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ラーメン収益

ポール・グレアム(Paul Graham)が執筆したエッセー「Ramen Profitable」の日本語訳になります。

2009年7月

「ラーメン収益」という用語が広まったので、私はこの考えについて的確に説明する必要がある。

ラーメン収益はスタートアップが創業者の生活費用を支払うのに十分なだけのお金を稼ぐことを意味する。これはスタートアップが従来目指していた収益性とは異なる。従来の収益性は大きな賭けが最後には利益を生むことを意味する。それに対し、ラーメン収益の主な重要性はあなたに時間を作ってくれるということである。[1]

昔、スタートアップはかなりたくさんの資金を調達して使えば、通常利益になるものだった。コンピューターのハードウェアを作る会社は5000万ドル使う5年の間は利益にならないだろう。しかし、彼らがそうすると、年間に5000万ドルの収益を得るだろう。このような収益性がスタートアップの成功を意味する。

ラーメン収益はまったく正反対のスタートアップで、たとえ収益が月に3000ドルだけでも、2ヶ月後には利益を出せる。なぜなら従業員は数人の25歳の創業者たちで、彼らは実際に何もなくても生きることができるからだ。月に3000ドルの収益は会社が成功したことを意味しない。しかし、月に3000ドルの収益は従来のやり方で利益を出す会社に何かを分け与えてくれる。それは、生き残るために資金調達をする必要がないということだ。

ラーメン収益は最近になってもっともらしいものとなったので、多くの人には親しみのない考え方である。そして、多くのスタートアップにとってまだ実行可能なものではない。たとえば、ほとんどのバイオテックのスタートアップでは実行可能ではない。しかし、ソフトウェアは今では安くなり、多くのソフトウェアのスタートアップには実行可能だ。多くの人にとって、本当のコストは創業者の生活費である。

この種の収益性で最も重要なのはあなたはもはや投資家の情けにいないことである。もしあなたがお金をまだ失っているなら、最終的にはあなたはお金を集めるかビジネスを閉鎖することになる。一度あなたがラーメン収益を生み出していれば、この痛みある選択肢は消え失せる。あなたはまだ資金調達することができるが、それを今する必要はないのだ。

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お金を必要としない最も明らかな利点はあなたがより良い条件を得られることである。もし投資家があなたがお金を必要としていることを知っていたら、彼らは時々あなたを利用するかもしれない。あなたがお金を使い切ると、誰かはあなたが次第に言いなりになっていくことを知り、わざと行き詰まらせるかもしれない。

だけど、ラーメン収益にはあまり明白ではない3つの利点もある。1つはラーメン収益は投資家をより魅了させることだ。もし小さな規模でも、あなたが既に利益を生んでいたら、 それは(a)あなたはあなたにお金を支払う人を少なくとも得ていて、(b)あなたは人びとが欲しいものを作ることに本気で、(c)あなたは出費を低く抑え続ける十分な自制心があることを示す。

投資家の懸念する3つの心配事を既にあなたは対処しているので、これは投資家を安心させる。賢い創業者がいて、大きな市場があり、それでもまだ失敗していない会社を探すことは投資家にとって当たり前のことだが、それでも失敗する。そのような会社が失敗するとき、たいていは(a)たとえば、人に売るのが難しすぎる、マーケットがまだ準備できていなかったという理由で、彼らが作ったものに人はお金を支払いたくない、(b)ユーザーが何を必要としているかに気を配る代わりに、創業者が間違った問題を解決していた、(c)お金を稼ぎ始める前に会社がお金を使い切ってしまう、というのが理由だ。もしあなたがラーメン収益を生んでいたら、あなたは既にそのような問題を避けている。

ラーメン収益のもう1つの利点は道徳的にとても良いということである。あなたが会社を始めたとき、会社は仮想に感じがちである。法律上は会社なのだが、あなたが会社を会社と呼ぶとき、あなたは偽っているように感じる。人びとがあなたにかなりの金額を支払い始めたとき、会社は本物だと感じ始める。そして、自分自身の生活費はあなたが最も感じられるマイルストーンだ。なぜなら未来の時点で状態が反転するからだ。死にかける代わりに、生き延びることがこれからデフォルトとなる。

