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ひとたび病気をすると、周囲の人たちが自称専門家となり千万無量のアドバイスを差し出してくれる。が、そう気軽には採用できないことをお察し願いたい候。『デタラメだもの』

これは関西人だけの特性なのであろうか。それとも日本人という国民性なのだろうか。先日、アレルギー反応がないことが検査済みの食物を食べてアナフィラキシーショックを起こすというハプニングと、マッサージ師との相性が合わず首から肩にかけての筋を痛めるというハプニングが、同時期に巻き起こりまして候。

日常生活がニッチモサッチも立ち行かない状況になっていたのではあるが、とは言えワーカホリックな我が日本。働かない者は食っては行けない。例え病床に伏そうが、働けなくなった者は切り捨てられる。例え公共交通機関が遅延したからと言って、会議や商談に遅れてしまったら、「公共交通機関の遅れぐらい予測して動くのが社会人というもんだろうが、このドアホ」とペナルティを喰ってしまうほどの我が日本。まぁ、休むことなく働きますわな。

そんなことはどうでもよくって。満身創痍の身体を引きずりながら生活をしておりますと、ふと気づくわけです。私が周囲から愛されているからであろうか、それとも著しく嫌われているからであろうか、会う人会う人、皆一様に、症状病状の診断を施してくれるわけでありんす。

アナフィラキシーショックに関しては、病院に行くことはできなかったにせよ、症状は早急に治まり事なきを得た。このご時世、インターネットを活用すれば、ありとあらゆる情報は手に入る。そりゃ気になって、調べに調べ倒しますわなぁ。瞬間的ではあるものの、アナフィラキシーショック専門家よろしくの知識を身につけますわなぁ。

首から肩にかけての筋に関しては、症状がどんどん悪化していったため、病院を訪れ、レントゲンを撮ってもらい、処置を受けた。どうやら筋をひどく痛めているらしく、完治までにはかなりの時間を要する。治りを早める処置などは特になく、所謂ひとつの「日にち薬」ってやつでした。

はい。物語はここで終了。ってな具合なのですが、ここから襲いかかってくるのが、皆々様方の「目の前で症状に苦しんでいるこいつのために、名医と成りたい、決定的な診察を下して差し上げたい、快復に向けての適切な助言を差し上げたい」という、愛くるしいアドバイスの数々。場合によっては、おせっかいの数々。時には閉口してしまうほど、マウントを取って持論を展開してくる猛者。人間模様さまざまでありんす。

まず、アナフィラキシーショックに関しては、「妙なもの喰わなかったか?」という調査にはじまる。自分で拵えた料理だったために、どうやって出汁を取り、どんな食材をどういった手順で調理したかまで、鮮明に記憶している。どっこい、「○○の食材は入れてない?」などと、さらに調査が進むわけ。でも、シンプルな料理を拵えたがために、使用している食材も調味料も限られておりまして、もはやそれ以上の調査は不要のように感じる。が、そんなことじゃ済まない。「いや、ぜったいに○○も入れてたはず!」って、ワシ、そこまで記憶力貧弱やないぞ。

また、既にインターネットで調べつくした情報で、既にこちらが熟知している情報にも関わらず、とても薄味なご意見をいただけるケースも。

「それって、アナフィラキシーなんちゃらってやつじゃない?」
「はい。アナフィラキシーショックということで調べはついております」

「それって一歩間違ったら、命に関わるやつじゃない?」
「はい。状況によってはそういうケースもあるため、症状の軽い重いを自身で判断せず、救急相談窓口などに相談すべしと、当然の如く存じ上げております」

あと、医者の上に行こうとする猛者も。

「過去にアレルギー検査したのが、ヤブ医者だったんだよ!」
「ヤブ医者と捉えるかどうかは個人差があるだろうし、採血した血液は検査機関に運ばれて検査されるため、その医者がヤブ医者か否かは問題ではないのでは?」

「検査した日の体調によって、検査結果って変わるからね!」
「だとしたら、こういった体調の日は検査を見送ってくださいってな注意喚起は欲しいところだよね」

「例えアレルギー反応が陰性でも、場合によっちゃアレルギーって出るよ!」
「だとしたら、全国民総アレルギー社会ってことになるよね」

とまぁ、次から次へと自称専門家たちのアドバイスが続くわけで。ただ、こっちのことを思って言ってくれているためムゲにするわけにもいかず、「まぁ、いろいろあるみたいですねぇ。インターネットでかなり調べたので、おおよそ理解はできているんですが……」と終止符を打とうと試みる。

が、「インターネットの情報とか、あんまりアテにならないよ!」と来た。確かにそういったケースもないわけではない。だからといって、貴方がインターネット以上の情報を持っているとも思えない。少なくとも、この症状に関して、インターネットを凌駕する知識を有しているならば、貴方は今、この場所にはいないはずだ。きっと白衣などを身に着けているだろう。よって、貴方のことは嫌いではないが、インターネットをやや多めに信用させていただく。

首から肩にかけての筋の異常に関しては、開口一番、「絶対に変な病気だよ!」と言ってのける猛者まで現れた。確かに、最初はよくある軽い症状と思っていたものが、実は重病のシグナルだったというケースもないわけではない。ただ、病院で正式に診断を受けた後のことである。もしこの症状が、「絶対に変な病気」だった場合、それを見抜けなかった医師も考えものだし、この類のご意見は、できればセカンドオピニオンとして別の医師から聞かされたいものだ。

あとは単純に、「冷やせ派」と「温めろ派」のご意見。「ストレッチしなさい派」と「安静にしなさい派」のご意見。「医師の言う通り日にち薬で我慢しなさい派」と「きっとヤブ医者だから違う病院で再診を受けなさい派」のご意見。こればかりは、採用の決め手に欠いてしまう。例えその方のことを信用・信頼していたとしても、その助言が適切でない場合もあろう。ということで、恐らく同様の症状を経験したことがあるだろうお方のアドバイスを採用させていただいたりもしたが、残念ながらスピーディーには快復しなかった。

症状が長引けば長引くほど、マウントを取る輩は増えてくる。「医師から日にち薬だと言われております」と前置きしているにも関わらず、「君が診てもらったのはヤブ医者だ!」「きっとさらに悪化する!」「その痛みは内蔵からきてる!」「霊的な影響に違いない!」「一生治らないぞ!」「最近、仕事の手を抜いてるんじゃないのか!」「なんだか最近、付き合い悪くないか!」「金貸してくれよ!」などと、暴言・妄言のオンパレード。ほんとに皆々様方から愛されていることを実感いたしました。

かなり症状は快復しているものの、実はまだ右腕に痺れが残っている。もう子供じゃないし、この程度の症状なら、快復と呼んでもいいだろうと考えている。もちろん、まだ痺れが残っているだなんて、周囲の人には決して言えない。もし言ったとしたなら──。

「ほうら、言った通りじゃないか。君が診察を受けたのはヤブ医者だって言ってあげただろ。なんで言うことを聞かなかったんだよ。君の自業自得じゃないか。その症状は危険だよ。診てあげるから右腕を出してごらんよ」

と彼は言ってのけ、僕の右腕をグイッと引き寄せた。すると、痛みのある箇所を握りつぶしブチチブ、骨までボキキ。あかんあかん、奇妙奇天烈、言わんこっちゃない。と悶てみるとベッドの上。妙な悪夢を見ていたようだ。この痺れは、僕と右腕だけの秘密にしておこう。

デタラメだもの。

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