木曽の最期


こちらは、平家物語「木曽の最後」より、妄想した小説となっております。歴史的史実にほぼ基づいて居ませんので、苦手な方はご注意下さい。また、解釈違いを起こしてしまう可能性もございますので、お気をつけ下さい。

そして、こちらはひとまず投稿させていただいただけです。まだ先に続きます。最後まで書き終えましたら、こちらの投稿を一度削除し、フルで再投稿致します。

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 居つからだろうか。こんな想いを彼に抱き始めたのは。

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「義仲!今日こそお前に勝つ!!」
「やれるものならやってみろ!」
乳母子である兼平は、義仲と幼馴染だ。兼平にとって義仲とは、眉目秀麗文武両道。しかし、どこか頼りなさも感じるような。そんな男であった。義仲が5歳の時に兼平は8歳で、体格も武術も兼平のほうが優位に立っている。そんな兼平に対し、義仲は負けても負けても、性懲りもなく勝負を挑むのだ。
「兼平」
そうやって微笑みかけてくる義仲に、兼平はいつも救われていた。微笑みかけてくる彼の顔は最高のご褒美で、どんなに辛いことがあってもその顔を見るだけで前向きになれる。そして気がつけば、兼平は義仲に心を奪われていたのだ。だが、まだ幼い兼平がこの想いに気づくことはなかった。
 義仲は昔、ちょっとの運動でもすぐ転んで涙を流しているような泣き虫だったが、成長するとともにそのように涙を流すこともなくなっていた。幼少期は、兼平の方が全体的に優れていたので、「いつか必ずお前を追い越す」と、毎日のように言いながら鍛錬に励む日々。兼平は、日々の中で少しずつ成長していく義仲を見るのがとても好きだった。弓でも刀でも、狩りでも。義仲と一緒だったならば何でも楽しく感じるのだ。だからこそ、義仲と兼平は毎日、刀やら弓やらを手に競い合う。
 義仲は刀術に長けており、少し前までは勝つ未来など見えていなかったというのに気づけば兼平を打ち負かすほどまでになっていた。そんな二人は仲の良い幼馴染であり、永遠のライバル。戦いでどちらが勝つかということしか眼中にない。そんなライバル心で繋がった固くゆるがない関係がいつまでも続くと思っていた。しかしある日、二人の関係性を揺るがす事態が発生した。ついに、兼平が義仲への想いを自覚したのだ。齢13の時のことだった。「義仲はお前と共に一生を終えようと思うのだ」
ある日、義仲は兼平の瞳を見つめてやわらかく微笑みながらそう言った。その一言を聞いた瞬間、兼平は義仲の虜となったのだ。たった、その一言で。
 今まで、兼平の今後を保証してくれる者など存在しなかった。未来はいつか途絶える。誰しもが分かっていることであったため、皆は敢えて口にしなかったかのようにも思えた。それでも義仲は、いつもと変わらぬ笑顔でそういったのだ。その事実が、今までに起きた出来事の何よりも嬉しく、兼平は思わず涙ぐんでしまった。
「兼平、泣くな!俺が虐めたみたいだろう?」
義仲は成長すると共に顔の幼さは消え、憂いを帯びた美青年になっていた。それでも、性格は幼い頃と変わらない。人々の先頭に立つ人物だからと言って驕り高ぶることはなく、自身のことよりも他人のことを優先する。弱い立場の人には、義仲ができる限りの範囲で手を差し伸べ、優しい言葉をかけていた。そう、今のように。『誰よりも、義仲のそばにいたい。』『一生を寄り添って過ごしたい。』そんな想いは、烈火の如く兼平の中に燃え広がり、消えることを知らなかった。

