見出し画像

令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド1:感情と理性の狭間に。

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。ライトサイド1の続き。シナリオ製作において、エモいことを突き詰めることはどういう意味合いになるのか?

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。


 さて、我々は前回、クトゥルフ神話TRPG(以下CoC)の拡大によって、「最初に見たTRPG動画を親と思う」向きが誕生し、CoCに適さない題材もCoCで解決しようとするゼロリスク世代の迷走について検討した。このことは我々先行世代が、D&Dで、BRPで、T&Tで、SWで、スタンダードRPGで、サイコロ・フィクションで行ってきたことと、どう違うのか? 多分、その行為そのものは変わらない。それこそ、ガンダムを、ベルセルクを、スレイヤーズを、スターウォーズを、エヴァンゲリオンすら、自分たちの好みのシステムで再現しようとした。それに適した原作ゲームがあっても、そのまま、自前のシステムで遊んだこともある。
 では、今の状況に対する違和感は何なのか?
 それを象徴するキーワード「エモシ」に関して考えてみよう。

闇の黎明期!


 さて、無事にフリー・コンベンションも閉幕。
 GMを頼まれた(なんかい・すきお、59歳)と色々知照(いろいろ・しってる。52歳)は、二人でゼリアでイタリア飲み(*1)。そこに主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)が挨拶にやってくる(*2)

少々「本日はありがとうございました。娘の初KPも、おかげさまでなんとかなったようです(*3)」
難解「おつかれ。まあ、あのベテラン連中なら察したはずだ」
色々「私の初GMに比べれば、周囲のサポートが厚くて涙が出ますよ」
難解「アレはひどかったな」
色々「あの後、難解さんに3時間、説教を食らい……(*4)」
難解「あれはお前が、ルールを適当に扱うからだ!」
色々「そういう難解さんはどうだったんですか?」
難解「そもそも、わしがTRPGのGMを始めたのは1982年の秋だな。ツクダ(*5)の『エンタープライズ』(*6)やバンダイの『スペースコブラ』(*7)が出る前だったから、あるのは英語版。まわりにTRPGのGMなんておらんかった」
色々「どうやって始めたんですか?」
難解「知り合いがWORLDCON(*8)の土産に『ルーンクエスト』(*9)をくれた。アメリカで流行っているゲーム(*10)だってな、よく分からないので俺にぶん投げたのさ」
少々「黎明期ですねえ」(*11)
色々「難解さんって、その頃から英語読めたんですか?」
難解「お前な、俺が、英文全部落ちて、国文科行った(*12)こと、知っていて言ったな!」
色々「あ、すいません、すいません!」

 暴れる難解さん。少々のなだめスキル発動!(*13)
 ここまでは、毎回のお約束。

難解「わかんないけれど、ゲームはやりたかったんで、適当に流し読みして、シミュレーション・ゲームのサークルやSFのイベント(*14)で遊んでいた。俺以外、ルール読んでないから、まあ、そういうもんだで回したよ(*15)」
少々「それでOKだったんですか?」
難解「だって、読んでたの、俺だけだったから」(*16)
色々「ざつ!」
難解「まあ、実際、ざつな時代だったよ。
 固有名詞なんて、ちゃんと読めないから、Swordをスウォードとか(*17)読んでいたし。後で、英語で遊んでいる先達にあったら、全然、ルールが違っていた」(*18)
色々「この第一世代め!」
難解「説教されなかった訳じゃねーぞ。特に、シミュレーション・ゲームの長老連中は、ルール議論と戦争うんちくが大好きだったし、ルール違反にはうるさい。勝敗がかかっていたからな」(*19)
色々「面倒くさそう」

反エモシ論の可能性を問う。


 そこで、少々父のスマホが震える。

少々「失礼。娘からLINE(*20)です。本日はありがとうございましたとのことです」
色々「梶理ちゃん、マメだな」

 少々が見せたLINEのスタンプがゆるゆるしたクトゥルフ(*21)。
 なぜか、難解さんは渋い顔。

少々「どうしたんですか?」
難解「仕事上、使うが(以下略)セキュリティ意識が(以下略)」(*22)
少々「それで娘が、今回のシナリオに関する助言を聞いておいてくれと」
難解「まあ、そこに座れ」(*23)
少々「座ってます」
難解「わしは、エモシ(*24)が嫌いじゃ」
色々「うわあああ」
難解「まず、エモいシナリオの略称で『エモシ』という言葉を使う奴が嫌いだ」(*25)
色々「いきなり!」
難解「はあ? シナリオをシまで略すのが気に食わん。オリジナル・シナリオを『オリシ』(*26)とか、アホかと。そんなに文字を略したいのか?
 パクるか、公式でないなら、シナリオなんて全部オリジナルだよ」

