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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論17『007/ゴールデンアイ』

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第17作『007/ゴールデンアイ』

 5代目ボンド、ピアース・ブロスナン登場。近年、最初に観たボンド映画が『ゴールデンアイ』だという人が多くなったように感じられるのは、考えてみれば当たり前の話で、これは前作から6年間も待たされて「満を持して」の第17作だった。

 彼の最初のプレタイトルはダルトン=ボンドの1作目にならったのか「大ジャンプ」+「大ジャンプ」の二段重ねになっている。しかもシリーズ最速、開巻約2分で、ギネス級のバンジージャンプを飛ぶ。

大ジャンプその1

 もちろん飛んでいるのがブロスナンでないことははっきりしているのだが、「誰かがやっている感」は健在だ。予告編で事前に何度も観ていたが、とにかく最高の「つかみ」であり、「90年代においてもジェイムズ・ボンドは健在である」アピールとして申し分のない大アクションだった。

 気になったのはプレタイトルの二回目の大ジャンプ(バイクに乗ったまま崖から飛び出す)で「CGを使ってボンドの顔を見せる」ことを優先してしまった演出だ。そのために直前までの「誰かが本当にやっている感」が相殺されてしまった。

大ジャンプその2

 この問題はしばらく鳴りを潜めるが、のちにまた浮上してくる。ボンド映画に限らず、アクション映画全般において(トム・クルーズでもなければ到底克服できない)表現上の大きな課題になった。

 ブロスナン=ボンドはプライベートでアストン・マーチンDB5にも乗っているが、メインはBMWである。きちんとQが登場して、スティンガーミサイルなどの搭載兵器を「説明」しておきながら、劇中では一切使用されないという“逆伏線(?)”は、今から振り返ると面白いが、初見時には少々肩透かしだったことは否めない。実際に活躍するのはピトン付ベルトやペン型手榴弾(のちに『スカイフォール』で新生Qのジョークの対象になる)なのだ。

意外と操作が難しい

 では、ボンドカーの出番が少なくてまったく不完全燃焼だったかといえばそうではない。ボンドカーがもたらす「無双状態」を代わりに体現してくれるものが登場するからだ。それが中盤に登場する戦車である。

 エリック・セラの音楽はここだけ差し替えられてより軽快なものになり、ブロスナン=ボンドを象徴する仕草(アクションの途中でネクタイを直す)も加わって、新鮮かつ画期的なシーンになった。

これぞボンド

 この「戦車無双」シーンにつながるアクションの起点はピトン付ベルトで、終点がオメガの時計(レーザーを発する)、さらにクライマックスの戦いの起点もペン型手榴弾が担っていた。

 マンティコア号船上でただの「タオル」だけを使ってあっさり敵を倒すシーンなどもあり、ブロスナン=ボンド時代のアクションシーンは小道具とアクションの「連携」が非常にうまかった。

 もう一つ重要なのは、女性の殺し屋ゼニヤとの決着のつけ方だ。女性の敵としてもっとも「はっちゃけて」いた(これに匹敵するのは『ネバーセイ・ネバーアゲイン』のファティマぐらいだ)彼女との最後の戦いも、ボンドが直接彼女を殺して終わり──ということにならない。ボンド映画の「伝統」(女性に直接手を下さない)をまだ守っている。

 何かと「掟破り」のブロスナン=ボンド時代では、のちにこれが大きなテーマになる。この時点から「伏線」を張っていたなどということはありえないが、こうして一つ一つ破っていくべき「掟」を見つけていったのではないかと考えると面白い。


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