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初の試み、東京地下ラボを終えて。広報担当の羽場加奈さんが語る、若者と共に描きたい下水道の未来図とは

2018年11月のワークショップに始まり、2019年2月の成果報告会までの3ヶ月間、下水道の新たな魅力をZINEという形で見せるため、東京地下ラボプロジェクトを見守り続けた、東京都下水道局総務部広報サービス課の広報担当である羽場加奈さん。

前回の学生インタビューに引き続き、今回は「東京地下ラボは下水道局の今後の活動に繋がるような壮大な野心を持ったプロジェクトなんです」と語る羽場さんに、プロジェクトから広がる、下水道事業の未来の可能性について話を聞いた。

下水道事業をただ「知る」だけではなく、必要性や貢献性を「理解」してもらうために

——タイトルやロゴ自体が、非常にコンセプチュアルな印象を受ける「東京地下ラボ」。行われたワークショップも含めて、下水道への関心度向上のためだけのプロジェクトとは思えないくらい、作り込まれたコンテンツだなと思ったのですが、今回こういう形でプロジェクトを始めることになった背景を教えてください。

羽場さん:下水道事業について、若い世代の認知度が低いことに対しては以前から課題意識があったので、動画を配信したり、渋谷や品川のような街中でイベントをやったりすることで、まずは親しみを持ってもらうためのきっかけ作りをこれまで行ってきました。ただ、やはり10%という関心度の低さを考えると、より深く意識してもらうためのプロジェクトも必要なんじゃないか?という話になって。

単純に無関心といっても興味関心レベルは色々あると思うんですけれど、社会課題や環境問題に対して関心はある一方で、下水道については考えたことがないという大学生をターゲットに、大学生を直接巻き込んで、大学生の視点から東京下水道の魅力を発信してもらおう、ということで始まりました。

——これまでは浅く広かったところから、深く狭いところへアプローチしよう、という流れですね。

羽場さん:そうですね。下水道局の事業って、単純に汚い水をきれいにする、ということだけに留まらず、下水道局できれいにした再生水を川に流すことで水源を取り戻すといった、持続可能な都市づくりにも大きく貢献しているんです。そういう東京下水道の魅力や必要性、貢献性を発信することを目的としたプロジェクトですね。

——今回の取り組みに対する率直なご感想として、実際いかがでしたか?

羽場さん:まずワークショップの最終段階で各チームの編集テーマを発表してもらった時に、全部違う切り口だったので、面白くなりそうだなと思いました。職員が思いつかないような意外な着眼点や、思っていた以上の深度のアイデアがたくさんあったので、ターゲットとする大学生自身に切り口を考えてもらうと、やはりとてもインパクトがあるんだなと。効果的に若者に伝えるってこういうことじゃなきゃダメなんだな、って勉強になりましたね。

事業内容を説明するのではなく、ワンアイデアで突破。学生ならではの視点、切り取り方が面白い

——アウトプットである制作物も、全チーム、それぞれ全く毛色が違って、面白いですよね。

羽場さん:例えば、当局の幹部職員は『下水族館』のZINE(※1)を、全ての水再生センターに置いたらどうか、と話していました。全てのZINEはA3サイズで設計されているので、A3用紙で出力し、水再生センターのイベントで来場者の方々が自ら組み立てて、持って帰ってもらえたら、という意見もありましたね。

(※1)下水の処理過程で働く微生物を水族館に見立て紹介したZINE

他にも『RAIN』(※2)は新規採用職員の研修で配るといいのではという声もありましたし、『Underground』(※3)は地下鉄の駅構内に置けそうですよね。『SEWER AND FASHION』(※4)は旧三河島汚水処分場喞筒場施設で撮影されたものなので、そこに置くのにぴったり。それぞれがそれぞれに活かせる道がありそうで、本当に嬉しいですね。どれ一つ取っても、下水道の良いところをどう表現するか、とても工夫されているので、苦労が伝わってきます。

(※2)雨の情報をインフォグラフィックで可視化したZINE
(※3)主人公である若者が下水道に関する施設について、食べ物や映画などのカルチャー情報を交えながら紹介するZINE
(※4)ファッションを切り口として下水道の歴史を紹介するZINE

——グランプリ作品である『私と川と、サンドイッチ』を見たとき、どう思いましたか?

