Facebookの方針転換は、オープンなSNS時代の終わりか

この記事は2019年3月31日にYahoo!ニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

 今月上旬に、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが、今後はプライバシー重視にシフトすると宣言をして世界的に注目されました。


 日本では、Facebookのプライバシー問題自体がそれほど注目されていないこともあり、あまりメディアでも取り上げられなかったようですが、月間アクティブユーザー数が23億人を超えるとも言われる巨大なプラットフォームの方針転換は、世界のインターネット全体に大きな影響を与えることは間違いありません。

 これまでオープンであることを重視してきたFacebookのマーク・ザッカーバーグの方針転換は様々な議論もよび、プライバシー重視といっても、どうせ政府や社会からの厳しい批判を避けるための方便ではないかという指摘も噴出。

 さらには、今週開催されたAppleの発表会で、Appleが明らかにFacebookやGoogleを意識したプライバシー重視における優位性をアピールした発言をしていたことが注目されるなど、にわかに「プライバシー重視」というのがテクノロジー業界の共通のキーワードに躍り出てきた印象すらあります。

 日本ではFacebookのアクティブユーザー数は2800万人程度といわれており、LINEの7800万人やツイッターの4500万人に比べると影響は少ないと考えられますが、会社員の方にはFacebookが中心の方も多いのではないかと思いますし、Facebookは日本でも急速にユーザーを増やしているインスタグラムの運営会社でもあります。

 そういう意味で、今回のFacebookの方針変更は、少なからず日本にも影響を与えることになるはず。
 実際にFacebookがプライバシー重視にシフトすると何が変わるのか、現時点では細かい点は分かりませんが、我々にどういう影響があるのか、この半月悶々と考えていたことをメモしておきたいと思います。

■オープンなSNSの時代の終わりの始まり

まず1つはっきりしていることは、おそらく今後「オープンなSNS」は徐々に存在感を薄めていくだろうということです。

 これは、ライフハック大全の著者として知られる堀正岳氏が私にツイッターで指摘してくれたことですが。

 これまでオープンなプラットフォームとして運営されてきたFacebookグループが、今回ザッカーバーグCEOにより明確にプライバシー重視のプラットフォームに舵を切ることを宣言したわけで、Facebookやインスタグラムなどのサービスが、よりオープンではなくクローズドになっていくことは間違いないでしょう。

 
 なお、オープンとクローズドという言葉の違いがイメージしにくい方に、シンプルにサンプルを提示するとしたら、日本のネットにおける典型的な比較対象をざっくりあげるとGoogleとLINEでしょうか。

 まず、オープンなウェブサービスのシンボルがGoogleです。

 「ウェブ」は、もともとワールドワイドウェブ(WWW)の略ですが、誰もが見えるオープンなインターネットのホームページ同士で、お互いにリンクを張り合うことにより、文字通り蜘蛛の網のような「ウェブ」を世界中に張り巡らせて拡大してきました。

 Googleはそのリンク構造を解析し、どのページが重要かということを判断するページランクというアルゴリズムを軸に、オープンなウェブの中で重要な情報を発見する検索エンジンのポジションを確立することで、文字通りネット業界の盟主として君臨しているわけです。
 誰でも発信し誰でも探して発見することができるというオープンなウェブは、ネットならではの新しい世界でした。

 
 一方で、クローズドなウェブサービスの例として分かりやすいのが、LINEでしょう。

 もちろん、LINEも一部の機能はAPI経由で外部のパートナーが活用できる要素はありますが、LINEの一番主要な機能であるチャットや通話というコミュニケーション機能は、基本的にクローズドなものです。

 これは従来の電子メールや電話、さらにはそれ以前の郵便のような個人間のコミュニケーションも全て同様で、当然ながら「通信の秘密」という言葉に代表されるように、こうした1対1のコミュニケーションは基本的には非常にプライベートな行為であり、企業が勝手にオープンにすること自体が犯罪行為になりえます。

 だからこそ、ベッキー不倫騒動の際に、LINEのやりとりを公開したことの違法性が議論になるわけです。
 これがブログやツイッターのやり取りであれば当然こういう議論は起こりません。

