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第三者の関わりを得るためにも「生育歴」の記録を!

弊社では相談を受ける際、親御さんから本人の生育歴をヒアリングしていきますが、問題が長期化している家族ほど、情報量が少ないです。

幼少期のエピソードを聞いても、「とくに問題なかった」「育てにくいこともなかった」「普通だと思う」などとさらっと答え、その子の姿が見えるようなエピソードは出てきません。

親の関心度を象徴する例として、幼少期~小学校にかけての「習い事」があります。親御さんははじめ、「習い事はそれほどさせていない」と言いますが、聞いていくと、英会話に公文、水泳、そろばん、ピアノなど……かなりの数が出てきます。しかし、習い事を始めたきっかけや期間、辞めた理由などはほとんど記憶になく、よくよく尋ねてみると、本人がやりたいと言ったわけではなく、親が見境なしに習わせているようなことも多くみられます。

子供にとって、その時間が楽しかったのか、達成感はあったのか、それとも辛かったのか、そういった「気持ち」を、共有できていないと言えます。

このような家庭では、不登校やいじめ、同級生とのトラブルといった事柄にも同様の対応をとっています。事実は覚えていても、具体的な理由や原因は答えることができません。ひきこもりなどが長期化した果てに、「最近になって、20年前のいじめや不登校の原因を、本人から聞いた」というケースも少なくありません。その大半は「あのとき助けてくれなかったじゃないか」という恨み言です。

親御さんは当時のことを、「本人に聞いても答えなかったから、それ以上追及するのをやめた」と言い、すでに「過去のこと」として処理しています。しかし本人にとってみれば、「最近のこと」として今でも胸にくすぶっているのです。

今さら手遅れなのか?

弊社ではヒアリングした内容を年表化してまとめています。とくにターニングポイントになるような出来事(本来なら、そこで積極的に介入する必要があったのに、放置してしまった出来事)については、辛辣な質問も含めて繰り返しお尋ねします。親にとっては都合が悪いことのため、正直に話してもらうまでには時間を要します。

子供の問題が長引き、親もすでに高齢となっているケースほど、「そんなに昔のことをほじくりかえしてなんになるのか」「責められているようで辛い」と、言われることもあります。

しかしそういう親御さんに限って、「親ではもう無理だから第三者に関わってほしい」「息子(娘)のことを理解してくれる人がほしい」とおっしゃいます。

第三者の立場からすれば、「本人(子供)がどんな人物なのか」「どのような歩み(生育歴)をしてきたのか」の説明がないまま、ただ困っていることを並べられて、「本人に会ってほしい」「人間関係を構築してほしい」と言われても、限界があります。

つまり、自分たちでは「もうお手あげ」というケースほど、「今さら…」などと思わずに、これまでの生育歴を書面化・年表化して、専門機関に相談しなければ、決して親身にはなってもらえない、ということです。

家族で記憶を持ち寄ることの意義

本人にまつわるエピソードについては、できることならば、家族全員の記憶をもちより、すりあわせてみることが重要です。

なぜなら、子供の問題を抱えたまま長引いている家庭の多くが、夫婦仲が悪く、他の子供たち(本人のきょうだい)も非協力的、という状況に陥っており、大抵において、母親が本人対応や専門機関への相談を一手に受けています。

それゆえに、本人の生育歴も「母親目線」になってしまいがちです。一例ですが、家族崩壊を目前にして弊社に相談に来たのに、「成績は学年で10番以内だった」「生徒会長だった」といった子供自慢を嬉々として伝え、話が脱線してしまう親御さんがいます。

それも本人を知る一つではありますが、他の家族にそのエピソードを尋ねてみると、「10番以内に入るために、母親がかなり厳しく当たっていた」「生徒会長は、誰もやる人がいなくて周りから押しつけられただけと言っていた」といった情報が出てくるのです。

「夫や他の子供は、もう匙を投げているから……」とおっしゃるお母さんもいますが、本人の生育歴のところだけでも、記憶を持ち寄って作成しておくことをお勧めします。その過程において、いかに我が子のことを知らなかったか、真実が見えていなかったか、気づくこともあるでしょう。その時は、言い訳をせず「子供のことを、よく見ていなかった」と認めるしかありません。

弊社が本人の生育歴にこだわるのは、本人を医療や福祉の適切な支援につなげるためには、細かいエピソードはもちろん、家族の価値観や育て方、親の経済レベル、理解力、メンタル面など、事実をどれだけ正確に把握できるかにかかっているからです。

最近はどの専門機関も相談が殺到しており、「親身になって話を聞いてもらえない」ということもあるようです。しかし、家族が重視している点と、医療機関や専門家が重視する点が違うことは、当然あります。聞かれたことに対して的確に答えられるようにするためにも、これまでの生育歴を“客観的に”年表にまとめておくことが必要となるのです。

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