スタートアップでは、そのような規模での道徳的な向上はとても価値がある。なぜなら、会社を経営することの道徳的な重みが会社経営を難しくさせるからである。スタートアップはまだとても珍しい。なぜもっと多くの人がしないのだろうか? 財務リスク? 何だかんだ言っても、たくさんの25歳が何も貯蓄していない。長時間? たくさんの人が定職と同じくらい長く働いている。人びとがスタートアップを始めるのを妨げているものは多くの責任を持つことになる恐怖である。そして、これは不合理な恐怖ではなく、本当に耐え難いものだ。その重さの一部をあなたから取り除くものはあなたの生き残る可能性を大きく高めてくれるだろう。

ラーメン収益に達したスタートアップはそうでないものよりも成功する可能性があるかもしれない。これはかなり興奮させてくれるもので、スタートアップでは結果の二峰性配分があると考える。それは、あなたは失敗するか、それともたくさんのお金を稼ぐかのどちらかだということだ。

4つ目のラーメン収益の利点は最も明らかでないが、最も重要かもしれない。もしあなたが資金調達する必要がなければ、あなたは会社が資金調達するのに取り組むのを中断しなくても良いのだ。

資金を調達するのはひどく気を散らすものである。あなたの生産性が資金調達前の3分の1であるならば、あなたはラッキーだ。そして、その生産性は数ヶ月間続くことができる。

私はなぜ資金調達するのがそんなにも気を散らすものなのか今年の初めまで理解していなかった(どちらかといえば、覚えていなかった)。私たちが資金提供したスタートアップは資金を調達することに切り替えると、いつも急に立ち止まってしまうことに私は気がついた。しかし、Yコンビネーターが資金を調達するまで、私は正確になぜなのか覚えていなかった。私たちは資金調達するのに比較的たやすい時間を過ごしていて、私が最初に頼んだ人はイエスと言った。しかし、詳細を仕上げるのに何ヶ月もかかり、その間、私は本当にやるべき仕事をほとんど終わらせなかった。なぜか? それは、私が資金調達についてずっと考えていたからだ。

どんなときでも、スタートアップにとって最も差し迫った1つの問題がありがちだ。これは、あなたが夜眠るときや朝シャワーを浴びるときに、あなたが考えているものである。あなたが資金調達し始めるとき、それがあなたが考える問題となる。朝シャワーを浴びていて、もしその間に投資家のことを考えていたら、そのときにあなたはプロダクトについて考えていない。

一方で、あなたがいつ資金調達するか選ぶことができた場合、あなたはあなたが何か他のことの半ばにいない時期を選ぶことができ、おそらく投資ラウンドを速く成立させることも要求できる。もし、成立するかどうか気にしなければ、投資ラウンドがあなたの思考を占有することさえ避けることができるかもしれない。

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ラーメン収益はその定義が暗示する以上のことを意味しない。たとえば、投資家からお金を受け取るつもりが絶対ないスタートアップを自力で作っていることを暗示していない。経験的にそれは上手くいっていないようだ。わずかなスタートアップが投資を受けずに成功した。スタートアップが安くなるにつれ、より一般的なことになるかもしれない。一方で、投資されるのを待っているお金がある。もしスタートアップがそのお金より少ない額を必要としていたら、彼らはより良い条件でそのお金を得ることができるだろうし、より受け取りたいと彼らに思わせるだろう。それは、均衡を生むことになるかもしれない。[2]

ラーメン収益が暗示しないもう1つのことは、あなたがプロダクトをベータ版にしたときはビジネスモデルをベータ版にすべきだという Joe Kraus(ジョー・クラウス)の考えだ。彼は最初からお金を払う人をあなたは獲得すべきだと考えている。私はそれはかなり抑制していると考える。Facebook はしなかったし、彼らはほとんどのスタートアップより上手くやった。今すぐにお金を稼ぐことは彼らに必要でなかったし、おそらくためにならなかっただろう。けれども、私は Joe のルールは役立つかもしれないと思った。創業者が1つのことに集中していないように思えるとき、何かにお金を支払うカスタマーを彼らが得ようとする強制が彼らを行動へ駆り立てるだろう期待をし、私は時々彼らにそうするように提案する。

