『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家』

Airbnb(エアビーアンドビー)の創業ストーリーを小説化した電子書籍『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家(We Are Cereal Entrepreneurs)』の全文公開noteになります。

はじめに

『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家』はairbnb(エアビーアンドビー)というサービスが生まれる少し前から現在に至るまでの経緯についてを各章ごとにまとめ、2015年に小説化し電子書籍出版したものです。

airbnbに関する情報が当時少なかったため、創業メンバー本人たちが直接口に出した言葉や情報の信頼性が高いサイトなどを参考にして本書を作成しました。

上記の理由のため、記事の中には一部事実と異なる部分があるということが後に判明することも考えられます。記事の内容を事実として鵜呑みするのではなく、あくまでも私の視点でまとめたairbnbの創業ストーリーということをご理解ください。

また、読者に間違った情報を与えないために、情報量が不足している話に関しては記載をしていません。今後airbnbに関する情報が増え、信頼のおける情報であると著者が判断した場合には、随時内容のアップデートを行うつもりです。

このnoteを通して多くの人がairbnbの創業者たちやカルチャーについて理解し、より多くの人がairbnbのことを好きになってくれると嬉しいです。

Jack 

人物紹介

登場人物について事前にある程度知っておくと内容の理解が深みやすいと思うので、本書を読む前にまずこちらの「人物紹介」ページをお読み下さい。

Brian Chesky
ブライアン・チェスキー

ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで工業デザインの学位を取得。在学中は大学ホッケーチームのキャプテンを担い、卒業式には学生代表としてスピーチを行った。大学卒業後、ロサンゼルスのデザインショップで働くが、起業を決意して退職する。持ち前のリーダー力で周囲から「最悪」と評価され ていたアイデアを価値あるものにし、現在のairbnbを築き上げた。現在は最高経営責任者(CEO)でairbnbのスポークスマンでもある。

Joe Gebbia
ジョー・ゲビア

ロードアイランド・スクール・オブ・デザインでグラフィックデザインと工業デザインの学位を取得。在学中は学校の教育プログラムを使ってブラウン大学やMITにも行っていた。大学卒業後、サンフランシスコにあるクロニクルブックスという出版社でデザイナーとして働き、デザインがビジネスにどのような影響を与えるのかを学ぶ。airbnb共同創業者の1人で、現在は最高プロダクト責任者(CPO)。

Nathan Blecharczyk( Nate )
ネイソン・ブレークチャージ(ネイト)

12歳のときに父親の本棚にあったプログラミングの本をたまたま手にし、プログラミングの勉強を始める。14歳のときに初めてプログラミングを書く仕事を請け負い、1,000ドルを得る。高校4年間の間に20ヶ国以上のクライアントと取引をするビジネスを経営し、100万ドル(1億2千万円近く)を稼いでいた。ハーバード大学でコンピューターサイエンスの学位を取得後、マイクロソフト、OPNETテクノロジーズ、Batiqで技術者として働き、airbnbの共同創業者の一人となる。現在は最高技術責任者(CTO)。

1. RISDでの出会いと別れ

ジョー・ゲビアはグラフィックデザインと工業デザインの2つの学位を取得するためにアメリカ・ロードアイランド州プロビデンスにあるロードアイランド・スクール・オブ・デザイン((Rhode Island School of Design(通称、RISD[発音:リズディ]))に通っていた。

同じ頃、ブライアン・チェスキーもジョーと同じRISDに通い、ブライアンは工業デザインを学んでいた。ジョーとブライアンはともに同じ分野を専攻していたこともあり、クラスメートであった。しかし、2人がお互いのことをよく知るのはしばらく時間が経ってからのことだった。

RISDの学生は多くの時間をスタジオでの個人創作活動に当てるため、人との交流をする機会が多くなかった。「この状態は学生に良くない。」と思った大学は大学全体で行うスポーツ大会を主催し、学生の交流を図ろうとした。

大会ではホッケークラブとバスケットボールクラブが活躍し、両クラブの存在はRISD内で大きなものとなっていた。このとき、ホッケーチームのキャプテンを担っていたのはブライアンで、バスケットボールチームを牽引していたのはジョーだった。2人はこの頃からお互いのことを知るようになり、交流するようになった。

キャンパス内で一緒に時間を過ごしているうちに、ブライアンとジョーはお互いにある特別な共通点があることに気がついた。それは、「いつの日か起業家になりたい」という思いがあることであった。共通点を見出してからは一緒にMITのインターンシップに行ったりするなど、より多くの時間を一緒に過ごし、ブライアンとジョーは親友になった。

卒業スピーチをするブライアン

大学卒業の日、ブライアンは学生代表として卒業スピーチを行い、お別れまでの残された時間をジョーや他の友人たちと一緒に過ごした。そして、ジョーはこの日を機会に、ブライアンに自分の胸の内にあった思いを明かした。

「ブライアン、君が飛行機に乗る前に1つ伝えたいことがある。2人でいつの日かビジネスを一緒にやろう。それも、僕らのことが後に本に書かれるようなビジネスを。」

ブライアンはジョーの話を聞いて真面目に受け取ったのかは不明だが、「とりあえず今はもう仕事が決まったし、また今度な。」と言い、大笑いをした。

卒業後、ブラインはロサンゼルスへ、ジョーはサンフランシスコへ向かった。

卒業を迎えるブライアンとジョー

2. 新生活と新ルームメイト

ジョーは工業デザインを仕事とするため、サンフランシスコにある出版社で本のパッケージデザインをしていた。仕事をするかたわら、新しい滞在場所を探していたのだが、ジョーは数ある滞在場所の中からお気に入りの家を1つ見つけることができた。

その家はサンフランシスコの郊外にあり、広々としていて、光がたくさん入る素敵な家だった。ジョーは家のオーナーと連絡をとり、無事新居に引っ越すことができた。

ジョーの家の外観

ジョーの家のリビング

新居には個室が3つあり、ちょうど空き部屋が2つあった。ジョーは「craigslist(クレイグスリスト)」というアメリカで人気のコミュニティサイトでルームメイトを募った。そして、ジョーは応募者の中からネイト(ネイソン・ブレークチャージ)をルームメイトとして迎え入れた。