羽場さん:食べ物ってみんな好きだと思うんです。サンドイッチという食べ物と下水道とを繋げて、こんなにオシャレに表現してくれて嬉しかったです。折り方も、本当にサンドイッチみたいになっていて面白いし、清流復活事業についても細かく触れられていて、内容も見た目も両方兼ね備えられていると感動しました。

特に見た目のデザインに関して、川を両岸で挟むのと、具材をパンで挟むのとが対応しているアイデアを見て、こんな発想があったんだ!?って驚きましたね。もう本当に色々とアイデアを考えられたんでしょう。実際、デザインを担当したメンバーは夢にまで下水道が出てきたと仰っていました(笑)。それほど集中して下水道のことを若い世代に考えてもらえたっていうのも、私はすごく嬉しかったです。

内容についても、都市化が進んで水源が枯渇したために、川の水量が少なくなっていたところを、再生水を供給することで復活したというのが清流復活事業なんですけれど、多くの都民は、渋谷川や目黒川に下水道局が関わっているとは思わないじゃないですか。そういう意味でも、下水道局が持続可能な都市づくりに貢献していることを、うまく紹介してもらえて良かったなと思います。

都民のサスティナブルな暮らしを支える事業であり続けるために。東京地下ラボから広がる未来とは

——関心度、という数字上の目標はあるとしても、広報活動ってなかなか明確なゴールが見えづらい部分もあると思うのですが、最終的にどういう風に下水道について認知されるのが理想だと思いますか?

羽場さん:若い世代の人たちに、下水道局の可能性や未来について主体的に考えるという意識が浸透すればいいなと思います。下水道事業を続けていくためには、税金や下水道料金などが必要で、都民の皆さんにご協力いただかないと実現できません。また、皆さんが下水道事業に対してどういう取り組みを求めているのか、下水道局に対するニーズをどんどん伝えてもらえないと、施策もブラッシュアップしていかないと思うんです。

都民の皆さんの意見を聞いていく中で、もしかしたら、これまでにない事業が必要になるかもしれないですよね。例えば、東京都を水の都として打ち出すために実験的なエリアを作ってみよう、とか。そうやって住民と行政とが一体となって施策をブラッシュアップしていくために、若い人にも下水道事業に対して主体的に、自分ごととして捉えてもらって、下水道の未来や、持続可能性について一緒に考えていきたいと思っています。

——都民ともっとコミュニケーションを、という気持ちが今回のアクションに繋がっているんですね。そこに向かって、東京地下ラボが今後どういう風に展開していくのか楽しみです。

羽場さん:下水道って、いまは「臭い・汚い」というイメージが先行していると思うんです。でも、今回関わってくれた学生は、先進的なテクノロジーの方に着目したり、下水道の働きできれいになった多摩川で育った鮎を試食して実際に水のきれいさを体感したりすることで、「臭い・汚い」というイメージが「すごい・面白い・楽しい」にシフトしたり、持続可能性など別の角度の視点を持ってもらえたりしたと思うんです。来年度はプロジェクトに関わっていない人にも、その感覚を浸透させていくというブランディングを強化していきたいと思っています。

東京地下ラボはまだ始まって1年目ですが、局の職員も純粋に驚くような作品がたくさんできました。2018年度はZINEを作りましたが、2019年度はまた違う媒体で学生にチャレンジしてもらおうと考えています。発信していけばいくほど多くの人に受け入れられる、共感してもらえる事業だと思いますし、今回、学生の皆さんが力を注いでくれた成果を生かすためにも、東京地下ラボというプロジェクト自体について、もっと頑張って広めていければと思います!

東京地下ラボプロジェクトと、下水道事業のこれからについて熱く語ってくれた羽場さん。今回の取り組みについて、2月の成果報告会で審査員を務めたケトル編集長の嶋浩一郎さん、そして世界の発展開発途上国で活動するNPO法人ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁さんらが「本当に地下ラボってなんていい取り組みなんだ!」と声を揃えて感動していたとのことで、今後のプロジェクトにもますます期待が寄せられる。

前々回のnoteでも紹介した通り、今回グランプリを受賞した作品をはじめ、すべての作品はWEB上で見ることができる。

<東京地下ラボ by東京都下水道局【若者向け東京下水道発信プロジェクト】>

これらのZINEを片手に、 実際にその目で美しい川を確かめ、テクノロジーの面白さを体験してみてほしい。そして、その背景にある東京都下水道局という存在に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

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