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ツイッターが今度はDMを有料化。マスクのツイッターはどこに向かうのか。

この記事は2023年7月23日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。

イーロン・マスク氏によるツイッター社の買収から、もうすぐ9か月になろうとしていますが、マスク氏による様々な方針変更は今も続いており、ツイッターユーザーを揺さぶり続けています。

今月1日には一時的な接続制限が実施され、「Twitter終わり」がトレンド入りする事態にもなりましたが、今度は日本時間の7月22日に、無料版におけるツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)の送信件数が制限されるという発表がされ、話題になっています。

表向きの発表では、DMのスパムを減らす取り組みであるという内容になっていますが、テクノエッジの記事でも指摘されているように、スパムを減らす目的であればフォローしていない相手からのDMの数のみを制限すれば良いはず。

無料ユーザーの全てのDMの数を制限するというのは、課金メニューであるTwitter Blueに、DMを頻繁に使いたいユーザーを誘導したいという思惑が透けて見えます。
こうした露骨な課金誘導には、実はツイッターが抱える深刻な財務状況が影響しているのです。

ツイッターの広告収入は未だに5割減

非常に象徴的なのは、先週の段階でマスク氏が、ツイッターの広告収入が昨年比で未だに5割減の状態で、キャッシュフローもまだ赤字であると告白したことです。

これは、メディアに対しての公式な発表ではなく、マスク氏に対して借入の転換の提案をしたツイッターユーザーに対してコメントしたものですので、おそらくは思わず本音が漏れてしまったということでしょう。

ツイッターの広告収入は、マスク氏がツイッターを買収した直後に、40%近く減少したと報道されていました。
ただ、これは主に米国の広告主が、マスク氏の買収によってツイッターの運営方針が大きく変わることを懸念した一時的なものと考えられており、その後マスク氏は広告主は戻ってきていると強気の発言を繰り返していました。

しかし、7月に入り、ニューヨークタイムズが米国におけるツイッターの広告収入は約6割減少しているという内部資料を元にした記事を発表。
実はツイッターに広告主は戻ってきていないどころか、買収直後よりも減っている可能性があることが判明したわけです。

今回のマスク氏のツイートは、結果的にその内部資料のリークを裏付ける結果になったと言えます。


マスク氏がツイッターに背負わせた巨額の借金

イーロン・マスク氏が買収する前のツイッター社の売上は、2021年の通期で50億ドルを超えていました。

ツイッターの収入は9割以上が広告と言われていますので、単純にそれが半減すると現在のツイッターの売上は年間で多く見ても30億ドル程度という計算になります。

マスク氏の発表によるとツイッターのアクティブユーザー数は最高を更新している状態だそうなので、ツイッターの広告収入は明らかにマスク氏の買収の影響で半減したことになります。
マスク氏は自らがツイッターを買収したことによって、ツイッターの企業価値を半減させてしまったわけです。

ここに追い打ちをかけるのが、マスク氏がツイッターを買収する際に実施した130億ドルの借り入れの利息の支払です。

マスク氏は、ツイッターを買収する際に会社を立ち上げ、その会社に借金を付け替えることにより、借入の利息の支払をツイッターの収益から支払う形にしています。
その利息の支払は、なんと年間で10〜15億ドルに上ると言われているのです。
 

ツイッターの課金プランへの明確な傾倒

売上が半減して30億ドル程度になってしまっている状態で10億ドル以上の借金返済も負担したツイッターの財務状況が悲惨な状態なのは、素人でも分かる算数の世界です。
従来であれば売上の50億ドル全額をそのまま費用等に使えたのが、現在は費用に充てられるキャッシュは売上の30億ドルどころか、利息を引いた15〜20億ドルしか無いことになります。

ツイッター社の8000人いた従業員が1000人までリストラされたり、ツイッター社が家賃の支払いを渋ったりというのは、こうした苦しい財務状況が影響しているわけです。

そこで、広告主が戻ってこない状態に業を煮やしたマスク氏が現在注力しているのが、Twitter Blueを中心とする課金プランということなのでしょう。
冷静に分析してみると、最近のツイッターの打ち手は、その全てがTwitter Blueの課金ユーザーを優遇する形で展開されています。

7月初頭に発生したツイッターの閲覧制限騒動でも、課金ユーザーの優遇は露骨でしたし、今回のDMの無料配信数制限も、明らかにその一環の打ち手でしょう。

また、最近話題になったもう一つの発表が、ツイッターユーザーへの広告収入還元施策です。

これは、ツイッターユーザーがリプライに表示される広告からの収入分配が得られるようになるプログラムで、おそらくはメタ社が発表したツイッターのライバルサービスとなるスレッズに影響力があるユーザーが移籍するのを防ぐために、前倒しで実施されたものと想像されます。