12歳の頃のネイト

ネイトはエンジニアで背の高い男だった。もともとボストンに住んでいたのだが、紆余曲折してサンフランシスコに来ていた。

ネイトはハーバード大学に在学しているときは、大学卒業後は就職するのが良いと思い、マイクロソフトに就職していたのだが、いざ働いてみると、自分が思い描いていた世界と現実が違うことを知った。

会社で行う開発は面白くない上に、スピード感がなかった。中学生の頃からプログラミングを始め、高校生の頃には100万ドル規模のビジネスをしていたネイトにとって、大企業の遅い成長スピードに合わせて自分のペースも合わなければいけないことはとてもストレスであった。

また、ミーティングも週に1回しかなく、多くの時間を自分専用の個室オフィスで孤独に過ごすことから、大企業で働くメリットがあまり感じられなかった。昼食前に大半の仕事が終わり、午後には何もすることがなかったので、株の売買などをして時間を潰し、1日を過ごしていた。そんな生活をしているうちに7ヶ月が経ち、ここにいては何も学ぶことができない、もっとチャレンジすることができる環境に身を置く必要があると考えた。

上司に会社を辞めることを伝えると、「ダメだ。君は優秀なエンジニアなんだから辞めないでくれ。会社は君が必要なんだ。」と言われた。思ってもないことを上司に言われ、ネイトは会社に居続けることが何か悪い兆候だと感じ、会社を去った。

ネイトは仕事を辞めた後、夏の間だけ香港や中国に行き、現地の学生に英語を教えることにした。ネイトにとっては初めてのアジア訪問で、様々な刺激を得ることができた。

その後、アメリカに戻り、友人からアジアの高校生にアイビー・リーグ(アメリカの名門私立大学8校の総称)の大学生を紹介する会社で働いてみないかとのお誘いを受けた。ネイトはアジアに行った経験がこの会社で役に立つと思い、会社のあるサンフランシスコにやってきた。

そして、就職が決まり、住む場所をちょうど探していたときに、たまたまジョーの素敵な家を見つけ、ジョーにメッセージを送ったのであった。

ジョーとネイトの出会いはたまたまだったのが、2人の共同生活はとてもうまくいっていた。また、2人ともよく働き、自分の知らないことを相手から教えてもらえることができたことから、お互いに良い影響を与えていた。ネイトはジョーとの出会いを後に次のように述べていた。

「自分と同じくらい仕事中毒な人はあまりみたことがない。朝から夜遅くまで仕事をし、時には週末の時間までも仕事にあてる。周囲を見てもそのような人はあまりいないので、ジョーは自分にとってすごく特別な存在に思えた。そして、ジョーはデザイナーだから自分のようなエンジニアには出来ないことがたくさんできた。ジョーから学ぶこともあり、一緒に過ごした時間はすごく刺激的であった。」

夜遅くまで仕事をするジョー

3. 予期せぬ出来事

ジョーとネイトの共同生活はしばらく続いたのだが、ある出来事をきっかけに終了した。

ある日、家のオーナーからジョーに1通の手紙が届き、ジョーが手紙を開けると、「親愛なるジョーさんへ、家の家賃が25%上がることになりました。」とそこには書かれていた。

ジョーはネイトに家賃が上がったことを話すと、ネイトは数日後に部屋を出ることをジョーに伝えた。

ルームメイトが数日後にいなくなることが分かったジョーは、ブライアンに連絡をとった。「ブライアン、一緒に住んでいたルームメイトが部屋を出るんだけど、サンフランシスコに来て一緒に会社を始めないか?」とジョーはブライアンに電話で聞いた。すると、ブライアンは「いいよ。会社を始めよう。」と返事をした。

ブライアンはジョーとの約束を果たすため、ロサンゼルスのデザインショップでの仕事を辞め、一緒に住んでいた3人のルームメイトや当時付き合っていた彼女と別れることを決めた。そして、両親とのある大事な約束も破ることにした。

ブライアンにはソーシャルワーカーとして働く両親がおり、両親は自分たち自身が様々な苦労を経験していたことからブライアンには苦労をさせたくなかった。また、ブライアンがデザインを専門に勉強していることから、アートの道に進むのではないか、卒業後にちゃんと就職することができないのではないかと心配していた。

そのため、ブライアンと両親の間には「RISDにはちゃんと行かせてあげるけど、卒業したら健康保険制度があって、報酬がたくさん出る会社で絶対働きなさい。お願いだから実家に戻って家の地下室で作品を作ったりするようなことはしないように。」という約束があった。ブライアン自身も両親の姿を見ていたため、卒業後は就職すると大学入学当初に決めていた。

しかし、RISDに入ると、世界が変わった。

「ブライアン、君はデザイナーだ。デザイナーは物事の見た目をよくするのではなく、物事がどのように機能するかを考える必要がある。君の周りにあるすべてのものは全部デザイナーたちによって作られたもので、デザイナーは世界にあるものを再構築し、世界を変えることができるんだ。いかなる問題も問題の本質を突き止め、クリエイティビティ(Creativity)を用いることができれば解決することができるんだ。」ということをRISDで教えられた。

今まで「席に座って静かに絵を書き続けなさい。絵を書くのをやめてと先生が言ったら、先生の話を聞くようにしなさい。絵を書き終わったら提出しなさい。」というような社会に適合するような教育を受けてきたブライアンにとって、「世界を変えられる」と教育されることはとても衝撃だった。

こうしてブライアンはデザインを専攻しているにも関わらず、RISDの教育のおかげで、起業家マインドについても学ぶことができた。こうして自分もいつしか起業家になって世界を変えるという思いが芽生えたブライアンだったが、卒業後の進路を考えた際、今すぐ起業してやりたいこともないし、両親との約束もあるので、とりあえずロサンゼルスにあるデザインショップに就職したのだった。

工業デザイナーの仕事は歯ブラシのデザインといった小さなものからロケットのデザインといった大きなものを取り扱うことができるため、仕事の幅は広かった。そして、自分の作ったものが商品棚に置かれることはデザイナーとして喜ばしきことだった。

とても楽しく働いていたのだが、ある朝、起床した時に自分の未来像が頭に浮かんだ。自分は車を運転しており、道は一本道だった。道路は地平線に向かって消えかかり、バックミラーを見ると車が走ってきた道を見ることが出来た。不思議な感覚に襲われたが、自分の人生を象徴しているかのように感じ、この頃から死を意識するようになった。

