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中小企業の高齢化。若者の採用難。老いても生きていかねばならぬ企業が採るべきデタラメなやり方とは?『デタラメだもの』

人が集まらん人が集まらん。求人情報を出しても人が来ない。来たとしてもすぐにぷいっと辞めていく。定着せん。定着せん。たとえ数年育てたとしても途端にぷいっと辞めていく。それまでの教育コストが水の泡だ水の泡だ。既存社員の平均年齢もどんどん上がっていくし、このままじゃいかん。

そう愚痴っておられる経営者や経営に携わっている人たちの話をよく耳にする。実際のところ、若者の数は減っているだろうし、業界によっては企業の人手不足も深刻だろうし、だからこそ優秀な人材にはいつだって入社してもらいたい。企業が人を欲すれば欲するほど、せっかく入社した若者たちも、より高待遇な会社を目がけて転職していくのも自然の流れなのかもしれない。

若者が入社するというのはそれほど貴重なこと。要するに、若者は宝なのだ。だから、これまでのように胡座をかいて「事業拡大のために、いっちょ人でも雇いまひょか」などといった横柄な態度をしていては、誰も会社には来てくれない。高っかい高っかい求人情報に広告を出したはいいが、結果的に人は来ぬ。来たとしても、「えっ? その年齢で未経験でっか……?」というレアでピュアなジェントルメンの応募がチラホラという悲しき結末に。

そこで、若者に、いや若者様に会社に来ていただくために、こういったプランはどうだろうか、というものを考えてみたので、ここに提示いたしたい。

まず若者様を迎え入れる姿勢。旧態依然のように、「なぜ我が社に応募しようと思ったのかね?」といった上から目線は一切やめるべきだ。「あなた様に面接に来ていただいたのは他でもありません。あなた様の人生観念、思想、道徳、信条、倫理観、そして技術力に容姿、その全てに惚れ込んだ結果、面接のご案内を送らせていただきました次第にございます」と、仰々しくへりくだるべきだ。

社会に出て働く、仕事をする、会社に勤務するということは、人生の大半の時間を仕事に注ぐということに他ならない。だから、会社を通じて、ある程度、自分の人生のビジョンを描けなければならないということになる。人生というのは恋愛と同義。人は恋するために生まれてきた生き物。なので、恋愛対象が見つからぬような会社には、若者様は定着せん。ということになる。だって、「ここで働いても特に出会いもないし、出会いがないってことは結婚したり家庭を持ったりする未来予想図が描けないよね。チャッチャと、同年代が集まるベンチャー企業に転職しよう!」と、せっかく採用した貴重な人材も、放出してしまいかねない。

じゃあどうしたらいいのだろう。答えは簡単だ。若者様ひとりの雇用に際し、同年代の同性3名、異性3名を雇い入れるという方法。しかもその若者様には事前に人間関係の趣味趣向を伺っておき、気の合いそうな同性と、恋愛対象になりそうな異性を厳選する。

そうするとどうだ。面白くもなんともない日常の仕事であっても、就業後に気の合う同性と飲みに行ける。愚痴も言える。気になる異性がいれば毎日会社に来る理由もできるし、恋愛がスタートすれば人生も充実する。結婚を視野に入れるならば、仕事だってもっと頑張らんといけない。昇給だってせねばならんし賞与だって貰わねばならない。また、適度な人数の同性異性が集っていることから、休日にBBQすることもできるし花見やら海水浴やら、いわゆるリアルが充実したライフを送ることがことができる。ほうら、楽しそうに人生を謳歌する若者様のイメージがわいてきただろう?

