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ディズニー映画『ウィッシュ』感想他

評価

 100周年記念ケーキを頼んだら、豪華で上質な3段スポンジケーキと濃厚クリームが塗られたケーキが送られてきた感じ。トッピングがイチゴ数個でそれ以外は見当たらない。美味しいけど、もっとおいしく出来たでしょ? と首を捻る凡作。60点。


見ずに評価は出来ない

 世間一般の評価は知らないが、「良い」の指標の一つである興行収入面では良い評価を得られていない。まあディズニー映画が伸びない理由は単純に昨今の製作方針以外にも「少し待てばディズニー+で配信されるし」というまったりした気持ちがあるから、一概に興行収入だけで評価するのは間違いだ。それに今回の映画は私も気になっていたので、SPY×FAMILY公開前に見に行ってました。それで得た評価が、まあ、悪くはなかったけど凡作止まりというわけです。

※ここから先はネタバレありますのでご注意を!※

好きな歌は『無礼者たちへ』


 主人公アーシャの敵(ヴィラン)である、マグニフィコ(以下王様)の歌が、一番爽快感あって好き。というかこの王様って別に悪じゃないよね?

 色々ストレスと不安で暴走しちゃっただけなのですよ。それだけで最後は封印+牢獄エンドって慈悲の欠片もねえと思う。それにこの世界って普通に野蛮な人間たちの強盗や襲撃等もある危険いっぱいの世界なわけで。王様ほどの超有能魔法使いがいなければ一気に攻めれられて終わってしまう未来しか見えない。

 古い体制を破壊して新しい体制を築く。聞こえは良いけど新しい体制を築いていくんだとかそういう気概を革命を成し遂げたアーシャが最後の最後まで示さずに弱腰なのも鼻についた。お前がやったことだからお前が責任を取れと思いたい。ロサスを滅ぼしたかったならこれで正解だけど、存続させたいとかなら全く救いになっていない。まさに恩知らずな無礼者。

各キャラについて

 アーシャ。王様。王妃。ダリア。ヤギ。スター。その他大勢。……すまねえ、名前を覚えてない。アーシャの友人たちって見た目と話し方などの個性はあったはずだけど、ミュージカルの賑やかしとアーシャ不在の共同作業でしか活躍していないイメージがあって、まるで印象に残っていない。というか、王様とスター以外印象に残る人いたか?

主体性なき主人公アーシャ

 その場その場の局面で変わる理想で国民を先導し革命を成功させ、国王なき後は特に責任も取らずに「私何となく魔法使い目指してみます」というふざけた少女。自分の引き起こした混乱がロサス崩壊への序曲だということを理解していないし覚悟が全く見られない。

 主人公はヴィランの対極にいる存在であるなら、こんなフワフワしたままではいけなかった。

 王様の理念は、願いの力を統制することによる国家の維持管理で平和をもたらす事。彼の治めるロサスで暮らすには、「願い」を差し出す(忘れる)という等価交換だ。これについてはしっかりと入国前に説明がある。

 一方でアーシャは作中で頻りに「願いの持つ素晴らしさ」を王に説き、願いを返してあげてと言うが、それは「今までのシステムで平穏無事に過ごしてきたけどこれからはノーリスクでこの平和な国に住みたい」というわがままでしかないわけで。願いを解放したらどうなるかを王様はアーシャに丁寧に説明するけど、結局理解は出来なかった。

薄情な王妃

「禁書を手にとって変わってしまった」として主人公たちに協力してくれる王妃。自分が長年連れ添ってきた最愛の旦那様が不安いっぱいで気をやってしまった場面で、「王を解放してあげて」ならともかく「王を倒そう」はおかしくない? その統治方法で今まで何も問題なく平穏な国であったのに、ちょっとやり方変えたらすぐさま打倒って、女って怖い!

 禁書の呪いを晴らしてあげたわけでもなく禁書ごと王を封印というドライすぎるやり方。そもそも王妃様がこれから国民を守っていく流れなのですけど、魔法使えるような描写もなかったので「武力なき国家」として頑張っていくのですか? 全ての国が平穏ならそれでもいいけど多分そうはならんよ

ダリア

 片足が使えない女の子だけど、その設定別に要らなくない? 足が使えないから困ってしまったとか、そういう「弱い立場」を利用して王様の気を引いて時間稼ぎするとか、使えないから出来るトリック等、何かないの? ないならば普通に主人公の親友ポジションで良くないかと最後まで疑問いっぱいだった。スターに治してもらうとかそういうのも無かったし。

主人公の友人たち

 変な奴ら。それくらいしか浮かばないほど薄味。

ヤギ

 声が山ちゃん。名前はバレンティノらしいけど覚えられん。

スター

 どこから来てどうして願いを叶えてくれるのか最後まで何も語られず、「星に願いを」を題材にしたってだけで正直わけわからなかった。動き回るシーンやコメディにも大活躍したけど、ぬいぐるみ人気を狙っただけだったりする?

