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DAZN値上げ騒動で考える、サブスク型動画配信サービスの強みと弱み

スポーツ動画配信サービス「DAZN」の値上げが発表され、既存ユーザーの方々を中心に物議を醸しているようです。

なにしろ、ながらくデフレが続いている日本ですから、いくら最近は様々なものの値上げが増えているとは言え、現在1925円の月額料金を一気に3000円に値上げするというのはインパクトが大きい発表と言えるでしょう。

さらに、ドコモ経由の「DAZN for docomo」で契約しているユーザーの料金は据え置くという発表もあったり、Jリーグのチームなどが発売している「年間視聴パス」が駆け込みで売り切れが相次ぐなど、様々な波紋が拡がっているようです。

なんといっても、日本はガリガリ君が10円値上げするだけでも、全社員総出でお詫び広告を作るような値上げに敏感な国民性。

ユーザーの視点からすると、納得のいかない値上げに見える方は多いかもしれませんが、今回のDAZNの値上げには、日本でも存在感を増しているサブスク型動画配信サービスの強みと弱みが分かりやすく出ていると思いますので、こちらでまとめておきたいと思います。

Netflixでも相次ぐ値上げ

まず、今回のDAZNの値上げではっきりしたのは、スポーツのような唯一無二のコンテンツを独占配信している動画配信サービスは、値上げに強気になりやすいという点です。

実は、動画配信サービスの値上げというのはDAZNだけが実施しているものではなく、世界に2億人を超える会員がいるNetflixも頻繁に値上げを繰り返していることで有名です。

実際、丁度今月には北米でNetflixが6度目の値上げを実施することが発表されており、当初のサービス提供料から、ほぼ倍の料金体系になるという流れになっています。

料金変更が頻繁にあるためか、Netflixの料金プランを説明する動画には料金の金額は表示されていません。

日本でも2018年8月と2021年2月と二回の値上げが実施され、初期に税抜950円で提供されていたスタンダードプランが、現在は税込1490円とおよそ5割増しの値上げがされています。

Netflixの日本での値上げは、2年半の間を空けて2段階で実施されているので、それほど騒動になった印象はありませんが、トータルで見ると今回のDAZNとそれほど変わらない率の値上げを実施しているわけです。

コンテンツを独占配信していることによる強み

さらにDAZNが値上げを実施するのは日本だけの話ではなく、2019年3月には米国で月額9.99$だった料金プランを、19.99$というほぼ倍という大幅値上げを断行しています。

動画配信サービスがこうした強気の値上げを繰り返すことができるのは、自らのプラットフォームでしか見ることができない独占配信のコンテンツを多数保有しているからです。

当然、DAZN側はその独占状態を創り出すために多額の投資をしています。例えばJリーグが、DAZNマネーと呼ばれる巨額の投資によって、大きな恩恵を受けたのは明確な事実です。

DAZN側としては当然この投資が回収できるように、収益をあげる必要があるわけです。

特に映画やアニメのような複数のプラットフォームでまたがって視聴できるコンテンツと異なり、スポーツコンテンツは視聴できるチャンネルが独占や寡占状態になりがちです。

そうなるとそのスポーツのファンやサポーターは、自分達の応援しているチームの試合を見ようと思ったら、そのチャンネルを契約せざるをえません。

そのため、DAZN側としても、大幅値上げの批判をうけて、一部の契約者が解約したとしても、多くのスポーツファンは値上げを受け入れてくれて、値上げによる収益増のメリットの方が大きくなると判断したということでしょう。
おそらくは、米国における倍の値上げの際のデータなどを参考にしていると思われます。

会員増加が止まると収益増には値上げしかない?

一方で、サブスク型動画配信サービスの弱みと言えるのが、会員数増加のペースが止まると収益を増やすには、値上げしかないという点です。

サブスク型動画配信サービスの収益は、シンプルに会員数×月料金で決まります。会員数が増えている間は良いのですが、会員数の伸びが止まると売上をあげる方法が無くなってしまうのです。

この対極にあるのが課金型のスマホゲームや、マンガの電子書籍です。
特に課金型のスマホゲームでは、ヘビーユーザーが月に数万円、時には数十万、数百万と課金することがあります。

また、YouTubeのような広告が表示される動画配信サービスであれば、動画に広告が表示されればされるほど収益が上がります。

一方、サブスク型動画配信サービスの場合は、どんなヘビーユーザーでも若干高いプランに加入する程度で、支払う金額が10倍や100倍にはならないのです。

日本のDAZNは2016年のサービス開始から継続して赤字だったということですから、おそらくは会員数の伸びの上限がある程度見えた結果、既存会員数を軸に、黒字化のプランを描く必要が出てきた可能性が高いと考えられます。

なにしろ、日本は世界で2億人の会員がいると言われるNetflixですら1年半前にようやく500万人を突破したレベル。

そもそも日本は無料で見られる地上波の番組が充実しているために、世界的にも最も動画の月額有料契約をしない国の1つだと聞いています。

おそらくは、DAZNの当初の計画に比べると、なかなか日本人がスポーツを視聴するために有料契約に踏み切ってくれていないという状態なのではないかと想像されます。

今後、DAZNユーザーの方々が、DAZNに値下げをしてもらいたかったら、現在以上に会員数を急増させてサービス側の利益構造を変化させないといけないとも言えます。
ただ、料金が上がれば当然新規会員が増えるペースは落ちるはずで、非常に難しいビジネス判断とも言えるでしょう。

新しいスポーツファンの入り口をどう作っていくのか

なお、DAZNで配信されているJリーグなどのスポーツチーム側の方々がここで考えておかないといけないのは、DAZNの月額料金が値上がりしていく場合に、どうやって新規のスポーツファンを作っていくかという点です。

昔の野球中継やオリンピックの試合のように、地上波やインターネットで無料である程度試合を見られれば、有料の試合のチケットを購入したり、有料の動画配信サービスを契約する余力がない人達も、そのスポーツの試合やプレイに触れて、新しくファンになる可能性が拡がっていると言えます。

それが、だんだんと有料の動画配信サービスでしか試合が見られなくなり、その料金が今回のように値上がりしていく、となると、どんどんそのスポーツを応援してくれるファンは、頻繁に試合を観戦したり、有料の動画配信サービスを契約できるような金銭的余裕がある既存ファンだけが中心になっていくリスクがあるわけです。

もちろんDAZNの中村社長は「地上波やBSといったメディアとのコラボレーション」にも言及されていたようですし、DAZN JapanではYouTubeやツイッターなどのSNS活用も積極的ですから、そうした取り組みが花開けば話はまた変わってくるかもしれません。

ただ、全てのスポーツやチームがその恩恵を、すぐに得ることができるという話ではない気もします。

現在はコロナ禍でもあり、スタジアムの入場規制とのやりくりが大変な時期でもありますが、まずは自分達のスタジアムでスポーツの楽しさに触れてもらうという基本的なファンの増やし方が、あらためて重要になってくるように感じます。

この記事は2022年1月27日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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