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ザッカーバーグとマスク、ThreadsとTwitterの因縁の対決は、どちらに軍配があがるのか

いよいよメタ社が提供するツイッター対抗アプリの「Threads(スレッズ)」がリリースされ、7時間で1000万人という驚異的なスピードでユーザーを増やし話題を集めています。

しかも、そのペースはその後も衰えるどころか加速しているようで、なんと2日足らずで7000万登録を超えているようです。

もちろん、スレッズはある意味ではユーザーが世界に20億人いるインスタグラムのオプション機能的な位置づけになりますので、ユーザー数が増えるのが早くて当然という見方もできます。
またウェブサービスにおいて最も重要なのは、何人が登録したかではなく、何人がその後使いつづけるか、になりますので、スレッズの本領が試されるのはこれからです。

ただ、7時間で1000万登録というのは、インターネットの歴史を塗り替えるスピード感ですし、ここまでのところ、スレッズのリリースは大成功と言って間違いないでしょう。

マスクとツイッター、ザッカーバーグの過去

当然ながらこれから注目されるのは、ツイッターとスレッズの間でのユーザー獲得競争です。
特に、ツイッターとスレッズの戦いというのは、稀代の起業家であるイーロン・マスク氏とマーク・ザッカーバーグ氏の戦いでもあります。

実はマーク・ザッカーバーグ氏には、ツイッターが人気になりはじめた初期の2008年にツイッターを買収しようと試み、断られた歴史があります。
その後、Facebookは代わりにFriendFeedという会社を買収して、ツイッターのタイムラインの機能を取り入れることになるわけです。

さらに、2018年にはイーロン・マスク氏が、Facebookの個人情報不正利用問題が発覚した際に、先頭に立ってFacebookアカウント削除運動を主導したという因縁の歴史もあります。

実はイーロン・マスク氏が、巨額のツイッター買収に踏み切ったのには、マーク・ザッカーバーグのFacebookやインスタグラムがSNSのリーダーとして君臨している現状を変えたいという思いがあるという見方もあります。

直近では、両者が実際に「ケージマッチ」をしようと、信じられないようなつばぜり合いをSNS上で行っていましたが、マーク・ザッカーバーグ氏とツイッターそしてイーロン・マスク氏の間には、シリコンバレー版仁義なき戦いとでも言うべき、様々な因縁の歴史があるわけです。

両者の代理戦争とも言える、ツイッターとスレッズのユーザー獲得戦争は、今後どういう展開を迎えるのか、ありえるシナリオをここで考えてみましょう。

■1.ツイッターがスレッズを抑え込む
■2.スレッズがツイッターを逆転する
■3.ツイッターとスレッズが独自コミュニティを形成する

おそらく国毎に違うシナリオになるというのが現時点で予想されます。
ここで重要になるのが「ネットワーク効果」とよばれる、そのサービスの利用者の数が機能やサービス内容よりも大きく影響する現象です。

順番に見ていきたいと思います。

■1.ツイッターがスレッズを抑え込む

もし、スレッズのリリースが、マスク氏によるツイッター買収以前であれば、特に日本においてはこのシナリオが最も有力であると答えた人が多かったと思います。

少なくとも現時点ではツイッターとスレッズを比較した場合、スレッズでしか使えないような特筆した機能は見当たらず、ツイッターからわざわざスレッズに移行する理由はそれほど多くありません。
SNS的なサービスは「ネットワーク効果」が最も強烈に働くサービスで、後発のサービスが先行するサービスを逆転するのが難しい分野と考えられています。

(出典:ICT総研 2022年度SNS利用動向に関する調査)

特に日本はツイッターの利用率が国民の半分を超えると言われるほど、世界でも有数のツイッターの人気が高い国ですので、短期的にスレッズがツイッターを逆転するのは難しいと考えるのが普通です。

象徴的な事例と言えるのが、Googleが鳴り物入りで2011年にサービス開始したGoogle+でしょう。
資金的にも技術的にも優位であるはずのGoogleのSNSとして、開始3週間で2000万人のユーザーを集めて話題になりました。
機能的にも様々な新しい機能が実装されていましたが、既存のSNSユーザーが移動する結果にはつながらず最終的には失敗に終わっています。