__それから一月後。
兼平は義仲の誕生日に『忠誠を誓う』という名の贈り物をした。
「この兼平は、我が身が滅ぶまで木曽殿にお仕えすることを誓います。貴方のためであれば、たとえ火の中水の中。いつ何時でもこの身をお捧げしましょう」
 その日を境に、兼平は義仲のことを名前で呼ばなくなった。
「木曽殿」
そう呼ぶのは、いつでも忠実な家臣であれるように。忠誠の誓いの下、命尽きるまで側にいれるように。定期的に義仲が居なくなるのではないか、という不安に駆られる兼平にとっては、『誓い』だけが、身と心とを繋ぐ安定剤のようなものだったのだ。
 しかし、家臣となったからといって名前の呼び方が変わったこと以外には何も変わらなかった。義仲の行く場所にはどこへでも付いて行き、日々の鍛錬では、今までと変わらず半命がけで行った。兼平は、主従関係を改めて結んだ今のほうが前よりもずっと義仲を近くに感じられているようで、日々が幸せに満ちていた。
 けれど、それから少し経った頃。兼平は義仲のある変化に気づいた。それは、本当に些細な変化で、普通ならば気づくはずもないだろうが、ずっと義仲のことを目で追っていた兼平だけがその変化に気づいた。兼平の妹__つまり巴に対する恋心に。前々から、巴が義仲のことを恋い慕っていることは知っていた。しかし、自分との勝負にしか目がない義仲のことだからきっと大丈夫だろう、と勝手に思い込んでいたのだ。二人の想いが少しでも重なり合ったのならば…その先の結末などもう目に見えている。このまま一生想いがすれ違ってしまえばいいのに…などと、らしくもない考えを抱いてしまった。

 ある日の夜、とある事件が発生した。
なんと、闇夜に紛れて現れた刺客が、巴に襲いかかったのだ。
「きゃぁっ」
と驚きによる悲鳴は上げたものの、義仲や兼平に劣るとはいえ、かなりの実力の持ち主である巴は、枕元に備えてあった刀を素早く手にとり、敵の刀を薙ぎ払った。刀が鈍い音を立てて壁に突き刺さる。
「巴、何事だ!?」
 声を荒らげながら、義仲と兼平が巴の部屋に入ってきた。血相を変えて叫んだのは義仲だった。
「義仲…、兄上…」
巴は2人が来てくれたことに対する安堵感からなのか、大粒の涙をぽろぽろと流し始めた。
「兼平、すまないがあの刺客を頼む。こいつを拘束し、庭の石畳の上に跪かせるのだ。後の処分は、他の者に命ずるように」
「…承知致しました」
兼平は言われたとおりに行動した。まずは両手首を背中のところで縛り、次に全ての武器の押収。ちらりと、義仲の様子を盗み見るとすぐ刺客の方に視線を移した。
「立て」
まるで馬の手綱を操るかのように、力強く縄を引く。刺客はうなだれた様子で立ち上がった。が、次の瞬間。義仲に蹴りを入れようと、足を大きく振りかぶっていた。それにすぐさま気づいた兼平は、その刺客がことを移す前に渾身の蹴りを食らわせる。刺客は勢いよく吹っ飛んで、部屋から強制退出する形となった。
「失礼致しました」
礼儀正しく一礼し、挨拶をすると、廊下で倒れ込んで吐血をしている刺客を足のかかとで踏みつけた。
「ぐあ”…っ”」
うめき声を上げるも、兼平が踏みつけている足を緩めることはない。
「お前ごときが俺の……いや、俺たちの義仲に軽々しく触るな。汚らわしい」
そう言い放つ兼平の顔は、視線で人を射殺せるのではないかと思ってしまうほどに冷酷で、恐ろしかった。

「巴、大丈夫だったか?」
「まぁ、日々の鍛錬で兄上や義仲と一緒に鍛えていたからな!」
気持ちの整理ができ、だんだんと心の余裕を取り戻していった巴の瞳からは涙が消え去っていた。それどころか、軽口が叩けるほどまでに回復していた。
「怖い思いをさせてしまったな。もっとお前に気を配るべきだった。お前も、一人の立派な女子なのだ。…巴。これからは、この義仲にお前を守らせてはくれぬか?」
「義仲…それは、まさか…」
照れたように無言で目をそらす義仲に、巴が抱きつく。
「ありがとう…ありがとう、義仲。ここまで嬉しいのは人生初だ」
と言いながら、巴は歓喜の涙を流していた。
「…っ、…おめでとうございます。木曽殿」
ふすまごしに一連の会話を聞いていた兼平は、小さくため息をつくとそう言った。