 難解さんの個人的な意見です。

色々「とはいえ、エモシが求められることもありますよ!」(*27)
難解「それじゃまるで、『エモいシナリオ』というちゃんとした定義があるみたいではないか?」
色々「ないんですか?」
難解「まあ、仮に定義してみよう。『エモいシナリオ』って何だ?」
色々「なんか、ほんわかして、感情が揺り動かされるような、それでいて、惨劇とかじゃなくて、日常の延長みたいな、友情とか、悔恨のような、涙がだばだば出るんじゃないけれど……」
難解「説明できてへんやんか」
色々「いや、感覚として分かっていて(*28)、シナリオは書ける。
 エモシ(*29)の場合は、たいてい、初恋とか、言葉にしない友情とかが出るように、カップル寸前のNPCを配置しますね。そういうのをゆるっと表現できるように、緊迫度にもちょっと余裕をつけたり……」
少々「古見さん(*30)の1年生編(*31)とか、エモいですな」
色々「そうそう!」
難解「あのエモさは、コミュニケーション不全だけど、誤解されている(*32)美少女、古見さんの友達探しを、元厨二病(*33)で、今はちょっと勘のいい一般人の只野君(*34)が手助けしていくコミカルで優しい高校生活コメディだが、そのうちに、理解が恋愛に変わる、ちょっと奥手の恋愛の途中経過、二人の距離感がよいのだ(*35)。あと、『からかい上手の高木さん』(*36)」
色々「ああ、あれもいいですな」

 以下、エモいアニメ談義が30分ほど続く。
 京アニ作品(*37)のエモさの頂点は『響け!ユーフォニアム』1期(*38)につきるとか、ノスタルジーを重んじるなら、『のんのんびより』(*39)は外せないとか、『TIGER & BUNNY』(*40)はバディものとしてエモいとか、『古見さんは、コミュ症です。』の映像化はアニメ版しかない(*41)という流れで、シナリオに話が戻った。

難解「で、システムは何を使う?」
色々「うーーん。学園でバディを組んでともに戦う『銀剣のステラナイツ』(*42)は使いやすいけれども、古見さんには、ちょっとアクティブかな。『ウテナ』(*43)あたりが再現されそう。まあ、シーン表を全部書き換えれば(*44)、それっぽくなるな。人間関係ルールがあるのが多いけれど、古見さんの再現に求めるのは、もっとほんわか。例えば、『先輩後輩TRPGエネカデット』(*45)とかが近いかな。まあ、バディものの元祖『ウィッチクエスト』(*46)を改造するかなあ」
難解「感情を細やかに表現するとしたら、やはり『ペンドラゴン』(*47)は欠かせないが、改造は必要だな。コミュ障のアーサー王とか、ジレンマの表現が最高だな」
少々「私なら、『深淵』(*48)を学園で遊ぶかな。確か、作者のブログ(*49)で『School Days』(*50)や『プリキュア』(*51)を『深淵』で遊ぶという話があったような気がします」
難解「わしが、あえて言わんようにしておいたのに!(*52)
 ま、それはさておき、そこに、クトゥルフ神話TRPG(CoC)は入って来ぬ。CoCにはエモいをサポートする機能はない(*53)。
 まあ、新CoCは、狂気と背景物語が絡むようになった分、エモいシーンを作りやすくなった(*54)が、やはり、CoCは、ホラーRPGじゃ。エモいシーンがあっても、それは破滅のフラグ(*55)に過ぎぬ。
 まあ、もともとCoCには向いてはおらん」
色々「まあ、そうですね」
難解「そもそも、エモいという言葉が新しくて(*56)定義がゆるい。
 英語のEmotional(感情)から来た言葉とか、ハードコア・ロックの一ジャンルで感傷的なメロディを多用するイーモ(Emo)、エモ・ロックから広がったとか、まあ、だいたいそのあたりだが、状況的には、恋愛や友情のゆるやかなドラマで感情が刺激されるとか、ノスタルジーを感じるとか、寂しさとか、それでいて激しいものまでいかないあたりを、他に言葉が足りないので、『エモい』という。(*57)
 まあ、それはええが、エモいを優先するのは違うだろ?
 まず、そのTRPGの目的を先にせえ!と」(*58)

エモいCoCシナリオはあり得るのか?


少々「じゃあ、CoCらしいエモシは不可能なんですか?」
難解「可能だな、例えば、『沙耶の唄』という、クトゥルフ神話系美少女ゲームがあってな(*59)、エモいし、クトゥルフ神話らしい恐怖がある」
色々「グロいじゃないですか?」
難解「主人公はすでに狂気の状態で、沙耶がグロいとは欠片も思っていない。あれはあれで、純愛なんじゃよ」

 以下、難解さんの『沙耶の唄』語りが30分ほど続く。(*60)

色々「思うに、今日のCoCのユーザー向けにエモいシナリオを書くのは簡単ですよ?」(*61)
難解「なんでや?」
色々「動画を経験したCoCプレイヤーは、物語のエモさに対する感受性が鍛えられています(*62)。キーワードに対して、敏感、かつ、積極的に萌えやエモさを感じようとする傾向が強いんですよ(*63)。だから、最初に、『今日はエモいシナリオで!』と言って(*64)、感情移入しやすいNPCを配置し、エモいキーワードを配置することでエモシ化できるんですよ!」
難解「それでええなら、『シャドウラン』(*65)でも『ウォーハンマー』(*66)でもエモくできるわ!(*67)」
色々「そこは、ジェネレーション・ギャップですよ(*68)。動画経験者のCoCユーザーならば、それでイケます!」
難解「な、なんか、わしが老害みたいじゃないか!(*69)」
色々「自覚なかったんですか?」(*70)

 とっぴんぱらりのぷう(*71)

 

以下、解説っぽい何か

ここから先は

6,505字
11人のライターが月に1本以上、書いています。是非、チェックしてください。

アナログゲームマガジン

¥500 / 月 初月無料

あなたの世界を広げる『アナログゲームマガジン』は月額500円(初月無料)のサブスクリプション型ウェブマガジンです。 ボードゲーム、マーダー…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?