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令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド9:温故知新・老害忘年会

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、初心者向けのTRPGは何かをベテラン・ゲーマーたち(酔っ払い)が語り合います。一応、ライトサイトの続き。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ


ようこそ、私の研究室へ。

 日本のTRPG業界の40年間は、この新しいゲームを普及させるために、初心者向けのTRPGは何か? という課題に挑戦するものであった。正確には、「いかに新しいGM/DM/KPを増やすか?」という問題を解決しようとし続けたのである。
 昭和50年代はまだ、シミュレーションゲーマーという「ルールを解読することに長けた人々」が道を開いている黎明期だった。講師はデビュー前の昭和60年すぎた頃、D&Dを翻訳した大貫さんが主催するDM情報交換会、マスターズ・インでその時代からの流れを感じ取ったが、若い人が参入するには入手方法も価格も限られていた。講師の初単行本である「ドラゴンリング」がこの時代ゆえに生まれた1冊である。
 ゲームブック・ブームを受けて、「トンネルズ&トロールズ」が文庫で刊行されたのは若いゲーマーの発掘に役立った。この流れは「ロードス島戦記」の成功を受けて、KADOKAWA系列の富士見書房がソード・ワールドTRPGを刊行することで、ライトノベル読者というあたらしい層を招き入れることになる。彼らは物語を読み書きすることに長けていたが、ルールを解読して運用し、人々をコントロールしてセッションの形に形成することには慣れていなかった。そこで「ロードス島戦記」で成功したリプレイ様式が加速していくことになる。
 こうして「物語に憧れた青少年」がTRPGに参入したが、ゲーム的に破綻することもあり、そこで、1990年代の国産ゲームでのゲーム運営支援機能の発達を促し、「失敗しないセッションを支援するルール」が誕生していくことになる。
 時代はめぐり、21世紀になって、今度はネットの動画がTRPGの拡大をもたらした。これはまた、新しい初心者を大量に導き入れ、動画による解説こそが求められた。ゲームデザイナーは次々と動画に出演したり、自ら動画を製作したりして、TRPGの楽しさを語り、技術を伝え、ケアを進め、VR空間にすら進出していく。

 再度、問おう。多様化する初心者像に対して、最初に提示するべきTRPGは何か?

 今だからこそ、過去の教訓を知るべきではないのだろうか?

令和5年12月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

邪神CON打ち上げ

少々「今年最後の邪神CON(*01)終了! お疲れさまでした!」
 イベント主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう)の挨拶を皮切り(*02)に、皆が乾杯(*03)。都内某所の中華料理店(*04)を貸し切り、忘年会が始まる。
 コロナで開催を自粛(*05)していましたが、今年は開催できたのだ。

「いや、この一杯のために生きている!」(*6)
 邪神系コンベンションの初心者で「ザ・ループTRPG」(*7)を回した難解好夫(なんかい・すきお)は、生ビールを一杯。

難解「TRPGを遊んだ後の生は最高だぜ」(*8)
色々「これだけはやめられないなあ」(*9)
少々「ああいう大人にはなるなよ」
梶理「父よ、友達けなす、ダメ」

 なぜかアーニャ構文(*10)の梶理ちゃん。
 それには理由がある。
 隣に、今日参加したTRPG初心者の友人、軽音部の土師真理(はじ・まり)がいるからである。

梶理「色々さん、今日はありがとうございました」
真理「梶理ちゃんが楽しいっては分かりました!
 今日はドキドキしたねえ」(*11)

 その他にも、今日のイベントに参戦した初心者プレイヤーたちも忘年会に流れ込み、邪神CONスタッフの友人たちが乱入する。(*12)

危険なTRPG反省会

少々「本日はお疲れさまでした。では、各卓のGM、KPさんから卓の報告をお願いします」
色々「1番卓、新クトゥルフ神話TRPG卓KPの色々です。クリスマス合わせということで、『鉛筆城』(*13)を使いました。ホラー漫画家の奇妙な家で、クリスマスまでお留守番をするだけの簡単なお仕事でした(*14)。
 初心者向け卓で、女性が多かったので、サポートを軍配ちゃんに頼んだ結果、KPは楽をさせていただきました」(*15)
軍配「いやあ、若いっていいっすね!」
少々「軍配ちゃんはまだ20代なのに、その発言は」(*16)

 この卓に参加した梶理の友人、土師真理さんも、難解の姪っ子、曖昧アンナもなかなか楽しかったようで、軍配ちゃんとオンセで遊ぶ約束をしたそうな(*17)

