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アイドルVTuber「星街すいせい」は、VTuberとアイドルの定義を根本から変えようとしている

アイドルVTuberとして有名な「星街すいせい」さんの勢いが止まりません。

最も大きな話題になったのは1月20日に日本最大の音楽YouTubeチャンネルとして有名な「THE FIRST TAKE」にVTuberとしてはじめて出演したことでしょう。

この出演では、単にVTuber初というだけでなく、なんと同チャンネルで史上トップの同時視聴数約16万人という記録も同時に達成しています。

さらには1月28日には、自身二度目となるソロワンマンライブを成功したかと思うと、2月1日には再び「THE FIRST TAKE」にて楽曲を披露。

さらに同日、星街すいせいさんの2枚目となるフルアルバム「Specter」は、ビルボードのダウンロードアルバム部門で首位を獲得されています。

こうした活躍の影響で、音楽系メディアでは毎日のように、星街すいせいさんの記事が登場する流れになっているようです。

VTuberが「THE FIRST TAKE」に選ばれる意義

今年の一連の星街すいせいさんの活動の中で、何と言っても特筆すべきなのは、冒頭で紹介した「THE FIRST TAKE」への出演でしょう。

「THE FIRST TAKE」といえば、「演出していないむきだしの格好良さ」にフォーカスし、シンプルな白背景での一発撮りで、一切撮り直しや加工をしないというアプローチが特徴。
YOASOBIの大ヒットのきっかけになるなど、大物アーティストから新人アーティストまで、さまざまなアーティストの歌唱力の証明の場として注目されてきました。

その場にVTuberである星街すいせいさんが出演したというのは、「THE FIRST TAKE」というある意味での音楽業界の権威が、星街すいせいさんのVTuberとしての「ビジュアル」を、加工された偽りのものではなく、本人の真の「ビジュアル」として認めたということでもあります。

しかも「THE FIRST TAKE」側は、今回の星街すいせいさんの出演が話題づくりの一発ものではないことを強調するかのように、2週間後に2回目の出演という異例の短期間での再出演まで実施したわけです。

アイドルVTuberである星街すいせいさんが、ここでは明確に「生身」の1人のアイドルや、アーティストと同じように扱われているわけです。
これは「THE FIRST TAKE」にとってはもちろん、今後のVTuberにとっても大きな変化の一歩だったと言えるでしょう。

VTuberの炎上騒動を乗り越えて

星街すいせいさんは、元々、VTuber界隈ではその圧倒的な歌唱力から非常に人気がある方で、YouTubeチャンネルの登録者数も現時点で175万人を超え、その再生数は4億6千万回を超えているほど。

今回注目された「Stellar Stellar」も、御本人のチャンネルでの再生数は既に2,000万回を超えています。
そういう意味では昔からのファンからすれば、今回の高評価は当然の結果と言えます。

しかし、VTuberというと、頻繁にVTuberの配信に触れている人以外は、少し特殊な存在という印象を持っている人がまだまだ少なくないのが現状でしょう。

特に昨年は、人気VTuberとして有名だった潤羽るしあさんが炎上して契約解除されるなど、VTuberに関するネガティブな騒動が複数発生していました。

そのため、VTuberに対する誹謗中傷も頻発し、傷つくこととなったVTuberも少なくなかったと聞きます。
そんな中で、今年に入っての星街すいせいさんの躍進は、VTuberの社会的位置づけを大きく変える可能性があると考えられます。


アイドルを目指していたからこそのアイドルVTuber

実は、星街すいせいさんは、元々アイドルを目指していたものの、さまざまなアイドルのオーディションに応募しては落ち続けてきた歴史があるそうです。

最終的に、様々なオーディションに落ち続けた結果、落とした事務所を見返すという意地で個人VTuberを始めたそうです。
そんな背景のある星街すいせいさんが、見事にこうやってアイドルVTuberとして大成功されているというのは、非常に重要なポイントです。

現時点では、まだまだ「VTuber」と聞くと、YouTubeの中の特殊な存在という認識を持っている方が少なくないと思います。

ただ、アイドルを目指していた星街すいせいさんは、個人VTuberという発信手段に挑戦することで、結果的にアイドルVTuberとしてファンを増やし、今回「THE FIRST TAKE」に出演するまでのアイドルに上り詰めました。

星街すいせいさんにとって、VTuberはアイドルになるための選択肢の1つでしかなかったということもできるわけです。

素顔を見せないアーティストは珍しくない

実際、冷静に振り返ってみると、いまや顔出しを積極的にしないアーティストは珍しくありません。

象徴的なのは昨年、映画「ONE PIECE FILM RED」で主題歌などを歌って大きな話題となったAdoさんでしょう。

Adoさんも、現時点ではリアルの顔出しを一切されていないため、映画の記念特番で対談をする際には、自らのイラストを代わりに画面に表示するという選択をされています。

従来、素顔を出さないアーティストというのは存在していましたが、どうしても歌番組に出演したりインタビューをする過程で、かぶり物をしたり、上記のAdoさんのようについたての後ろで出演したりというケースが中心でした。

また、普段は顔出しはしていないが、ライブでは素顔が見られるというアーティストも少なくありません。
これは物理的にライブをやるからには、顔を隠すことが難しかったという背景があるでしょう。

ただ、今回星街すいせいさんが扉を開いてくれたように、素顔を出さないアーティストも、VTuberと同様の仕組みを使うという選択肢が出てくることになります。

VTuberであることの方が便利な時代

実際に、映画「ONE PIECE FILM RED」では、映画の中の登場人物である「ウタ」をVTuber的に画面に表示する形で、ライブや配信を実施。

最終的には、ウタが紅白歌合戦にアニメキャラクターとして初めて出演するという歴史を作ることになります。

そう考えると、今回の星街すいせいさんの、「THE FIRST TAKE」出演は、顔出しをしていないアーティストの「THE FIRST TAKE」出演の道を開いたということも言えますし、星街すいせいさんのようなVTuberが紅白歌合戦に出場する未来の道も開いたと言えます。

さらに今後を考えると、実はメタバースなどのバーチャル空間では、生身のアーティストはディスプレイに映像という形で自分を表示することが中心になりますが、VTuberであれば、そのままバーチャル空間に出現することも可能です。

実は生身の人間よりも、VTuberの方が便利で普通という未来すらありえるわけです。

まずは、今回狭い意味での「VTuber」の壁を突き破って、多くの人たちにその可能性を知られた星街すいせいさんが、これからどのように活躍の場を拡げていくのか注目したいと思います。

この記事は2023年2月5日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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