 そういう意味で、こうしたコミュニケーションインフラ事業社が、事業の本質的にクローズドであることが求められるのは、当然と言えるでしょう。
 インターネット技術によりクローズドなコミュニケーションの選択肢や可能性も大きく拡がりましたが、ある意味、昔からある配送企業や通信会社に近い存在とも言えます。

■Facebookにはオープンとクローズドの両面の事業がある

 このネット上のオープンとクローズドの世界は当然重なり合い、相互につながって影響し合っているのですが。
 事業社の価値観として真逆の存在になりがちです。

 具体的な事例でいうと、GoogleがGmailという本来クローズドであるメールサービスに、広告を導入した際に大きな物議がかもされたのが象徴的でしょう。
 無料でメールを使っているという意味では広告が表示されるのは仕方ないというのは合意できる人が多くても、メールの文章を解析して最適な広告が表示されると言われると、当然多くの人は違和感や不信感を抱くわけです。

 上記の分類で言うと、Facebookというのは、オープンとクローズドの分野の両方に足をかけている事業社と言えます。

 例えば、Facebookのニュースフィードに我々が投稿する文章や写真の開示レベルは、投稿者が選択することができ、世界中の誰でも見ることができるようにすることもできれば、指定した友達だけや、自分だけにすることもできます。

 インスタグラムも、通常の写真は全員が見れる前提ですが、ストーリーズの機能は親しい友人だけに見せることが可能です。
 これらの機能は、オープンなブログの投稿のように使うこともできれば、一部の親しい友人だけのクローズドなコミュニケーションとして使うこともできるのです。
 
 ただ、一方でFacebookの投稿は、Googleなどの検索エンジンでは基本的に発見できないため、通常のウェブに比べるとクローズドな性質も持っています。

 また、さらにはFacebookにはMessengerやWhatsAppのようなLINE同様のメッセンジャーアプリが存在し、インスタグラムにもメッセージ機能があります。

 これらはユーザーからすればクローズドであることが当然のサービス。

 つまりFacebookの場合は、同じサービス、同じグループの中に、オープンであるべきサービスとクローズドであるべきサービスが混在している企業体なわけです。

 そのあたりの混在した企業文化こそが、Facebookが数年前に、一般人からすると信じられないような行為を放置してしまい、大きな騒動になってしまった背景の1つにあるかもしれません。

■クローズドの世界の事業としての重要性が増加中

 ただ、昨今のネット上のトレンドで言うと、誰でも書き込めるオープンなウェブ型のサービスよりも、クローズドなコミュニケーション型のサービスの方が人々の話題の中心にあり、事業としての可能性も大きいと考えている人が多いのが現状です。

 なにしろ、クローズドなコミュニケーション事業というのは、郵便にしても、電話にしても、その時代を代表する巨大産業になります。

 電子メールこそオープンな仕様があったこともあり、ISP事業社の無料オプションとなり複数の事業社が乱立していましたが、メッセンジャーサービスは、現在のところ相互互換性がありませんから、Facebookが世界中のネットユーザーのメッセージングを独占することも夢ではありません。

 中国のWeChatや日本におけるLINEなど、一部の国を除けば、ほぼFacebookグループのMessengerとWhatsAppが各国でトップシェアを取っていると言われています

 中途半端にオープンとクローズドを二股にかけて、メッセンジャー市場を独占するチャンスを失ってしまうぐらいなら、オープン側の市場を諦めてでも、プライバシーを重視する方向に舵を切るのは当然と言えるでしょう。

 これにより、いわゆるオープンなSNSの時代の終わりがはじまったのは間違いない気がします。

■もともとSNSはクローズド型が普通だった

 ただ、個人的にはオープンな「SNS」の時代が終わったからといって、オープンな「ウェブ」の時代が終わると考える必要はないと感じています。

 そもそもでいうと、Facebook以前のSNSは、基本的にはクローズドなものが中心でした。

 SNS、つまり「ソーシャルネットワーキングサービス」の基本的な機能は文字通り社会的なネットワーク構築を可能にするところにあり、初期のSNSは友達とのつながりはもちろん、そのサービスを利用していること自体がGoogleなどの検索経由では見つけられないところにあるのが当然だったのです。

 いわゆる現在のSNSブームの起点はFriendsterやMySpaceというサービスになります。
 オープン型だったMySpaceは別として、Friendsterや初期のFacebook、そして日本でも同時期に誕生したmixiやGREEなどのSNSはそのほとんどが当初は招待制をとっており、投稿内容がオープンになっていないどころか、サービス自体、ユーザーの誰かに招待してもらえなければ使うことができない非常にクローズドなサービスでした。