そして、「自分はデザインショップの仕事をして一生を過ごしたくはない。自分はデザイナーだから世界を変えられるんだ。」と思うようになった。ブライアンの起業への思いは時間が経つにつれ次第に強くなり、後はどのタイミングで始めるのかが問題であった。そんな時、ジョーから思いがけない起業のお誘いの電話をもらったのである。

ブライアンは様々な人に別れを告げ、車に詰め込まれるだけの荷物を持ち、夜通し運転してロサンゼルスからサンフランシスコにあるジョーの家にやってきた。そして、わずかな期間だがブライアン、ジョー、ネイトの3人は「airbnb」が誕生する前にルームメイトとなり、ネイトは数日後にジョーの家を去った。

ブライアンとジョーだけの共同生活が始まり、ジョーも仕事を辞め、ブライアン、ジョーの2人は起業家人生をスタートさせた。

4. 「Airbed & Breakfast」の誕生

ブライアンがちょうどジョーの家に引っ越したとき、ジョーはブライアンに家賃が25%上がって、1150ドルになったことを伝えた。すると、ブライアンは銀行口座にはあまり多くのお金がないことをジョーに伝えた。ブライアンの口座を確認してみると1000ドルしかなかった。2人はすぐさま来月の家賃が払えないことを知った。

ブライアンは引っ越す前にジョーに家賃がいくらなのかをしっかり聞いとけば良かったと思ったが、後悔する間もなく、ブライアンとジョーはスケッチブックやモレスキンのノートをすぐさま机に取り出し、足りない分のお金を稼ぐ方法を急いで探そうとした。時間はもうすでに夜遅くだった。

2人であれこれ議論していると、ちょうど週末に国際デザインカンファレンス(IDSA)がサンフランシスコで開かれることを知った。2人はデザイナーで、かつデザイン関係のビジネスをこれから起業しようとしていたので、自分たちのネットワークを広げるためにも参加したいと思った。

イベントについての詳細を知るために国際デザインカンファレンスのホームページを見てみると、ページの一部分にホテルを案内するセクションがあることに気づいた。ふとクリックしてみると、イベント主催者が推奨しているホテルの部屋の予約が全て埋まっている状況を目にした。ブライアンとジョーは見つめ合い、泊まる場所に困っているデザイナーがたくさんいるのではないかと考えた。

満室と表示されたホームページ

「どうしたら家賃を支払うためのお金を用意することができるのだろうか?」

「どうしたら宿泊場所が無くて困っているデザイナーを助けることができるかのだろうか?」

この2つの問題に直面したブライアンとジョーはRISDで学んだデザイン思考を用い、問題同士に何らかの関係性を結びつけて同時に解決する方法について考えた。

そして、「もしデザインカンファレンスに参加するデザイナーたちにベッドと朝食を提供したらどうだろうか?」というアイデアが生まれた。

良いアイデアに思えたが、空き部屋には残念なことに家具が1つも置かれていなかった。

「誰がお金を払ってまでベッドがない家に宿泊しようとするだろうか?」「床に寝させるのもロマンチックじゃないな。」「せめて横になって寝ることができるベッドさえあれば良いのになぁ」などと考えていた時、ジョーは倉庫の中にエアーベッドが3つあることを思い出した。

ブライアンはなぜジョーがエアーベッドを3つ持っているのか不思議に思いジョーに聞いてみると、「いつかルームメイトとキャンプをするときに、エアーベッドが必要だと思ったから前もって人数分買っておいたんだ。」と答えた。

ブライアンとジョーは倉庫に行ってエアーベッドを取り出し、空気を入れてエアーベッドが使えるか確認した。3つのエアーベッドが十分に機能すると分かると、ブライアンとジョーは再度話し合い、良いアイデアとは言えないが面白いアイデアと言えるから、誰かが食いつくに違いないと考え、ベッドの代わりにエアーベッドを宿泊者に提供することにした。

こうして「宿泊者にエアーベッドと朝食を提供する」というコンセプトが生まれ、airbnbのオリジナルの名前である「Airbed&Breakfast(エアーベッドアンドブレークファースト)」が誕生した。

Airbed&Breakfastのロゴ

5. One Day Project

ブライアンとジョーはAirbed&Breakfastというアイデアを問題解決の手段として採用すると、早速実行に移した。

まず手始めにインターネット上にジョーの家に泊まることができるという情報を記載しようとしたが、craigslist(クレイグズリスト)のような既存のウェブサービスでは、誰が泊まりに来るのか、泊まりに来る人がデザイナーなのかどうかなどの情報を知ることができなかった。

そこで、ブライアンとジョーは自分たちでホームページを作ることにした。簡単にホームページを作成してくれるwordpress(ワードプレス)と基本的な使い方しか分からないHTMLとCSS(ホームページ作成に必要なプログラミング言語)を駆使しながら、アパートの情報、地図、自分たちの顔やエアーベッドが写っている写真が記載されている非常にシンプルなウェブサイトを30分ほどで作った。

2人は職業がデザイナーとはいえ、慣れないコーディング作業をしたため、この時作ったサイトは非常にイケてないものだったが、デザインよりもサイトがいち早くネット上に公開されることを優先した。

最初のホームページ

しかし、サイトを作ったものの、世間の人にホームページの存在を知らせる手段がなかった。そこで、ブライアンとジョーは自分たちの知っているトップブロガー兼デザイナーたちにAirbed&Breakfastのアイデアとホームページのリンクが書かれたメールを送りつけた。国内だけでなく、ロンドン、インド、ブラジルなどにいる海外ブロガー兼デザイナーたちにも同じ内容を送りつけ、程なくして眠りについた。

翌朝起きてみると、自分たちのホームページが「JOSH SPEAR」「SWISS MISS」「core77」「UNBEIGE」などの有名ブログに取り上げられていた。アイデアを生むための議論をしてから、サイトを作り、ブログに取り上げられるまでの一連の流れは1日しかかかっておらず、クリスマスのような気分を味わった。

有名ブログにAirbed&Breakfastのことが取り上げられると、ブログの読者が自身のブログ上でまた取り上げ、人々はAirbed&Breakfastのことをさらに書いていった。ネット上でAirbed&Breakfastのことが広く知れ渡っていく一方で、ブライアンとジョーはサイトの見た目をブラッシュアップし、3日後には新たなホームページを公開した。

後にデザイン修正を加えた初期の頃のホームページ

6. 初めてのゲスト

ブライアンとジョーは自分たちの家にどのような人が家に泊まりたいとメールしてくるのか想像していた。知らない人の家で、しかもエアーベッドに寝泊まりするのが大丈夫な人とはどんな人なのだろうか?ヒッピーだろうか?バックパッカーだろうか?旅費を節約したい大学生だろうか?性別は男性だろうか?

