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令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド9:初心者像の再定義とアプローチ・ルート

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。
 今回は、初心者の誘導、そして、最初に遊ぶべきTRPGという、業界最大の問題に立ち向かう。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ


ようこそ、私の研究室へ。

 仕事柄、TRPGを始めたいのですが、初心者向けのTRPGは何でしょうか? という質問をよく受ける。しかし、初心者という言葉は、いつの世でも危険なものだ。未定義のまま、進むと誤った道筋になる。2023年であれば、TRPG関連動画が最大の露出であり、ここから広がるネットからの参入層がもっとも多く、その次に、接触感染による「友人からの勧誘」、隣接メディア(デジタルゲーム、ボードゲーム、マダミス、人狼、ライトノベル、コミックなど)からの流入もある。すでに、第一次TRPGブーム(平成元年前後)のゲーマーの子供たちが中学生、高校生に達しており、家族環境からのゲーム体験すらある。筆者も今年になってから、複数の「娘が興味を持ったので、GM/KPしてほしい」という依頼を複数受けている。

 そうした多様化する初心者像に対して、最初に提示するべきTRPGは何か?

 2023年10月の現代日本の場合、普及度を考えると、まず、『新クトゥルフ神話TRPG』を上げるべきだが、ホラー系の要素が強いCoC系はファンタジーTRPGに比べて、ちゃんとシナリオを制作する必要があり、ずっと、初心者向けではないと言われてきた部分がある。動画文化の影響で普及し、アクセスできるシナリオの数は1000を超えるという天国環境だが、その反面、オンラインセッションの環境には、「立ち絵あり、部屋を完璧に作らねば人にあらず」のような完璧主義に毒されている発言もある。
 同じように、普及度の高い『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は最新版のスターターセットが値段も内容もかなり初心者に優しい作りであり、歴代最高に遊びやすいD&Dだと言ってよいだろうが、そもそも、D&Dが再現したい本格ファンタジーが、日本のZ世代に響かないという致命的な弱点がある。歴代最高に面白い映画版『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローの誇り』が地上波放映されるまでは、この差は埋まらないかもしれない。

 TRPGがマイナーだった時代には、初心者の幅を広げるために、さまざまな試みがなされた。『ソードワールドTRPG』が文庫で刊行され、リプレイ小説で補完されたのは、ライトノベル勃興期という時代を考えると当然のことだったが、いまや、『ソードワールド』が重いゲームに見えるというのは実に興味深いものである。その前に、TRPGへのアプローチ・ルートとなったゲームブックが復活の兆しを見せてはいるが、デジタルゲームの前に、そこまでのビッグウェーブとは言い難いのも事実である。

 さて、TRPGの入り口に求められるものは何なのだろうか?

令和5年11月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

初心者襲来!

 今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
 会場の隅っこで、古参メンバーの難解好夫(なんかい・すきお。61歳)の妻のひろこと、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。

少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
色々「今日は初心者(*4)が多いんですよね? 予定通り、『新クトゥルフ神話TRPG』(*5)の入門シナリオを用意しています」
少々「ええ、そうなんですよ。もう大変で。
 あれ、難解さんは?」
ひろこ「何か、仕事先から電話が入ったみたいで、ちょっと席を外しています。この前から忙しいのよ」
色々「◯銀の件、まだ終わってないらしいですよ?」(*6)
少々「え、本当? うちも、インボイス制度(*7)で経理が大騒ぎで」
色々「あー分かる。来年の電子帳簿法(*8)が来たら、経理だけでなく、法務と総務も死にますね」
少々「それはさておき、今日は本当に初心者が多くて……」

 そこに、げんなりした難解さんが帰ってきた。

少々「あ、難解さん、お仕事、大丈夫ですか?」
難解「あんな会社、知らん」(*9)
色々「それより、今日は初心者参加者がやたら多いらしくて、主催者が困っていますよ」
難解「初心者? どういう話や?」
少々「まず、ネットから申し込んできた新規参加者(*10)の多くが初心者で……」
難解「まあ、よくあることやないか? いつものCoC枠で」(*11)

初心者枠も縁故から


梶理「実は、私のクラスメイトがTRPGやってみたい!と言い出して」(*12)
難解「うわ、中二娘が2倍になったぞ。あれだろ、TRPG楽しいとか言ったんだろ?」
梶理「まあ」
難解「どの程度のゲーマーやねん?」
梶理「全くの初心者です。軽音部の子で」
難解「けいおん!」(*13)
色々「いや、今なら、『ぼっち・ざ・ろっく』(*14)でしょう?」
難解「そこは、ユーフォニアム(*15)だろ?」
梶理「彼女が弾くのはギターですけれど」
難解「あ、ああ。通じてない」
少々「いいですか? 『けいおん!』のアニメは2009年ですからね。梶理と同い年です」(*16)
難解「げふぅ」

子連れ参加?


