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トキワレポート(コラム)

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メンタルヘルスにまつわるあれこれや、家族・子育て、コミュニケーションについて、弊社の経験をもとにつづるコラムです。有料noteでは、より踏み込んだノウハウについてお伝えします。
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#子供を殺してくださいという親たち

家庭における危機管理

子供自身が判断できるように近年、セクハラだけでなくパワハラやアカハラなど、「〇〇ハラスメント」という言葉をよく耳にするようになりました。強い言葉は即座に問題視され、糾弾の対象となることがありますが、その結果、安全で快適な世の中に進化しているかと言えば、そうでもないように思います。 インターネットを開けば、有益な情報が得られる一方で、悪意に満ちた言葉が目に入らない日はありません。道ですれ違っただけの人から理不尽な怒りをぶつけられたり、知り合いであっても、小さなトラブルから恐怖

子供との関係が悪いかも!? 今すぐできること

このnoteや連載中の漫画(「子供を殺してください」という親たち)宛てに、「いつも参考にしてます」「楽しみに読んでいます」とメッセージをいただくことがあります。 そのメッセージに、ついでのように「最近、子供とのコミュニケーションがうまくとれなくて……」という言葉が添えられていることがあります。とはいえ質問や相談ではなく、「気をつけます」と結ばれています。 おそらく、まだ専門家に相談するほどでもないけれども、子育てにおいて少々、不安なことがあり「このままいくとあぶないかも…

♯036 10~20年間ひきこもっていた人と、どう人間関係を育むか

『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫、コミックス)のタイトルが象徴するように、弊社には、子供の精神疾患から派生する問題に疲弊し「もう限界」という相談が数多くあります。 そのような境地に至る家庭の多くは、問題を「家族」だけで受け止めています。言葉を変えると、対象者(本人)が「家族」としか接点をもっていない、とも言えます。たとえば長期ひきこもりは、その最たる例です。 中には、子供が10~20年単位で一切外出せず、家の中だけで過ごしていた、という相談もありました。

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「束縛コミュニケーション」の背景にあるもの

前回のnoteでは「子供自身に考えさせるコミュニケーション」について述べました。続いて、親子間のコミュニケーションがないがしろにされたまま大人になった場合に起こりうる事例について、述べてみたいと思います。 弊社で携わる患者さんたちは、その時点で、家族以外との接点がない状況がほとんどです。そして家族とも、暴力や暴言、束縛、依存による関係になっているため、とても健全とはいえません。 家族が暴力を振るわれて身の危険を感じていたり、金銭の無心など経済的負担が限界という、のっぴきな

子供に考えさせるコミュニケーションを

弊社が携わる対象者の方々の特徴として、「人付き合いは苦手、他人とは接せずに自分の好きなように生きていきたい。…でも自分の話は聞いてほしい」という傾向があります。 実際に、第三者に敵意をむき出しにしながらも、面会に行くと「もっと話したい」と言ったり、長い手紙を書いてきたりします。それでいて、彼らの共通点として挙げられることに、「自分の“気持ち”を言葉にするのが苦手」ということが挙げられます。 この“気持ち”とは、感情(喜怒哀楽)のことではありません。その瞬間の喜怒哀楽を言葉

♯035 子供を追い込む親たち

「子供を追い込む親たち」というタイトルで一冊、本がつくれてしまうのではないかと思うほど、子供に関する相談において、「親が子供を追い込んでいるなあ」と感じられるエピソードは多いです。 しかし、お話をうかがっていくと、親自身もまた追い込まれている、という事実が見えてきます。本noteではそのことについて、弊社の経験も含めて考えてみたいと思います。 子供を追い込む親たち「子供を追い込む」といってもいろいろあり、典型的なのが「うちは代々○○(医師など)の家系だから、この子にもそう

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「ハマりやすい」タイプの子供は、ここに注意!

