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人が持つ人間性だったり機微だったりが根底に這っていて、それを読み解きながら奇妙な世界に浸れる1冊。『短劇 - 坂木司』【書評】

坂木 司 著『短劇』

本著をひとコトで表現するならば、「日常で寄り道可能な場所に巻き起こる奇妙な世界」。あたりまえの毎日の中で偶然にも、足を踏み入れてしまった。そんな世界が描かれているショートショート集。

ありえない体験は異世界に行かなくともできる。何気ない展開の中から奇抜なジェットコースターは発進し、最終的にオドロキで包み込む。そんなショートショートの醍醐味を味わえる1冊です。

懸賞で当たった映画の試写会で私が目にしたのは、自分の行動が盗撮された映像だった。その後、悪夢のような出来事が私を襲う…(「試写会」)。とある村に代々伝わる極秘の祭り。村の十七歳の男女全員が集められて行われる、世にも恐ろしく残酷な儀式とは?(「秘祭」)。ブラックな笑いと鮮やかなオチ。新鮮やオドロキに満ちた、坂木司版「世にも奇妙な物語」。

本作には、日常のワンシーンから突如として顔を覗かせる奇妙なショートストーリーが26作。飛躍した世界観ではなく、ごくごく自然な物語の中に、それを裏切る意表を突いた展開が用意されている。

一風変わった設定だったり独特な描写を用いたりするのではなく、ショートショートのネタで真っ向勝負している作品がズラリ並ぶ。ネタがこれほどにしっかりしていると、ショートショートの持つ破壊力は増大するし、驚き・衝撃の量も増す。どの作品もズシンと来るほど、ネタが練り込まれているなと感じました。

特に、冴えない社会人女性が帰宅後にストレス発散サイトを覗き見る『MM』。ズボラな性格の自分自身の恥部が徐々にサイト内で暴かれ、それに恐怖を覚えるも、最後のラストでズドンとオトす。まさにショートショートの醍醐味が詰まった作品です。

いずれの作品にも人が持つ人間性だったり機微だったりが根底に這っていて、それを読み解きながら奇妙な世界に浸れるのはとても快感。ショートショートのネタとは別に、人として考えさせられる教示が随所に存在し、一般的なショートショートの読了後とは、また違った感慨に浸れる1冊でした。

やはりショートショートには、本作のようなどこかブラックで陽の差さない陰った空気感が似合う。作品のテーマはそれぞれだけど、その空気感が一貫しているためとても読みやすい。肩に力を入れずにショートストーリーの妙味を味わえる1冊です。


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