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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論13『007/オクトパシー』

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第13作『007/オクトパシー』

 ジョン・グレン監督の2作目。ここからの2本はムーア=ボンド版『ゴールドフィンガー』と呼んでいい。まずは『オクトパシー』だが、アクションシーンの手数の多さと秘密兵器をほぼ封印した状態(時計とペンだけ)がつづき、同時にムーアの加齢もつづいていく。

当時のボンドはセイコー派

 プレタイトルは一人乗りのジェット機アクロスター。以前のリトル・ネリーと同様、実在する飛行機で、兵器などは装備していないので「無双状態」ではないが、ムーア=ボンド時代で一番「起承転結」がきっちりしたプレタイトルになっていて、並みのアクション映画のクライマックス以上の見応えがある。一度は任務に失敗しかけ、そこから脱出、さらに大逆転となる展開は実によくできている。

 前半の舞台はインド。三輪タクシーを使った、前回のシトロエン2CVのような軽快なカーチェイス(「無防備さ」は遥かに増している)があり、ジャングルでは“人間狩り”が行われるが、『007は二度死ぬ』の“トンデモ感”を知っている日本人としては、インド人がこれらを観てどう感じたのか聞いてみたい気がする。

余裕綽々

 後半、東ベルリンに入ってからの列車アクションがクライマックスになる。核爆弾を積んだサーカス列車を追いかけるボンドが、敵のベンツを奪って“線路上を”追いかけるシーンはひねりが効いているが、発想としては前作でスキーのままボブスレーコースに入ってしまうのに似ている。ベンツの車幅が軌条に合うのかなど、些細なことは気にするまい。

真剣な顔

 必然的にそこからつづく列車アクションは「外」になる。これまでボンドが何度も殺し屋たちと死闘を演じてきたのは基本的に列車「内」だった。こうした“発想の転換”が起きたのが『オクトパシー』の特徴で、以後この「内」と「外」のバランスはボンド映画のアクションを設計する上で欠かせない要素となる。

 残念なのは、列車を降りて(落ちて?)からの展開だ。核爆弾爆発のタイムリミットが迫る焦燥感を表す意図はあるのだろうが、西ドイツの基地までボンドがヒッチハイクをするシーンはかなりテンポが落ちる。ボンドがゴリラの人形に隠れたり、ピエロに変装する展開も同様に緊張感を維持できていない。

 ただ、この作品には最後の最後にダメ押しの「外」がある。カマル・カーンの本拠地にQとともに気球で乗り込んだボンドは逃亡する敵の飛行機に馬から飛び移る。列車のシーンでさえいったんは「内」に入ったが、ここではボンドは最後まで飛行機の「外」にしがみついている。これは冒頭のアクロスターの裏返しであり、話の掉尾を飾るアクションとして相応しいアイディアだった。

トム・クルーズなら自分でやるだろう

『オクトパシー』のアクション映画としての「骨格」を形作っているメインアクション3種類は「内」(飛行機)→「外」(列車)→「外」(飛行機)と展開していくのだ。本編とアクションを同時並行して撮っていくボンド映画が、アクションシーンにおいてもこうした構成を考えたり、プレタイトルとクライマックスの対比を考えたりするようになったのは、ごく自然なことだったのだろう。

 ゴールドフィンガーに相当するメインの敵はカマル・カーン。若干小物感があるものの、ラストは同じ“墜落死”。オッドジョブに相当するのが殺し屋ゴビンダで、彼もかなりの忠誠心を示すが、さすがに飛行機の「外」にいるボンドを始末しろといわれたときの表情はやるせない。ボンドアクションの最中で描かれたベスト級のユーモアだった。

殺し屋はつらいよ


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