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映画「マトリックス レザレクションズ」で振り返る、この20年間に変わったこと

 マトリックスの最新映画となる「マトリックス レザレクションズ」が公開され、最新の全国映画動員ランキングで1位になるなど、早速様々な話題になっているようです。

映画「マトリックス」と言えば、1999年に公開されて一大ムーブメントを巻き起こした歴史的な映画。

私自身も大きな衝撃を受けたことを良く覚えていますし、赤い薬と青い薬を選択するシーンが、当時所属していた大企業から転職する1つのきっかけになった面があるぐらいです。実際、「マトリックス」は、多くの人に影響を与えた映画と言えるでしょう。

20年という月日を超えて

私のような世代からすると、「マトリックス」はまだ比較的最近の映画という印象がある方も少なくないと思いますが、じつは第一作がでてから20年以上が経過しており、第三作の「マトリックス レボリューションズ」公開からも18年の月日がたっているのです。

そういう意味で、「マトリックス レザレクションズ」を見る際に1つポイントになるのが、この20年間の変化ということは言えるでしょう。

私は、試写の機会に映画を観ることができましたが、この20年間の変化を振り返って、あらためて驚いたのが正直なところ。
できるだけ本筋のネタバレにならない範囲で、そのポイントをご紹介しておきたいと思います。


■マトリックス公開時のキアヌ・リーブスは34歳

当然、最も分かりやすい変化は、出演者の年齢でしょう。
主人公のネオ役のキアヌ・リーブスは、「マトリックス」が公開された時は34歳。そして今回の「マトリックス レザレクションズ」公開時点では57歳になりますから、その変化は一目瞭然です。

ただ、そこはさすがジョン・ウィックなどのアクション映画の主役をはりつづけるキアヌ・リーブス。57歳とは思えない見事なアクションを見せてくれています。

2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

そういう意味で、この記事で注目頂きたいのは年齢以外の変化です。

■電話の時代からスマホの時代へ

まず、映画の展開で、見た目で分かる最大の変化は、通信手段の変化でしょう。
「マトリックス」において重要な役割を果たしていたのが、黒電話や電話ボックスのような有線の固定電話機でした。

映画の中での電話の呼び出し音のシーンが印象に残っている方は多いはずです。

過去三部作の中でも携帯電話は使われてはいましたが、あくまで通話用。
仮想世界であるマトリックスと現実世界を行き来するためには、有線の電話機に辿り着かないといけなかったのです。

なにしろ1999年は、ブロードバンド時代にはほど遠く、ようやくADSL回線が登場したぐらいの時代。
Googleが1998年に設立されたばかりのタイミングで、FacebookやTwitterはもちろん、SNSというコンセプトすらまだ生まれていません。

iPhoneのようなスマホに関しては、まだ影も形も無かった頃です。

それが現在は、スマホで高画質な動画すら見れる時代ですから、全く状況が異なるわけです。
予告編でも明確に「電話ボックスはもう不要」という発言のシーンが紹介されています。

■CG技術の劇的な進化

「マトリックス」は、「バレットタイム」と呼ばれる時間が止まったかのように見える映像表現をはじめとして、最新のCG映像など、映画やゲームの世界に大きなインパクトを与えた作品でした。

それから20年以上がたち、映画の中でのCG活用は普通のことになりました。しかも、いまやゲーム機の中でマトリックスの映画と同じレベルのクオリティの体験が可能になってしまうほど、CG技術が進化してしまいました。

なにしろ、ディープフェイクと呼ばれるようなCG技術によるフェイク動画が問題になる時代ですから、CG活用に対する映画関係者の姿勢は20年前と大きく変わってしまったと言えるでしょう。

