英語で会話すると、言葉を弄さないから、いい。

 一緒のチームだった男の子がぐだぐだし始めて、突然ぷっつりと仕事に出てこなくなってしまった時(この辺の事情は「同僚の甘えを甘受する筋合いはわたしにはない。」をお読みください)、わたしは結構荒れた。

 いろいろなことを考えた。日本語で。

(何考えてるの、信じられない!)

(仕事途中で投げ出すなんて、どんだけ無責任なの!?お前の担当業務、残ってんぞ!?)

(あのくらいでフツー鬱になる?そこまで仕事してないくせに!残業するほど仕事任せてないぞ!?)

(あんな挑戦的に喧嘩ふっかけてきたくせに、なんで一発叩き返しただけで凹む訳!?そんくらい弱いんなら、仕掛けてくるなよ!)

(ていうか、叩き返すだろ!?お前のママじゃあるまいし、そう、分かったわ、やりたい仕事頑張ってね、とか、やさしくしてやる訳ないだろ!?)

(自分が抜けても仕事がまわるって、そんなにショックかよ!なんでそこまで自分は仕事できるって思い込めるんだよ!まともな社会人経験、2年やそこらしかないくせに!こっちはお前が幼稚園児の時にはもう働き出してんだよ!)

(もういらんいらん!いなくて全く支障ない!)

(ひとりで好きに好きな仕事したらいい。もう知らない。関係ない)

 頭の中はいろいろな言葉が飛び交っていて、本当に苛々し、混乱し、消耗した。

 彼氏にもこのトラブルのことは話した。聞いてもらって、なだめてもらって、励ましてもらった。何度かふたりの間では話題に上り、ある時わたしは、こう言った。「heart broken」。すると彼氏が訊いてきた。「why?」。

 え?なんで、って……。

 よくよく考えてみた。思っていることはたくさんある。責めたいことも、非難したいことも、常識はずれでしょ!?ってことも、いろいろ。でも、そういうことを全部英語にできない。それほど英語力、ない。じゃあ、一番、簡単に、シンプルに、彼氏に伝えたいこと。なぜ、心が傷ついたかってこと。それは。

 わたしはこう答えていた。「because I become alone」。

 すぱん、と彼氏に伝わった。「wakatta. I know this feeling」。

 あ、今、ものすごく的確に気持ちを受け止めてもらった。そんな実感があった。そして、わたしもそこで気づいた。そうか、わたしが一番傷ついていたこと、それは、「ひとりになってしまうこと」、それだったんだ。

 わたしは普段、日本語で物事を考える。言葉を使って仕事をしてきたし、小説家になりたくてひたすら書いてきたから、いろいろな表現を知っているし、操れるし、一般の人よりは多分、巧みだ。

 でも、日本語だと、いろいろなことができてしまう。人を巧みに非難することも、自分は悪くない理屈を作ることも、言い訳をすることも、斜めから皮肉を言うことも、分かった顔して冷たく切り捨てることも、なんでも。

 英語だと、それができない。そんなに上手に、わたしは英語を使いまわせない。だけどその分、わたしは英語を話す時、うわべに塗り固めたいろいろなコーティングを剥がして、自分が本当に思っていたコアな感情に辿り着けるような、そんな気がする。

 それが、彼氏とコミュニケーションする時、一番心地いいなと思うことだ。

 勿論、日本の非婚・晩婚化とそれに伴う少子高齢化の原因はどこにあるか、とか、このお寺の運営団体である創価学会とはなんであるか、とかを説明する時には、少し困ってしまう訳なんだけれども。



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