海外組が過半数を占める時代のサッカー日本代表強化プラン ~ハリルホジッチの評価は適切か~

この記事を要約すると:

(1)2010年以降、日本代表に占める海外組の割合が劇的に増えたことにより、日本代表のサッカーの完成度を高める難易度が増した。

(2)ザッケローニ監督は2011年アジア杯期間中に完成させたチーム・戦術をベースにメンバーを固定するというアプローチでこの難しさを乗り越えようとしたが、W杯本大会ではスカウティングで丸裸にされ、コンディショニング調整の失敗も重なり、失敗した。

(3)ハリルホジッチ監督は、メンバーの固定をあまりしないというアプローチを取っていた。アギーレ監督の解任を受けての急遽の就任だったこともあり、また,ザッケローニ監督のように長期合宿を行う時間がないこともあって、ハリルホジッチ監督の日本代表のサッカーは完成度が低かったが、スカウティングによって丸裸にされるリスクは減り、特定の選手への依存度も減った。

(4)ハリルホジッチ監督のサッカーが良かったか否かを議論するには時期尚早。あくまでも長期合宿を経たあと、すなわち、本大会でのパフォーマンスで語られるべきであった。

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大会2ヶ月を前にしたハリルホジッチ解任という衝撃的なニュースは約1ヶ月が経過した今もなおサッカーファンの話題の中心となっています。その日本サッカー協会の意思決定や情報開示の酷さ、ハリルホジッチ監督と通訳の方へのリスペクトのなさについては、すでにいろいろな方が述べているところです。

他方、ハリルホジッチのサッカーそれ自体がどうだったのか、については、解任される前も解任された後も、比較的意見が大きく分かれていた(むしろ否定的な方が多かった)のではないかと思います。

戦術面については素人の感想の域をでないので私は特段言及しませんが、私でも分かる「日本代表のサッカーを評価をするに当たって、絶対に考慮しなければならない点」は指摘しておきたいと思います。まず,2010年南アフリカW杯以降の海外組の急激な増加です。では見ていきましょう。

まず、日本代表が初出場した1998年W杯本大会(岡田監督)において、海外組は0人でした。その後、日本代表はトルシエ監督,ジーコ監督、オシム監督、岡田監督と12年間で4人の監督を経験しますが、中田英寿の世界レベルでの活躍、小野伸二を中心とした黄金世代の台頭などが起こったものの、以下のとおり海外組が日本代表メンバーの大多数を占める時代がくることはなく、海外組はせいぜい1〜6人程度でした。

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2000年アジア杯(トルシエ監督):1人(FW西澤(エスパニョール))

2002年W杯本大会(トルシエ監督):4人(GK川口(ポーツマス)、MF稲本(アーセナル)、MF中田英(パルマ)、MF小野(フェイエノールト))

2004年アジア杯(ジーコ監督):2人(GK川口(ノアシャラン)、MF中村(レッジーナ))

2006年W杯本大会(ジーコ監督):6人(MF中田英(ボルトン)、MF中田浩(バーゼル)、MF稲本(ウェスト・ブロムウィッチ)、MF中村(セルティック)、FW高原(ハンブルガー)、FW大黒(グルノーブル))

2007年アジア杯(オシム監督):2人(MF中村(セルティック)、FW高原(フランクフルト))

2009年W杯アジア最終予選Aウズベキスタン戦(岡田監督):5人(MF中村(セルティック)、MF松井(サンテティエンヌ)、MF長谷部(ヴォルフスブルグ)、MF本田(フェンロ)、FW大久保(ヴォルフスブルグ))

2010年W杯本大会(岡田監督):4人(MF松井(グルノーブル)、MF長谷部( ヴォルフスブルク)、MF本田(CSKAモスクワ)、FW森本(カターニア))

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潮目が変わったのは2010年W杯後、です。日本人選手が海外、とりわけドイツのクラブに移籍する事例が増え始め、ザッケローニ監督の招集する日本代表チームにおいては海外組がメンバーの半分前後を占めるに至りました。海外組が増えるということは、日本人選手の評価が高まっている、日本人選手のレベルが上がったということで良いことではありますが、日本代表の強化という点に限れば,難しい点ももたらしてしまいます。それは国際Aマッチデーという限られた期間でしか選手を招集できなくなってしまうことです(日本への長距離移動で生じる「時差ぼけ」の調整等に時間が必要になり、日本代表の試合前に十分な練習ができなくなってしまうという問題もありますが、ここでは割愛します。)。

国際Aマッチデーは国際サッカー連盟(FIFA)が設定する代表活動が優先される日であり、国際マッチデー以外の代表活動には選手の所属するクラブ側に代表招集の拒否権があります。

ちなみに2017年の国際Aマッチデーはたったの10試合分
3/20~28 2試合  
6/5~13  2試合 
8/28~9/5 2試合 
10/2~10  2試合 
11/6~14  2試合

