見出し画像

前澤友作氏がFacebookやInstagram上の詐欺広告に公開抗議。なぜ詐欺広告は放置されるのか。

この記事は2024年3月24日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。

ここ数年、ネット広告において明らかに著名人や証券会社などの名前を騙った詐欺広告が増加し、被害が拡大していると言われています。

そんな現状を打破すべく、実業家の前澤友作さんがX上にFacebookやInstagram上での詐欺広告による詐欺被害の通報窓口を開設し、公開で広告の運営元であるMeta社への抗議をされていることが注目されています。

この問題については、数年前から何度も物議を醸しているにもかかわらず、なぜか全く問題が改善しないどころか、状況が悪化している印象すら持たれる方も多いと思います。
なぜ詐欺広告問題は悪化しているのか、問題の構造について考えてみたいと思います。
 

「SNS型投資詐欺」の被害総額は278億円

前澤さんが問題提起をされているのは、詐欺集団が著名人や証券会社などの名前を騙った偽広告をSNS上に掲載し続けているにもかかわらず、FacebookやInstagramなどの広告プラットフォームにおいてそうした広告露出への対策が進んでいないと考えられている点です。

前澤さんがXにも詐欺広告のキャプチャ画像を投稿されているように、多くの詐欺広告は著名人や証券会社の名前を騙り、投資教室や投資情報のLINEグループなどに誘導し、登録した人を詐欺にかけていくようです。

(出典:前澤友作氏 公式Xアカウント)

このキャプチャ画像においても広告の掲載者こそ「Tasha Moreno」という謎の人物の名前ですが、「SBI証券」のロゴがアイコンに利用されており、広告画像は前澤さんの写真です。
そのため、広告の掲載者名をちゃんと確認しない人が、SBI証券と前澤さんによる投資教室と騙されクリックしてしまうわけです。

こうした詐欺広告の問題は、ここ数年業界でもずっと問題視されています。
警察庁の発表によると、この「SNS型投資詐欺」と呼ばれるタイプの詐欺は、すでに2023年の1年間の間に分かっているだけでも2271件、被害額は約278億円に上ると言われます。

しかも、1月の被害が8億6000万円だったのが12月には53億円と9倍以上に急増しているのです。
ではなぜここまで問題が深刻化しているのに根本的な対策がされないのか?

筆者も、業界関係者になぜこうした広告が減らせないのかヒアリングしたことがありますが、構造としては下記の3つがポイントになります。

■ネット広告は誰でも掲載できることを基本としている
■広告チェックがイタチごっこになっている
■外資系企業は日本独自対応が手薄になりがち

1つずつご紹介します。

■ネット広告は誰でも掲載できることを基本としている

従来のテレビ広告や新聞広告などのマスメディアの広告では、広告を掲載する際に掲載企業の審査が行われるため、ある程度の規模の企業や歴史のある企業でなければ広告を掲載することができないのが普通でした。

一方で、Facebook広告のようなネット広告は、従来の広告の常識に対して、個人でも手軽に広告を掲載することができることを一つの特徴として世界中に広く広がりました。

そのため、基本的には携帯電話番号やクレジットカードがあれば比較的簡単に広告を掲載することが可能な構造になっています。
その簡易さが詐欺集団にとって、手軽に詐欺広告を掲載する場所として使われてしまう構造になっているのです。

Meta社のサービスに限らず、最近のXにしてもインプレゾンビと呼ばれるスパムの温床になっていますが、全ての人に機会をあたえ、悪いものはあとからユーザーの通報などで凍結するという性善説を前提としたウェブサービスの構造は、詐欺集団などの最初から悪意を持った集団に対して非常に弱い構造になっているわけです。
 

■広告チェックがイタチごっこになっている

当然、こうした現状をMeta社も放置していたわけではありません。
2022年9月の段階で、Facebook Japanの味澤将宏代表取締役は、AIと人力、そしてユーザー報告を組み合わせて対応を強化している旨を明言されています。

実際に、詐欺広告の増加に伴い、広告を出稿できるアカウントの設定を厳しくしたり、広告アカウントを開設したばかりの広告出稿額の上限が大幅に引き下がるなど、新規に広告を出稿するアカウントの制限を厳しくするなどの対策もされているようです。

ただ、基本的にはMeta社への広告出稿は日々膨大な数が入稿されており、詐欺広告側の手法も複雑化していて、1つずつの細かいチェックは難しいというのが、少なくともMeta社側の主張のようです。

特に詐欺集団側の詐欺広告の手法が、LINEグループなどに誘導した先で詐欺にかけるという形を組んでいることで、広告表現に問題があるわけではなく広告自体を違法なものとして判断しにくいという、Meta社側の広告チェックの抜け穴を突く構造になっているのもポイントだと考えられます。 

少なくとも広告素材自体では詐欺的な要素が見つけにくい構造を、詐欺集団が確立して進化させ続けていて、Meta社側とのイタチごっこになっているわけです。
 

■外資系企業は日本独自対応が手薄になりがち

ただ、前述の前澤さんの画像を使った詐欺広告にみられるように、ちょっと業界の常識に詳しい普通の日本人であれば、アカウントとアイコンと画像の組み合わせをみれば、これが詐欺広告であることは一目瞭然です。