マグニフィコ国王を打ち倒す理由が希薄


 そもそも王様は願いの力を管理維持統制のために用いるだけで、私利私欲では一切手を付けていなかった。これの何が悪いか?

 例えばアーシャが最初に目撃する王様の正体が、願いの力を得て強力な魔法使いになっているみたいな図だったら打倒王様になる理由も分かる。しかし作中序盤の王様を倒すとか、願いの力を解放するなどの理由に「そろそろ寿命で死にそうなおじいちゃんが可哀想だから」「何となくそれはダメな気がする」みたいな説得力に欠ける動機しかないので、アーシャに感情移入出来ない。「可哀想だから」ってだけで国のルール無視して特別扱いされようという厚かましさMAXの彼女はどうすればよかったのだろうか?

 どうしても叶えたいなら、国を出ればよかった。王様に「国を出るので願いを返してほしい」と交渉したらまあ彼の事だ、返してくれるよ。そしたら平和でない世界で歌でも何でもやればいい。

 この国に住む条件が「願いを差し出す」ならば従う他ない。悪政を強いられて不平不満を民が噂しているわけではないロサスにおいて「この国のシステムを破壊する」というのは超の付くほどの不穏分子で、危険思想の持ち主だ。つまりこの作品は、王様の理念に基づく「平和」VSアーシャの情動的「正義」の対立であり、まあ感情移入できるのはどっちと聞かれると王様だよねとなる。

願いが叶えば何でもいい

 作中で願いを叶えてもらった女性がいました。彼女の願いは確か洋服とか洋裁関連で、王様は願いの力を「虹色のハサミ」に具現化し、彼女に渡しました。女性にスキルが身についたわけでなくとも、大層喜ばれたし周りはそれに対して歓声をあげた。

『他人が叶えてくれた願いで満足出来る程度の民』がロサスの民だ。自分で願いを叶えようとしない・出来ない人がここにいると王様は言ったがその通りである。

 因みに毎年12個、願いの力を具現化した魔道具を数十年に渡って作り続けている……つまり、数百の魔道具を生み出している可能性があるわけです。 ところが作中で魔道具を用いた戦いや演出はない。唯一呪われた鎧が役に立った程度で、『王国を守る盾を持った騎士』とか『王国最高のスナイパー』とかそういう国防方面の魔道具があってもいいのになーとか後々考えてしまった。

ロサスという国が成り立つ理由

 王様は幼い頃に略奪や国の崩壊で家族を失った過去がある。この世界はまだまだ戦乱の世であることを示唆するわけですが、その中でもロサスという国は外敵もなく、路頭に迷う民もない平和な国として描かれている。何故か? 願いを叶えてくれる国だから? 否。

「月一で確実に人の願いを叶えることが出来るほどのヤバい魔力を持った王様がいる国」だからだ。更には上述のヤバい魔道具を生みだし続ける力でもあるため、おいそれと手出しは出来ない。

 そもそもこの世界における魔法使いという存在が、どこにでもいるわけではなく非常に珍しい上、他人の願いに干渉できる魔法はトップクラスにヤバいでしょう。使い手次第では「良くない願いを叶えまくって混乱を引き起こす」なんてことも出来る。ロサスが平和なのは、下手に手を出して王様の怒りを買った場合、国防のために仕返しで滅ぼされる可能性が高いから。それ故に平穏無事にこの世界で存在できる。つまりはこの国、王様があって初めて成り立つといっても差し支えありません。

映画の後ロサスはどうなる?

 王様を早期に解放すれば数十年は持つでしょうけど、そうでなければ内乱とかが頻発して浮足立ったところをこれ幸いと他国から侵略されて終わる。

 先に述べた通り、ロサスの国防も政も全て王様の手で成り立つため、いかに王妃様の潜在政治能力が高かろうと、国防力が0の状態では国の存続が危うい。ましてやここにいる国民はロサスの風土よりも「マグニフィコ国王の庇護下にある安心感」に惹かれて移住した方が殆どだ。今は良くてもすぐに不平不満が噴出するでしょう。王様がすぐに戻った場合も、彼が不老不死にならない限りはいずれ破綻する。その理由は

後継者がいない

 アーシャはマグニフィコ国王の弟子見習いとして城の中に入った。つまりそれなりに魔法を扱う才能に長けていた。平民であるアーシャにもお鉢が回ってくるため、きっと国を運営していく中で幾度も弟子はとっていたであろう事が伺える。しかしその悉くで失敗していることも分かる。

 アーシャが弟子になってすぐに「家族の願いを優先的に叶えて欲しい」と言った時、王様は「そういうのは数か月くらい経ってから言うものだと思っていた」みたいな発言をしていた。これまで取ってきた弟子は全て「王様の志」ではなく、願いを叶えて欲しいという下心で弟子になっていたことが示されている。作中でも王様以外に魔法使いがいない=魔法を託すに値する弟子に巡り合えていないのだ。良くも悪くも王様の力が魅力的なため、彼の本質を理解できる人がいない。

