ご飯は誰が作ったっていいんだし、作ってもらったら美味しくいただくこと。

 彼氏と初めておうちでご飯を食べようということになった時、彼氏は「じゃあ僕は、日本人のダンナサンみたいに、TV見て待ってようかな」と言ったので、(えー、結局そういう人?)と困惑したら、うちに着いた途端彼氏はさくさくとご飯を作り始めて、あっという間に「はいどうぞ」になった。朝ご飯はわたしがまだベッドにいるうちに彼氏が起き出して、これもまたてきぱきと作ってくれた。

 外で食べることも多いけれど、うちで食べる時は、今でもすべて彼氏が作ってくれる。わたしは外食するよりも、彼氏の作ったご飯を食べる方が好きだ。レストランより美味しいと思うし、ふたりきりだからリラックスできるし、食べながらいちゃいちゃするのも楽しいし。

 男の人の心を掴むにはまず胃袋を掴め!とよく言われるけれど、わたしはまさに彼氏に胃袋を掴まれたと思う。彼氏のご飯はそのままで十分美味しいけれど、「料理は女の仕事」意識がまぶされてないので、さらに美味しい。元夫も料理しない人ではなかったけれど、たまに作ってくれる時は、「俺の方が上手いだろ」的なマウンティングと「お前が作るべきところをわざわざ俺が手を煩わせてやったんだ」的な懲罰感があって、あんまり嬉しくなかった。

「女の仕事」どころか、わたしがあまりにも手を出さないので、彼氏は最初の頃は、トーコは料理ができないんじゃないか?くらい疑っていたっぽい。よく、「なんでいつも見てるノー、ズルイー!」と言われた。確かに彼氏にだけ作らせるのはずるい、と思ったので、この頃は、朝ご飯用にケーキを作って持って行くようになった。お豆腐とナッツで作る、パウンドケーキみたいなやつ。彼氏はそれがすごく気に入って、あと、どうやらトーコもお料理できるみたい、と納得もしたようなので、よかったよかった。最近は、彼氏のお料理をちょっと手伝ったりも、する。

 彼氏のお料理はいつも驚きと新鮮さに満ちている。例えば彼氏はお豆腐が好きなのだが、日本人が生でお豆腐食べるとしたら、冷ややっこくらいしか思いつかないじゃないですか。ある日の彼氏のお豆腐料理は、お豆腐一丁そのままボウルにイン。スプーンでざく切り。そこへ刻んだゆで卵をイン。メキシカンチップスタコス味@ファミリーマートを砕いてイン。細かく刻んだレモンと生姜をイン。あと、塩とブラックペッパーを振って、ざっくり混ぜて、出来上がり。どう思いますか?これが滅茶滅茶美味しかったんですよ!食べる前に疑問視していたレモンと生姜が、すごく効いている。これにはお豆腐の可変性を見直した、もあるけど、それ以上に、レモンと生姜の可能性に目を開かされた。お豆腐にヨーグルトを加えてレンジでチンした一品も、湯豆腐みたいで悪くなかった。カレーうどんにトマトとミックスベジタブルが浮いていて麺がきしめん、ていうのも固定観念を揺さぶられるし、今日の夕食はチキン&ライスの残りにうどんを加えてさらにコーンチップス、ツナ、オリーブ、とラインで説明された時にはまったく想像できなくて、送ってくれた写真を見たら、酔っ払いが路上に作るお好み焼きみたいだったけど、美味しいよ、多分トーコちゃんも好きだと思う♡なのだそうだ。まだ食べたことないけど。こんな風に、日本人として料理に抱いていた常識を覆されるような経験は、楽しい。

 そういう常識だと思っていたことのひっくり返り、は他にもある。例えば、彼氏がじゃがいもの皮を剥かない時。ブロッコリーの茎もぶつ切りして使う時。しいたけの軸を取らない時。炊飯器の玄米ご飯が固かったら、炊けた後で水を無造作にインする時。彼氏が「お弁当」と言って、バッグにお豆腐のパックとバナナとトマトを突っ込んだ時も、これまでの人生で信じて疑わなかった、お弁当箱に彩りよくおかずのディスプレイされた「これが日本のお弁当!」像が、きれいにコペルニクス的大回転するのを感じた。

 日本では、「女性が料理すること」「手を抜かず、丁寧に、きめ細かく、手間暇かけて料理すること」が当然視されすぎだと思う。女の子は彼氏に手料理を振る舞うことが期待されているし、「パスタとかじゃなくてちゃんと煮込んだ煮物とかが出されると、高得点!て思う」とか言われる。結婚相手に「料理が上手い」という条件はまだまだ高順位で健在だし、お母さんの愛情は手間暇かけたお弁当で量られがちだ。でも、それが絶対の価値観ではないと気づくと、自由になると思う。男も女も。ご飯作ってくれる彼女や妻がいなくて切ないなら、ご飯作ってあげる彼氏や夫になればいい。料理の腕で、女の価値をジャッジされる謂れもない。手料理は誰が振る舞ってもいいのだし、適当に作ったって仲良く食べれば美味い。フランスのお母さんはバゲットとチーズを袋に突っ込んで子どもに持たせる。それでいいのだ。

 そしてわたしは、彼氏にご飯を食べさせてもらった時は、とにかくにこにこと「美味しー!」と言う。勿論美味しい訳なんだけど、「美味しい!」っていう笑顔は、ご馳走してくれた人に対しての、最大のお礼なんじゃないかと思うから。ところが彼氏は、「トーコちゃんてホントーに食べるのが大好き。まるでコドモみたーい♡」と思っているらしい。んんー、いや、まあいいんだけど、でも、そうじゃないんだけど!

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これまで「ますますいい仕事でお返しします!」としておりましたが、体調がままならない現在は、頂いたサポートはわたしの健康回復(多分鍼治療?)に注ぎ込む所存でございます。

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菊池とおこ

ライター。社是(?)は「女子のエンパワーメント」、扱うテーマは恋愛・結婚・ジェンダー・助平など。真面目な執筆:女性向けマネー&ライフメディア「DAILY ANDS」、教育メディア「cocoiro」。ユルい執筆:「佐伯ポインティの猥談タウン回覧板」の助平エッセイは完結。

いちにち・いちとおこ

日記のようなブログのようなエッセイのようなコラムのような。恋愛のことや、結婚のことや、助平なことや、時に真面目なジェンダーのことなどが、主な関心事。
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