札幌駅周辺ってね、昔は早くにお店が閉まっていたの。今は遅くまで開いている、道民の〇〇様のおかげかもね、そう言いながら、ありふれたショップの前で、私は男の左腕に自分の左腕を絡め、右手で男の前髪を何度も何度も繰り返し撫でていると、男が唐突に「やめろ」と私の手を振り払った。

　男と二人で何度も見たテレビ塔のデジタルの数字は鮮やかに赤く、いつも夜を示していた。思うようには会えなかった。忙しさに時間を奪われていたから。そして、私は気づいていたから。男の嘘に。男の嘘に気づいている自分を持て余した。嘘に気づかぬフリをしながら、少しずつ均衡を欠いていく男を見つめ、どうすることも出来ずに不安に陥った、陥るしかなかった。
　男の嘘。そして周囲がざわめき始めた。私は男を信じていたわけではない。いや、男の言葉など信じてはいなかった。ただ、私は男と居る時の自分を信じた。上手く言えないのがもどかしい。そして付け加えるならば、真実とは何か？そんな事を考えた。言葉は嘘だ。しかし言葉を作り上げる何かは真実ではないのだろうか？事実はない、しかし真実はあるのかもしれない、そんな事をぼんやり思い、結局のところはわからなかった。ただわかるのは、彼と居たかった。同じ時間を同じ空間で過ごしたかった。
　抱き合ったのなど数えられる程度で、ビジネスホテルかラブホテルだった。朝起きて飲むのはコーヒー。ブラックで。そんなことしか知らなかった。どんどん遠くなっていくように見える男。

「何故僕なんだ？」
「好きなの。理由なんてわからない。」

　知識とは時に残酷になる。これほどまでに人を好きになるのには、私に何か理由があるのかもしれない。男と会う度に心がさわめくのは、恋なのか？そう自問自答し、考えすぎよ、そう笑いながら、共依存、そんな言葉に怯え、自問自答をやめられない夜をいくども繰り返していた。疲れを覚える。

　嫌、なんだ。この関係が晒されるのが嫌、なんだ。

　晒される？

　ネットにさ。

「大丈夫よ、」私は笑った。もう晒されているの、とは言えなかった。（参照↓コメント欄　新しい順でお探しあれ）

　愛してる

　幸せなはずなのに、涙が溢れ、男が不機嫌になった。「泣かないでよ、どうすることもできないよ、先週も泣いていた。何があったのかも、どうせ言わないんだろ？」YouTubeから耳慣れた曲が流れる。ワルツフォーデビー。

エバンスが姪を思って書いた曲。
　血が繋がっていればいいのに、そう思った。これから何が起きても、誤解や苦しみに襲われても、血さえ繋がっていればこの曲のような美しさで終焉出来るのに、そう思った。

　窓の外に広がる街の空は暗く、その暗さが私の恋を際立たせる。この人が好き、そう思う。そして欲情する。男が受け止める。

　仕事する度に思い出しちゃうよ。

　思い出して。

　男の耳たぶを軽く噛むと、男が吐き捨てるように言う。今日はさ、4月23日の火曜日の今日、僕は朝から監獄に居たんだ、監獄？そうさ、網走の監獄だ、仕事さ、辛くなったよ、気分が重い、どうしたらいいのかわからなくなるよ、男が言う。「大丈夫よ、」私は男の頬を撫でる。男が立ち上がり私の足を持ち上げ、椅子のキャスターが激しく回転した。椅子ごと壁へと押し付けられ、男が言った。「僕はさ、沢山の人の運命を決める立場にあるのかもしれない。押しつぶされそうだよ。そうだろ？僕はたった一人だ。人は沢山いる。その沢山の人たちの運命を決めるのが僕なのかもきれない。最大多数の最大幸福？漏れる人は不幸でいいのか？どうなんだ？」そう言いながら、男は私のスカートを捲り太ももを撫で、「辛くなるから、もう、何もしたくないんだ、」と呟きながら、スーツのパンツをおろし、膝間づいた。ふとももを這う舌の暖かさに声をあげると涙が零れ落ちる。時雨心地、そんな言葉を思い出した。
　涙が流れ、声が零れ落ち、男の汗がパソコンのモニターの光に反射する。心が震えた。恋など結局は性欲なのだ。私たちは何もかもが違った。上手く行くはずがない。互いに負荷をかけあってしまう、恋を愛には変えられない二人だ。たまたま男の立場が魅力的だっただけだ。私の夢には必要だった。そして、男にとって私は、創価さんとのパイプが魅力的だったのだろう。それだけだ。私たちが共有出来るのは、明るい明日ではなくて、悲しい激しさと静けさしかない、病んでいる人間は、恋に溺れるものだ、そんな思いが頭を駆け巡り、「愛している、

（問題　最も相応しいセリフをお考えください）、なんだ

こんなに強い感情を覚えるのは。僕は、自分は、感情がなくて、ただ人を傍観しているだけだと、そうやって一生を終えると思ってたんだ、」そんな男の言葉も全て嘘だ。「私、貴方が好き。貴方の何かが私の何かを動かすのよ、わかり合える気がするの。私、貴方に自分をわかって欲しくて、言葉が増えるの、そういうの、（問題　最も相応しいセリフをお考えください）」そんな私の言葉も全て嘘なのかもしれない。
　男が私の太ももを掴み、椅子が倒れた。床に腕をついた。軽い痛みが走る。男はそんなことはまるで気にしないかのように、私の腰を掴み中へと入ってきた。「リスクは嫌なの、」と腰を引いても男は掴み引き寄せ、「怖がらないで。愛しているんだ、」と強い口調で言う。「多分、僕の方が愛している。貴方の影に見え隠れする団体は魅惑的だ、」そう言うと私の手を握り、床へと押し付け、口付けた。

　ごめん、どうかしてた、ないんだ、買ってくるよ。

解答