曖昧アンナ「オンセばかりですが、オフラインも面白かったですね」(*18)

ザ・ループ:世代の相克

難解「2番卓、ザ・ループ(*19)卓GMの難解だ。『夏休みと殺人鳥』(*20)は鉄板やね。うちのメンバーは、リアル中学生男子、高校生男子、45歳男性、73歳男性とプレイヤーのバリエーション豊かだったが、みんな楽しんだようだ」
少々「さすが、難解さん、しかし、そのメンバーは?」
難解「リアル中学生はバット最強の中二病のトラブルメーカー(*21)、リアル高校生は『CoCはもう飽きた』(*22)という高二病が人気者(*23)のチームリーダー」
梶理「CoCはもう飽きた!」
色々「まあ、高二病だから(*24)」
難解「45歳は、娘とTRPGがしたいので、濃くないルールを遊んでみたいとのことだったが、設定を話したら、直撃世代で盛り上がっていた。1980年代にキッドだった(*25)」
色々「選んだキャラは?」
難解「変わり者の少女で、最年少10歳」(*26)
色々「73歳・・・もしかして、あの」
難解「蕪(かぶら)さんだな。未訳時代のかなり初期から、D&D(*27)を遊んでいた人の一人だな。1978年(*28)だと聞いたぞ」
色々「そして、今でも現役のコボル使い(*29)」
難解「まあ、最初期のネットゲーマーだ。DELのクライアント・サーバー(*30)でD&D遊んだとか聞いたぞ。ああ、今日は面白い会話があったな。
 CoC飽きた発言の高校生が『オンセ歴5年のベテラン』とか偉そうに言い出した(*31)ので、蕪さんを指さして、『お前の目の前にいるのはオンセ歴45年だが?』と教えてやったよ(*32)」
色々「あの人、最初の通信の時はカプラー(*33)だったそうだからな」
難解「一桁のTRPG歴ごときでマウントを取るのはやめろとあれほど」

ダンジョンズ&ドラゴンズ卓:これは懐かしTRPGじゃない!

3番卓はダンジョンズ&ドラゴンズ(*34)で、DMは暗黒司。ダークなシナリオ、全滅ものが好きだが、今回はスタートセットなので安心。

暗黒「3番卓、ダンジョンズ&ドラゴンズの暗黒です。スタートセットのシナリオ1、2を遊び、モンスターをぶちのめしました。いや、このセットはよいな」
少々「今回は洞窟入氏の甥っ子、小学生の探君が参加していましたが、どうでしたか?」
暗黒「初々しいガキ、もとい、ちびっ子が頭を捻って謎を解いて、ダイス目に一喜一憂しておったよ。くくく、すべては我とウィザーズ・オブ・ザ・コースト社(*35)の掌の内だと気づいてはおらんがな!」
少々「実は、うちの上司他、復帰組(*36)が多かったはずですが?」
暗黒「うむ、赤箱(*37)大好きの洞窟入、お前の上司がSW無印(*38)、HJ版ルーンクエスト(*39)以来のオーランス菅原(*40)、ウォーハンマー(*41)大好きお姉さんの戦鎚吉見(せんつい・よしみ)だったな」
難解「どう見ても昭和だろ、それ、旧ウォーロックで記事を読んだぞ」

暗黒「あえて、言おう。これらすべて現役のシステムだ!

一同「おおおおおお」
少々「ルーンクエストも復活しましたからね。21世紀とは思えない」
暗黒「これで我が魂の『ヴァンパイア:ザ・マスカレイド』(*42)の最新版がもう一度翻訳されれば完璧だな!」

比叡山で武将が炎上

ひろこ「4番卓、比叡山炎上(*43)KP、難解ひろこです。今回は『諏訪の夢引き』(*44)で、武田信玄の嫁を探しに諏訪へ行きました」
少々(旧姓・高美)「あんたがあれほどちゃんとKPできるなんて、時の流れを感じるわ(*45)。ママ友の審神者(*46)、木実葉薬研(このみは・やげん、HN)も満足していたわ」
少々「後二人の方は?」
ひろこ「もうひとりの女性、HN真田丸(*47)推しさんは、あれはガチ大河勢(*48)ね。#どうする絵(*49)まで描いていた。楽しかったようよ」
高美「それより、武将をやった男性がねえ。TRPG歴10年とか言っていたけれど、あれは、武家の覚悟が足りないわ(*50)」
少々「いや、それを求められても」
高美「社会人として(以下略)(*51)」
難解「だから、10年程度の歴でマウント取りに行くのはやめておけと」