先日、薬物依存症から回復したK子さんから定期報告がありました。弊社は長く彼女の回復と自立をサポートしてきましたが、すでに違法薬物を断って10年以上が経ちます。現在は某外食産業で管理職に就いており、その目覚ましい活躍ぶりに、かつての面影は一切ありません。 彼女は夏冬の節目ごとに、近況を報告してくれます。今の仕事は、アルバイトも含め十数回もの転職の上にたどり着きましたが、半期ごとに示される本社からの評価は高く、コロナ禍でさすがに売り上げは落ちたものの、それでも高い利益率を出して

家族(親)との距離感

コロナ禍により、「ソーシャルディスタンス」という言葉がすっかり生活の一部となりました。「3密を避ける」「人と接するときは距離を十分にとる」……、コンビニでの買い物一つとっても、人との距離感に注意を払うようになっています。 ところが自粛期間中、家庭内では、真逆の事態が起きることになりました。リモートワークやオンライン授業により、家族が揃って家にいる時間が増えたのです。今までにないほどの「家族密」です。 「家族との時間を思う存分にとれた」と喜ぶ方がいる一方で、想像以上にストレ

♯031 精神科「早期退院」が前提の今、入院継続の交渉のために何ができるか

精神科医療の仕組みが急速に変わる中で、「やっとの思いで本人を精神科医療につないだ(入院できた)のに、短期間で退院となってしまった……」というご家族からの相談が続いています。 家族は、「本人が退院を強く希望したから」「主治医から退院を促されたから」などとおっしゃいます。入院形態が「任意入院」(退院も本人の意思でできる)の場合は別として、「医療保護入院」や「措置入院」で、家族からみて退院は早いと感じるのであれば、入院継続に向けて交渉の余地があるはずです。しかしその交渉は放棄し、

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♯033 精神科医療・精神保健福祉分野の現状(ver.2020/02)

精神保健福祉分野においては、地域移行・地域共生のスローガンのもと、この数年の間に大きく状況が変化しました。繰り返しお伝えしているように、本人に病識があり、治療を受ける意思がある(つまり、初期の段階の症状の軽い)患者さんにとっては、すばらしい環境が整いつつあります。医療機関は早期退院を推進するため、患者さんが福祉制度を受けられるよう助力してくれますし、自前の(あるいは連携している)グループホームや作業所をもつ病院も増えています。ただしこれらのサポートを受けるためには、「本人が望

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介護と障害のダブルケア

「実家に精神疾患(あるいはその疑い)のある当事者と高齢の親が同居しており、相談者であるきょうだいは自立している」という家族構成からの相談は年々、増加しており、今後も増えていくことが予測されます。 とくに、相談者(きょうだい)がさまざまな問題に直面するのが、親に介護が必要になったときです。 当事者が医療や福祉の支援につながっており、大きな問題なく日常生活が送れていたとしても、同居する親に介護が必要になれば、生活のバランスは崩れることになります。これまで当事者の生活を親が支え

誰からも煙たがられる人

以前、ある患者さんが入院中に問題を起こし、弊社スタッフも同席のもと、主治医の先生とお話をしたことがあります。そのとき、先生が患者さんに「このままじゃ、頭が悪くて性格の悪いおじさん(おばさん)になっちゃうよ」と諭したことがありました。 言葉尻を捉えられる現代では、ともすれば「ハラスメント」と批難される発言かもしれません。しかし実際のところ、その患者さんが院内のルールを無視してわがままを言い、思い通りにならないと他の患者さんや病院スタッフに迷惑行為を行っていたことは事実で、先生

♯032 どちらを選んでも「最悪」という現実の中でどう決断するか

弊社には、「ほうぼうに相談にいったが解決できなかった」という家族からの相談が多くありますが、必然的に、弊社に来られた時点で選択肢は限られている状況です。 最近はさらに、「数少ない選択肢のうち、どちらを選んでも状況が大きく改善することはない」というケースも増えています。 贅沢に選ぶ余地などない、という現実その背景に何があるのでしょうか。一つは、常々申し上げているように制度の問題があります。たとえばかつては、精神疾患(あるいはその疑い)がある以上、「とにもかくにも、医療につな

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♯030 入院治療中に「欲求の肥大化」を修正する

弊社では、説得移送による精神科病院への入院後、家族に代わって患者さんと人間関係をむすび、長期的なサポートを行っています。(※対象となるのは、重篤な精神疾患がありながら病識がなく、家族との関係も悪化するなど、いつ親族間事件が起きてもおかしくない方です)。 入院当初は精神的にも興奮しており、易怒性や粗暴性などが際立っていますが、投薬治療がはじまり、家族とも物理的に距離をもつことで、徐々に落ち着いてきます。ここまでは治療の範疇です。 急性期の症状が落ち着いたあと、社会復帰を目指

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