2018年を振り返る。「カメラを止めるな」が投げかける映像業界への問題提起

「カメとめ」で思ったこと

今年の話題の映画「カメラを止めるな」について考えておきたいと思います。
映像制作の世界に長く身を置く一人として、ある種、楽屋落ちになりそうなテーマを爽快なエンターテインメントに仕上げていることに、正直素直な喜びを感じました。
最初の30分の「ワンカットゾンビ映画」を、残りの時間を使って丁寧に回収していく手法はコメディとして消化することで秀逸な読後感を感じさせることに成功しています。

映像業界あるあるも秀逸

細かなところを見ていくと、キャラクターごとの設定や、キャスティングも絶妙でした。
いかにも助監督や、記録さんっぽい女性が配されていて、リアルな映像業界の「あるある」も出しつつ、それだけに終わらない人間ドラマも入れ込むあたり、「うまいなあ」と思わず溜飲を下げました。
そして、僕と同じ立場でもあるような「監督」さんの描かれ方。
「早い・安い・質はそこそこ」と名指しで起用される受託仕事の悲哀。
それはまた、日本の映像産業の現実を示しているようにも思われました。

やはりこれだけヒットをした背景には、構成、キャラクター、脚本もさることながら、本質である悲喜劇の要素を多分に入れ込んでいる、そのスタンダードな構造があるのではないでしょうか?

予算との対比などがよく語られますが、フィクションの楽しさの本質がそこにはあったのだと思います。
「カメラを止めるな」のような作品が、きちんと評価をされて、収益を上げられることは大変嬉しいですし、こういう形でどんどん作品が出てくるのが理想かもしれません。

バイラルで広がって大ヒットに

少し目線を変えてマーケティング的な要素でこの作品を考えると、ソーシャル時代のヒット作だという認識を持っています。
それはバイラルしやすい構造を持った作品と言えるからです。
バイラルとは、口コミでじわじわと拡散していく様ですが、まさにこの映画はそれに当てはまります。フェイスブックやツイッターだけでなく、様々なSNSが増幅装置として機能することで素早いヒットにつながり、その観客がより一層ヒットを促していく。現代の口コミ力を見せつけられた作品かもしれません。

少し旧聞に属するかもしれませんが、松嶋菜々子さん主演でブレイクした「家政婦のミタ」が盛り上がった時のことを思い出しました。

あの作品は最終回40%以上の高視聴率を獲得し、伝説にもなりましたが、その風速のスピードこそがSNS時代のコンテンツヒットを生み出すポイントになった作品だと思っています。


この映画は、もしかしたら我々のような映像業界の人間が「面白いね」で終わってしまうクローズドなコンテンツだとも思うのです。それが、あっという間にバイラルで拡散していったことは、自分の仕事でも大変参考になる事象だと感じています。

現在の映画界への希望でもある

映画産業に限らず、テレビ業界も同じだと思うのですが、収益の見込めそうな一部のコンテンツや人物に依存して興行が成り立つような体質に対する一つの大きな課題のようにも思ったのです。
ある程度集客力のある男優・女優を使った作品がその典型でしょうか。それによってある一定以上の保険をかけて興行収入が得られる構造は、比較的安価に作られる恋愛映画が多発していることでも理解できます。
ですが、それだけではやはり飽きられてしまいますし、もうその兆候は現れているように思うのです。また、映画産業がそうした映画によって下支えされていることも、また一面の真実なので、「カメラを止めるな!」のような映画が新しい鉱脈として育っていくと、日本の映像産業にとっても楽しみにな未来を感じられるのですが。

僕の周りでは「ブレアウィッチプロジェクト」に似ているという人もいましたが、手法としての斬新さではなく、映画という劇場空間に閉じ込められることで、「フリ」から「オチ」を最後まで楽しめる、映画的、そして映画愛に満ち満ちた作品であったのではないかというのが僕の偽らざる心境です。


コンテンツプロデューサーの三枝孝臣です。メディアの現在と未来を僕なりの視点で語ります。ベンチャー企業経営者としての日々についても綴って行きます。