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第三者の介入時期を見極める

精神疾患の特徴として、身体疾患とは異なり、本人が病識をもちにくいという点が挙げられます。となると、家族や周囲にいる方々が早めに変化に気づき、治療につなげられるかが重要であることは間違いありません。

厚労省によると、日本の精神疾患患者数は392万人にのぼるそうです。生涯を通じて5人に一人が「心の病気」になるとも言われていますが、いざ自分や家族のこととなると、「精神科医療」に敷居の高さを感じることも事実です。

幻覚や妄想といった明らかな症状を除いては、「何かおかしいな?」と思っても、どのタイミングで本人に治療を勧めるべきなのか、見極めが難しいと感じる家族もいるようです。

まず、家族として不安に感じることがあるのであれば、早めに相談先を見つけることをお勧めします。一人で思い悩むよりは、誰かに話を聞いてもらうことで気持ちが楽になったり、問題点が整理できたりします。それに初期の段階であるほど、実践的なアドバイスをもらいやすいものです。

厚労省のサイト「みんなのメンタルヘルス」には、【地域にある相談先】の一覧が掲載されていますので、こちらも参考にしてください。

弊社では、最悪に至った家族の問題を数多く見てきましたが、その経験から申し上げますと、事態が悪化する分岐点として、以下が挙げられます。

① 本人が社会とのつながりを失った

たとえば、「学校に行かなくなった」「会社をやめてしまった」などです。ここで親がすべきことは、何をおいても「正確な理由の把握」です。いじめ(ハラスメント)等が理由なのか、あるいは精神疾患を発症するなどして、通うことが難しくなったのか。本人に聞いても分からない(答えない)場合は、学校教師や友達、職場の方などにもぜひ話を聞いてみてください。

弊社に依頼となる家族に話を聞く限り、この時期に親が徹底介入していないことがほとんどです。

② 家庭内暴力

精神疾患を理由としない非行・暴力であれば、相談先は警察(未成年であれば少年サポートセンターなど)になります。ただし暴力の中には、精神疾患に起因するものがあることも事実です。そもそも突然、単発的に暴力だけが起きることは少なく、不登校からの経緯があったり、飲酒や薬物乱用など付随する問題があったりする場合のほうが多いものです。

ところがいったん家庭内暴力が起こってしまうと、親は冷静な判断ができなくなり、子供が内面に抱える問題にも気づきにくくなります。また日本の精神保健分野の現状として、暴力(自傷他害の恐れ)のあるケースは、初めから警察に振られることが標準となっています。

家庭内暴力は、公にすることがためらわれがちですが、とても重要なサインです。「自分さえ我慢すれば」などと思わずに、背景にある要因にも目を向け、第三者の介入など適切な対応をとることです。

③ お金への言及

子供からの要求は、初めのうちは少額であったり、「就労のために免許をとりたい」「資格取得のために勉強がしたい」といった、もっともらしい理由があったりするため、親もつい財布の紐を緩めてしまいます。そこから要求がエスカレートしていき、最悪の場合には、本人が親の預金通帳を奪い取る、家族を自宅から追い出す、といった事態に発展します。

親子の関係が金銭のやりとりのみに終始するようになると、第三者の介入を得ずには解決が難しくなります。

何よりも大切なことは、親子関係をお金で解決しようと思わないことです。お金の揉め事が起きている家庭では、本人の抱えている問題の本質(生きづらさや親子関係、精神疾患など)に向き合うのではなく、「小遣いを渡すことで本人を大人しくさせる」という手法をとってしまっています(家族の問題と「お金」については、押川の著書「子供の死を祈る親たち (新潮文庫)」でも詳細に記述しています)。

駆け足で説明しましたが、上記のようなサインがあったからと言って「無理にでも学校(や病院)に連れて行くべきだ」と言いたいのではありません。

中には、親と子の二人三脚で回復にたどり着いた家庭もあります。そのような家庭の親御さんは、「あのとき、無理に学校(病院)に連れて行かなくてよかった」とおっしゃいます。しかしその方法でうまくいくのは、やはり親御さんに相当なエネルギーがある家庭に限られるのではないかと思います。

そこで親御さんには、子供と二人三脚で頑張るエネルギーがあるのか、親の一方通行ではなく相互の適切なコミュニケーションがとれるのか、本人の言うことを聞き入れ事態が悪化してしまった場合に、それを覆すだけの能力が自分にあるのか……など、これまでの親子関係も振り返った上で、客観的に考えてみてほしいと思います。

「親なんだから」と頑張りすぎることが、いつでも正しいわけではありません。もっとも大切なことは、長い目で見たときの子供の将来です。親子関係に自信がもてないのであれば、やはり早め早めに、第三者の介入を得ることです。

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