最初のサイトを公開した日の翌日、わくわくしながらメールボックスをチェックすると、3人から問い合わせがあった。そして、ブライアンとジョーは自分たちの考えが間違っていたことを知った。彼らはなんと全員30歳以上で、3人のうち1人は女性だったのである。

ブライアンとジョーは自分たちの家に彼らを泊まらせることにしたのだが、その後も問い合わせメールが送られてくることから、まだ宿泊場所を探すのに困っているデザイナーがいると考えた。

そして、サンフランシスコ在住のデザイナーに連絡をとって、部屋を貸すのに同意してくれる人を探した。また、国際デザインカンファレンスの主催者に、Airbed&Breakfastのサイトのことをイベント参加者全員にメールで知らせて欲しいとお願いした。結果的に3人ほどの人が部屋を貸すことに同意したのだが、カンファレンス開催間近だったこともあり、彼らの部屋に泊まるゲストを見つけることはできなかった。

チェックインの日、最初にまずボストンから34歳で女性のキャサリン(Katherine)がやってきた。記念すべき初めてのゲストであるが、女性が自分の家に泊まりたいとは思わなかったので玄関ドアを開けた時は頭が爆発しそうなほどの衝撃を受けた。

次に、ユタから45歳男性のマイケル(Michael)が来たのだが、彼は個室ではなくリビングにあるエアーベッドで寝たいと言った。最後に、インドからアモル(Amol)がやってきた。

ゲスト1人1人から80ドルを徴収し、ブライアンとジョーは家賃を支払うためのお金をなんとか工面することができた。一方で、デザイナーの3人はカンファレンス期間中に泊まれる場所を確保することができた。

初めてのゲスト

結果的にブライアンとジョーは見事に2つの問題をAirbed&Breakfastというアイデアで解決することができたのだが、Airbed&Breakfastをやって何よりも良よかったと2人が思えたことは短期間で宿泊者と友人関係を築き上げることができたことだった。

ゲストの滞在中、ブライアンとジョーはなけなしのお金を使い、ゲストのためにポップターツ(アメリカで人気の朝食)やオレンジジュースなどの軽い朝食を準備し、朝の時間をゲストと一緒に過ごした。昼にはサンフランシスコを案内しながら一緒にデザインカンファレンスに行き、夜には一緒にお酒を飲み、様々なことを話した。

アモルはインド、デリー出身のグラフィックデザイナーで彼が携わっている人工知能に関するプロジェクトについての話をしてくれた。キャサリンはウェブデザイナーで、ウェブサイトをより良くするにはどうしたらよいかアドバイスをしてくれた。マイケルはクール・ガイであまり積極的に交流することはなかったが、今まで全く会ったことのなかった人同士が短い時間の中で親しい関係を築くことができることを経験した。

実際、後日談になるのだが、両者の人間関係はカンファレンス以降も続き、アモルはアリゾナ州で行われる自分の結婚式にブライアンとジョーを招待し、キャサリンはジョーの家を去った6ヶ月後にボストンからサンフランシスコに引っ越してきた。

インドから来たゲストのアモル

滞在中のあるとき、アモルは「ウェブサービスを本格的に作って、他の人もAirbed&Breakfastのサービスを使えるようにしたほうが良い。」とブライアンとジョーに熱く語った。

ブライアンとジョーは意外なことを言われ少し驚いたが、「自分たちは足りない分の家賃を補うためだけにやっただけで、Airbed&Breakfastは一時的なものだとしか考えていない。だから、現時点では本格的にやろうとは考えていない。」とアモルに説明をした。

すると、アモルは「いや、ウェブサービスを絶対作ったほうが良い。」と強く言い返した。他の2人のゲストもアモルと同様にサイトを作ったほうが良いと言ってくれた。

3人のゲストがジョーの家を去った後、ブライアンとジョーは今回の出来事と今後について話し合った。

Airbed&Breakfastはもともと家賃を稼ぐためにやっていたのだが、いつの間にかお金を稼ぐだけでなく、短時間の間に人間関係を構築することができる素晴らしいサービスとなっていた。

ブライアンとジョーは仕事を辞めて起業を決意した当初、2人でデザイン関係のビジネスをしようとしていたのだが、Airbed&Breakfastに大きな可能性を感じ、他のイベントやデザイナー以外の人にも使ってもらえるように本格的に開発することを決めた。

7. SXSW

ウェブサイトを作ることにしたブライアンとジョーは国際デザインカンファレンスのようなビッグイベントを探していた。

そして、テキサス州オースティンで音楽イベントSXSW(サウスバイサウスウェスト)が約1か月後に開催されることを知った。ブライアンとジョーはちょうど良いタイミングで開かれるイベントだと思った。

ブライアンとジョーはこのイベントを目標にしてサイトを作ることを決めたのだが、2人はデザイナーでエンジニアではなかったのでダイナミックなサイトを作ることはできなかった。

「ジョーが知っている人で最高の腕前のエンジニアは誰?」とブライアンがジョーに聞くと、前のルームメイトであるネイトの名前を挙げた。

ブライアンとジョーはネイトに連絡をし、ネイトを食事に誘った。ネイトもちょうど会社を辞めようとしていたタイミングだったこともあり、3人は会うことにした。

2ヶ月ぶりの再会だった。3人はお酒を飲みながら世間話や起業のアイデアなどに花を咲かせた。そして、ブライアンとジョーは数ヶ月前にネット上で見知らぬ人をジョーの家に宿泊させた体験のことをネイトに話した。

ネイトは話を聞いて、Airbed&Breakfastは素晴らしいアイデアだと思った。エンジニアとして長年働いてきたネイトにとって、インターネットは人との距離を縮めるツールであると考えていた。オンラインで出会った人がオフラインでも会えることはこの上ないことだと思った。

