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令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド3:概念としての神話とOS化するシステム

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。ライトサイド3の続き。ジェネレーション・ギャップの根源に存在するTRPGへの認識の差異の原因、そして、その対応に関する考察。あるいは、よくあるTRPG学級会。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。


 さて、我々は前回、2020年代のコンベンション事情と問題プレイヤーの存在に関して検討した。それらは20世紀から続く様々なノウハウによって解決可能な問題であるが、その一方で、クトゥルフ神話TRPG(以下CoC)の拡大によって生じた、新世代の問題も存在している。そこには、現在の若い世代のTRPG受容携形態に根ざす問題もあれば、昭和世代、平成世代とのジェネレーション・ギャップも明らかになっていった。ジェネレーション・ギャップを越える方法は、あるのだろうか? それはさておき、CoCって、原作物TRPGなんだが・・・。

令和4年4月

結局、俺たちはゼリア飲み


 さて、無事にコンベンションも閉幕。
 GMを頼まれた(なんかい・すきお、59歳)と色々知照(いろいろ・しってる。52歳)は、二人でゼリアでイタリア飲み(*1)。そこに主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)が挨拶にやってくる(*2)

少々「本日もありがとうございました。なんとかコンベンションも大きな問題はなく終わりました。お二人はいかがでした?」(*3)
色々「現代物は、ちゃんとやればうけるよ。最初の問診(*4)で、『狐火、あるいは青い音』(*5)が好きだ、という人がいたので、街歩き要素をアドリブで足したら、受けた」(*6)
少々「○○さんはどうでしたか?」
色々「相変わらず、『ルールブック買わない原理主義者』(*7)だったが、女性プレイヤーから『推しに貢がない(*8)なんて、社会人としていかがなものかしら?』と説教されて、その場でポチっていたよ(*9)」
少々「難解さんは?」
難解「今回は、これが届いたからな」

 どんと机の上に出されるB4版書籍。

超詳細メカ図面集 エイリアン・ブループリント(グラフィック社)

色々「あ、買ったんですか! 『エイリアン・ブループリント 超詳細 メカ図面集』(*10)。これ欲しかったんだすよねえ」
難解「このサイズ、この題材で4,800円+税は、安いな」(*11)
少々「凄い」
難解「ノストロモ号の内部図解とか、宇宙コロニーのフロアプランとか、見せながら、エイリアンとのバトルをするのは楽しいぞ」
少々「初心者の方もいましたよね。明らかに『エイリアン』の映画より若い方が」(*12)
難解「映画版は全然見てないそうだが、SFホラーとして楽しんで帰ったぞ。『あ、このネタ、この映画からなんですね?』(*13)とか」
少々「もうSF映画の古典ですからね」
難解「1979年の映画やからな、初代ガンダム(*14)と同い年や。わしは、高校の仲間と映画館で見たぞ(*15)」
少々「な、難解さんでも高校生だったんですねえ」
難解「わしも、あの頃は紅顔の美少年でな」
色々・少々「嘘ですね」
難解「声を揃えて否定するなよ」
色々「偽装初心者は?」(*16)
難解「フェイスハガー(*17)の攻撃が避けられなくてなあ」
色々「わあ、楽しそう」

闇のTRPG学級会


 そうこうしていると、難解の妻、ひろこ(旧姓・曖昧)に連れられて、少々の娘。梶理(かじり)ちゃん(14歳)がやってくる。

ひろこ「あなた、ちょっと梶理ちゃんの相談に乗ってあげて」
難解「ああ、まあ、そこに座れ」

 なお、これは正座の指示ではない。

少々「梶理、どうした?」
ひろこ「参加者にお説教されたらしくて」
少々「どこのどいつだ、許さん!
 ブラック・リスト(*18)に載せてやる!」

 親馬鹿発動! 

梶理「パパ、やめてよ!」
少々「は、はい」
梶理「私が悪かったの。結局、あの後、考えて、くんちゃんのオリシで、イゴローナク(*19)が出てくるのを回したのよ」
難解「イゴローナクか。ラムジー・キャンベルが作った神性(*20)やな。あれ、好きな人が多いなあ(*21)。舞台はセヴァン・バレー(*22)か?」
梶理「世田谷」
難解「あ、なんかいいな、それ、セヴァン渓谷と世田谷って似ているな」
色々「わけわかんない」
難解「あれやろ、グラーキの黙示録12巻(*23)を巡って、古書マニアとカルトのバトルかな」
梶理「でも、私、『コールド・プリント』を読んでないの(*24)。後で、プレイヤーから指摘されちゃって」
難解「あーーー。やっちまったな。さすがに、神話生物の元ネタが読んでおくべき」
梶理「そういう場合、どうしたらいいのかな?」
難解「あのな、CoCは原作物RPGなんやで(*25)、ここを忘れると、原作ファンを激怒させるんや(*26)」
ひろこ「それって、心が狭くない?」
難解「じゃあ、聞くが、お前、推しの刀剣男士(*27)の名前、間違ったらどうする?」
ひろこ「万死に値するわね」(*28)
難解「この業界(*29)、やっちゃいけないことがある。
 推しの名前を間違うことや」(*30)

