自然農に生きる人たち-赤目自然農塾

赤目自然農塾 三重県名張市

多くの自然農人が巣立った
自由な学びの場

 三重県と奈良県の県境に広がる赤目自然農塾は、小さく分割された田畑の区画を自分で選び、野菜やお米を実際に作りながら自然農を学べる場所である。常駐スタッフはいないものの、自然農塾の先輩たちが「お世話係」として相談にのってくれる。川口さん自身も、定期的に指導に来ている。
 一年目の参加者は四〇名。翌年は八〇名に増え、さらに上側にある土地も借りることになった。この年から、川口さんの名義で正式に田畑として借り受け、農業委員会にも届け出て、地主さんに正規の借地料を払っている。そして三年目には一五〇名、四年目以降は二五〇名を前後しつつ、これまで続いてきた。敷地は四年目に二町七反に増えた。上側は奈良県に属し、かつては尾根の上にある集落から牛を引いて耕しに来たという。石垣が組まれた立派な棚田だが、三〇〜四〇年以上放置されていたため、葛や笹が生い茂っている。
 赤目自然農塾の運営は、細かい規則がほとんどない。法人化もせず、組織化もせず、会費も取らず、学びたい人がいつでもだれでも学べるように開かれている。あくまでも自分で自分のことを管理するようになっている。
 川口さんは「お金がないから勉強が出来ないというのは寂しいから」と、無料にした理由を教えてくれた。参加者の自主性に任されているわけだが、それだけに自分のやる気が問われている。地代は年間三〇数万円。このほかの維持費を合わせると、約七〇万円の経費がかかっているという。個別に集めるのではなく、「赤目自然農基金」を募って、それでまかなっている。


 赤目自然農塾が始まったのは、一九九一年三月のこと。川口さんの田畑を見学した人が「自分の土地が放棄したまま残っているので、自然農の勉強の場に使えないか」と提案したのがきっかけだった。最初は、休憩小屋の周辺にある雑木林を含む七反の土地のみ。八年放棄された場所で、田んぼの形はそれとなくわかったが、まず水路を復元する作業から始まった。それまでも、地主さんは何とか使えないかと思い、何人かの農家に声をかけたというが、みなそれぞれに「こらあかんわ」と言うだけだった。川口さんだけが「できます」と言ってくれたという。
 斜面の中腹にある「中の小屋」は、塾生が増えてきたため、必要に迫られて建築した。三畳ほどの休憩室がある杉皮ぶきの立派な小屋で、塾生たちの手づくり。ところが棟上げの日に、阪神淡路大震災が発生。小屋の図面を引いた建設の中心にいる塾生も、いつも集まってくるほかの塾生たちも来ない。
「赤目にはテレビもラジオもないから、前日から集まっていた私たちは何もわからなかったんです。あとで聞いてすごいことになっているのを知りました」
 赤目自然農塾の世話人をしている柴田幸子さん(五七歳)は、そう言って当時を振り返った。敷地内には二軒の小屋があり、無料で泊まることもできる。


 各地で獣害が問題になっているが、赤目で最初にイノシシの被害があったのは、二年目の正月だった。三年目にはあちこちで被害が出るようになり、その後、四〜六年と年を重ねるごとに被害がひどくなっていく。
「その翌年、田畑の八割が被害にあってしまい、これはなんとかしないといけないと思ったんです」
 九八年は寒冷沙を暖簾のようにぶら下げて、周りを囲んでみた。すぐに効果が現れたが、草が寒冷沙の下を持ち上げてしまい一年でだめ。翌年はトタン板を張り始めたが、その途中、NHKの番組でイノシシの実験をやっていて、トタンを横にしただけでは跳び越えてしまうことがわかった。
 しかたなく計画を変更し、トタンを縦に並べることにする。これなら上から押しつぶしたり、下から持ち上げたりする被害もない。それにしても、二町七反の敷地をトタンで囲うのはものすごい労力である。イノシシ対策を始めてから、三年がかりの大工事だった。総延長は二キロに及ぶという。


 柴田さんの案内で、赤目自然農塾にあるすべての田畑を見せてもらった。今は草の勢いがある時期なので、案内してもらわないと、どこに畑があるのかさえわからない。じっくり見ていくと、きれいに手入れされている畑も点在していた。もちろん、あまり通ってなく荒れている畑もある。
「笹が生えている土地は、浄化が進んでいるから豊作になるんですよ」
 笹やカヤが生い茂っている土地では難しく思えるし、地中に根を張りめぐらせる草には苦労させられるはずだ。けれども柴田さんは「とにかくまめに、葉っぱが出てきたら刈っていれば、まったく問題ない」と教えてくれた。


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