ツイッターの新CEOのヤッカリーノ氏も、スレッズのリリースを受けて、サービスは真似できてもコミュニティはコピーできないという趣旨のツイートをされています。

ただスレッズは、インスタグラムのフォロー関係を利用することができるため、Google+よりも、はるかに可能性があるポジションにいます。

また、現時点で不確定要素と言えるのが、何と言ってもマスク氏買収後のツイッター側の混乱です。
特に直近の接続制限に関しては、広告出稿に問題が出るにもかかわらず、接続制限を強行したという意味で、ツイッター側のサーバー運用等で何らかの問題が起きているという見方もあります。

今後のツイッターの動向次第では、日本においても必ずしもこのシナリオに収まらない可能性があると言えますし、新CEOのヤッカリーノ氏の真価が問われる展開になりそうです。


■2.スレッズがツイッターを逆転する

逆に、現在ツイッターがそれほど人気がない国でおこる可能性があるのが、スレッズによるツイッターの逆転です。

日本ではツイッターの存在感が非常に大きいため意外に思われるかもしれませんが、世界的にはツイッターはSNSの中では規模が小さい方に分類されます。

このグラフを見て頂ければ一目瞭然ですが、インスタグラムは世界に20億人のユーザーがいるプラットフォーム。
ツイッターは世界で5億5600万人程度といわれており、インスタグラムの3分の1以下の規模。日本のように、ツイッターのユーザー数が、インスタグラムと同規模という国は、世界的には珍しいのです。

そうした国では「ネットワーク効果」は逆にスレッズに有利に働きます。
単純計算で言えば、20億人いるインスタグラムユーザーの3割がスレッズを活用するようになれば、スレッズのユーザー数は6億人となりツイッターを抜くことになります。

つまり、現時点でツイッターユーザーがあまりおらず、インスタグラムやFacebookが圧倒的に強い国においては、スレッズがツイッターを早期にユーザー数で追い抜く可能性は十分ありえると言えるでしょう。

■3.ツイッターとスレッズが独自コミュニティを形成する

また米国のように政治的分断が進んでいる国で起こる可能性が高いのが、このシナリオです。
もともと、イーロン・マスク氏がツイッターを買収する理由の1つとしていたのが、トランプ大統領などのアカウント凍結問題でした。

これは米国においてQアノンとよばれる極右の陰謀論グループなどの投稿を起点とし、議会襲撃事件が発生したことが影響しています。

議会襲撃事件の後、ツイッターなどプラットフォーム各社は、トランプ氏やQアノン系のアカウントを次々に凍結します。
ただ、この動きが共和党寄りの支持者からは、プラットフォーム各社が民主党寄りであると言う印象を与える結果にもなっていたようです。

そこで、イーロン・マスク氏は、そうした判断をプラットフォームが恣意的に行うことに異議を唱え、言論の自由を旗印にツイッター買収後トランプ大統領をはじめとしてそうしたアカウントの凍結を解除。
極右や共和党よりの支持者から拍手喝采を受ける結果となっているわけです。

そうなると、今後は逆に、そうしたツイッターの変化によって居心地が悪くなった民主党寄りのユーザーが、マストドンやNostr、Blueskyなど、ツイッター以外の場所を探してさまよう結果になっていたわけです。

今回、スレッズは明確に、炎上や誹謗中傷対策の強化を売りの一つにしており、マスク氏が舵を切ったツイッターが向かう方向とは、明確に逆に向かうことを示しています。

これにより、共和党寄りの人はツイッターを使い、民主党寄りの人はスレッズを使うというプラットフォームレベルでの棲み分けが進む可能性は十分にあると考えられます。
 

10億人到達が見えるまでスレッズは広告をしない?

