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患者さんの「よい」と周りの「よい」

「本人の意思」こそが最大限に尊重されるメンタルヘルスの分野では、患者さんのいう「(状態が)よい」と、周りが思う「よい」に大きな乖離が生じることがあります

(漫画『「子供を殺してください」という親たち』2巻より)

弊社では、精神科病院を退院し、グループホーム等に入所した患者さんのサポートも行っていますが、定期的に通院治療や訪問看護を受けていても、調子を崩すことはあります。とくに、本人と人間関係のある施設職員が退職や異動でいなくなったり、新しい入居者が入所するなど環境が変わると、本人への刺激となり、精神面の不安定を引き起こしやすいように思います。

日常生活に支障が出るくらい症状が悪化していても、こちらが具合を尋ねると、患者さん本人は「大丈夫です」「元気ですよ」とおっしゃいます。「入院は嫌だから」という理由もありますが、繊細な患者さんほど、「大丈夫だと思われたい」「相手を心配させたくない」という気持ちがはたらくのだと思います。

グループホームであれば、施設の方にも日々の様子をうかがい、「やはり入院治療が必要では」という見解に達したときには、本人に入院治療を勧めます。

グループホームは今のところ入所期間に期限がないため、本人が希望すれば長く入居することができます。その代わり、入居者同士や職員との関係悪化、近隣トラブル(ショッピング時の店員とのトラブルや迷惑行為)などがあると、入院か退去か、検討の余地が生まれます

この判断には、施設の運営状況も関係します。たとえば、状態の悪い患者さんをサポートできる力量のある職員がいるか。また施設からすれば、入院や退去となるよりは施設にいてもらったほうがお金になる、という経営上の理由もあるでしょう。

弊社の場合、患者さんを入院治療につなげる判断基準としては、「患者さんの身体的、精神的な安全が守られているか」という一点につきます。いくら本人が「大丈夫です」「元気ですよ」と言っていても、食事がとれていない、保清ができていない、服薬が途絶えているなどの状況があれば、入院という形態を利用することも必要でしょう。

ただし、自宅で家族だけが本人をサポートしているような場合には、病状悪化への対応は難しくなります。本人は基本的に「大丈夫」と言うでしょうし、そう言われると家族も、「本人が大丈夫と言うのなら…」と躊躇してしまいがちだからです。

しかし家族だけが本人のサポートをしている場合、本人の異変をキャッチし、助けることができるのもまた、家族だけです。その家族からみて「大丈夫ではない(入院治療が必要ではないか)」と感じるのであれば、早いうちに第三者(保健師や医療従事者)に相談し、判断を仰ぐことをお勧めします。

状態がよくないのを分かっていて、ずるずると引き延ばし、最悪の状態になってから医療につなげるのでは、予後にも影響するからです。

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