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「漫画村」騒動で問われる、日本のネット広告業界の倫理基準

この記事は2018年4月23日にDIGIDAYに寄稿した記事の転載です。

ここ数週間、漫画村に関連する話題がメディアやネットで騒がれていますが、DIGIDAY読者のマーケティング業界、広告業界の皆さんは目を通されていますでしょうか?

漫画村とは、主に違法コピーされた漫画などの書籍を無料で読めるようにしてしまっているサイト。類似のサービスとして、Miomio、Anitubeなどがあり、まとめて海賊版サイトや、海賊版漫画ビューアサイトなどと呼ばれているようです。

漫画村の違法コピーが問題ではないかという議論は、実は昨年からネット業界の一部ではおおいに話題になっていました。
なにしろ今年の1月にはSimilarWebの利用者数のデータでlivedoorなどの大手サイトを抜いたほど。

そのため、今年の2月には衆院予算委員会でも取り上げられ、漫画家の交流団体がアクセスしないように求める声明を発表するなど、今年に入って一気にその悪影響が注目されるようになってきたサイトです。

そもそも、コンテンツの違法コピーの問題は、一昨年の医療メディアWELQを起点とする一連のコピペメディア騒動の際におおいに注目を集めたため、業界全体でのコピーに対する違法性が認識され、ある程度業界は健全化されたと言われています。

そういう意味では、今回の漫画村も本来なら普通に著作権者が訴訟をして、サイト閉鎖に追い込めば良いのにと思う方も多いでしょう。

ただ、残念ながら漫画村に関しては、著作権が保護されない国のサーバーを使い、CDNサービスを使って運営元が分かりにくくするなど、非常に巧妙な手段で日本の法律による追及を逃れる構造にしているため、なかなか閉鎖に追い込むことができずに徐々に話題を集めるようになったというのが実情です。

さらに、ここ数週間で一気に議論が沸騰したのが、政府からインターネットプロバイダに対する海賊サイトへのブロッキング要請です。
 
海賊サイトが問題だから、そのサイトへのアクセスをブロックするように要請するというのは、一見正しそうに見えますが、実はそこには憲法が禁止する検閲にあたる恐れがあるという別の軸から見た大きな問題があり、ネット側の有識者がこぞって政府や出版社に対して問題提起をし、この話題が大きく注目を集めるようになったのです。

ここまでの話を聞くと、出版業界以外の広告業界の方々や広告主の方は、自分に関係ない話だな、と思われる方が多いかもしれません。
ただ、実は非常に大きく関わってくる話なのです。

そもそも、漫画村のような海賊サイトがさまざまな追及の手を逃れてもイタチごっこで運営されつづけてしまうひとつの要因に「ネット広告」があります。
 
違法な手段でも何でもとにかく大量のページビューやアクセスを集めることができれば、それをネット広告を通じて換金できることができれば、収益をあげられる、という思考回路は、コピペメディア騒動の際におおいに問題になり、類似の手法をとっていた大手企業のネットメディアは軒並み方向転換を余儀なくされました。

ただ、残念ながら、漫画村のように違法行為と分かっていても、そのリスクを取ってでも、広告収入での一攫千金を狙う会社というのは後をたちません。

ここで特に問題になるのは、ネット広告の仕組みや、それを販売する広告代理店、そしてそこに広告を出稿している広告主が、その海賊版サイトの共犯者になってしまうことが起こっているという点です。

あくまで一番悪いのは、違法行為を違法行為と確信犯で実施している海賊サイトですが、それを知りつつ広告の仕組みを提供したり、広告を出稿している広告代理店や広告主を批判する流れが明確にネットでは生まれています。

今回の漫画村騒動においても、ネット上の有識者や、ブログ、ITmediaなどのメディアの追及により、実際に漫画村などの海賊サイトに広告システムを提供していたり、広告を出稿していた広告代理店や広告主に批判が集まり、一部企業が釈明リリースを出す展開になっているのです。

ここで、DIGIDAY読者の皆さんが注意しなければいけないのは、自分たちが出稿先として違法サイトがあると知らなかったとしても、もはやネットユーザーの視点からすれば、広告が出稿されている時点で確信犯にしか見えなくなりつつあるという点です。

実際に、一部ブログでは「広告業界」が海賊版サイトと完全にグルである、と業界全体がこうした違法行為を許容しているのではないかという問題提起がされていました。

個人的に問題だと感じるのは、まだまだ多くの広告主や広告代理店の方々がこうしたニュースに無頓着な点です。

今回の騒動においても、最終的には広告主にもメディアが直接取材をする展開となり、DMM.comの片桐社長は「DMMの予算規模からみると広告費は小さい額であり、媒体まで全てチェックしきれておらず、気がつくのに遅れたことは、社長としての自分の責任です」というコメントを出されていました。

小さい額にもかかわらず、こうやって共犯者のようにメディアに取り上げられてしまうというのは、広告主にとっても、広告代理店にとっても、広告業界にとっても、非常にもったいない出来事と言えるはずです。


実はWELQ騒動の際にも、同じ問題が発生しました。
DeNAの一連のメディア群における確信犯的なコピペ作業が明確になったときに、ユーザーの怒りはDeNAだけでなく、DeNAのメディア群に出稿していた広告主にも向かったのです

今回の漫画村を起点とする一連の騒動を見ている限り、ネット広告業界全体で見ると、WELQ騒動で明確になった違法性の高いサイトに広告を出稿することのリスクというものを、まだまだ真剣に捉えていない広告主や広告代理店の方が多いように感じてしまいます。

さらに驚くのは、今回の漫画村騒動が2月頃から違法性が大きな話題になりはじめていたにもかかわらず、4月の段階でもまだ広告主の意思に反して広告が出続けていたというケースがある点です。

たとえば4月21日には、ねとらぼが16日の段階で海賊サイトに広告が表示されていた大手企業への問い合わせをおこなっています。

広告主側の言い分を聞く限り、代理店やアフィリエイターが勝手に広告を配信していたということのようですが、サイト上でこの企業の広告を見たユーザーの多くがまったく異なる印象を持っていたことは間違いないでしょう。

ネット広告業界に詳しい方からすると、今回騒動になっているような広告アドネットワークや広告代理店には、そもそも大手企業が利用するのはリスクが高いような企業も多く含まれたようですので、実際には今回の騒動が結果的にはまったく他人事という企業が多い面もあるようです。

しかし、結果的にはネット広告業界全体が、一部のネットユーザーから海賊サイトの共犯者とみられているのは非常に残念な事態と言えますし、ネット広告業界全体でこうしたサイトへの広告出稿が不適切であることを啓発する必要もあるように感じます。
 
もし、今日に至るまで、漫画村騒動を他人事と思ってしまっている広告業界の方々がおられるようでしたら、是非いま一度あらためて自分たちの広告やサービスが、犯罪企業を支援する結果になっていたり、そういった事態に巻き込まれやすい仕組みになっていないか、見直してみて頂ければ幸いです。

この記事は2018年4月23日にDIGIDAYに寄稿した記事の転載です。


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