僕は卓修羅になりたい

少々「5番卓、クトゥルフ神話TRPG(*52)卓のKP、少々ですね。シナリオは『事故物件アオベニ』(*53)。怪死したホラー作家の家に向かう編集者、プロデューサー、引っ越し屋のお話でした。旧CoC(*54)で遊びたい初心者向けでしたが、予想より濃い卓(*55)になりました」
難解「どう濃かったんだ?」
少々「まず、BOOTHでCoCの同人シナリオを売っている(*56)ペケッター邪神さん。『このシナリオ、イラスト書いてデザインをよくして、ココフォリアのデータ(*57)をつければ、3倍の値段で売れますよ(*57)。TRPGのデザイン(*58)に載った僕が言うんだから間違いないです』だそうな」
難解「うわ、業界人来たな」
少々「動画配信者(*59)で、もとVtuber(*60)の桜さいちゃったさん(仮)」
難解「もと?」
少々「独立系のVtuberは大変らしいですよ(*61)」
難解「あれは芸能業界だからな」
少々「配信者になりたいオンセ好きの大学生。『新じゃないCoCが知りたくて』来たそうです」
難解「まあ、新が合わないやつもいるんだろうなあ」(*62)
少々「経営学選考で、マーケティングの研究だそうで」
難解「まあ、商売になるか。にじさんじ(*63)がCoCやるぐらいだからな」
少々「最後に、去年、動画でCoCにハマった大学生君。彼もオンセをやりまくっているそうですよ。毎日のように」
難解「ああ、そういう時期があるよな(*64)。楽しかろう」
少々「彼いわく、卓修羅になりたい(*65)、と」
難解「あれってなるものか?」
少々「卓修羅と呼ばれたいとか」
難解「承認欲求かいな?」
少々「どう思います?」
難解「ゲーマー名刺を300枚ぐらい作って(*66)、そこに『卓修羅』って書いたらいいがな。配り終えたら、みんな『卓修羅のA君』とか呼んでくれるようになるって」
少々「配信者のペケッター邪神さんも同じネタを言ってましたよ。朱鷺田さんがなろうで書いていたって(*67)」
難解「く、あのやろう(*68)」

終わらない老害忘年会

卓報告が終わった後は、無礼講に。
各自が各テーブルで色々注文しつつ、それぞれ好きな話題を話す。
昨年は、コロナの関係で忘年会も自粛していたので、それぞれ、溜まっているようである。

少々「みんな、飲み過ぎですよ」
難解「あー、コロナでこの3年自粛していたからな。そもそも、飲み会のやり方を忘れているだろ?(*69) みんな暴走するぞ」
色々「そう言えば、軍配ちゃんがぐちってましたよ。最近の大学生はコロナ自粛で新歓コンパも追い出しコンパもやってない(*70)ので、コンパの仕切りが出来ないって。確かに、うちの若いのも、そもそも、酒は飲まないですからねえ。タバコも麻雀もやらない(*71)」

 そこですでに出来上がった暗黒司が乱入する。

暗黒「いいですか、難解さん。GURPSの最強キャラメイクは、まず、重力魔法を取ってですね」(*72)
難解「真・女神転生TRPG覚醒編の最強魔法はマカラカーンだな(*73)」
暗黒「高度2000mから落とすんですよ、これこそ高高度プロレス(*74)」
難解「ダンジョンズ&ドラゴンズ赤箱で魔法使いがまず取るべきは、リード・マジックではなく、ベントロキズム(*75)だな」
暗黒「さすが、難解さん!」

 そのまま、潰れる暗黒。

難解「終わる頃には起きるだろう」
少々「今、全然、会話してなかったですよね?」
難解「会話はしていたぞ?」
少々「違うゲームの話をしてませんでした?」
難解「こいつとは、TRPGで最強の魔法を議論していただけだ(*76)」

 そこで暗黒がばっと立ち上がり、両手を変な格好に曲げて何か叫んで、もう一度寝た。

少々「ま? ば?」
難解「ま゛」
少々「??」
色々「ジャイアントロボ(*77)ですかね?」
難解「正確には、『ジャイアントロボ』第9話『電流怪獣スパーキィ』で、敵の電撃攻撃で回路がいかれかけた時に発する声だな」
色々「分かりませんよね」
少々「昔の特撮でしたっけ? 僕の生まれる前ですね(*78)」
難解「刻の涙を見た」(*79)

 とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か?

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