それから時は流れ、義仲は19,兼平は22となっていた。
「兼平、元服した翌日に初戦とは…世は無情だと思わぬか?」
「元服の翌日に初戦など、めでたきことではありませぬか。それに、木曽殿が誰かに負けることなどあるはずもございませぬ。兼平が保証致しましょう」
「…あぁ、そうだな」
何が不安なのかは分からなかったが、義仲の表情はひどく沈んでいるようだった。兼平はその事がただただ気がかりであったが、なんと声をかければ良いのかも分からずにいる。
「敵は南西にあり!皆の者、陣を敷け!!!」
此度、義仲と兼平は初参戦であったために一番後ろの列の隅の方に配置されていた。武士らはやる気に満ち溢れた表情で凛々しく前を向いているが、義仲の足取りは重い。それは、義仲のことを心配している兼平も同じことだった。
 いくらばかりか進んだところで、敵と相対する。本格的な戦が幕を上げた。空には鉛色の雲が分厚く広がっている。砂埃を巻き上げた戦場には、男の野太い声が響き、生臭い血の匂いが蔓延していた。そんな、おぞましい光景を覆すかのようにポツリ、またポツリと大粒の雨が降り始めた。降り始めた雨は激しさを増し、気を抜けば敵も味方も分からなくなってしまいそうなほどだ。ひどい雨に視界が憚られたせいで、新米武士を多く連れていた義仲らの勢力は、早くも衰え始めていた。
(このままでは無駄死にする武士が増えるばかりだ…)
「兼平」
義仲が呼びかけ、二人は視線を一つ交わすと、素早く陣から外れて先頭の方へと向かった。次々に流れ来る敵を、一撃で確実に、華麗に捌き、さらにその奥の敵地へと進む。義仲の身分的に作戦通りでない、勝手な行動をしたことに対して咎められる者はいなかった。
「周りは任せた」
義仲は兼平に声を掛ける。兼平はその言葉に頷くと、義仲にとって障害物になる武士を排除すべく動いた。義仲が、不自由なく敵軍の大将の首を取れるように。兼平は遠方から弓を引き、大将を取り囲むように立つ武士を次々撃ち落としていく。
「木曽殿、今です!」
そしてついに、義仲が大将の首を切ったのだ。
「これが果敢に戦いなさった美濃の一将軍の首ぞ。我を前に美濃の一将軍破れたり!」
大声で宣言する義仲の顔は、どこか安堵しているようにも見えた。だが、輝かしき功績とは裏腹に、義仲の顔はより一層曇ってしまった。

 その後、義仲と兼平は、空から身に降りかかる雨の量よりも多くの血を浴びたのだと噂され、裏で『無双の二狂武士』と呼ばれることとなるというのを、義仲と兼平はまだ知らない。

