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ネット上の論争で加害者にも被害者にもならないために、SNSで注意すべきポイント

ここ一週間、オリンピック開催の是非に関する議論が激しくなっていることもあり、スポーツ選手に対しても様々なネガティブなコミュニケーションの風当たりが強くなってしまっているようです。

象徴的なのは、週末に池江璃花子選手が、ツイッターで、『Instagramのダイレクトメッセージ、Twitterのリプライに「辞退してほしい」「反対に声をあげてほしい」などのコメントが寄せられている事を知りました』と、難しい心境を吐露したことでしょう。

これをきっかけに、さまざまなアスリートもオリンピックに対する意見を表明し、週が明けた今でも様々な反響が拡がっています。

該当の池江璃花子選手のツイートには、大きな反響があったこともあり多数の反応があったようですが、東京大学の鳥海教授の分析によると、残念ながら池江璃花子選手の連投ツイートの思いが伝わらず、いまだに誹謗中傷にあたるリプライを投稿しているアカウントが少なからず存在するようです。

その後、池江璃花子選手はツイッターを更新していませんが、本来新型コロナウイルスや、それに対する政治や行政、五輪組織委員会の対応の問題であることに、アスリート個人がこのような真情を吐露しなければいけない状況に追い込まれてしまったというのは、本当に悲しい異常事態と言うことができるでしょう。

日常的に繰り返されている誹謗中傷行為

先週はさらに残念なことに、NBAのウィザーズの八村塁選手の弟である東海大の八村阿蓮選手が、インスタグラムのDMに来ていた人種差別メッセージを公開して大きな注目を集めました。


このメッセージには、「死ね」という言葉とともに差別的な言葉が綴られており、明らかに悪意の固まりの行為と言えます。

このアカウントは既に削除されており、本人が反省しているかも不明ですが、こういった匿名での誹謗中傷や罵倒行為を実施する人はその罪の重さを自覚しておらず、自分のストレス発散の延長や、ねじ曲がった正義感の表現として実施されていることが多いと言われています。

さらに悲しいのは、この投稿に対して兄の八村塁選手が「こんなの、毎日の様にくるよ」とコメントされていたことでしょう。


本来あってはいけない差別投稿が、あまりに普通になってしまっていて、さらすことすら諦めているという現実が、この投稿からも伝わってきます。

悲劇を繰り返さないために

八村選手への差別メッセージはかなり悪質なケースと仮定したとしても、現在は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の影響もあり、多くの方々に様々なストレスがたまっている状況です。
その怒りをどこかにぶつけたくなった結果、そうしたエネルギーの一部が、池江璃花子選手のようなアスリートの方々のSNSに向かってしまっていることは本当に残念な状況だと言えます。

昨年の緊急事態宣言下でおこった木村花さんの悲劇から1年が経とうとしています。
木村花さんの悲劇においても、緊急事態宣言下でのストレスが、番組放送のタイミングでSNSを通じて木村花さんに集中したことが、1つの大きな要因であると考えられています。

あのような悲劇を、私たちは絶対に繰り返してはいけません。

木村花さんへの誹謗中傷を巡る訴訟のように、ストレス発散での誹謗中傷行為は、現在日本においても明確に処罰されるケースが増えてきています。

実は、この話は、今この記事を読んでいる皆さんにとっても他人事ではありません。

皆さん自身も、何かのはずみについカッとなって投稿したコメントが、相手を傷つけて同様に訴訟されたり、加害者として晒されることになるリスクがあります。
また、何かの拍子に池江璃花子選手のように、新型コロナウイルスや五輪の鬱憤のエネルギーの矛先としての被害者になってしまうこともありえます。

同じような悲劇やトラブルを減らすために、私たちに何ができるのか。

今回、無意識に加害者になりがちな方向けと、無意識に被害者になりがちな方向け両方に、そうしたトラブルを避けるためのポイントを、2つずつまとめてみました。
参考にしていただければ幸いです。

加害者にならないためのポイント

まず、無意識にSNSで加害者にならないためにポイントとなるのは下記の2つです。

■その「投稿」は、相手に面と向かって言える言葉か確認しましょう
■著名人であっても「人間」であることを忘れない

■その「投稿」は、相手に面と向かって言える言葉か確認しましょう

有名人のSNSにコメントする行為は、ついSNS上の「投稿」と同じ文脈でされがちです。
通常の「投稿」であれば、あくまで自分のフォロワーに対する発信になりますが、有名人のSNSへのコメントは、相手への直接の発言として相手に伝わります。

特にSNSを匿名で使っていると、ついつい普段であれば人前でしないような激しい言葉使いで文章を書いてしまいがちです。

まず、あなたの書いた「投稿」の文章が、相手が目の前に立っている状態で直接相手に言葉で伝えられる文章かどうかを確認しましょう。

特に、インスタのストーリーのコメントは気軽に投稿者にコミュニケーションを取ることができる機能ですが、実際には受け取る側にはメッセージとして受信箱に届きます。
海外ではストーリーのコメントが晒されて大炎上した事例もありますので、気をつけて下さい。


