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KDDIスマートドローン株式会社【eSG INTERVIEW】

空中ドローンと水中ドローンが合体!?

 遠隔操作でドローンが空を飛び、水中に潜る……。世界初の「水空合体ドローン」に、いま注目が集まっています。この画期的なドローンは、KDDIスマートドローン株式会社、KDDI総合研究所、株式会社プロドローンの3社が共同で開発しました。現在、東京都が進める「東京ベイeSGプロジェクト」の2022年度の先行プロジェクトにおいて、「次世代モビリティ」の分野で本事業が採択され、中央防波堤エリアで実用化に向けた実証実験が行われているところです。
 
 水空合体ドローンの主な用途としては、橋脚やダム、防潮堤などの水中インフラの点検、定置網や養殖場などの水産業での監視・点検などを想定しています。「従来、こうした作業は、現場まで船を出し、水底に碇を降ろして船を固定し、専門のダイバーが水中に潜って行う方法しかありませんでした。この方法はコストがかさむだけでなく、人命が危険にさらされるリスクもあり、さらに近年ではダイバーの高齢化やなり手不足も課題になっています。これまでの人手による作業の省力化や効率化を図るためにも機械での代替が必要で、陸上から遠隔操作できるドローンの開発に期待が寄せられていました。私たちが開発したモバイル通信で運用するドローンを使えば、人が直接関わらず、効率的に水中インフラの監視や点検を行えるようになり、補修や改修の必要性の高いところを速やかに判断することが可能になります」とKDDIスマートドローンの松木友明さん(メインビジュアル右)は開発の経緯を語ります。

水上ポイントへ到着した空中ドローン。下部に水中ドローンを携えている


独自開発の技術で
水中インフラの点検や監視を自在に

 2028年度には国内の市場規模が9,300億円にも上るとされるドローンビジネス。KDDI株式会社は、2016年からモバイル通信とドローンを融合したスマートドローン事業に着手し、2022年、ドローンで未来の社会課題を解決することをミッションとして、KDDIスマートドローン株式会社を起ち上げました。
 
 水空合体ドローンは、文字通り空中ドローンと水中ドローンが一つに合体したもの。空中ドローンが水中ドローンを携えて水上を自動飛行して目的地へと運び、着水後に水中ドローンが切り離されて潜航を開始、水中での撮影や点検を行った後、再び空中ドローンと合体して陸上へ戻ります。この一連の動きをモバイル通信を利用した遠隔操作によってすべて陸上から行えるのが大きな特徴です。現在の機体のスペックは、水空合わせた重量が約25㎏、長さは対角で約170cm、空中ドローンはフル充電で約20分飛行、水中ドローンは約1時間程度の潜水が可能となっています。
 「空中ドローン部はモバイル通信経由で私たちの遠隔運航管理システムと接続されていて、オペレーターは空中ドローンに搭載された360度カメラで撮影される映像を確認しながら一連の操作を行います。水中ドローン部の切り離しや水中での撮影なども、専用のアプリケーションによって陸上から遠隔操作できます」と、松木さん。

水中ドローンの正面にはカメラを搭載 
水中ドローン操作の様子

 また、水空合体ドローンの特徴として、「水上における定点位置の維持」も挙げられます。正確なデータを取得するには、ドローンが水上で定位置を維持する必要があります。着水した空中ドローンが潮や風に引っ張られると、撮影データを伝送するために有線ケーブルでつながれた水中ドローンの動きが妨げられ、望み通りの撮影ができなくなる可能性もあるのです。こうした事態を防ぐため、空中ドローンの下部にフロート(浮き)を付け、その左右にスラスター(水中モーター)を装備することで水上での自由な移動が可能になり、GPS情報による定点位置の維持により、より安定した運用ができる仕組みになっています。
 
 さらに、KDDI総合研究所が独自に開発した音響測位技術を使うことで、水中の位置情報を正確に把握しながら水中撮影をすることが可能になりました。水中ドローンから発信した音波を空中ドローン側で受信し、水中ドローンの相対位置を計測します。これをGPS情報と合成することで、水中ドローンの位置を正確に特定することができるのです。


災害時にも威力を発揮する
自動充電ポート付ドローンも

 先行プロジェクトでは、水空合体ドローンと共に「自動充電ポート付ドローン」の試験飛行や遠隔操作、自律飛行のための機体や運航管理システムの検証なども併せて実施されています。「自動充電ポート付ドローンは、オペレーターが現地に出向いて起動させる手間をなくした完全自動化が可能なシステムです。おもに建設現場などで日々の進捗状況を把握するためのツールとして、また現地に監視員を置くことが困難な場所を遠隔で監視できる仕組みとして利用が始まっているところです。あらかじめプログラムしておけば、ドローンの離陸から飛行、着陸、充電が自動で行なえ、クラウド上にアップされた空撮映像を遠隔からタブレットで確認することができます。こうした機能は、人が立ち入ることが困難な災害の現場などでも大いに活用できるものと考えています」とKDDIスマートドローンの今溝英明さん。

ポートから飛び立つドローン

 2022年度の先行プロジェクトの実施期間は2024年度末まで。東京都政策企画局の担当者は、「こうしたドローンの技術は、社会課題の解決に向けて様々な場面での活用が期待できます。先行プロジェクト採択事業者の皆様と連携し、社会実装に向けた取組を着実に進めていきたい」と話します。
 
 さらなる実証を積み重ねながら、社会のさまざまなシーンでドローンが活躍する「すぐそこにある未来」を見据えた挑戦が続きます。 

ドローン足元にある四角い甲板から充電される仕組み。右が今溝さん

(文・さくらい 伸)