ブライアンとジョーは話しを続け、SXSWまでにサイトを作るにエンジニアが必要でネイトに作って欲しいと頼んだ。ネイトはアイデアに関しては良いと思ったが、いざ自分が作る側の立場に立たされると話は別だった。

ネイトはブライアンとジョーの話をためらいながら聞いていたが、ブライアンとジョーの話には妙に説得力があった。ネイトは興味本位でどんなサイトを作ってほしいのかブライアンとジョーに聞いてみると、ブライアンとジョーは説明し始めた。

「実在する人物かどうか確認する認証システムがあって、泊まった人がレビューを書ける機能があるサイトを作ってほしい。あと、Facebookのアカウントでサイトにログインできたり、それと。。。」

「ちょっと待って!」急にネイトが話を止めた。「SXSWまであと1ヶ月しかないんだよね?僕はエンジニアだけど、スーパーエンジニアではない。SXSWまであと時間がないから、もしサイトを作るとしたら機能としては最低限のことしかできないものになるかもしれない。イメージとしては"Airbnb&Breakfast Light"というかんじかな。それでも良いなら作っても良いよ。」と言った。

ブライアンとジョーはネイトの話を理解し、その条件を承諾した上でネイトにサイトを作ってくれるか再度頼んだ。ネイトはビールを何杯か飲んだあと、Airbnb&Breakfastの創業メンバーに加わることを決めた。

3人の集合写真

SXSWのイベント会場周辺でエアーベッドと朝食のサービスを提供するホスト(貸主)の情報を記載するため、またイベント参加者が前もってサイトを閲覧し、宿泊場所を決めてもらうにはいち早くサイトを開発して公開する必要があった。ブライアン、ジョー、ネイトは急ピッチでサイト制作にとりかかり、3週間で完成させた。

Airbnb&Breakfast バージョン2.0

このときのサービスはまだ宿泊先の情報と連絡先だけがのったシンプルな案内広告サイトだったのだが、結果的に数十人の人が自宅の部屋を記載し、情報を記載する人が増えては皆で喜んだ。

SXSWのイベントページ

8. 失敗からの学び

残念ながらSXSWのイベントでは2人にしかAirbed&Breakfastのサービスを使ってもらえなかった。2人といってもそのうちの1人はブライアン自身だったので、実質は1人だった。

多くの人にサービスを利用してもらうことは出来なかったが、ブライアン自身がサービスを使うことで多くのことを学ぶことができた。

ブライアンが泊まった家のホストたちはホスピタリティあふれるとてもよい人たちだった。男性ホストが空港にいるブライアンを迎えに行き、男性ホストの奥さんはブライアンのために夕食を用意していた。部屋もきれいに整えてあって、枕の上にはミントチョコレートが置いてあった。何一つ文句がなかった。ブライアンはホストと素晴らしい時間を過ごすことができた。

夜、ホストがブライアンに「お金をそろそろ払ってくれるかい?」と聞くと、ブライアンは「分かった。」と返事をし、財布を取り出した。すると、財布の中にホストに支払う分のお金が入っていないことに気がついた。「ATMでお金を引き出すのを忘れたから、明日でいいかな?」とブライアンが尋ねると、「もちろんだとも。明日で構わない。」とホストは言った。

次の日、再度ホストが支払いを求めると、ブライアンはまたATMに行くのを忘れてしまった。支払いを再度次の日に伸ばしてもらい、ようやくブライアンはホストにお金を支払うことができたのだが、当然ホストとの関係は気まずくなり、ブライアンはせっかくの良い体験がお金で崩されることを経験した。

そして、この体験はゲストだけでなくホストにもよくないことから、お金の支払いを事前に何かしらの方法で終わらせる機能があったらいいなと考えた。

また、カンファレンスとは関係ないけれども、Airbed&Breakfastのサービスを使ってロンドンで泊まりたいとメールを送ってくれる人がいた。

自分たちのサービスは宿泊需要が宿泊施設供給を超えるイベントがあるときだけに利用されるものだと考えていたため、最初は「無理です。ごめんなさい。」と返事をするつもりだったが、利用者の声に耳を傾けるべきだと考えた。

そして、自分たちが見えている世界はすごく狭く、もっと広い視点で物事を考えることが必要だということに気づくことができた。それは「人々は旅行が好きだ」という視点だった。

ブライアンたちは以上のことをふまえ、サイトの新しい方向性について話し合い、「Airbed&Breakfast バージョン3.0」を完成させた。

Airbed&Breakfast バージョン 3.0

サービスの新しい特徴は主に3つある。

1つ目の特徴は決済を事前にオンラインで済ませることができることだった。これにより、お金でゲストとホストの両者の思い出が壊れる可能性が減ることが期待できた。

2つ目の特徴は全世界で宿泊場所を記載することができるようになったことだった。イベントに関係なく、旅行でも使う事ができるようにした。

そして、3つ目の特徴は「Three Clicks Booking(スリー・クリック・ブッキング)」だった。ホテルを予約するくらい簡単なシステムにしたかったので、マウスのクリックを3回するだけで滞在先の宿泊予約が決まるようにした。

まずAirbed&Breakfastのホームページにアクセスし、行きたい場所の名前を検索欄に記入してクリックをする(1回目)。すると、行きたい場所にある宿泊場所がリストで表示される。リストの中から気になる宿泊場所をクリックし(2回目)、ホストのプロフィール情報、家の写真、一泊の値段が表示される。もし記載された情報に問題がなければ予約ボタンを押す(3回目)、というような感じである。

今まではサイト上に載っている連絡先を利用して、ゲストとホストが直接交渉する必要があったが、これにより非常に簡単に宿泊の予約ができるようになった。

9. ゴッド・ファウンダー

ネイトが一生懸命Airbed&Brakfastのサイトを3.0にバージョンアップしている間、ブライアンとジョーは別行動をしていた。

SXSWのイベントでブライアンはライブ動画配信サービスのジャスティスTV(Justin.tv)を創業したマイケル・サイベルに出会ったのだが、このときブライアンは自分たちが今どんなことをしているのかをマイケルに話した。