ツイッターとスレッズの今後の競争を考える上で、一つ重要なポイントと考えられるのが広告サービスの展開です。

現時点ではFacebookやインスタグラムの広告モデルの印象が強い関係で、スレッズもすぐに広告が多数表示されるサービスになるのではないかと考えているユーザーも少なくないようです。

ただ、スレッズ内でマーク・ザッカーバーグ氏は、ユーザーのそうした疑問に応える形で、「まずはプロダクトに集中し、10億人に到達する道筋が見えたらはじめてマネタイズを考える」という趣旨の発言をしています。

10億人と言えば、今のツイッターのユーザー数の倍近い規模です。

つまりは、スレッズが確実にツイッターを越えられる段階になるまでは、広告展開をしないという発言にも取れます。
これこそは、Facebookやインスタグラムという巨額の収益を生むサービスを抱えているメタ社ならではの戦略と言えるでしょう。

一方のマスク氏のツイッターは、マスク氏がツイッター買収時に調達した借金の利子返済を背負わされた関係で、ツイッター自体で巨額の収益をあげつづけなければいけない十字架を背負っています。

元々のマスク氏のプランは、ツイッターの既存の収益で借金の利子を返済しつつ、スーパーアプリXの開発を進めてFacebookやインスタグラムと戦うというシナリオだったと思われます。
しかし、ここに来てザッカーバーグ氏が、マスク氏の収益源であるツイッター自体に、広告無しのスレッズをぶつけることで、焦土作戦とでもいうべき戦いを仕掛けてきた形にも見えます。

マスク氏としては非常に戦いにくい相手が登場したと言えるでしょう。


外部サービスというネットワーク効果にも注目

また、今後のツイッターとスレッズの戦いを左右する変動要因として重要になってくるのが、外部開発者との連係になると考えられます。

特に日本においてツイッターが長らく不動の人気を誇っていたのは、ツイッターが無料でAPIを個人開発者にも開放し、様々な周辺サービスが充実する展開になっていたことが大きいと考えられています。

この点に関しても、現在のツイッターは、イーロン・マスク氏のツイッター買収後、減少した広告収入を補填するためにAPIを高額な料金体系に変更する形となり、多くの周辺サービスが停止に追い込まれる展開になっています。

そうは言っても、ツイッターだからこそできる、テレビと連動するハッシュタグ企画や、様々な自動投稿やキャンペーンなど、ツイッターがオープンなサービスだからこそ実施可能なツイッターならではの機能や組み合わせというのが、多数存在します。
まだスレッズにはハッシュタグも、キーワード検索機能も、外部向けのAPIも存在しないため、この部分に関しては現時点ではツイッターに一日の長があると言えるでしょう。

こうした外部サービスを含めた「ネットワーク効果」を踏まえれば、特に日本におけるツイッターの影響力は引き続き大きいと考えられるわけです。

また、Facebookやインスタグラムにおいても、メタ社はあまりそこまでAPIのオープン化の姿勢を見せていないため、スレッズがそういう取り組みをまったくしてこない可能性もあります。

ただ、今回のスレッズにおいては、メタ社はあえて分散型の仕組みを取り入れるというアプローチを取ると宣言しているのが注目点です。

そういう意味でスレッズが、従来のツイッターのように様々なAPIを無料で公開する展開になってくると、実はツイッターのコピーであるスレッズの方が従来の本家ツイッターに近いオープンなSNSになる可能性すらあるわけです。
 

本当のツイッターカルチャーの後継者はどちらになるのか

実は、マーク・ザッカーバーグ氏が11年ぶりにツイッターに投稿した、こちらの画像が非常に示唆的です。

これは、2人のスパイダーマンがお互いにお互いを偽物だと指さしている画像です。

本来であれば、ツイッターのコピーであるスレッズの方が偽物と考える人が多いと思いますが、そんなスレッズを開発したマーク・ザッカーバーグ氏が、マスク氏が運営する現在のツイッターの方が今や偽物で、スレッズの方が本物だということを暗に指摘しているようにも読み取れます。

実際にツイッターのリブランディングプロジェクトに携わった渡辺氏の記事を読むと、従来のツイッターの文化が、現在のマスク氏の方針と真逆であったことが良く分かります。

そういう意味で、実際にどちらが偽物のツイッターなのか、本当のツイッターの後継者なのかと聞けば、ユーザーの間でも議論がかなり分かれるのかもしれません。

もちろん、今後の両者の戦いがどのような展開になるのかは、両者のこれからの打つ手次第ですし、最終的にはユーザーの選択にかかっています。

ただ、少なくとも長らくあまり動きがなかったツイッター的サービスの分野に、スレッズという強力なライバルが登場し、この分野に大きな変化が起きることは間違いなさそうです。

この記事は2023年7月7日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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