 家に帰るも、義仲は入り口で立ち止まったままじっとしており、歩みを進める様子はなかった。
「どうされたのですか?」
兼平は遠慮気味に尋ねる。すると、義仲は兼平の方に目を向けた。
「兼平、人を殺めるというのは…こんなにも辛いものなのだな」
苦笑いを浮かべてそう言ったかと思えば、義仲は瞳から一筋の雫を垂れ流がした。頬に伝った生温かさに驚いた義仲は、そっと自身の頬に触れる。それが涙なのだと気づくと、バツが悪そうに、兼平から顔をそらした。
「…っなんでもない、忘れろ」
その様子に、なんとも言えない気持ちに駈られた兼平は、義仲の元へと足を進めた。そして、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「不敬をお許しください。罰が必要とあらば、後でいくらでも受ける覚悟はございます。」
「馬鹿を言え。義仲がお前に罰を与えられるはずがないだろう」
その言葉に対して、兼平はなにも返すことはなく、ただただ、義仲を抱きしめる腕に力を込めた。小さく、小刻みに震える肩を見たのはいつぶりだろうか。義仲のどんな仕草も、全てが愛おしいのだと改めて実感させられた。
 そしてそれから、どれほどの時間が流れたことだろう。先程まで滝のように激しく降りしきっていた雨は、すっかり止んでいた。
「兼平、ありがとう。もうよい」
一つ、大きく深呼吸すると、義仲は自身に回された腕を軽く叩く。しかし、兼平が動くことはなかった。
「兼平…?」
義仲は不安そうに兼平の名を呼ぶ。
「……です」
「今、なんと?もう少し大きい声で言ってくれ」
兼平は、義仲に抱きついたままこくりと頷いた。そして、深呼吸をしてから口を開く。
「好き、です。私は…私は、木曽殿を恋い慕っております」
唐突の告白に、義仲は息をするのも忘れて固まってしまった。
「兼平、正気か?俺にはお前の妹、巴がいるのだ」
「もちろん、そのことは十分に存じております。…私は、一方的に貴方を想うことも許されないのでしょうか?」
後ろから抱きつかれているため義仲に兼平の顔は見えていなかったが、自信なさげに兼平は笑っていた。だが、暫く待っても義仲からの返事はない。兼平は、よく知る仲であるからこそ、自身の気持ちを伝えづらいのだと悟った。
「木曽殿、申し訳ありません。忘れて下さい。」
いいえ終えると、そっと義仲の首に回していた腕をほどき、義仲に目を向けることもなく屋敷に戻ろうと身体の向きを変えた、その時だった。ぐいっと力強く腕を引かれ、兼平は強制的に振り向かされる。ハッと気づいた時にはもう、義仲の顔はすぐ目の前にまで迫っており、唇には生温かさを感じた。今がどのような状態になっているかに気づいた兼平は、慌てて顔を離そうとするが、それにいち早く気づいた義仲は、乾いた血がついている両手で、兼平の顔を強く引き寄せた。そして、ここぞとばかりに舌をも絡ませてくる。兼平は、自身の理性がそこで途絶えるのを感じた。
「木曽、殿」
兼平は大きな両手で義仲の顔を引き寄せると、義仲の唇を夢中で貪る。派手な水音を立て、二人の唇はくっついては離れを繰り返していた。しばらくこうしているうちに、兼平は義仲の息が段々と荒くなってきていることに気づいた。酸欠なのだろうか、少しフラフラしている。そこで兼平はやっと唇を離した。
「はぁ、はぁ…」
義仲の息は荒く、顔も少々火照っていた。離れたばかりの唇は少しだけ赤く腫れ、月の光を受けて艶めいていた。その様子はとてもいやらしく、甘美で、兼平を欲情させるのには十分すぎるほどだった。
「殿、これは…先程の私の告白を受け入れてくれたということでよろしいのですか?」
「それ、は…っ」
どう答えるものか、と兼平は興味深そうな顔つきで義仲を見つめる。
「そういえば、今夜は満月だな。月が綺麗だ」
下手くそに話題を変えてはぐらかそうとする義仲の顔を、兼平は強制的に自身の方に向かせる。
「兼平の、いじ、わる」
まだ酸欠状態から抜け出せていないのだろう。うまく呂律が回っていないようだった。
「ほら、木曽殿。深呼吸をして下さい。それと接吻をする際には鼻で息をするのですよ。それすらも知らないとは…案外、お子様なのですね」
「は、はぁ?そんな、こと、ない」
「まずは深呼吸ですよ」
義仲は兼平に言いたいことはまだまだあるようではあったが、促されるがままに深呼吸をし、どうにか落ち着くことができた。
「殿、それでお返事は?」
神妙な面持ちで、再び兼平は義仲に尋ねる。
「俺は…俺は巴の事が好きだ。」
「…そう、ですか」
(やはり、か。先程義仲とあのような事ができたのは、奇跡であるな…)
「でも!俺は…お前のことも…」
思いもよらない言葉を耳にした兼平は、驚いて聞き返した。
「え?」