でした。もしも日本代表の選手が全員Jリーグ所属であれば、Jリーグのクラブに無理を言って協力してもらい、国際Aマッチデー以外の期間であってもJリーグの試合の合間にミニキャンプを実施したり、国際試合を組んで試合を行うことができますが、海外組が多くなると、海外組が所属するクラブ側が拒否する可能性が高くなり、仮にクラブ側が協力してくれたとしても移動時間も必要になり、国際Aマッチデー以外の活動が難しくなります。

海外組の増加によって2010年のザッケローニ監督就任以降の日本代表は非常に短い期間で活動を行うチームになりました。アジア杯やW杯等の大きな国際大会の直前期間を除くと、戦術を叩き込むための合宿を行う時間を確保することすらなかなかできません。したがって、日本代表のサッカーは,2010年以前と比べると、連携に乏しい付け焼き刃的なチームになる可能性が高くなりました

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この状況を踏まえたのか踏まえていないのかは定かではありませんが、ザッケローニ監督は「主力メンバーを固定する」というアプローチを取りました

まず、ザッケローニ監督は就任してすぐに、アジア杯という大きな国際大会を迎えました。この大会では、大会初戦を取りこぼすなど苦戦を強いられながらも、大会が進むにつれチームの完成度は高まっていき、李忠成の劇的なボレーシュートで優勝を掴むに至りました。ザッケローニ監督はこのアジア杯期間中に完成させたサッカースタイルを軸にして、アジア杯優勝メンバーを軸にして、ブラジルW杯までの残り3年半を過ごしていきました。以下に、2011年アジア杯、2013年W杯最終予選でW杯出場を決めた試合、2014年W杯本大会の海外組メンバーを掲載しています。あまり入れ替わりはありませんよね。

これらの海外組メンバーに国内組の今野(G大阪)、遠藤(G大阪)らを加え、同じメンバーで活動することによって、活動時間の短さをカバーしていきました。Numberのこちらの記事(http://number.bunshun.jp/articles/-/828805)によれば、ザッケローニ監督がW杯アジア最終予選で起用した選手はたったの22人だそうです。

その結果、W杯の1年前に行われたコンフェデレーションズ杯やアウェイで行われた国際親善試合ベルギー戦、オランダ戦などでは際立った連携のもと非常に効果的なパスワークを見せて強豪相手に善戦したりときには勝利をあげたりしました。

しかし、ザッケローニは2014W杯でそれまでの親善試合で見せていたパスワークを全く見せることなく失敗してしまいます。この点についてはいろいろな理由が挙げられていますが、直前のコンディション調整に失敗したという点だけではなく,4年間ずっと同じメンバーで同じような戦い方を繰り広げていたために、日本代表の強みを出させず弱みを突くためのポイントがあまりにも容易に把握されていたことは疑いようがないでしょう。

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2011年アジア杯(ザッケローニ監督):9人(GK川島(リールセ)、DF 長友(チェゼーナ)、DF内田(シャルケ)、DF吉田(フェンロ)、MF松井(トム・トムスク)、MF 香川(ドルトムント)、MF細貝(アウクスブルク)、MF長谷部(ヴォルフスブルク)、MF本田(CSKAモスクワ))

2013年W杯アジア最終予選Hオーストラリア戦(ザッケローニ監督):14人(GK川島(スタンダール)、DF内田(シャルケ)、DF酒井高(シュツットガルト)、DF酒井宏(ハノーファー)、DF吉田(サウサンプトン)、DF長友(インテル)、MF本田(CSKAモスクワ)、MF清武(ニュルンベルク)、MF香川(マンチェスターU)、MF長谷部(ヴォルフスブルグ)、MF細貝(レヴァークーゼン)、FW岡崎(シュツットガルト)、FW乾(フランクフルト)、FWハーフナー(フィテッセ))

2014年W杯本大会(ザッケローニ監督):12人(GK川島(スタンダール)、DF内田(シャルケ)、DF酒井高(シュツットガルト)DF酒井宏(ハノーファー)、DF吉田(サウサンプトン)、DF長友(インテル)、MF本田(ACミラン)、MF清武(ニュルンベルク)、MF香川(マンチェスターU)、MF長谷部(ニュルンベルク)、FW岡崎(マインツ)、FW大迫(ミュンヘン))

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その後、アギーレ監督が就任します。アギーレ監督は就任約半年後の2015年アジア杯後に八百長に関与した疑惑により解任されてしまったため、どのようなアプローチを取ろうとしていたのかは今となっては定かではありません。割愛します。
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2015年アジア杯(アギーレ監督):10人(GK川島(スタンダール・リエージュ)、DF長友(インテル)、DF吉田(サウサンプトン)、DF酒井高(シュツットガルト)MF長谷部(フランクフルト)、MF香川(ドルトムント)、MF清武(ハノーファー)、FW岡崎(マインツ)、FW本田(ACミラン)、FW乾(フランクフルト))