それにもかかわらず、類似の広告が継続的に掲載され続けているのは、おそらくは詐欺広告等への対応や広告チェックをMeta社の本社管理下で行っている点が影響していると考えられます。

特に最近は明らかに問題のある詐欺広告をユーザーが通報しても、Meta社側からガイドラインに違反していない、というフィードバックが戻ってきたという驚くような対応が散見されます。

こうした対応が平然とされるのは、明らかにMeta社側の体制が、日本の現状に対応できていないことの象徴でしょう。

前澤さんは昨年Meta社に問いあわせた結果、9月に送られてきたレターをX上で公開されています。

このレターの中盤に、Facebook JapanはFacebookやIstagramの運営をしておらず、あくまでサービス主幹はMeta社であることが記載されているのがポイントです。

Metaグループにおいては、Facebook Japanはあくまで日本企業に対する営業子会社や広告代理店的な位置づけであり、プラットフォーム上の広告の責任はMeta社になるわけです。
Meta社のプラットフォームの利用者数は世界で40億人近いと言われています。
そのうち日本語のユーザーは1億人もいない状態ですから、当然独自対応の優先度は低くなります。

前述の前澤さんへのレターにも、「AIを使用して詐欺的な広告を自動検出して措置を講ずること、人手によるレビューを加えマニュアル検知とモデレーション機能を強化すること」と、2022年9月の段階の味澤さんの答弁と同じ対策が明記されています。
すでにその発言から1年半が経過して、詐欺被害が拡大していることが何よりの対応不足の証拠です。

おそらくはAIによる検知にしても、人手によるレビューにしても、全世界の広告のチェックをMeta社がどこかのセンターで一括して実施している関係で、日本語独自の対応も少ないと考えられますし、日本の著名人や企業について詳しい人が関わっていない可能性も高いと考えられるわけです。

詐欺集団も、そのMeta社の手薄な対応を見て、日本への詐欺を強化している可能性も高いと創造されます。
 

詐欺広告で利益をあげるのは違法行為の幇助ではないのか

では、Meta社は米国の会社だから、我々日本人はこの状況に我慢を続けなければいけないのでしょうか?

ここで注目したいのは、Meta社が赤字運営なのであればまだしも、直近も広告の収益によって巨額の利益を上げている点です。
何しろ2023年のMeta社の年間利益は前年比69%増の391億ドル(約5兆7000億円)と報道されています。
この5兆円を超える金額は、売上ではなく利益です。

もちろん、日本における広告収入の規模は分かりませんが、ある意味、この利益の中には、「SNS型投資詐欺」にあった2271件、約278億円の詐欺被害にあった方々を誘導した広告の売上も含まれていることになります。

実は米国においては、検察当局が違法薬物の販売を助長し、利益を得ていた疑いについて捜査をしていると報道されています。

堀江貴文さんは、このニュースを受けて日本の東京地検特捜部も同様に、Meta社を詐欺の幇助容疑で捜査するべきだと問題提起をされていましたが、日本国民に約278億円もの被害が出ていることを考えると、日本も当然それぐらいの問題提起や抗議をMeta社にすべき状況になっていると考えられるわけです。

仮に米国の企業だから日本の法律で取り締まることが難しいにしても、Meta社ほどの規模の会社がこれだけの犯罪行為を放置していること自体に、明らかに大きな問題があるはずです。
 

日本国民を詐欺から守る為に

実際問題として、技術的に考えれば、SBI証券のような証券会社のロゴをアカウント名に利用したり、前澤さんや堀江さんのような著名人の顔を広告に使う行為自体は、Meta社ほどの技術力がある会社であれば、希望者に事前にNG素材を設定してもらって検知する等の対策は可能でしょう。

少なくとも日本における広告収入を元に、日本語や日本の著名人や企業に詳しいチェック体制を構築し、現状の放置されている詐欺広告の状況を改善する体制を作るように求めることもできるはずです。

実は先月末には、Meta社CEOのザッカーバーグ氏が日本に訪問し、岸田総理と意見交換をされています。

この場では、残念ながらAIのリスクなどの意見交換が行われたのみだったようですが、本来はこうした場を通じて、日本における詐欺広告問題の改善を要求するようなリクエストをする姿勢が日本の政府側にも求められる状態になっていると感じます。

政治家や行政の方々は、ひょっとするとこうした詐欺広告の問題を一部のインフルエンサーや企業が困っているだけの問題と誤解しているのかもしれませんが、2271件、約278億円もの被害が出ている以上、日本国民の資産が奪われる犯罪行為の片棒を担ぐ行為として、強くMeta社に問題提起をするべき問題です。

もちろん、詐欺広告自体は、詐欺を行う犯罪者が最も問題なのは間違いありません。
Meta社にも、真剣に日本国民に対する違法行為に一緒に立ち向かってもらうために、政治家や行政の方々、そしてメディアの方々にも本気の問題提起を行っていただきたいと思います。

この記事は2024年3月24日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。

なお、今日の雑談部屋「ミライカフェ」では、この辺の話題も皆さんと雑談したいと思っています。
タイミングが合う方は是非ご参加下さい。


ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このブログはブレストのための公開メモみたいなものですが、何かの参考になりましたら、是非ツイッター等でシェアしていただければ幸いです。