真の理解者ポジション

 この作品に足りなかった要素はいくつもあるが、その最たるものは「王様の理解者=最強の弟子」ポジションでアーシャと真正面から対立する存在だと思う。

 王様の持つトラウマ、本当に愛する国民から必要とされているのはその人柄よりも力であることなど、彼の悲哀や激情を理解できる存在。弟子でなければ王妃様でもよかったのだが、あいにく彼女は革命家にあっさり寝返る薄情者だった。

 この最強の弟子が男性で、王様と同じような境遇にいた・差別迫害を受けていたとかの窮地を王様に救われたとか、王様を敬愛していて、「もしかして好きなのか?」くらいの匂わせがあるポジションだとなお良かった。昨今のディズニーはそういう要素も入れたがるから、だったら誰もが惹かれる魅力的な王に仕える従順な人がいたっていいんじゃないかと。少なくともそういう人間ドラマはもっとあって欲しかった。

スターという謎のキャラと役割

 マスコットキャラとしては100点。しかしその存在は結構邪悪。そもそもスターが来なければ王国は問題なく存続していた。作中でスターは「動植物にしゃべる機能を与え、所構わず願いを叶えた事」や、王様に不安を与えた事しかない。何故アーシャに力を貸したのか最後までよくわからない。「星に願いを言ったら来てくれた」とかいくら何でも簡単すぎるでしょう。

 個人的には先ほどまで書いたロサスがどの道辿るであろう破滅的未来へのアンサーとして「国民の願いの力が王様の願いを叶えてくれる」みたいな、病んだ王様を解放する希望に持って行ってくれる存在だと良かった。

禁書とスター

王様が何故か大事に保管していた禁書。その知識の中にスターを捕らえてその力を我が物にする杖の作り方が書いてあった。そのために必要な素材が何故か全て揃っていた。

 要するに禁書が書かれていた頃からスターは存在し、願いを叶える力の強大さについても把握されていた。

 しかしだ。そこまで詳しく書かれているということは、これを記した著者は一体今どこで何をしているのだろうか? スターが持つ願いの力は強大だ。声帯を持たぬ植物に言語機能を与え、ひよこを瞬く間にニワトリに成長させる。元々無いものに形を与え、時間操作も行う。

 不老不死という誰もが思い描く願いを叶える事も可能だろう。この著者はスターの捕らえ方を知っている。もしもスターを手に入れたのなら、今も世界のどこかで脅威となっていることだろうが、作中にはそんな場面は登場しない。【スターを知っているけど手に入れることは出来なかった】そういう存在だろう。

真の黒幕が欲しかった

 この物語でやりたかったのは古き体制の破壊、それを勧善懲悪という分かりやすさでやろうとしたのだと察することは出来る。しかし王様はそこまで悪い事をしたわけじゃないから、最後の扱いにはまるで納得できないし、主人公にも感情移入出来ないのだ。だから欲しかったんですよ、黒幕が。

 実は王様も黒幕にいいように使われていたのだと分かれば、あとはその黒幕をぶっ飛ばして綺麗さっぱり終われる。そういう都合のいい悪役を誰が引き受ける事が出来るのか?

 王妃ですよ。

 作中で王様は「独学で魔法使いになりこの国を作った」とありますが『実は禁書の著者である王妃様が彼に「願いの魔法」を叩き込んで記憶操作し、ある程度国が成熟した段階でスターを出現させてこれを確保、スターの杖を携えて実権を握る』みたいなストーリーにすればもう一段盛り上がったのではないかと思う。

『王妃様は遥か昔に願いの力で不老不死に近い存在になって、スターは願いを私利私欲で使う輩を排除するために送られた』とか。

『幼い王様の国を滅ぼしたのも実は……』とかそういうの。或いは禁書から魔法使いが出てくるみたいな展開でも良かったかもしれない。

「願いの力」で平和を作る王様、「願いの素晴らしさ」をまっすぐ伝えるアーシャVS「己の願いのために」他者を犠牲にする悪しき者。みたいな構図にして、最後は国民&アーシャ&王様全員で『ウィッシュ~この願い~』歌いながら倒すんですよ。それで禁書が燃えて今度こそ平和になったみたいな。

やっぱり惜しい映画だった

 実際に、やろうと思えばできたと思うんですよ。分かりやすさを優先しすぎて奥行きの余白があるのに、作らずに突っ走ってしまった。そんなイメージがこの映画にはあるので滅茶苦茶惜しいと思った。ディズニーは最近、「色々配慮しすぎた」旨の声明を出したが、今後それが映画づくりにどう反映されていくのかも注目です。

 ではこれにて筆を置きます。最後まで読了、ありがとうございました。

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