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ハリルホジッチ監督はアジア杯後の2015年3月に就任しました。ハリルホジッチ監督には就任後、まずはじめに行ったのはベテランとなった遠藤を敬意を持って代表から外すことでした。その後、長期合宿をする猶予は全くなくW杯アジア3次予選、W杯アジア最終予選へと突入していくことになりました。繰り返しになりますが、この点はザッケローニ監督と大きく異なります。ザッケローニ監督には、就任直後にアジア杯という長期合宿の場が与えられていました。

ハリルホジッチ監督は、キーとなる選手(長友、吉田、長谷部、香川、本田ら)は継続起用しながらも、選手は大きく入れ替えながら戦うことになりました。先ほども引用したNumberのこちらの記事(http://number.bunshun.jp/articles/-/828805)によれば、ハリルホジッチ監督がW杯アジア最終予選で起用した選手はオーストラリア戦終了時点で30人で過去最多であり、一度たりとも同じ11人で戦っていないということです(注:その次のサウジアラビア戦でそれまで起用されていなかった柴崎と杉本が起用され、32人に増えました。)。その結果、試合内容はややもすると低調なものが多かったように思います。しかしながら、アジア最終予選の大一番であるホームのオーストラリア戦では、本田と香川をスタメンから外して勝利するという端からみたらバクチとも取れる選手起用をして勝利に導きました。

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2017年アジア最終予選Hオーストラリア戦(ハリルホジッチ監督):15人(GK川島(メス)、DF長友(インテル)、DF酒井宏(マルセイユ)、DF酒井高(ハンブルガー)、DF吉田(サウサンプトン)、MF本田(パチューカ)、MF柴崎(ヘタフェ)、MF香川(ドルトムント)、MF長谷部(フランクフルト)、MF原口(ヘルタ・ベルリン)、FW岡崎(レスター・シティ)、FW久保(ヘント)、FW乾(エイバル)、FW大迫(ケルン)、FW浅野(シュトゥットガルト))

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W杯出場を決めたあともメンバーの非固定化(新戦力のテスト)は続きました。それと同時にやや低調な試合も続きました。この結果、何が起こったかというと、W杯23人のメンバーが誰にも予想がつかなくなりました。また、本田と香川といった選手を最終予選では長らく重宝していたものの、勝負所で外すという起用により、W杯本大会においても誰を起用してくるのか対戦相手には読めなくなりました。

我々が見てきたハリルホジッチ監督率いる日本代表のチームの完成度は確かに低かったと思います。でもこれは長期合宿とメンバー固定を行っていないので、ある意味、当たり前だとも言えます。

その一方で、自国のファンですら、W杯本大会の23人のメンバーや、W杯本大会3試合でスタメンとなる11人(おそらくハリルホジッチ監督は3試合ともスタメンを入れ替えてきたと思われます。)を予想できないくらい、手の内を隠すことになりました。

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海外組が過半数を占める時代になった今、そして、ハリルホジッチ監督の置かれた状況(=アジア杯終了後、W杯予選の直前に就任)やハリルホジッチ監督の選んだアプローチ(メンバーの非固定化)を踏まえると、ハリルホジッチ監督のサッカーを評価するのは、少なくとも長期合宿を行ったあとでないと時期尚早であるというのが私の結論です。海外組が非常に少なかった2010年以前の日本代表や、メンバーを固定して4年間を過ごしたザッケローニ監督の日本代表のときとは、W杯予選や親善試合でのパフォーマンスを評価するにあたっての前提の考え方を変える必要がありました。

そして、評価の場としてふさわしかったのは、ハリルホジッチ監督の置かれた状況(=アジア杯終了後、W杯予選の直前に就任)やハリルホジッチ監督の選んだアプローチ(メンバーの非固定化)を鑑みると、W杯の直前合宿を経たW杯本大会しかあり得ませんでした

もしも解任をせずハリルホジッチ監督でW杯を迎えていたならば、おそらくは、W杯予選やW杯出場決定後の親善試合で見てきたハリルホジッチ監督のサッカーとは異なる完成度のサッカー、それから、対戦相手にスカウティングを許さずに対策を講じされていない選手起用が見られたのではないかと思います(日本代表は比較的厳しいグループに属しているので絶対にベスト16に行けたと断言することはできませんが。)。

最後に海外組が今後も多数を占めることが期待される日本代表を強化していく上で「ザッケローニ監督のクラブチームのようなアプローチ」とは全く異なる「ハリルホジッチ監督のアプローチ」が有効なのか否かを把握する機会を失ってしまった今回の解任劇は、日本サッカーにとってこの3年間をゴミ箱に捨てたも同然の愚策であったということを記して、この記事を終わりにしたいと思います。

5月2日:公開(投稿後一部加筆修正)

5月5日:タイトル変更

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青野赤太郎

サッカーが好きです。
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