 SNSは友達とつながってコミュニケーションを取るサービスだったので、クローズドなのが当然なサービスだったのです。

 このSNSの本来クローズドだったはずの性質が、現在のFacebookにおいてオープンなものに変化した1つのシンボル的な出来事はツイッターの登場でしょう。

 ツイッターは、従来のSNSとはことなり、双方向に友人認証をするのではなく、片方向にフォローをしあうという新しいオープンな構造で、「タイムライン」上に友人の発言一覧を時系列に並べる、という新しいお作法をインターネット上に確立しました。

 マーク・ザッカーバーグが、このツイッターの仕組みを気に入り、ツイッター買収を試みたものの失敗。
 代わりにFriendFeedという会社を買収して、今のニュースフィードの機能を確立したのは業界では有名な話です。

 その後、Facebookは3年越しでツイッターをコピーしていき、同様のフォロー機能も実装、クローズドなSNSから、ツイッター同様のオープンなソーシャル「メディア」にシフトしていったわけです。

 そう考えると、ある意味元々クローズドであったSNSが一時的にこの10年はFacebookがオープン志向で存在感を増していたのが、今後はクローズドにまた戻っていく、と考えると、この10年が極端だったという見方もできる気はします。

 ちなみに、余談ですが、日本で先行してユーザーを増やしていたSNSであったmixiが、Facebookの日本市場への本格参入に影響を受け、同じくオープン化を模索したのが当時のトレンドを象徴していると言えます。

 プライベートな交流の場として人気を博していたmixiは、Facebookに対抗すべく「mixiタウン」というパブリックな広場を目指す構想をうちだしたわけですが。

 8年経った今、そのFacebookが「自分達は町の広場を作ることに専念してきたけど、これからはリビングルームを作ることにした」と宣言したというのは、なんとも時代の揺り戻しのような不思議な因縁を感じてしまうのは私だけでしょうか。

■Facebookグループはどこを目指そうとしているのか

 ちなみに、Facebookの歴史を振り返ると、意外にFacebook自身が確立したイノベーションというのは少ないのでは、ということは良く議論される話です

 ただ、マーク・ザッカーバーグは間違いなく先を見る目と、敵になり得るトレンドに早めに気づく第六感のような直感に非常に優れているのは間違いありません。

 だからこそ、インスタグラムやWhatsAppの買収のように、買収当時は高すぎると批判されたような巨額買収を早期に成功させ、ツイッターやSnapChatのように買収できなかった企業の機能は早期にコピーして自らに実装することで、ライバルの勢いを止めることに成功してきています。

 今回のプライバシー重視宣言も、おそらくは彼の第六感が働いたことで、新たに目指すべき方向性が見えているということなのではないかと思います。

 ザッカーバーグの宣言を読む限り、明らかに意識しているのは中国のAlipayとWeChatや日本のLINEのように、メッセージングだけでなく利用者のペイメントなど、ユーザーの新しい「ID」として機能し始めている統合アプリではないかと感じます。

 おそらくは今後、MessengerやWhatsAppが、LINEのように1つのアプリで支払からサービスの登録など、何から何までできるようになっていく可能性が高いように感じます。

 そういう意味では、今後ポイントになるのは、Facebookがプライバシーを重視するという宣言を、ユーザーが信じるかどうかにあると言えるでしょう。
 先日のSXSWでは、スタートアップの祭典であるにもかかわらず、もはやGAFAは信じられないから分割すべきだという議論も現実味を帯びて議論され始めていたようですから、Facebookにとって楽観視はできない状況にあるようです。

 日本でもペイペイやLINEペイなど、キャッシュレス決済の文脈での空中戦が激しくなっていますが、この大騒ぎの先にあるのが、どのプレイヤーが私たちのネットにおける「ID」や行動を管理するのか、という信用の選択の戦いになるはず。

 Facebookを巡る騒動は、海外のあまり関係ない話に聞こえがちかもしれませんが、私たち日本のユーザーもFacebookの行く先は、よくよく注視しておく必要がある気がします。

この記事は2019年3月31日にYahoo!ニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

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ネットコミュニケーションの視点

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