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Mastodon オープンソースSNSによる革新

このnoteではクローズドなSNSとして根強いファンを抱えるMastodonについて、今話題を呼んでいる背景に触れながら、その根強い人気の背景を探り、SNSの今後における示唆について述べます。

TRUTH SocialとMastodon

皆さんはTRUTH Socialをご存知でしょうか。TRUTH Socialは今アメリカで話題のSNSで、あらゆる政治思想を持った人々を広く受け入れるSNSを謡ったサービスです。アメリカでは急速に利用者が増えています。なんとこのSNS、立ち上げたのはトランプ前大統領が創業した、トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループが公開したサービスなのです。

トランプ前大統領は2021年1月に起きた議会議事堂襲撃事件を受けて、Twitterなどでアカウントが永久凍結されてしまいました。そうした経緯から、自身でSNSを立ち上げるに至ったとされています。

そして今そのSNSは思わぬ話題を呼んでいます。それはオープンソースのSNSとして知られるMastodonのライセンス違反です。MastodonはオープンソースのSNSで、ライセンスを適用すれば商用利用が可能となっています。しかしTRUTH Socialはソースコードを公開していないなど、ライセンス要件を満たしていないことがMastodonの創業者によって明らかにされました。

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一方でMastodonは2016年にローンチされてから当初は話題を呼び、アカウント数が2017年には40万を超えるなど順調に成長を遂げていましたが、その後SNSに関する法改正により誹謗中傷などの訴訟に伴う開示請求の対応などの強化の必要性が生じたことを受けて、事務負担に対応できないといった理由からサービス停止が決定。2020年6月にはサービスが米ベンチャー企業のSujitech社に譲渡され、現在もサービスそのものは継続されています。

そして、それから1年半近くが経過した2021年の10月にTRUTH Socialのライセンス違反が発覚し、Mastodonは再び脚光を浴びることとなります。

Mastodonとは

Mastodonでユーザーができるとこは基本的にはTwitterなどといった短文を中心としたSNSと大きな違いがありません。使い方も非常にシンプルでTwitterなどを一度でも使ったことのある人なら違和感なく直感的に使うことができます。

一方で他のユーザーとのつながり方においてTwitterなどと従来のSNSとの大きな違いがMastodonにはあります。それはインスタンスという概念がある点です。インスタンスとは仮想マシン、サーバなどと言った意味の持つ言葉ですが、Mastodonのサービスは複数の主体が運営する様々なインスタンスによって構成されており、ユーザーはどのインスタンスに自身が登録するのかを事前に選びます。そしてその自身がログインしたインスタンスにおける投稿は同じインスタンスのユーザーしか閲覧できないという仕組みになっているのです。

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これは誰が自身の投稿を閲覧できるかという点において、従来のTwitterなどのシステムとは大きく異なります。Twitterも公開設定などにより自身の投稿をフォロワーに限定するなど、公開設定が可能な一方、世界中の誰もが閲覧できる投稿が可能になっています。一方でMastodonでは同じインスタンスに登録したユーザーのみ自身の投稿を見ることができるのです。

Mastodonはオープンソースになっていて誰でもソースコードにアクセスが可能です。一定の条件を満たせばインスタンスも誰でも立てることができます。また改変も許されているため、インスタンスが独自の機能を実装していることもあり、そしてそれが時としてMastodon公式の機能として採用され、全インスタンスに実装されるという極めて効果的なオープンソース開発がされていることも知られています。

オープンソースSNSが生み出す価値

ではMastodonはどうでしょうか。Mastodonは分散型SNSを謡っています。これはインスタンスがオープンソースで非中央集権的に立ち上げることが可能なことを指していると解釈できます。一方で、このことはN to Nのコミュニケーションという観点では、まさにこのNの最大値を抑制する要因になりえます。当然一人が複数のインスタンスにユーザー登録することは可能ですが、基本ユーザーは自身の関心のあるインスタンスにしか登録しないため、同じインスタンスに登録したユーザー間でのみやり取りが成立する以上、交流ができるユーザーの絶対数は中央集権的SNSに比べ小さくなります。

このことは各SNSを牽引してきたインフルエンサーなどの存在にとっては致命的となります。集められる注目が限定的であるためです。

このようにMastodonは三大SNSとは一線を画すクローズドなSNSであった一方で、まさにそのクローズドであること自体が、サービスとしてのスケールにおけるボトルネックになってしまっていると考えることができます。

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一方でTRITH Socialとの一件はMastodonの一つの活路を示したとみることができます。それは新興SNSのコードベースとしての活躍です。TRUTH SocialがMastodonを利用したのは少ない工数で確実に稼働するSNSが構築可能だからだと考えられます。これはSNSの開発者の視点では非常に有効なソリューションになります。

また分散型SNSのもたらす価値について考えてみると、むしろこうしたオープンソースのSNSこそ次世代のSNSであるという見方もできます。近年、Facebookをはじめとするテックジャイアントへの批判が強まっています。

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Elon Mask氏はFacebookから自らのある投稿が削除されたことについて「政治的主張でもないし、脅されて自分で消したわけでもない。Facebookは好きになれない。ぞっとするから。あしからず。」とツイートしています。

こうした中央のサーバーでサービスが一元管理されているサービスにおける、運営会社の検閲や投稿内容のコントロールに対して、批判が強まっている文脈があります。こうした企業はユーザーのプライバシーを侵害しユーザーの自由を損なっているという批判が生じているのです。プライバシーに関してはAppleなどデバイスやそのOSを手掛ける企業が機能制限を設けることで対応した例が2021年は見られました。これによりFacebookは大幅に減収しています。一方でFacebookのようなサービスではユーザーが投稿するコンテンツがそのままユーザーが閲覧するコンテンツになります。ユーザーが閲覧するコンテンツのクオリティをいかに担保するかといういわばテックジャイアントとしての社会的責任と、一方でユーザーの自由をどのように担保するのかというジレンマに今まさにFacebookは陥っているとも言えます。

こうした中で新しいSNSの在り方を模索する動きが数年前から見られました。MeWeなどプライバシーや自由を重視したサービスが生まれました。

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一方でそうしたサービスはプライバシーや非検閲性が事業者の約款に依存するというクリティカルなポイントがあります。Proton Mailなどのようにプライバシーを重視するサービスが実は政府機関に情報提供していたという例は後を絶ちません。

いかにユーザーの自由やプライバシーを守るか、その問の一つの答えが分散型SNSです。

Facebookのようなサービスを運営する企業のサーバーが一つのインスタンスとなり、そこにユーザーが参加する方式のSNSは、その運営会社が運営における決定権を持つという意味で中央集権型SNSと言われています。そしてマストドンはまさにオープンソースを実現しており、ユーザーが誰しもサービスを自ら立ち上げることを可能にすることで、その決定権を分散した、分散型SNSということになります。

そうした分散型のSNSとして現在もなおワークし続けている例として、Mastodonはまさに壮大な実装実験的な役割を果たしているという考えることもできます。今後もこうしたオープンソースSNSが、匿名でのコミュニケーションに一石を投じることに期待をしたいと思います。

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