マイケルはブライアンの話に興味を持ち、「ブライアン、君に7人のエンジェルを紹介するよ。」と言った。「エンジェル?何を言っているんだこいつは。」とブライアンは心の中で思いながらもマイケルの話を続けて聞いた。

「エンジェルと一緒に食事をすればもしかしたら15,000ドルぐらいの小切手をくれるかもよ。」。ブライアンはマイケルの話すことに驚き、「すみませんが僕はお金のためにエンジェルと呼ばれる人とそのような関係を持つことはできません。」と返事をした。

「ごめん、ごめん。違うんだ、ブライアン。エンジェルはエンジェル投資家のことを言うんだよ。スタートアップに莫大なお金を投資するからエンジェルと呼ばれているんだ。食事の会話の中で彼らにAirbed&Breakfastについてピッチ(=新しいアイデアを売り込むこと。)をすれば、小切手をくれるかもしれないという話だよ。彼らは人間関係ではなく、投資の見返りだけを求めている。」とマイケルは丁寧に説明し、このときブライアンは「エンジェル投資家」という存在を初めて知った。

マイケルはSXSWのあとAirbed&Breakfastのサイトを実際に見たのかわからないが、ブライアンと連絡を取り合い、また会うことにした。そして、ブライアンはマイケルとSXSWで会ったこと、そしてマイケルと交わした会話の内容をジョーとネイトに伝えた。

マイケルに初めて会うまでの6ヶ月の間、ブライアンとジョーはクレジットカードを30〜40枚ほど使いまわして生活していた。使いまわしているうちに、どのカードが使えるかを知る必要があったため、少年たちが通常ならば野球カードをいれるようなファイルにクレジットカードを順番に入れて、カードを順番に使いまわしていた。

クレジットカード生活をするブライアンとジョー

ブライアンはクレジットカードを使いまくるこのシステムを「ビザ・ラウンド」と呼んでいるが、一時的にしのぐにすぎず、借金は増えるばかりで生活は次第に苦しくなっていった。食べるお金もなく、また精神的に追いつめられることもあり、ブライアンは20パウンド(約9kg)ほど痩せてしまっていた。毎朝心臓がバクバクした状態で目を覚まし、危機的な状況を抜け出す方法を一日中考えるも思いつかず、寝る前にベッドの中で物事はすべてうまく運ぶようにできているんだと自分に言い聞かせる毎日だった。

そんなときに誰かに支援してもらえる可能性があることから、投資家という存在はブライアンたちにとって希望に思えた。3人で話し合い、ネイトはサイトの開発に専念してもらい、ブライアンとジョーがマイケルに会って資金調達の方法を考えるようにした。

ブライアンとジョーはマイケルに会いにいき、マイケルはブライアンたちに毎週ジャスティス・ドットTVのオフィスにきて、進捗状況を報告するようにアドバイスした。ブライアンたちはアドバイスどおりに毎週マイケルと会うことにしたのだが、何回も会っているうちにマイケルはメンター(指導者)という存在になっていた。

エンジェル投資家のことだけでなく、TechCrunch(スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビューなどを扱うテクノロジーメディア)、サンフランシスコでのお金の動き方など、今まで知らなかったことをマイケルから知ることができた。

マイケルから様々なことを学ぶことができるので、後にマイケルのことを「ゴッド・ファウンダー」とブライアンたちは呼んでいる。

10. ゼロ

マイケルはエンジェル投資家にAirbed&Breakfastのことを紹介するとブライアンたちに約束したが、その間に投資家に会社の現実的な将来像が分かるようなスライド資料を作るように言った。

ブライアンとジョーはそういった資料を作ったことがなかったので、マイケルにどうすれば良いのか聞いた。すると、ベンチャーキャピタルで有名なセコイアキャピタルが作成したピッチ用のテンプレートシートをくれた。

家にシートを持ち帰り、早速資料を作ることにした。ブライアンとジョーが作成したスライド資料には次のようなことが書かれていた。

「自分たちのサービスに似たようなものには『CouchSurfing(カウチサーフィン)』と『Craigslist』があり、CouchSurfingでは630,000ものユーザーがいて彼らは無料でサービスをやっている。一方でCraigslistのサンフランシスコページでは7月9日から7月16日の間に17,000もの家が一時的に貸し出されている。よって、ゲストからお金を徴収する代わりに泊まらせてあげるAirbed&Breakfastというサービスにはビジネスチャンスがある。次に全世界の旅行のマーケットサイズは19億ドルで、その内オンラインで取引される額は5.32億ドルであるということが自分たちの調査で分かった。そして、Airbed&Breakfastのマーケットサイズはその内の2%を占め、1060億ドル規模のビジネスになるだろうと私達は予測した。サービスを使う人を1泊70ドルで3泊すると想定し、毎回のトランザクションでコミッションの10%である20ドルを徴収すると、2008年から2011年の間に2億ドルの利益がAirbed&Breakfastの会社に入る。今投資すれば株式の10%(150,000ドル相当)をあなたに分け与えます。」

ピッチ用スライド資料の一部

スライド資料が完成し、ブライアンとジョーはマイケルのところへ持っていった。そして、マイケルはスライド資料と一緒にAirbed&Breakfastについて書かれたメールを20人の投資家に送った。多くの人が返信しなかったが、8人ほどが返信をし、マイケルは彼らの連絡先をブライアンに教えた。そして、ほんの数人が実際に会ってくれた。

ある投資家の人とは大学のカフェでピッチをした。彼はスムージーを飲みながら、ブライアンたちの話を頷いて聞いていたが、途中何も言わずに急に席を退席した。何が起こったか分からなかったブライアンたちだったが、スムージーが半分入れ物に残されていたので、「きっとトイレに行ったんだ」「きっと車から現金を取りに行ったんだ」「きっと誰かと電話しているんだ」などと想像しながら待っていた。

しかし、30分待てども彼は姿を現さなかった。どうして彼がそのような行動をとったかわからないが、彼にとって今まで過去最悪なアイデアに思えたのかもしれないとブライアンたちは思った。

また、投資家の人がまさか自分たちの話を最後まで聞かずに退席するとは思わなかったので、面白おかしく感じた。そして、投資家が飲んだスムージーをカメラで記念に撮影した。

