「女」を「男」に変換すると、そのおかしさに気がつく表現が、ある。

 牛乳石鹸のWeb動画を巡っての是非が、ちょっと前話題になった。

 わたしはこの動画を見て(えええー、パパ、30過ぎての自分探し?)という感想を持ったのだが、知り合いの知り合い、くらいの近さで、「これのどこが悪いの?パパだって、迷うこともあるじゃん。ちょっといなくなりたくなることもあるじゃん。そんなに遅く帰ってきた訳じゃないし、息子だって笑顔で迎えたじゃん。許して家族が続くんじゃん。そのくらいの許容ができないの?」という意見を見た。

 それでわたしはちょっと考え込んでしまったのだが、朝日新聞 Dear Girls のツイッター経由で朝日新聞デジタルの記事を読み、「そうそう、そうなんだよなー!」とすごく同感した。このくだりである。

共働きの子育て世帯向けに情報を発信している「日経DUAL」の羽生祥子編集長は、パソコンに「ママ」と入力すると「パパ」と変換されるシステムを編集部で使ってみた体験を紹介しました。すると、「パパが毎日ご飯を作って、パパが子どもの担任の先生と話し合って、さあ、明日からもパパが頑張って!」と、記事がまるで父親ばかりに頑張るよう促す内容になって驚いたそうです。「男女を入れ替えてみることで、おかしさに気づくことがある。そういう草の根運動を日々やっています」

「CM炎上、ジェンダー表現なぜズレる メディアの男女像」(http://www.asahi.com/articles/ASK7D7KGDK7DULBJ010.html

 上記の牛乳石鹸のWeb動画で試してみると、

ママだって日常にもやもやや疑問を抱えることがある。「わたし、こんなママでいいのかな……。お母さんはいつも、女も働いて自立しなさい、って言ってた。独身だった頃はあんなにバリバリ働いてたのに、今じゃよき妻、よきママか……」。今日は息子の誕生日。パパが出がけに言う「俺、今日ケーキ買って帰ってくるな。あ、プレゼントも」。夕方、ママの会社員時代の後輩からラインが届く「先輩、わたしちょっと落ち込んでます」。出掛けるママ。後輩と小さなカフェバーで、「先輩、わたし迷ってるんですよね……。なんか仕事も行き詰っちゃってるし、いっそのこと、結婚でもした方がいいのかな……」「うん……。そんな時あるよ……」。スマホに着信。「あ、なんか、先輩大丈夫ですか?」「ああ、うん、なんでもない」。夜も更けて「先輩、ありがとうございました」。後輩と別れて家に帰ってくるママを、家で待っていたパパが問い詰める「なんでこんな時に出かけるかな!?」。ママは無言で、一言「……お風呂に行ってくる」。お風呂につかり気持ちを入れ替えようとするママ「さ、洗いながそ」。お風呂から上がってきてパパと向き合い、「ごめん」と謝る。パパが息子を呼び寄せる。笑顔で走り寄ってくる息子。変わらない日常が始まる。

 これに違和感を感じない、って言うんなら、いいんですよ。「パパだって迷うことあるじゃん!何が悪いの?」って言っても。でも、どう考えても違和感あるだろ!どうしたって、息子の誕生日にやっちゃダメだし、問い詰められてむつっとして風呂に行っちゃダメだろ!「洗い流し」ちゃダメだろ!息子だって、笑顔で走り寄ってきたりしないよ、多分、部屋で泣いてるよ!と、いくらでも突っ込みどころがある訳で、これがパパならおかしく感じない、というなら、それが何に由来するのか、それこそ風呂にでも浸かってゆっくり考えてみた方がいい。

 最近だと宮城県の檀蜜動画が有名なので、この稿を書こうと思って初めてきちんと見てみた。問題とされている表現に出会う前に、最初っから、『お蜜の使命は、殿方に涼しいおもてなしをすること』にのけぞった。殿方って。さて、これも、こんな感じにしてみたらどうでしょうか。

仙台藩主の家臣の末裔、齋藤工。タクミの使命は、奥方様に涼しいおもてなしをすること「宮城、イっちゃう……?」。空を飛ぶタクミと奥方様。「ほら……ぷっくり膨らんだ、ず・ん・だ……」「肉汁トロトロの……牛の、舌……」「おかわり、欲しいんですか……?ふふ、欲しがりだなあ……」。「あ、仔猫ちゃん。抱いても、いい……?」。「気持ちイイ、ですか?涼しい、ですか?ふふふ……」。「涼しげで、素敵、ですよ?」。「あっ……。という間に、イケちゃう……」涼・宮城。THE END、で、宮城県知事の顔。