クトゥルフ神話入門ガイド


梶理「実は、クトゥルフ神話、よくわかりません」
難解「ラヴクラフト作品ぐらい、読んでいるのだろう?」(*31)
梶理「ルールブックに載っていた(*32)のは読みました」
難解「まあ、あれは最低限や。他は?」
梶理「まとめサイトで粗筋を」(*33)
難解「ぐぬぬ」
色々「どうしたんですか?」
難解「思い出したぞ。少し前の邪神コンで、『クトゥルフ神話ですか? デモンベイン(*34)でしょ? まとめサイトで見ました』(*35)と言ったアホの子のことを!」
色々「ああ、あの時は刃傷沙汰にならないように止めるのが大変でした」
難解「止めてくれるな、色々。あやつには一太刀!」
梶理「・・・?????」
難解「まあ、忠臣蔵も前世紀の遺物やね」(*36)
色々「47 Ronin!」(*37)
難解「キアヌ・リーブスでなければ、殺しているところだった」(*38)

 それはさておき、梶理ちゃん、ルールブック記載の「クトゥルフの呼び声」と、まとめサイトしか見ていないことが判明。

ひろこ「まあ、ラヴクラフト、難しいよねえ」(*39)

 そこで、難解さんは少々父を振り返り、にらみつける。

少々「一応、東京創元社のラヴクラフト全集は渡しましたよ?」(*40)
難解「そこは国書刊行会版(*41)だろ!」
梶理「文章が難しくて」(*42)
色々「相手は中学生ですよ。せめて、星海社の新訳(*43)とか、新潮社の傑作選(*44)とか」
ひろこ「そうよ、マンガがあったわ!」
少々「KADOKAWAの田辺剛さんのヤツですね」(*45)
梶理「あれ、夢に出そう」(*46)
難解「確かに、あれは怖い。田辺さんの画力がすごすぎる」
色々「PHP版とか(*47)」
難解「幻夢郷編の表紙がジブリみたいなヤツな」(*48)

PHPクラシックコミック版「未知なるカダスを夢に求めて」

難解「朱鷺田(49)が偉そうに監修しているのが気に食わん。何様やねん(*50)」
色々「難解さん、あの人嫌いですよね?」(*51)
難解「あいつが、突然、『クトゥルフ神話ガイドブック』(*52)を書いた意味がわかんねえよ。まず、山本弘(*53)の『クトゥルフ・ハンドブック』(*54)の復刻やないのか?」

先にルールブックを読め


ひろこ「ラヴクラフトより前に、相変わらず、ルールブックって何?(*55)って子がいるのはなぜ?」
難解「ああ、そうなあ。許さぬ!」
色々「まあまあ、どうなの、梶理ちゃん。ルールブック読む?」
梶理「ルールは動画で覚えた(*56)し、パパに聞けば、わかるから、あんまり読まない」(*57)
難解「お前らが困っている問題の6割は、ルールブックをちゃんと読めば、解決するんじゃああ!」(*58)
ひろこ「まあ、梶理ちゃんはまだいい方よ。今日も『ルールブック、初めて見ました!』って子がいて、でも結構、オンセしているのよ?(*59)」
難解「どいつだ! KADOKAWAが許してもオレが許さん!」(*60)

 しばし、すったもんだあったのち、冷静になった難解さん。

色々「しかし、ルールブックを見たこともないのに、オンセできちゃうんだ」
難解「そこがクトゥルフ神話TRPGの長所であり、短所なんだ(*61)。
 %ダイスを振れば、判定できるし、それはウェブダイス(*62)もある。
キャラクターシートをみれば、キャラの技能は把握できる(*63)。正気度が減ったら、KPが一時的発狂表(*64)を参照してくれる。この手軽さが動画時代に、CoCが台頭した理由でもある(*65)」
色々「新の方も、ウェブでクイックスタートルール(*66)も無料公開されていますしねえ」
難解「だいたい、3D6(*67)振っていれば、キャラできるからな」
少々「技能はどうするんですか?」
梶理「動画のおすすめに割り振ります。まず、目星、言いくるめ、図書館、回避(*68)。後はKPに推奨技能(*69)を聞いて、残りを全振り」
ひろこ「ねえ、刀は? 戦闘技能は?」
梶理「現代日本では持ち歩けない(*70)ので、戦闘技能が必要なら、マーシャル・アーツとキックです」(*71)
ひろこ「そこは刀と弓でしょ!」(*72)
梶理「戦国時代と一緒にしないでください」(*73)
ひろこ「くー、炎上させたる」

ジェネレーション・ギャップ?


ひろこ「後ね、なんかあの子たち、シナリオのことを『システム』って言うのよ?(*74)」
難解「RPG=CoCなので、ルール・システムという概念がないんや(*75)、そもそも、CoC以外のTRPGがあることすら知らんやつがいる(*76)」
色々「他のシステムを紹介しても乗ってこないんですよね」(*77)
梶理「いつも不思議なんですが、そんなに他のゲームを遊んだ方がいいんですか?」(*78)
色々「だってさ、クトゥルフだけじゃつまらなくない?」
梶理「え? クトゥルフだけで十分楽しいですよ?(*79)」
難解「そこに座れ!」
梶理「座ってます」
難解「説教しちゃる」
少々「難解さんと言えども、娘に説教するのは、絶対に許さん!」

ひろこ「黙れ」

 爆発する難解ひろこに、全員、声を失う。

ひろこ「あのね、ゲームは遊んでいる当人が楽しければそれでいいの。他から、知ったふうな顔であれこれ言うのはダメ」(*80)
色々「そうだな。つい、俺たちもソード・ワールドだけあればいい(*81)と思っていた時代があった」
難解「最近は、個人個人の遊び方を尊重するべきで、外野が口出すな、と公式が書くようになった。まあ、好きに遊べ。(*82)
 お前が買ったルールブックだ」
梶理「いや、買ったのはパパ」
難解「やっぱり、そこに座れ!」

 とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か

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