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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論12『007/ユア・アイズ・オンリー』

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第12作『007/ユア・アイズ・オンリー』

 この作品から計5作品を担当するジョン・グレン監督が初登板。第6作以降、編集や第2班監督を務めてきた人で、ピーター・ハント監督の流れを汲む生粋きっすい「アクション映画監督」だ。彼が前作からの軌道修正を実行した。

 第2作、第6作、第21作など、前作で「荒唐無稽」に振れすぎた流れを引き戻す作品がきちんと機能していることが、シリーズとしてボンド映画の最大の強みかもしれない。ただし、これらの3作品はいずれもボンド役者が30歳代だった。対するムーア=ボンドはすでに50歳代──その点にグレン監督の苦労があったと思われる。

 とはいえ、当時のボンドアクションは「誰かが実際にやっている感」があるだけで十分に魅力をもっていたから、アクションに関しては“カタログ”のように手数が多く、純度が高いという言い方が当てはまる。

 まずはプレタイトルのヘリコプターアクション。前作までの派手さはないが、乗り物の「外」に出るという「完全無防備」のハラハラ具合はさらに強調されている。

 ついでにいうとこのプレタイトルでは、テレサ・ボンドの墓参りからはじまってシリーズの連続性を示す一方、ブロフェルド似の禿げ頭の男を葬ることで過去を断ち切ってもいる。これがムーア=ボンドの1作目(せめて2作目)だったら、ずいぶん後の流れは変わっていただろうが、残念ながらすでに5作目なのだ。

 本編に入ってからはまずカーチェイス。シトロエン2CVを使った軽快なアクションは『ルパン三世 カリオストロの城』の影響があるともいわれているが、何よりその前段で新しいロータス・エスプリ・ターボをボンドに使わせない演出(目の前で爆発してしまう)に驚かされる。ジョン・グレン監督の並々ならぬ意志の表れだったのだろう。

余裕綽々その1

 中盤のスキーシーンも単なるチェイスでは終わらない。敵から逃げるうちにジャンプ台に上がることになり、さらには「ボブスレー」のコースをスキーで滑るという、スタント自体がかなり危険そうなシーンを加えて、雪崩なだれ以外は『女王陛下の007』のスキーアクションを全部圧縮したような展開を見せてくれる。

余裕綽々その2

 その後も短編『危険』を見事に再現した港の襲撃シーンがあり、潜水艇で沈没船に向かうシーンがあり、「水上引き回しの刑」があり、シリーズ一、二を争う忙しさだ。そこにおいて秘密兵器は徹底的に排除され、ボンドカーの「無双」もなく、ボンドは機知と体力だけで切り抜けていくことになる。

真剣な顔その1
真剣な顔その2

 ラストの対決。こんな場所に実際に修道院を作った人たちもすごいが、ボンド映画のクライマックスで最も“静かに”息を飲むシーンが登場する。海底シーンから一気に山頂という高さの変化も魅力的だし、実際に人が住んでいる「想像しうるリアルな高さ」でのアクションにこだわりを感じる。

 強いていうなら明らかにレッド・グラントを意識した東ドイツ人の殺し屋クリーグラーが無個性すぎた気もするが、それは要求しすぎというものだ。

『ムーンレイカー』を超えるヒットにはならなかったとはいえ、シリーズの軌道修正という点では、もっとも成功した例ではないかと思う。二作品のクライマックスシーンを比べてみれば、これらが「連続した」作品のものとは思えない。しかし、どちらも紛れもないボンド映画なのだ。


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