「夢のバイクを買わないうちに死んじゃったら困る」と彼氏が言った。

 土曜日彼氏のお店を訪ねて行くと、彼氏は「ちょっとおねえちゃんと電話してくる」と言って、バックヤードに引っ込んだ(その間わたしは、彼のお店のロゴを画像ソフトで加工して差し上げてたんですけど!)。彼氏のお姉さんは彼氏の故郷の町に住んでいて、彼は18の歳にそこを離れて以来、一度も帰っていないのだという。電話から戻ってきて彼氏は、「おねえちゃんがすごくママに似てきた。ママと話してるみたい」と言った。お姉さんは一番上のお姉さんで、ちなみにうちの父より年上だ。

 そんな彼氏は次の日の朝、「僕が今心配してるのは、働いて、ローンを返して、娘たちを高校終わらせて、さあ、という時になったら死んじゃうんじゃないか、ってこと。そうしたら、ドウスルノー?」と言い出した。なんか、ローリングストーンズにそういう歌があるらしい。「えー、じゃあ、長生きして♡」と言っておいた。

 その後彼氏はお店に出かけて行き、わたしもお昼過ぎに後を追った。お天気がよく、バイカーの多い日で、彼氏のお店の前の国道に、信号待ちのバイクが何台も停まった。彼氏は「Wow, wow, wow, ハーレー、ハーレー、ハーレー、あれはヤマハ」と数え上げ、「エンジンの音が全然違う。ワカル?」とわたしに訊いた。分かりました。ゴールデン・ウィークに、ハーレーのエンジン音を youtube でめっちゃ聞かされたからね!

 その後に、冒頭の台詞が出てきたのだった「あー、バイク欲しい!僕の夢のバイクを買わないうちに死んじゃったら、困る!」。笑ってしまった。まあ、そうだよね。バイク買う金貯めてるうちに死んじゃったらつまらないし、バイクに乗れる年齢のリミットもあるかもしれないからね!

「もー、来年買う!」「ハーレー?」「yes」「いくらするの?」「500万円あったら大丈夫」「じゃあ、頑張って!」

 すると彼氏は言い出した「ワカッタ、おねえちゃんに会いに行く。彼女、お金持ちだから」。お姉さんはビジネス・ウーマンで、結婚して一族でファミリー・ビジネスをしているから、お金持ちなのだそうだ。わたしは笑った「お姉さんに、『僕にお金ちょうだい』って言うのー!?」「No。『お金貸して』って言う。そして、二度と返しに行かないんだ」。なんだその作戦。噴き出すと彼氏は続けた「多分、『家のローンを払うからお金が必要なんだ』って言えばダイジョーブ。『okay, 可哀そうね。分かったわ』って言う」「じゃあ、『バイク買いたいから』って言ったら?」「多分彼女は、僕を家から蹴り出す」。

 以下、彼氏とお姉さんの想定問答集(彼氏による)。

「おねえちゃん、僕、お金が必要なんだ。僕、結婚しようと思ってるんだ」「あら、それはいいことね。何ていう名前の女の子なの?」「トーコ」「again?(アッゲーーーーイィン?みたいな調子で)またジャパニーズ!?」「だって、僕は日本に住んでいるんだから、アメリカ人やイタリア人の女の子とは出会えないよ」「それで、いくら必要なの?」「500万円」「what!?そんな大金どうするの!?あなた、ヤングボーイの初めてのケッコンじゃないのよ?あなたこれで3回目よ!?」

 彼氏は、「そして彼女は、僕を家から蹴り出す」と話を締めた。

 最初に書いたように彼氏のお姉さんはうちの父より年上だし、彼氏はうちの父の妹と同い年だ。つまり自分の親御さん世代のご高齢ご姉弟の間でこの会話が繰り広げられることを想像すると、なんていうかやっぱり、男って幾つになってもオトコノコなのー?と爆笑してしまう。すみません、男って、じゃなくて、単に彼氏がご高齢になってもオトコノコだっていうだけですけど。

 そんな彼氏は、この間受けた市の健康診断でメタボ予備軍の診断を受け、ダイエット中だ。アルコールとピーナッツをやめたそうだ。確かにお腹が痩せててびっくりしたけど、「今晩はビール飲む?」と訊いたら「君が飲むなら飲む!」って言ったし、お店に行く前に「アイスクリーム買ってく?それともダイエット?」とラインで送ったら、くまのブラウンがもじもじしているスタンプ(「shy」と入力すると予測変換で出てきます)が送られてきたので、買って行った。そういうところもまた可愛い、と思う。

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