この収入分配の対象になるためには、当然ながらTwitter Blueへの登録が必要となっています。
早速マスク氏も、収益還元を売りに課金プランを宣伝していたようです。

また、既に広告収入を受け取ったユーザーの金額が多いことが話題になっていましたが、実はこの金額は5か月分のまとめ払いになっているようで、マスク氏が金額のインパクトを狙ってまとめ払いをした可能性も指摘されています。

当然、資金不足のツイッターにとっては、広告収入分配は資金流出につながる選択肢でもあります。
ただ、あくまで現時点で支払対象となっているのは、一部のインフルエンサーに限られており、ライバルに対抗するための防衛施策と、Twitter Blueの販促施策の両立を狙った施策と考えることが出来るでしょう。


赤字はマスク氏にとっては全然余裕

広告収入の半減が続き、キャッシュフローの赤字が続いているとなると、当然ツイッターの資金不足や倒産が気になる方もおられると思います。

ただ、そこは事情が異なるのが、資産家のマスク氏ならではのポイントです。

起業家としても有名な堀江貴文さんが「イーロン・マスクの資産とキャッシュフローを考えれば全然余裕でしょうね。」と指摘されていたのが印象的です。

売上が25〜30億ドルのツイッターにとっては、130億ドルの借り入れは巨額ですし、年10〜15億ドルの利子返済は非常に重い負担と言えます。

ただ、イーロン・マスク氏の資産総額は、なんと2300億ドルを超えていると言われています。
誤解を恐れずに単純に例えるならば、2300万円の資産を持っている人が、130万円の借金をしている状態です。

しかもマスク氏の資産総額は、ツイッター買収前後こそ、ハイテク株の大幅下落の影響で1600億ドルを下回る推移をしていましたが、現在はまたテスラの株価が持ち直し、一時期は2600億ドル近くまで大きくあがっています。

ツイッターの買収総額が440億ドルだったことを考えると、実はマスク氏の資産総額は、ツイッターの買収当時より、ツイッターの買収総額の倍近く資産が増えている状態とも言えるのです。

現時点では、ある意味マスク氏がツイッターの買収により1円も損をしないように、買収時の借入の利息をツイッターに付け替えている構造になっていますが、マスク氏がその気になれば、いつでも追加の資金注入は可能なわけです。
 

マスク氏によるスーパーアプリへの模索は続く

ツイッターの広告収入の半減が、マスク氏による「言論の自由」を旗頭にした方針変更によるものであることは明白ですので、通常の経営者であれば半減した広告収入を戻すために、当時の方針を見直すことになったはずです。

マスク氏のツイッター上での過激な発言の数々が広告主に不安視をさせているのは間違いありませんから、通常であればそうした発言を控える必要性も感じるはずです。

ただ、上述のように、マスク氏は広告主が戻ってこないからといって、自らの方針を変更する必要はありません。
おそらくはツイッター上での過激な発言を控えて、広告主の機嫌を取ろうとすることも引き続きしないでしょう。

自らの「言論の自由」が制限されることこそが、マスク氏が最も嫌った事態でもあるのです。

マスク氏が目指していることは、メタ社のFacebookやInstagramに取って代われる「スーパーアプリX」を確立することであり、まずはそのためにツイッターの収支を広告と課金を組み合わせてバランスさせるところにあると考えられます。

従来のツイッターは、無料で全ての機能が使えるだけでなく、開発者向けにも無料でAPIが開放されていて、様々な機能や仕組みが無料ユーザーや無償の開発者によっても支えられているという、独特なエコシステムが特徴のサービスだったと言えます。

ただ、マスク氏はもともとハードウェアの世界の経営者ということもあり、無料ユーザーをタダ乗りと捉えている印象が強く、コアユーザーは課金するのが当然と考えているようですから、根本的にサービスの世界観が変わるのは間違いありません。

だからこそ、ザッカーバーグ氏もスレッズ公開後に、2人のスパイダーマンの画像をツイッターに投稿したのだろうと考えられます。

おそらくはマスク氏が目安としている課金率になるまでは、引き続き無料ユーザーと有料ユーザーの間の利便性の差別化が激しく実施されていくと思われます。

今回のDM有料化のようなプランの変更は、引き続き行われていくと覚悟しておいた方が良さそうです。

この記事は2023年7月23日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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