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「中平卓馬 火―氾濫」

こんにちは、路上写真家のTokyo Street PIX/TPIXです。

東京国立近代美術館で開催中の「中平卓馬 火―氾濫」を観てきました。

https://www.momat.go.jp/exhibitions/556

実は今回2回目です。

1回目も、じっくり観たのですが、写真の"圧"が凄すぎて、ちょっと疲れてしまったのが正直なところです。

すごい人が撮った写真というのは、一見普通に見える写真でも、見ている側に強力なパワーを送り込んでくるものです。

中平、森山大道と出会う

【参考出品】森山大道 にっぽん劇場【no.52】 東京国立近代美術館蔵

元々、左翼系雑誌『現代の眼』の編集者をしていた中平は、写真家の東松照明と知り合います。

東松照明は、かつて写真家集団「VIVO」で行動を共にしていた細江英公の弟子である森山大道を中平に紹介します。場所は新宿のジャズ喫茶のアカシア。

中平が森山と知り合った時点で、中平の運命は大きく変わります。編集者から写真家へ

当初、森山からバケツを使った現像方法を教わった影響から、コントラストの強い写真が多めです。しかし、お互い仕事のない若い2人は、ほぼ毎日一緒に過ごし、長者ヶ崎の岩の上、逗子の喫茶店「珠屋洋菓子店」で、結果的に次の時代を作る下地を固めていきます。

上の写真は、森山大道デビュー作に収録されている、貴重な中平の撮影風景です。

雑誌媒体

「作品‘68:街」『美術手帖 写真いま、ここに-』 1968年12月号増刊、美術出版社 個人蔵
「イメージ・ニッポン68:みんなバラバラ」『アサヒグラフ』1968年1月12日号、朝日新聞社 個人蔵

中平の初期の作品のほとんどは、雑誌で発表されるものでした。

元々リベラル寄りの中平は、社会問題と絡めた写真も多く発表しています。夜に撮影された写真が多く、中平自身または他人のルポライターが書いた記事とセットで掲載される写真は、明るい未来を全く感じさせないような混沌とした世界観を表現しています。

寺山修司『あゝ荒野』(表紙写真:森山大道) 現代評論社 個人蔵

寺山修司の『あゝ荒野』の表紙で、中平は主人公の「建二」役で撮影に参加した(左手のサングラス)。撮影は森山大道。

伝説のプロヴォーク

「無題」『Provoke』3号、1969年8月、プロヴォーク社 東京国立近代美術館蔵
『Provoke』1号、1968年11月、『Provoke』2号、1969年3月、『Provoke』3号、1968年8月、プロヴォーク社 東京国立近代美術館蔵
多木浩二・中平卓馬共著『まずたしからしさの世界をすてろ-写真と言語の思想』 田畑書店 個人蔵

1968年11月、中平は美術評論家・多木浩二らと共に同人誌『provoke」を発刊します。今や日本の写真史にとって外すことはできない伝説の写真集です。当時はそれほど売れたわけではないらしく部数も少ないことからプレミアム価格で取引されていましたが、数年前に復刻版が発売されました。

ちなみに、provoke2号より森山大道が参加し、「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれた写真で賛否を巻き起こし、それまでの写真の価値観を見事に打ち砕きました。

都市、植物図鑑、島

『なぜ、植物図鑑か 中平卓馬映像論集』晶文社 個人蔵

しかし、その後中平は自著『なぜ、植物図鑑か』で、過去の作品を否定してコントラストの強かった写真はと決別し、あるがままの世界と向き合うべく方向性を転換しました。

図鑑のように、見たままの状態でカメラに収める作品が多くなり、この頃からはカラーの作品も増えていくようになります。

氾濫【2018年のモダンプリント、48点組】 中平元氏蔵

この頃から、東京、神奈川を中心とした活動範囲から、沖縄やトカラ列島など南方へ撮影拠点を移します。この地域の風土、風俗を写すことで、日本が戦後社会から脱せず、社会全体に蔓延る、影のある"何か"を問いただします。

アルコールと記憶障害

1977年、急性アルコール中毒で倒れた中平は、記憶障害という後遺症と戦いながら、少しづつ写真家としての活動を再開させます。

自宅周辺での撮影を重ねながら、その後タテ構図のカラー写真が中平の定番スタイルとなります。今見ると、まるでスマホのカメラで撮ったかのようなタテ構図ですが、ただ、そこにあるものが、ある意味無機質に存在するだけです。

親友でありライバルだった森山大道

森山は、自身のドキュメンタリー映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』の中で、本当に親友と呼べるのは中平だけだったと語っています。

森山大道[中平卓馬ポートレイト]【お別れの会(2015年)で配られたプリント】 個人蔵

この写真は、森山が撮影したもので、中平のお別れの会で配られたものだそうです。

以下、中平の書籍や作品群の展示風景

篠山紀信・中平卓馬『決闘写真論』朝日新聞社 個人蔵

まとめ

中平卓馬という1人の写真家の軌跡を時系列に辿れる構成は、彼を理解する上で大変わかりやすいものでした。

彼が普通の写真家ではなく、文字を操る天才だったことが、特に初期の雑誌の記事から垣間見ることができます。

デビューしてから亡くなるまで、時代というものを俯瞰して見ながら、写真家として写真を追い求め、自身の記憶の壁を乗り越え、ラジカルな表現を追い求めてきた写真家の歩みを、残された我々が、未来へどう繋いでいくか、考えさせられるものでした。

おそらく、この規模での展示はしばらくないでしょうから、まだ観ていない方は、ぜひ観ることをお勧めします。

写真の力を感じることができるでしょう。

4月7日まで、東京・竹橋の東京国立近代美術館で開催中です。

またお会いしましょう。路上写真家のTokyo Street PIX/TPIXでした。

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