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TB REPORT【大丸有北コース】影絵からARまで、技術とアートが共創した作品巡り/アートライティングスクール1期生佐藤久美

川村亘平斎+宮本武典「東京影絵クラブ」

有楽町micro FOOD&IDEA market にある東京ビエンナーレ有楽町インフォメーションセンターから北に向かうコースは、映像とAR作品が存分に楽しめます。有楽町インフォメーションセンターを出て左に丸の内仲通りを進むと、左側に国際ビル入口が見えます。階段を下りてB1へ、店舗が並ぶ中にぽっかりとD10川村亘平斎+宮本武典「東京影絵クラブ」の映像空間が広がっています。会場内には入れず、会場を囲むガラスに書かれた文章と2つのスクリーンに投影される映像が独特の雰囲気を作っています。ひじょうに重い内容を語る外国人の映像と彼に似せた影絵人形と青い光が印象に残っています。

東京影絵IMG_2079

川村亘平斎+宮本武典「東京影絵クラブ」
会期:7/10-9/5
住所:東京都千代田区丸の内3-1-1 国際ビル地下一階
時間:11:00〜20:00(緊急事態宣言中のみ11:00~19:00)

井田大介「Anything is better than the truth!」

丸の内仲通りに戻り東京駅方面へまっすぐ進むと、右側に新東京ビルが見えます。エレベーターホールには、D05井田大介「Anything is better than the truth!」 のAR作品会場があります。ここでは2種類のARアプリを使用します。壁に貼られたQRコードを読み込んでARアプリを起動して……。読み込みに少し時間がかかります。
 ひとつ目は、東京ビエンナーレ+EXサイトの「Anything is better than the truth!」です。柱に沿って3か所、一見ベンチのように積まれた1メートル四方のポスターがマーカーになっており、カメラを向けるとARが体験できます。ギリシャ彫刻らしき像が回転し、なにかのメタファ?と思いました。

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二つ目は、井田さんオリジナルのARアプリ「Synoptes」で、新東京ビルのエレベーターホール全体がAR(拡張現実)の場となります。

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オリンピックの会場を思わせるスタジアムの中にいます。しかし観客も選手も人はおらず、巨大なギリシャ像が滑るように移動し、赤い風船が飛ぶ、どこか寒々しい虚構の世界のスタジアムです。地面からアロエの鉢が飛び出してきたときには、思わずおおっ!と声を上げてしまいました。このアプリ名の「Synoptes」は、ギリシャ神話の複眼の巨人Argus Panoptesとノルウェーの社会学者トマス・マシーセンの「シノプティコン(Synopticon/見世物)」という概念を掛け合わせた造語だそうです。マシーセンは「見世物」の側面を「マスメディア、とくにテレビ」と考えたそうですが、スマホに置き換えると、画面を見ての情報検索は同時に監視されているという解釈もできるのではないでしょうか。井田さんの作品は、古代のスタジアムや見世物というモチーフから現代を風刺しているようにも感じました。

井田大介 「Anything is better than the truth!」
会期:7/10-9/5
住所:東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル1階(国際フォーラム側エントランス)
時間:平日 7:00~23:30 土 7:00~22:00 日祝10:00~22:00

椿昇「TOKYO BUDDHA」

新東京ビルと同じ側にある新有楽町ビルに、D02 椿昇「TOKYO BUDDHA」のAR作品があります。こちらはAR三兄弟が開発したARで、アプリを起動させるととマーカーと呼ばれるガイドが現れ、対象の建物とマーカーを重ねるとAR作品がスタートします。

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椿昇「TOKYO BUDDHA」
会期:7/10-9/5
住所:東京都千代田区有楽町1-12-1 新有楽町ビル
時間:9:00〜18:00 ※要パスポート

マーカーと建物をぴったり合わせるには、仲通り寄りのチョコレート屋さんの前がベストポジションです(※編注:観賞の際にはお店の営業の妨げにならないようご注意ください)。

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「空からブッダが降ってくる」。説明は聞いて知っていましたが、複数のブッダが重なり重さで沈む様子など質感が想像以上にリアルで、鋳物のブッダ同士がぶつかる金属音が聞こえてきそうでした。デモ動画よりも現地でビルのマーカーに合わせて見る方が、より迫力があるように感じます。ブッダが姿を変えた巨大なインゴッドがせり出してくるときは、思わずええっ!と声が出ました。AR三兄弟の「都市と経験のスケールⅠ+Ⅱ」 は、東京駅前の行幸通りと大手町パークビルディングでも見られるようです。

AR三兄弟の作品は、古いスマホでは、機種に対応していないと表示が出るケースがあります。後日iphone12で試してみたら、AR作品が魅力的な音楽とともに楽しめました。バッテリーは熱くなるものの、一度見た後では動作もスムーズです。私だけかもしれませんが音が大きいので静かな屋内で再生するときは注意が必要でした。バッテリ―と音量を気にしつつ、何度も再生してしまいます。

イ・ブル「私はピクニックをしている子犬だと思う?1990~2021」

K28 イ・ブル「私はピクニックをしている子犬だと思う?1990~2021」もマーカー不要でARアプリを起動すればどこでも楽しめる作品です。

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イ・ブル「私はピクニックをしている子犬だと思う?1990〜2021」
どこでも体験できるAR作品。

タブロイドマガジンの「さまざまな場所で体験いただけます」の意味がやっとわかってスッキリしました。Next Update 2021-08という表示があるので、もしかすると進化していくAR作品かもしれません。Ver1では立っていた着ぐるみが表示されていましたが、その後起動するとVer2では地を這って進むものに変化していました。着ぐるみは、羽や触手が生えたコスチュームで清々しいというよりは生々しいイメージです。本作品は1990年《受難への遺憾―私はピクニックをしている子犬だと思う?》のパフォーマンスをもとに制作されています。私はオリジナル作品を見ていませんが、オリジナルでは街中で着ぐるみが地を這うパフォーマンスだったのかなと想像しました。20年の時を経て、ARによって街の風景を重ね合わせて当時さながらのパフォーマンスを見ているようでした。

 丸の内仲通りには、D01 グランドレベル (田中元子+大西正紀)「TOKYO BENCH PROJECT 2019-2021」の赤いベンチがあるようですが、私は見つけられませんでした。複数会場にあるようなので、少し場所は離れていましたが、駅の反対側の東京スクエアガーデンのベンチを見に行きました。普通に学生風の人など複数の人が座っており、「街の中でボーっとできる場所を増やしたい」という作家の意図は大成功のようです。

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グランドレベル「TOKYO BENCH PROJECT 2019-2021」
会期:7/10-9/5
住所:東京都中央区京橋3-1-1
時間:終日公開

さとう・くみ/東京ビエンナーレ2020/2021のプロジェクト「アートライティングスクール」1期生。細く長く国内外でモノを作ったり、自己理解・他者理解を深めるセッションをしたりしています。
アートライティングスクールのnote記事はこちら


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