ジョーの考えとラーメン収益の違いは、ラーメン収益のある会社は最終的にそのようになる方法でお金を稼がなくてもよいということだ。ただお金を稼ぐだけだ。最も有名なのが Google で、Google は Yahoo のようなサイトに検索の使用許可を与えることで最初お金を稼いでいた。

ラーメン収益の否定的な側面はあるだろうか? もしかしたら最も大きな危険はラーメン収益があなたをコンサルティング会社に変えることかもしれないことである。皆が使うものをただ1つ作るという意味では、スタートアップはプロダクト会社でなければならない。スタートアップの質を定義するのは会社が成長することで、コンサルティングはプロダクトができるようにスケールすることができない。[3]しかし、コンサルティングで1ヶ月に3000ドル稼ぐのはかなり簡単で、実はそれは契約プログラマーの低いレートである。だから、次第にコンサルティングへ陥らせ、実際にはスタートアップではないのだが、自分自身をラーメン収益のあるスタートアップと言う誘惑があるだろう。

少しコンサルティングのようなタイプの仕事をすることは良い。スタートアップは通常最初変なことをしなければならない。でも、ラーメン収益は目的でないことを覚えてほしい。スタートアップの目的は間違いなく大きく成長することで、ラーメン収益は途中で死ないようにするトリックなのだ。

注釈

[1]「ラーメン収益」の「ラーメン」はインスタントラーメンを言及し、インスタントラーメンは大体入手可能な最安値の食品だ。

どうか文字通りにその用語を受け取らないでほしい。インスタントラーメンで生活するのはとても不健康だ。米や豆がより良い食品の源だ。もし炊飯器を持っていなかったら、炊飯器に投資して始めると良い。

<2n人分の米と豆に必要な材料>
オリーブオイルかバター
n個の黄色い玉ねぎ
その他の新鮮な野菜(実験)
3n片のニンニク
12オンスの白インゲン豆缶、インゲン豆缶、黒豆缶のいずれかn個
n個のクノール社製固形ビーフまたは固形野菜ブイヨン
小さじn分の細かくした新鮮な黒胡椒
小さじ3n分の細かくしたクミン
nカップの乾燥した米、できれば玄米

炊飯器に米を入れる。そして、米のパッケージで指定されたどおりの水を加える。(デフォルト:米1カップにつき、2カップの水。)炊飯器の電源を入れ、忘れておく。

玉ねぎと他の野菜を刻み、弱火で玉ねぎが透き通るまで油でいためる。刻まれたにんにく、胡椒、クミンと少しの脂を加え、混ぜる。火や弱火にしておく。もう2〜3分料理し、豆を加える(豆は水切りしないように。)、混ぜる。固形ブイヨンを放り込み、蓋をして、やや低い温度で少なくとも10分以上は調理する。引っ付かないように、用心深く混ぜるように。

もしお金を節約したければ、ディスカウントストアで大きな缶に入った豆を買いなさい。スパイスも大量に買うとかなり安くなる。もし近くにインドの食料品店があれば、スーパーマーケットにある小さな瓶と同じ価格で、大きな袋に入ったクミンがあるだろう。

[2]投資家から創業者への力の転換は実はベンチャービジネスのサイズを拡大するだろう良い機会である。私が思うに、今の投資家は創業者にあまりに厳しすぎて失敗している。もし彼らがやめることを余儀なくされたら、全体のベンチャービジネスは上手くいくだろう。そして、制限的な行動基準が取り除かれるとき、あなたがいつも見ていたトレードの増加のような何かを見るかもしれない。

創業者にとって投資家は痛みの最も大きい源の1つである。もし彼らがたくさんの痛みを引き起こすことを止めれば、創業者にとってはより良いだろう。そして、もしそれが創業者により良いなら、より多くの人がそうするだろう。

[3]スタートアップがコンサルティングをスケールするだろう形に変形して大きく成長することができることは考えられる。しかし、もし彼らがそうした場合、彼らは実際にはプロダクト会社になるだろう。

このエッセーの下書きを読んでくれたジェシカ・リビングストンに感謝する。


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