「マトリックス レザレクションズ」では、非常に重要なシーンを主演の二人がリスクを取って、あえて実写で撮影したことが話題になっています。

■現実でもAIが脅威に感じられる時代に

さらに20年前と現在で、根本的に変わってしまったのが、「AI」の位置づけです。

「マトリックス」の時代には、AIはまだ夢物語の存在で、映画の中ではAIが誕生したことにより、人間がAIの電池として存在するディストピアが描かれました。

しかし、今やAIはGoogleやFacebookが当然のように活用している普通の技術になっており、しかもFacebookのAIによる広告表示が大統領戦の投票行動や、青少年に悪影響を与えているのではないかと問われている時代に突入しています。

ある意味「マトリックス」の預言に、現実が追いついてしまっているのです。

その関係か、今回の「マトリックス レザレクションズ」の中でも、明確に大手ウェブサービスを批判するセリフが登場します。

■ネットで炎上が頻発する時代に

「マトリックス」は、AIと人間の戦いを描いた映画でした。
ただ、アメリカ社会は、トランプ元大統領の登場により、社会の分断が激しくなったと言われており、ネット上でも対立する人間同士の争いが激しくなってしまったのが現実です。

「マトリックス」の「赤いピル」も、その過程で監督の意図に反する形で使われるようになってしまい、それに対して監督が反論したという有名な逸話があります。

日本でも、いわゆるネット炎上と言われる現象が明らかに起こりやすくなってしまっており、誹謗中傷の問題がなかなか改善されません。

実はネットにおける敵はAIではなく人間なのではないかという、ある意味「マトリックス」よりも、悲しい現実に私たちは直面しているのです。

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その結果、「マトリックス」では、AIは「エージェント」が人間に次々に乗り移る形で主人公を追いかけていたのが、今回の「マトリックス レザレクションズ」では、AIがそれよりも効率的な方法を選択する形で主人公を追いかける形になっているのです。

■コロナ禍の影

この「マトリックスレザレクションズ」は、新型コロナウイルスのパンデミックが発生する直前にアメリカのサンフランシスコで撮影が開始され、その後撮影中断を経て、ドイツのベルリンで撮影が再開されるという経緯があったようです。

当然、新型コロナウイルスは映画の撮影現場に大きな影響を与えたはずで、その影響の片鱗は劇中のシーンにも見ることができます。

予告編として公開されている前述の「トーキョー編」にも、良く見ると車内でマスクをしている人の姿を見ることができます。

「マトリックス」の頃には、こんな未来が来るなんて誰も想像していなかったわけで、ある意味で現実がフィクションを超えてしまっていると感じる瞬間です。

■ウォシャウスキー監督の心境や環境の変化

当然ながら、ラナ・ウォシャウスキー監督の心境や環境の変化も、映画の変化に大きく影響している要素です。

実は、マトリックス続編の制作を、ウォシャウスキー監督は断り続けてきたのだとか。その断り続けてきたマトリックスの続編を、今回ラナ・ウォシャウスキー監督が作ることにしたのは、監督の両親の相次ぐ不幸が影響しているそうです。

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しかも、「マトリックス」公開当時は、ウォシャウスキー「兄弟」だった二人は、その後トランスジェンダーであることをカミングアウトし、現在はウォシャウスキー「姉妹」になっています。

また、マトリックスは元々、トランスジェンダーの物語だったと、リリー・ウォシャウスキー監督が明かしており、「当時、世界や企業社会はまだ用意ができていなかった」と話されています。

実際、トランスジェンダーに対する社会の認識もこの20年で大きく変わったのは間違いありません。

20年の変化を良いものにかえるために

こうやって振り返ると、実はこの20年の間に、インターネットやスマートフォンなどの技術の進歩、そしてそれらにも影響される形での社会の変化は、ある意味では映画「マトリックス」で描かれていた以上に大きい面があることに気がつきます。

この20年の変化は、私たちの生活の何を良くして、何を悪くしたのか。
自分自身は、この変化に対応できているのか。
私たちが変えなければいけないことはなんなのか。
そして、私たちが変えてはいけないものはなんなのか。

映画「マトリックス レザレクションズ」を、そんな自分の未来を考えるきっかけにしてみるのも面白いかもしれません。

この記事は2021年12月26日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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