 書いてみたら、当初想定していたよりやばい感じになって、自分でも驚く。ちょっと、BL小説を書いているような気持ちになってきました。最後の宮城県知事が、すごく唐突で無関係な感じですね。しかも、ターゲットがどういう層なのかまったく分からなくて不思議です。これ、女性層にもあまりうけそうにない。炎上以前に、失笑されそう。(勝手にキャスティングしまして、齋藤工さん、申し訳ございません)。

 こういった男女の変換はもっと前、駅乃みちかの萌え絵が炎上した時に、思いついた。「駅乃みちかのビジュアルがエロいって、じゃあ、どうやったらエロくないのよ~~~!」という方向で考えても結構不毛で、わたしは、「駅乃みちお」を描いてみたら一発だと思ったのである(※萌え絵バージョンの駅乃みちかは、プロフィールもちょっと気持ち悪い)。わたしは photoshop も clip studio も使えないので、絵は描けないんだけれども、例えば。

駅乃みちお。ちょっと困り顔で微笑んで、赤らんだ頬と軽く開けた口元。ぴったりと体に沿ったパンツからは、太ももの形と局部の膨らみがくっきり。ちょっとくねらせ気味のもじもじした腰つきと脚つき。バイオリンも弾ける帰国子女だけど、時々言葉遣いが武将みたいになってしまう。なよっとした感じだけど実は空手の有段者で、脱いだら凄い細マッチョなんだ!

 これ、どう考えても気持ち悪いじゃん!これを気持ち悪くないビジュアルにまで持っていけたら、その後駅乃みちかに変換すればOKだよ!というようなことを、考えておりました。

 こうして3例で、「女」→「男」の変換を試してみた訳だが、変換してみた途端、違和感なり滑稽さなり気持ち悪さなりが生じるのが、面白くも不思議なところだと思う。マンガ家になりたいと思い始めた小学生が描いた人物画を、鏡に映してみた途端、その絵の狂いがはっきりすることって、よくあるじゃないですか。見慣れた側から見ていてもぼんやりしているけれども、逆にして見てみると、おかしさに気付くこと。

 最近、女性の表現の仕方でメディアが問題になることが頻出しすぎだと思うのだが、「なにが悪いの?」と思った時は、それを男性に置き換えて表現してみるといいと思う。かなり面白い思考の体操にもなるし、問題点がくっきりと炙り出される。そしてこの、「立場を置き換える」という思考上の試みは、「女と男」だけじゃなくてどんな立場にある人にとっても有効だと思うし、そういうのがつまりは、ダイバーシティの始まりなんじゃないの、と思う。

 それでも、「女だから、そんな風に描きたいんだ!」と主張する人はいるかもしれない。「女性のヌードだから綺麗なんだよ~。男のヌードなんて、見ても面白くないじゃない」とか、「女性が淹れたお茶だから美味しいんだよ~」みたいな、一見女性を持ち上げるような、格好で。そういう時は、うーん、ものすごく真面目に男性ヌードの芸術性についての議論を小一時間やってみるとか、「わたしは課長の淹れたお茶が美味しいと思います」と檀蜜みたいな目で見つめてみるとか、いかがでしょうか。

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菊池とおこ

いちにち・いちとおこ

日記のようなブログのようなエッセイのようなコラムのような。恋愛のことや、結婚のことや、助平なことや、時に真面目なジェンダーのことなどが、主な関心事。
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コメント4件

女入れ替えて、その違和感について考えてみるの、とてもいい方法ですね。結局、優しさって、どれだけ相手の立場に立って想像ができるかどうかなのだという気がしています。
ジェンダーで役割やイメージを固定するのは、男性にとっても生きやすいことではないと思うので、長年かけて刷り込まれた固定概念よりも、個人を大切にする社会になればいいなと思います。
男女入れ替えるのはオススメです!結構面白いし、いろいろな発見がありますし。
miwa さんはスペインにお住まいなのですよね?国籍や民族や人種などでもそういうことが有効なのではないかなぁ、とも思っているのですが、どう思われますか?
先日バルセロナでISによるテロが発生し、沢山の方が亡くなったり、負傷したりしました。それでも、多くの人々は「イスラム教徒を憎まない。テロによって寛容と自由の精神を損なうことは許容しない」と言って、ムスリム排斥や移民排斥というヒステリックな空気は起こっておらず、ちょっと感心しています。非常時には意外とちゃんとしているのか、何世紀も複数の民族の間でもまれてきた人達の懐の深さなのか、そもそも国家や民族などへの帰属意識よりも個人を重視する結果なのか…
もしかしたら、「相手の立場にたって考えてみた」結果かもしれませんね。
そうなんですね、興味深いです。
多様性の少ない社会にいると、「みんなこう考えているだろう」「自分の考え方が普通だろう」と自然に思いがちになるような気がします。「いろいろな人がいる」と日本にいるわたしたちが思えるようになるには、意図的に「立場を替えてみる」ことって効果的なんじゃないかな、と思っています。
その出発点って、男女かもしれないですよね。
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