「お前が、お前が…義仲以外の輩と喋っていると腹が立つ。兼平の目はいつも義仲に向いていると思っていたのに。」
ふんっ、と鼻を鳴らして義仲はそっぽを向く。その様子はあまりにも滑稽で、兼平は思わず笑ってしまった。
「ふふっ…殿、嫉妬…ですか?ふふっ」
「し、嫉妬などでは…っ!って、笑うな兼平!…それに、名前。俺の名を呼んでくれ」
「義仲様…?」
しかし、兼平が義仲の名を呼ぶと、じーっと、義仲に睨まれてしまった。
「はいはい、わかりましたよ。義仲。これでいいのでしょう?」
諦めたように、『降参だ』と両手を上にあげて名前を呼ぶと、義仲は嬉しそうに笑った。久々に見る、満面の笑みだ。
「いい子だ」
そう言いながら、義仲は兼平の頭を撫でる。
「義仲、私は子供ではありません。それに、私のほうが貴方よりも年上なのですよ?」
「可愛いらしいものを愛でて何が悪いというのだ?たまには、兼平も心の荷を下ろせ。」
そういうと、更にガシガシと頭を撫でてくる。その笑顔が輝かしすぎて、眩しかった。
「これは反則です…。もう、何されても文句は言えませんからね」
兼平は、義仲の身体の向きを変えると、庭石に手をつかせる。そして、義仲の衣の中へと手を伸ばした。
「っ兼平、ちょ、俺はお前のあるz…あっ」
少しずつ試すようにして、兼平は義仲の薄紅色の突起に触れる。すると、なんとも可愛らしい声を上げて啼いたのだ。その漏れ出るような吐息混じりの声に、兼平は自身の下半身にある陽物が段々と持ち上がってくるのを感じた。
「かねひら、も、やめ、ろ…」
自分を制そうと発する声も、なにもかもが自身のことを誘っているかのように感じられる。
「我慢するのは難しそうです」
「そんな、のっ…ここ、今、外だぞ?分かっているのか…!?」
もう、辺りはすっかり暗くなり、月さえも顔を覗かせているというのに、義仲は騒ぎ続ける。
「もう、夜ですから。お静かに」
それでも閉まらない口を塞ぐべく、兼平は再び義仲に口づけた。先程はすぐにむせて涙ぐんでいたが、先程の兼平の助言をきちんと実行しているようで、辛そうな様子もない。兼平は、
(そういえば昔から、教えたことの飲み込みが早かったな)
などと、感慨深さに浸っていた。
「声を出せば、巴はおろか、他の家臣にも見つかってしまいます」
口を離すと、兼平は義仲に向かって微笑んだ。その後、兼平は自身の着物の帯を解くと、優しく、それでいて強く、義仲の手首を縛った。紐を失った着物は見事に乱れ、鍛え抜かれた兼平の肌が露見した。その肌の清さに、義仲は思わず生唾を飲み込んでしまう。
 時は夜。ただ、満月だけが二人のことを見つめていた。そんな月明かりは、兼平の肌をより一層美しく艶めかしく魅せる。義仲は時間の経過と共に、段々と冷静になっていった。
「なんのつもりだ、兼平」
しかし、兼平は答えない。ただ、いつもより甘い微笑みを口元に浮かべるばかりだ。そして、兼平は口元に作った笑みを崩すこと無く、まるで花占いでもするかのように、ゆっくりと義仲の服を脱がせていった。兼平の綺麗な手が、義仲の素肌をかすめる度に、義仲は『あっ…はぁっ…んっ…』と微かな喘ぎ声を漏らした。
「殿のお身体は敏感でいらっしゃるのですね」
「う、うるさい」
義仲はどうにかして兼平の腕をどけようと試みたが、手首を縛られているのでうまく動けない。さらに太ももまで兼平の手によって押さえつけられているため、動かすことができなかった。
「失礼します」
兼平は、義仲の身体を自身の方に向けさせると、乱れて垂れてきた自身の長い黒髪をそっと耳に掛ける。
「何をする気だ?」
義仲が顔に恐怖を滲ませながら問いかけると、兼平は意味深な笑顔を含んだ表情で義仲のことを見つめ返した。そして、一気に義仲の陽物を根本まで咥え込む。
「ん”っ…ん”ぅ”ぅ”っ!?!?」
初めての感覚に、義仲は溢れ出る声を抑えきれていないようだったが、周りに知られることを恐れてか、自分の衣を自ら口に咥えて必死に声を抑えようと努めていた。その様子があまりにも可愛かったので、兼平はいたずらに義仲の陽物を軽く噛んでみたり舌の先でつついてみたりする。そのたびに、義仲はビクッと身体を震わせたり、一際大きな喘ぎ声を漏らす。兼平はそれらの変化に、なんとも言えぬ快感を覚えていた。
「ん”あ”っ…兼平、も…、駄目…」
涙目の義仲からその言葉を聞いた兼平は、止めるどころかより速く顔を前後に動かした。
「___っっ」
最後にもう一度義仲の身体が大きく跳ね、兼平の腔内に、生温かい、ネバネバとしたものが広がった。
「っ駄目だ、飲むな。吐き出せ」
兼平は首を横に振るとその液体を半分ばかり飲み込んだ。そして飲み残したものは自身の手中に吐き出す。
「本番はここからですよ」