少々「後、洞窟入が子連れで参加(*17)を申し込んできまして、甥っ子の小学生男子、洞窟探(どうくつ・さぐる、小5)がMMO-TRPGにハマっている(*18)ので、D&D(*19)をやらせてみようと」
難解「おお、あの悪ガキがもうそんな年に」(*20)
色々「何しろ、うちの娘が中二ですから」

 平成元年あたりにTRPGを始めた第二世代が、もう人の親ですから。

ひろこ「私の姪っ子のアンナちゃんも来るよ?」
難解「聞いてないぞ! そもそも、アンナちゃんはバリキャリの社会人やろ? あれがTRPGやるなんて?」
ひろこ「SNS仲間とCoC(*21)やっているらしいわ。人狼(*22)とか、マダミス(*23)とか謎解き(*24)にも興味があるみたい。
 この前、電話してきて、叔父さん(難解さんのこと)はその辺、詳しいんですか?と」(*25)
難解「もしかして、詳しいと答えたのか?」
ひろこ「詳しいでしょ?」
難解「・・・・・・・・・・」

会社で身バレ?


色々「実は、うちの会社の同僚、いや、上司が1名」
難解「はあ? お前の上司って、50代じゃねーのか?」
色々「今年、50になりますが、『ロードス島戦記』(*26)直撃世代で、ドラゴンマガジン(*27)の初期の愛読者だとか。ソード・ワールド(*28)とかGURPS(*29)とか遊んだ事があるそうです。MAGIUS(*30)とかパラダイス・フリート(*31)も知ってました」
難解「それは初心者じゃねー!」
色々「映画館で『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローの誇り』(*32)を見たら、面白かったみたいで、会社の喫煙室でそんな話になって(*33)身バレしました」
難解「抜け忍かよ(*34) 経験値は?」
色々「社会人になってからはやってないそうなので、25年以上のブランクがありますねえ」(*35)
難解「ブランク長いな。まあ、ゴールド免許(*36)というか、まあ、初心者枠にしておいた方がいいな」
少々「後、うちの真弓(旧姓・高美)のママさん仲間が……」
難解「そいつはカタギか?(*37)」
少々「審神者(さにわ)ですね(*38)」
難解「それなら、ひろこの担当だな」(*39)
ひろこ「ほほー。沼(*40)の住人ですな」
難解「どれ、他の初心者の申し込みアンケートを見せろ」

多様な初心者像とアプローチ


難解「とりあえず、CoCじゃないと満足しない層(*41)と、それ以外でも行けそうなルートを分けよう。リプレイ読み(*42)だったら、読んでいるリプレイのゲームに行きたいはずだ」
少々「洞窟入と甥っ子は?」
難解「ありゃ、洞窟がD&Dをやりたいから、甥っ子と遊びに来たんだ(*43)。誰か、D&Dのスタートセット(*44)で卓を立てて、色々の上司と一緒に放り込め」
梶理「私の友達は?」
難解「ケアが必要そうなので、色々の初心者卓に梶理つきで放り込んで、ルールがフォローできる若い女性でKP経験者が欲しいところだな」(*45)
少々「軍配ちゃんを召喚しました」(*46)
難解「GJ、高美のママ友は高美と一緒にひろこの『比叡山炎上』(*47)でカタナを振らせておけ!」
少々「あとの初心者は?」
難解「少々、お前がもう1卓、クトゥルフを立てて、この辺をさばけ。
 オレは、クトゥルフじゃなくてもいい連中を引き受けて、『ザ・ループTRPG』(*48)を立てよう」
少々「ソード・ワールド(*49)とかじゃなくていいんですか?」
難解「色々の上司はさておき、残念だが、SW2.5はリプレイ読んでいない人間にはちょいと重い(*50)。
 クトゥルフ動画勢にはもう少し軽いのが必要だ」

戦い終わって日が暮れて

 かくして、邪神コンベンション、初心者襲来回はなんとか終了。

少々「お疲れ様でした。
 各卓とも盛り上がった(*51)ようで、よかったです」
難解「ま、『夏休みと殺人鳥』(*52)は鉄板でよい」
色々「軍配ちゃんがいて助かった(*53)。感想戦(*54)を彼女が仕切ってくれて、その後、オンセに誘ってくれたようです(*55)」
梶理「友達も楽しかったそうです」
少々「よかったなあ」
梶理「次はどうする?って、聞かれました」(*56)
難解「ああ、ここからの情報が今後の課題やねえ」(*57)

少々「感想ですが、難解さんの圧が凄かった(*58)そうです。ゲームは面白かったそうですが」
難解「圧?」
一同「ああ、そこは今後のフォローですね。軍配ちゃん、ありがとう」
難解「なんだよ、それ」

 とっぴんぱらりのぷぅ。(*59)

解説っぽい何か

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