多く見られます。薬剤師さんという薬の専門家の立場からこの違いをどう考えますか?

自分のペースで減薬を応援するのは本人の自主性を尊重することになる

岩月 そのマニュアルを拝読していないため、正確なコメントはできないのですが、薬物動態学(薬物が体内に投与されてから排泄されるまでの過程)を勉強した身からすると、薬1剤の1%〜2%に身体が反応するというのは考えられないことです。1〜2%といえば吸収誤差の範囲内です。例えば、薬を食事と一緒に摂取すれば吸収率は下がります。ですからその程度の差について本人が効果を判定できるとは普通考えられません。しかし、そう感じるということについては、おそらくご本人が、自分で薬について確認作業をしながら自律的に減薬しているということだと思うので、その意味は大きいのではないでしょうか。

月崎 つまり科学的な薬物動態という観点から見ると、1〜2%で身体が反応するとは思えないが、主体的に減薬することの心理的な納得感の大切さという観点で支援できるということですね。

岩月 それから保険適用の問題もありますので、保険診療に忠実に処方するなら2分の1という単位になるでしょう。98%で何が変わるかといえば、おそらく変わらないはずです。しかし私は患者さんのその行為を否定してるのではないのです。その方が自身で自分の身体感覚を確認しながら減薬することを、具体的に目に見える形でやってらっしゃるという意味で患者さんのその姿勢を尊重したいと思います。

月崎 科学的、論理的には受け入れられないが心理的に尊重するという感じですね。

岩月 はい。また患者さんにとって半分や4分の1に減らすということが、ストレスになり、かなり過敏に反応するということは理解できます。だからその部分を尊重し、患者さんの感覚を支持しながらそれに沿って減薬するのは適切なことだろうとお話を聞いていて思いました。しかし、それをシステムとして医療現場に浸透させるにはエビデンスが必要です。

月崎 なるほど、医療現場では、ナラティブではなく常にエビデンスが大事なんですね。

岩月 はい。ただエビデンスがなくとも、「あなたにとって良い方法がそうだとわかったら、やってみましょう」という人がいらっしゃれば、おそらくできていくケースもあるのだろうと思います。

月崎 そうですか。ただ一般的に薬のことは医師に相談しないで自己判断してはいけないと言われていますね。

岩月 それは意味が少し違っています。例えば医師は頓服薬を処方することもありますよね。患者さんが自分の必要に応じて服薬を判断することがいけないというわけではないのです。そして薬の減らし方や飲み方について悩んだりした時、医師に聞きにくいことなども、薬剤師に相談してほしいです。例えば「こういう減らし方をしたいと思うけれどどう思いますか」と薬剤師に聞いてみてください。

月崎 そんな風に相談してよいのですね。もし薬の粉砕が必要だったら薬剤師さんにお願いできるのですか?

岩月 粉砕をするには錠剤が飲み込みにくいなどの理由と医師からのオーダーが必要なんです。薬はそのままの形で使うことを前提にして保険診療システムの中にあるわけです。そのため、そういった変則的なこと実現するためには、まず信頼関係が必要ですよね。

月崎 そうですね。

岩月 結局、そういったことは保険診療のルールの少し外の話になるわけです。だから患者さん側のデリケートな事情を理解してくれる医師がいるから実現できるという側面もあります。医師や薬剤師、そして患者さんがやってみようということでお互いが理解をした上で実現する部分があるでしょう。

月崎 多くの方の取材をしていて、ルールすれすれのところでうまくいっている方は、ご本人の努力もありますが、やはり周囲の協力者に恵まれている場合だと思います。

岩月 そこがすごく大事なところですね。「ルールで決まってるから駄目です」という人と、「ルールで決まってないけどもこれはどうだろう」と考える人、2通りあります。薬剤師にとって保険のルール通りに薬を使用してもらうことは大切ですが、患者さんが安全に、適正に薬を使って元気になってもらうことを支援することもまた大切です。患者さんの様々な希望についての対応方法を、私たち薬剤師も医師も受け止めて行かなければならないと思います。そしてこのような信頼関係に基づく方法は、やはりアナログ的な手法、対話することで探し出すしかないと思います

月崎 やはりコミュニケーションですね。ただ不安や不満を抱えて待っているのではなく、患者さん側から勇気をもって薬剤師さんに話しかけたり、相談したりするということが必要なのだなと感じました。今日は長時間ありがとうございました。
(2021年11月9日 インタビュー・月崎時央)

●プロフィール
岩月 進 (いわつき すすむ)1955年生まれ 名城大学薬学部 卒業 塩野義製薬株式会社、株式会社佐藤薬局 勤務を経て、1981年ヨシケン岩月薬局 開設、
1999年有限会社ファーマケア 設立
2017年より一般社団法人愛知県薬剤師会 会長
2020年より公益社団法人日本薬剤師会 常務理事
(主な団体委員) 
2008年~2010年 厚生労働省社会保障審議会医療保険部会 臨時委員
2020年〜厚生労働省 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議構成員
2020年~ 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 薬事分科会 
要指導・一般用医薬品部会委員 、健康日本21推進全国連絡協議会 幹事
2021年~ 厚生労働省 セルフメディケーション推進に関する有識者検討会 構成員


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