埼玉県立小児医療センター

フクシマの事故で子どものガンは増えているのか?  #1


フクシマの事故から9年目の現状

「放射能で病気になる人が増える。小さな子どもは西へ行った方が良い」

福島の事故以来、私は、会う人毎にそう言ってきた。が、私の忠告を本気で聞く人はいなかった。皆、戸惑ったような顔で横を向くか、嗤って聞き流すだけだった。

この数年、芸能人や著名人の病気や訃報の知らせを頻繁に聞くようになり、車の運転中に意識を失う事故や、急病人が出て頻繁に電車が遅れる事が起きている。

「ここのところ体調が悪い。みんなも具合が悪そうだ。おかしいな・・・」

大半の人は、不審感を持ちながらも、その原因が放射能だとは考えていない。そんな事、考えたくもないと思っている。


遺伝子治療薬キムリア

今年の2月に水泳の池江璃花子選手(18)が白血病で闘病中と公表し、日本中が驚いた。
そして、5月14日、池江選手のニュースと呼応するように、厚生労働省が3349万円の白血病治療薬「キムリア」を保険適用とすると発表した。



キムリアはノバルティスファーマ製薬会社が開発した遺伝子治療薬だ。
遺伝子治療薬とは従来の既成の化学薬剤とは異なり、一人一人の身体に合うように遺伝子を操作して作られている。だから、非常に高価だ。ニュースでは、3349万円の大半を国が支払うことになり、その総額は70億円程度になると報じられた。

金額ばかりが話題になったが、私は、70億円という数字が出てきた過程に注目した。厚生労働省が保険適用人数が具体的に把握していなければ、予算は付かない。小児白血病の人数はどのくらいで、そのピークはいつ頃になると予想しているのだろうか? そして、その情報はどこにあるのだろうか?



まず、ノバルティスファーマ製薬会社のプレリリースを読んだ。

キムリアは患者本人の免疫細胞から作られるようだ。

まず、患者は自分の血液を、米国にあるノバルティスファーマの施設へ送る。ノバルティスは、血液から免疫細胞の一つであるT細胞を取り出し、それに特殊な遺伝子を組み込む。すると、ある種類のガンを探知する能力の高い、患者固有のT細胞ができあがる。そのバージョンアップしたT細胞を再び患者の身体へ戻すと、患者自身の免疫力がアップし、ガンが消える!
という仕組みだ。ノバルティスファーマが行った治験によると、治療を受けた急性リンパ性白血病患者の、なんと80%の人に寛かいが認められている。


寛かい:見かけ上、病気が消滅した状態。癌 (がん) や白血病など、再発の危険性のある難治の病気治療で使われる語
キムリアの名前の由来:組み込まれた遺伝子をキメラ抗原受容体(CAR)と呼ぶことからきている。chimeraキメラ とは、一つの身体に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること、或いは複数の遺伝子を持つ生物のこと。ギリシア神話の怪物キマイラ(ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ)を語源としている。
キメラ は植物には頻繁に表れるが、脊椎動物のキメラは珍しい。人間では血液のキメラを持つ人がいる程度。


キムリアで治療できるのは、たくさんある白血病のうちの二種類のみ。急性リンパ性白血病とT細胞が反応する特定のリンパ腫だけだ。
現在、日本国内の全年齢の急性リンパ性白血病の患者は約5000人。子どもの急性リンパ性白血病は、毎年500人ずつ発生している。しかし、その子ども達全員に保険が効くわけではない。通常の治療、つまり化学療法や放射線療法を受けても寛かいが見込められなかった患者と、寛かい後に再発した患者だけに適用される。なぜなら、キムリアは、打つ手が無くなった患者に残された最後の治療薬とする位置づけだからだ。

ノバルティスファーマと厚生労働省は、協議の結果、キムリア保険適用の年齢を小児(0歳から14歳まで)からAYA世代(15歳から30歳くらいまで)に広げた。まさに、池江璃花子選手(18)が入る。厚生労働省は予想される人数を、「8年間。ピーク時で年間216人」とし、ノバルティスファーマは「ピーク時で250人」としている。

AYA世代:adolescent and young adult(思春期・若年成人)小児期以降の15歳から20歳代、或いは30歳代を指す。


画像1

第8回拠点病院連絡協議会 資料1-1 15ページ目 よりお借りしました


「ピーク時で250人」
この言葉に引っかかった。

広島・長崎の原爆被災者のデータでは、白血病は2年後から増え始め、ピークは5年後からの数年間だった。チェルノブイリ事故でも、ウクライナやベラルーシの小児白血病も5年後にピークが現れた。

(但し、南ドイツやトルコなどの汚染が低い地域ではピークは5年後ではなく、数年遅れて来た)

日本は今年、フクシマの事故から9年目に入った。

小児白血病のピークは、今なのか? すでにピークは過ぎたのではないか?

小児がん全体でも増えているのか? 

調べて見る事にした。

(#2へ続く)




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