■著名人であっても「人間」であることを忘れない

多くのケースにおいて、著名人のSNSへの投稿をされる人の感覚は、テレビ番組を見ながらテレビ画面に向けてつい「バカじゃないの」と言ってしまう感覚に近いケースがあるようです。

相手が著名人であればあるほど、テレビ画面の向こうにいる架空の存在として、より言葉が強くなる人が多いようです。
ただ、テレビに向けて発言した罵倒であれば相手に届くことはありませんが、SNSでの「投稿」はそのまま相手に届いてしまいます。

特に、著名人のアカウントのコメント欄は、匿名掲示板さながらの大量のスレッドになることがありますので、つい相手がいることを忘れてキツイ言葉でコメントしがちです。
著名人なら、マネージャーや事務所が守ってくれたり、忙しくてそんな個別のコメントを確認したりしないだろうと思ったら大間違いです。

いくら相手が著名人であっても、スマホを通じてSNSの投稿を見れば、著名人であってもその言葉はあくまで人間である「個人」に直接届いてしまいます。
人間ですから当然傷つきますし、怒って反撃してくるケースもあって当然です。

くどいようですが、1つ前に書いたように、その言葉がその人の目の前で言える言葉か考えて下さい。

被害者にならないためのポイント

次に、SNS上で誹謗中傷の被害者にならないために、ポイントとなるのは下記の2つです。

■1つ1つのネガティブなコメントだけに目を向けないでください
■コメントやメッセージを受けつける機能を一旦止めましょう

■1つ1つのネガティブなコメントだけに目を向けないでください

1度非難の矛先が自分に向くと、個人からすると驚くようなネガティブなコメントが届いてしまうことがあると思います。
ただ、一般の方向けに書いたことの裏返しで、多くの人からするとSNS上の投稿は、テレビを見ながら文句を言うのに近い「王様の耳はロバの耳」的な行為で、返事が来ることを期待していないものがほとんどです。

ネットでは良く「スルー力(するーりょく)が大事」といわれますが、1つ1つのコメントに傷ついたり、カッとなって反論するのは、もったいないですしリスクが高い行為でもあります。

100人中100人全員が賛成してくれる話というのは実は世の中にはほとんどありません。
残念ながら、人間のコミュニケーションにおいて、何かしら発信した際に、一部の人からネガティブな反応が来てしまうのは仕方がないことだと思って下さい。

八村阿蓮選手が自分に対する差別メッセージを公開したのは、本当に勇気が必要な行為だったと思いますし、多くの人に日本の現実を理解してもらう上で必要な投稿だったとは思います。
ただ、こういう差別メッセージを送信する人は、こうしたさらし行為を逆恨みしたり、場合によっては模倣犯が増えてしまうケースもありますので、細心の注意が必要です。

本当に深刻なものは、弁護士や警察などしかるべき期間に相談するようにしましょう。

■コメントやメッセージを受けつける機能を一旦止めましょう

もし、ネガティブなリアクションに耐えられないと感じるときは、素直にSNSのリアクション機能を止めることをお勧めします。

例えばツイッターは、ツイートする際に返信できるアカウントを「全員が返信できます」という状態から「フォローしているアカウント」のみや「@ツイートしたアカウントのみ」に制限することができます。
これで投稿すれば少なくとも自分の投稿に対して、ネガティブなリプライが大量につくという状態は避けることができます。

インスタグラムでも、投稿に対するコメントをオフにすることができますし、ストーリーズに返信できる人も「すべての人」「フォロー中の人」「オフ」と変更することができます。

ダイレクトメッセージについても、ツイッターではダイレクトメッセージを受け取る相手を、フォローしている人だけに制限することができます。
インスタグラムでは、フォローしていない人からもダイレクトメッセージは届いてしまいますが、一時的にリクエストを見ないようにしたり、通知をオフにすることで、ある程度の制限は可能です。

https://help.twitter.com/ja/a-safer-twitter

もちろんこうした制限をかけすぎてしまうと、せっかくのファンとの双方向のコミュニケーションが難しくなってしまいますが、精神論だけでは対応が難しいと感じたら迷わず設定を変更するようにしましょう。

本当の敵は誰なのか

実際に東京五輪が開催できるのかどうかは、部外者の我々には正直よく分からない状態になってしまいましたが、本来平和の祭典であり、復興の象徴になるはずだったオリンピックが、日本を分断して罵倒しあうテーマになってしまったのは本当に残念な事態と言えます。

残念ながら新型コロナウイルスは、1年以上にわたって私たちの行動を制約し、多くの人を苦しめて、多数の死者を出しただけでなく、私たちの精神を徐々にむしばんで、人間同士を罵倒させあい、争わせることにも成功してしまっているようです。

本当の敵は、オリンピック推進派でもなく、オリンピック否定派でもなく、私たちの接触を阻害し、三密をできない原因となっている新型コロナウイルスです。

デジタルのSNSは、そうしたコロナ感染のリスクを冒さずに人間のコミュニケーションを継続することができる便利なツールでもあります。

そのSNSを同じ人間に対する凶器として利用してしまうのは、明らかに使い方が間違っています。
SNSの力を、アスリートや他の人を傷つけるために使うのではなく、お互いを鼓舞し、応援するために使ってくださると幸いです。

この記事は、2021年5月13日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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