これだけじゃまだまだ足りぬ。若者様はそんなことじゃ満足しない。若者様は上昇志向のため、「この会社、合わない」と思った矢先、すぐにでも違う地へ移ろうと思考なさる。そりゃ、探せばもっと優良な会社はどこにでもある。インターネットを使えば、違う地がどれだけオアシス然として輝いているのか一目瞭然。隣の芝生は青く見えるというフレーズがあるが、現代では隣どころか、他府県、さらには他国の芝生だって、いつだって覗き込める。違う地に浮気心が芽生えぬはずがない。

なので、若者様の機嫌を損ねるようなこと気分を害するようなことは一切してはなりません。仕事が辛そうな素振りをしていれば、すぐに上司なり先輩なりが肩代わり。上司なり先輩なりが若者様よりも先に帰るなんてあり得ない。いつだって先に帰るのは若者様。精神論で「岩だって食える」と思っている上司なり先輩なりの年代の人間が、残業すりゃいいんだ、休日出勤すりゃいいんだ、徹夜すりゃいいんだ、それを若者様に課すなんてバカげている。

もちろん、若者様が使用するパソコンは最もスペックの高いものを選ぶべし。そりゃそうだ。ハイスペックのパソコンじゃないと、日中のネットサーフィンの快適性が損なわれるじゃあないの。ネットゲームするのとか、スペックが高くないと描画も追っつかないし、キャラクターの挙動もモタモタするしでストレス溜まるわよ。ちょっとでもストレスを感じさせたら、すぐに違う地に浮気されちゃうわよ。それぐらい配慮して当然なのよ。

あと、若者様から出勤時間直前に、「急なんですけど、今日、休みもらってもいいですか?」と連絡があったら、「もちろん!」と電話越しに親指を立てて即答せねばならん。急に休みたくなるということは、出社することに気乗りしないということ。ということは、会社の中に気乗りしない要因があるということ。若者様の機嫌を損ねた要因は徹底的に追求、糾弾するべし。その原因が上司や先輩にあるのなら、そいつは左遷か異動。得意先や取引先にあるのなら、取引を停止。睡眠不足にあるのなら、即座に訪問マッサージを若者様宅に派遣。賃金に不満があるのなら、特別賞与の支給。

こうやって見ると、若者様に会社に居ていただく、居続けていただくことは簡単なことだということが見て取れる。たったこれだけのことで、若者様を会社に迎え入れることができるし、気分良く働いてもらうことができる。

そんなことをクソ真面目に考えていると、過去のある苦い経験を思い出した。

パソコンを使った専門的なお仕事を教えて差し上げ、前述のようなおもてなしの数々を差し上げ数年。イチから育てた若者様が、ある日、クリスタルのように目を輝かせて僕にこう言った。

「パソコンを使った専門的なお仕事を教えていただき、ありがとうございます! ただ、新しい夢が見つかったので、会社を退職させていただこうと思います!」

え? 新しい夢って?

「パティシエです!」

え? そっち系のこと、過去にやってたの?

「いいえ! 全く!」

いつぐらいから考えてたの?

「先週末ぐらいです!」

先週末!? せっかくパソコンを使った専門的なお仕事がバリバリできるようになったのに、もったいなくない?

「大丈夫です! パティシエになるのが夢なんで」

もう一度聞くけど、その夢っていつから思い描いてるの?

「先週末ぐらいです!」

不覚だった。どれだけハリボテのおもてなしで世界を作り上げたとしても、どれだけ高級な檻を作り囲い込んだとしても、人の夢だけは縛れないってことを。

あれだけ堂々と夢を語れる若者の姿を見て安堵した。これからの日本はきっと大丈夫だと。

なんだか胸が熱くなり、僕は退職していく若者に言葉を贈った。

「夢に向かって頑張れよ! きっとお前なら夢を叶えられると思う。でも、これだけは覚えておけよ。パティシエになるのは簡単なことじゃない。甘い考えは禁物だ。パティシエだけに、甘い考え。パティシエと甘いをかけて──」

ふと若者に目をやると、こちらの話なぞ聞かず、退屈そうにスマートフォンをイジっておった。その根性、嫌いじゃない。

デタラメだもの。

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