投資家が飲み残したスムージー

ある日の晩、ネイトはスライド資料にある会社の収益数字が一日に必要なトランザクション数の観点から考えると現実的ではないから投資家に投資されないと思い、会社に入るお金は2億ドルではなく2000万ドルのほうが現実的だと2人に話した。

ネイトの説明に全員納得し、ブライアンはスライド資料にある数字を「200M」(2億ドル)から「20M」(2000万ドル)に書き換えた。

次の日、別の投資家にブライアンたちはピッチをしていたのだが、ネイトは昨日書き換えた数字が「20M」(2000万ドル)から「2B」(20億ドル)に改めて書き換えられているのを目にした。

ブライアンが単位を『B』に書き換えたピッチ用スライド資料

ピッチが終わった後、ネイトはブライアンになぜ書き換えたのか理由を聞いた。すると、「ある投資家に言われたんだけど、投資家は"M"(=Million)よりも"B"(=Billion)のほうが好きなんだぜ、ベイベー。」とブライアンは言った。

ブライアンのアイデアでマーケットサイズは急激に大きくなってしまった。スライド資料の内容はエアーベッドと朝食を提供するだけで20億ドルのビジネスになるというもので、あまりにも現実的でない計画書だった。

ブライアンたちは様々な投資家に連絡し続けたが、残念ながら誰にも投資されなかった。2度目のミーティングを提案する人もいなかった。彼らは皆「人々がAirbed&Breakfastを使うとは思えない。投資するのに魅力的なビジネスには思えない。」と全く同じことを言った。

11. 民主党全国大会

Airbed&Breakfastを3.0にバージョンアップしたものの知ってもらう手段がなかった。また、ウェブサイトを見て欲しいと大々的に広報しても、泊まる場所がなければ利用する人もいなかったので、ブライアンたちは別の方法で集客を考えていた。

すると、2週間後に民主党の大統領候補として選ばれたオバマがコロラド州デンバーの民主党全国大会で演説する予定で、会場が2万人収容可能なペプシ・センターから8万人収容可能な野球スタジアムに変わるというニュースが伝えられた。そして、来場者数が10万人と予想されており、「民主党全国大会で宿泊場所がパニック状態に!」「歴史的イベント。どこに泊まればいいんだ?」とメディアが騒いでいることを知った。

ブライアンたちはデンバーにあるホテルの部屋数を確認すると、7万人分しかないことを知った。宿泊施設が不足していることが分かり、サービスを使ってもらうのに良いチャンスだと考えた。

メディアにいきなりAirbed&Breakfastを紹介するメールを送っても無視されるのは目に見えているから、ブライアンたちはメディアがAirbed&Breakfastに注目してくれるような作戦をたてることにし、情報をピラミッド型に拡散するようにした。

まず登録読者数が少ない不人気のブログを見つけ、そのブログのブロガー(ブログ上で文章を書く人)にAirbed&Breakfastについて書かれたメールを送り、話のネタを提供するようにした。

そして、人気ブログのブロガーにも同じような内容のメールを送った。彼らにも話のネタを提供したのだが、人気ブロガーはよく調べて文章を書くので、ネット上でAirbed&Breakfastについて検索し、不人気ブロガーが書いた記事を読むだろうと考えた。Airbed&Breakfastが意外にもネット上で話題となっていると彼らが感じれば、サービスのことを取り上げてくれるに違いないと目論んだ。また、人気ブロガーが記事を書けば、ローカルニュースにも取り上げられるだろうとも考えた。

メールをブロガーに送る一方で、クレイグリストで部屋を又貸ししている人たちに電話やメールをし、Facebook上で自分たちのサービスを紹介する活動も同時進行ですすめた。

こうして、地道に広報活動を続け、ある程度の宿泊施設を確保した後にメディアにメールを送ろうとしたのだが、ラッキーなことに、民主党全国大会が開かれる間は喧騒を避けるために家を貸して街から出たい人がたくさんいて、1週間で800人もの人がサイト上に自分の家を掲載してくれた。

ブライアンたちは早速メディアに自分たちのサービスを使えば、確実に宿泊場所を確保することができるという内容のメールをメディアに送ると、メディアはブライアンたちの話に飛びついた。NBC、USATODAY、Newsweek、TechCrunch、The New York Times、THEWALL STREETJOURNALに取り上げられ、週末にはCNNのテレビでライブインタビューされた。

会社を設立して1週間後のことだったので、メディアに大きく取り上げられたことを誇りに思っていたが、TechCrunchの記事のコメント欄を見ると、「誰がこんなサービスを使うのか!?」「最悪のアイデアだ。」「こんなサービスを取り上げたTechCrunchは潰れろ。」という言葉が書かれていて、ブライアンたちは複雑な気持ちになった。

いずれにせよブライアンたちのメディア戦略は成功し、サイトのアクセス数は急上昇した。時折サイトがダウンすることもあった。最終的に80人がサービスを利用し、ブライアンたちはAirbed&Breakfastはこれから間違いなく大きく成長すると思った。

しかし、それは間違えであった。オバマがデンバーを去り、時間が経つにつれサイトを利用する人は減り、以前と同じサービスが誰にも使われない状態に戻った。

サイトのトラフィック数の変化

12. シリアル起業

民主党全国大会を通じて、たくさんのホストを獲得することができたのだが、利用者が継続的に集まらないことを知ったブライアンたちは様々な思いを抱えていた。

「4年後の民主党全国大会まで待つのは嫌だ。」「毎週大きなイベントがあってほしい。」「大規模な開発をしたのにサービスが継続的に使われないのは残念。」「投資家にピッチをしても誰にも投資されない。」

ブライアンたちは正直次に何をしたら良いのか分からなかった。次にやるべきことがはっきりしなかったので、ブライアンとジョーはどうしたら人々にサービスを使ってもらえるのだろうと夜中にキッチンでブレインストーミングをした。すると、2つの点に気がついた。

まず最初にAirbed&Breakfastは「鶏が先か、卵が先か」という問題を抱えていた。ホストがいるからゲストはホストの家に泊まることができるし、ゲストとして利用したい人がいるからホストになろうとする人がいる。ホストはゲストを必要としゲストはホストを必要としている。両者がいなければサービスは基本成立しない。

次に見ず知らずの人の家に泊まる、そして泊まらせてあげるAirbed&Breakfastというサービスは普通の人にとって大きな壁であるということだった。Airbed&Breakfastというサイトが良いサービスなのかどうかを検証するのにユーザーは自分自身を犠牲にしたくない。