兼平は義仲をひっくり返すと、ひったくるようにして衣を剥がした。布が義仲の全身をこすり、義仲は『…あっ』とあられもない声を上げる。
「な、何をしている、兼平!」
「しー、先程も声を出さないようにと言ったでしょう。殿は悪い子ですね」
耳元で囁きながら、兼平は手についた乳白濁の液体を義仲の蕾の方へ持っていく。
「本当は洗浄したほうがいいのでしょうが、今日ばかりは仕方がないですね」
月明かりに照らされた二人の身体は淡い光に包まれている。
(やはりどんな義仲も美しく、可愛らしく、愛おしい。今すぐ、俺のものに…)
「少し辛いかもしれませんが、我慢して下さい」
白い液のついた指に力を入れ、ゆっくりと義仲の中へ挿れ進めていく。
「っかね、ひらぁ…」
「頑張って下さい」
半泣きの義仲を慰めるように、兼平は再び義仲に優しく口づけをした。その間も絶え間なく指を出し入れし、解していく。
 初めは嫌がっていた義仲も、段々と快楽に身を委ねることができるようになってきたようだ。甘い吐息と喘ぎ声を漏らし続けている。兼平は、敢えて兼平は一番快楽を感じる場所を避けて解していたが、それを義仲に伝えることはない。
「挿れてもいいですか?」
「あ、あぁ」
緊張しているのか義仲の声は固かったが、初めはあんなにも拒絶していた義仲は兼平を受け入れることに決めたようだ。兼平は、自身を受け入れてくれたことが嬉しかった。
「挿れますよ」
「ん”っ…あ”…あ”ぁ”っっ」
少しずつ、少しずつ押し広げて進めていく。兼平が義仲の尻を撫でれば、ビクッとして、より締まった。
「んっ…」
あまりの締まりの良さに、兼平も抑えきれずに声を出した。
「?兼平…気持ち、いいのか?」
「…もちろん、ですよ」
「それは…よかっ…あ”っ」
ふにゃっと力が抜けたように笑う義仲を、兼平は容赦なく何度も突き上げる。規則正しい破裂音のような音が、夜空の下に響き渡った。
 結局、二人の交尾は夜半まで続いた。兼平は自身の身なりをある程度整えた後、気を失っている義仲を服で包んで、背中と膝裏に手を回して抱き上げると屋敷へ運んだ。
「兄上、随分と帰りが遅かったのだな」
「あぁ、色々立て込んでしまってな」
「…っ!それより、これは義仲か!?まさかあの義仲が怪我をしたと…!?」
「まさか、傷一つ無いよ。ただ、お疲れになっているだけだ。俺が居る限り、義仲には傷一つつけさせない。」
確信に満ちた顔で言う兼平に、巴は安心したようだった。そんな巴の顔を見た兼平は、一呼吸をおいて再び口を開く。
「今夜はもう遅い。義仲を湯に入れたら俺もすぐに寝る。巴も早く休みなさい。」
「そうだな。兄上も、今日は疲れただろうから早く休むように。」
兼平は、門番2人を残して他の家臣はもう休むようにと命令した。そして、人気がなくなったのを確認して義仲と共に風呂に入る。あれを最初で最後にしよう、と兼平は心に決めていたが、無防備な義仲の姿に、その決意はいとも簡単に粉々にされてしまった。陶器のように透き通った白いすべすべの肌を、穢したいという気持ちに苛まれたのだ。
「もう、本当にこれきりにします。だから、此度だけどうぞお許しください」
気を失ったままの義仲に挿れるというのは気が引けたため、挿れることはなかった。
 全裸の元服した男が深夜に二人、風呂場で戯れているなどと誰が想像できたことだろう。待てど暮らせど、誰かが風呂場に様子を見に来る気配はなかった。
(あたたかい…)
兼平は、義仲の体温を感じながら口いっぱいに義仲を頬張っていた。
(あと、一柱香だけだ。これ以上はもう、義仲に手出しはせぬ)
そう決めていたにも変わらず、事の途中で義仲が目覚めてしまった。
「っお前!?何をしている!?」
「おはらだ(お身体)のおひよめ(お清め)の一はん(一環)にございまふ。」
苦しすぎる言い訳…いや、言い訳にもなっていないが、兼平の口からは自然とそのような言葉が発されていた。
「んっ、義仲をいじめて、楽しいか?それよりも、俺の…俺のそれを咥えながら話すな!」
義仲の言葉に、兼平はため息をついて口を離す。とても名残惜しそうに、口づけをして。
「どこがいじめていると言うのです?それと…これで最後にしますから」
兼平は寂しそうに笑った。小さいころから、あまり自身の感情を表に出さない兼平が、珍しくも感情をチラつかせたので、義仲は何も言えなくなってしまう。兼平は、それを義仲の『無言の肯定』だと結論づけて、続きを再開する。ところが、事を続けている内に、義仲は自ら求め始めたのだ。
「もっと…もっとぉ…」
兼平は、そんな義仲の頭を優しく撫でてやる。
(今はただ快楽に身を委ね、ゆっくりと休むといい)


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