どれだけのゲストとホストが初期ユーザーとしてAirbed&Breakfastに必要かは分からなかったが、サービスを成長させるには両者を増やす施策必要があると考えた。

このことを踏まえ、ブライアンとジョーはサービスの名前がAirbed&Breakfastであるにも関わらず、朝食があまり提供されていないことを問題視した。そして、もし自分たちがホストに朝食となるものを提供すれば、ホストは喜ぶし、ホストはゲストにその朝食を提供できるわけだから、ホストとゲストの両者が喜ぶと考えた。

ブレインストーミングを続けていると、「卵などの生鮮食品は賞味期限があるから、賞味期限が長いものが良いね。シリアルなんてどうだろうか?」「大統領選挙も近いし、もしオバマが自分のシリアルをもっていたら面白いのではないか?」という会話が生まれ、2人で話し合った結果、オバマがパッケージデザインされたシリアルを作ることを決めた。

2人は翌朝ネイトにこのことを伝えた。ネイトは朝食のためにシリアルを作るなんて2人とも気が狂っているんじゃないかと思ったが、「そろそろ3年間付き合っている彼女との関係をはっきりさせる必要があるから、ボストンへしばらく帰ることにする。だから、シリアルを手伝うことはできない。遠隔で仕事をすることになる。」と2人に伝えた。ブライアンとジョーは仕方なく2人でシリアルを作ることにした。

ブライアンとジョーは4週間かけてパッケージをデザインした。商品の名前は「Obama O’s(オバマ・オーズ)」で、オバマが選挙運動でよく使っていたHopeやChangeという単語を用いて、「HOPE IN EVERY BOWL!(どのボール皿にも希望が)」「The Breakfast of Change(朝食に変化を)」というキャッチフレーズを載せた。いざ作ってみるとデザインがよく、ホストにプレゼントするのではなく、売り物として売りたくなった。

ブライアンとジョーはどうやったら人々の興味と関心を集め、商品を買ってくれるのか議論し、短い歌と商品イメージ画像を作成した。また、大統領選挙がもうすぐ始まることから、オバマだけでなく、マケインのシリアルも作る必要があると考えた。マケインの情報をwikipediaで調べていると、元海軍大佐ということが分かり、商品の名前を「CAP’N MCCAIN’S(キャプテン・マケイン)」にし、マケインを象徴する言葉として使われていたMaverickを用いて、「A MAVERIC IN EVERY BITE(どの1口にも一匹狼が)」というキャッチフレーズを載せた。キャプテン・マケインもオバマ・オーズ同様に短い歌と商品イメージ画像を作成した。

大統領選挙用にデザインしたシリアル

ブライアンたちは2ドルで10万箱売ればエンジェル投資家がくれるくらいの創業資金を手に入れるかもしれないと考えた。

そこで、ケロッグに電話し、パッケージデザインを使っても良い代わりにロイヤリティを支払うよう提案した。ケロッグは興味をもてなかったのか、ブライアンたちの提案を拒否し、最終的にはセキュリティを呼ぶぞと言った。

ケロッグがダメだったので、次に地域の印刷会社に電話をした。すると、印刷会社のオーナーに「面白いね。是非君たちと一緒にパッケージを作ってみたい。ただ1つだけ条件がある。1万箱を印刷するのに25万ドルが必要なんだ。」と言われた。

ブライアンとジョーはお金がなかったのでオーナーの提案条件に困惑したが、ひとまず印刷会社のあるブルックリンで会うことにした。

実際に会って話をしていると、印刷会社のオーナーはRISDの卒業生であることが分かった。印刷会社のオーナーは「君たちを助けたいけど、シリアル10万箱を印刷することはできない。でも、無料で1000箱だけあげるから、後で売れたらロイヤリティとして支払ってくれ。」と言い、ブライアンたちに協力してくれた。そして、その場で印刷し、ブライアンたちは印刷物を持ち帰った。

家に到着し、ブライアンとジョーはキッチンでホットグルーガンを使って印刷されたシリアルの箱を組み立てる作業を始めた。何箱も作っているうちにホットグルーが熱くなり、何度か軽いやけどを起こすことがあった。次に組み立て終わった箱にシリアルを詰め込む必要があったのだが、シリアルを一度に大量に買うお金はなかったので、近所の激安スーパーに毎晩行き1箱1ドルするくらいのシリアルを50箱買い占め、中のものを取り出しては組み立てた箱にいれる作業を繰り返した。

シリアルを買い占める様子①

シリアルを買い占める様子②

箱詰めするブライアン

作業をしているある日、ブライアンはふとFacebookの創業経緯について書かれた記事を目にした。そして、創業者のマーク・ザッカーバーグはFacebookを立ち上げるときに自分と同じようにホットグルーガンを使って箱を組み立てるようなことをしたのかと考えた。記事を読んでみると、マーク・ザッカーバーグはホットグルーガンを使って箱を組み立てるようなことをしていなかったので、本当に自分はこんなことをしていいのかとブライアンは思った。

クリスマスの日に実家へ帰った時には、家族にはシリアルの会社を始めたのかと言われた。そういうつもりではなかったが、一見するとそう見えてしまうので、否定できなかった。また、自分は起業家だと説明しても両親には非正規雇用者にしかみえなかった。

自分たちは財政的な問題を抱え、本業とは違うことをやっているうえに、エンジニアのネイトも彼女と婚約した。すべてがスタートアップ企業にとってあってはならないようなものだった。しかし、他にやることも思いつかなかったので悩みながらも作業を続けた。

1000箱分のシリアルを用意すると、民主党全国大会の時に多くのメディア記者の連絡先を知ることができたことから、彼らにシリアルのことを紹介することにした。メールと一緒にシリアルも送れば、ニュース部屋のどこかのデスクの上にシリアルは置かれ、横を通った記者たちが必ずシリアルを目にするから、誰かが食いつくに違いないと考え、シリアルもそれぞれ100箱ずつ一緒に送った。

すると、予想通りにメディアが反応し、インタビューをしたいという電話がかかってきた。朝のTVショー「グッドモーニングアメリカ」や「CNNインターナショナル」の番組に出演し、民主党全国大会のときのように多くのメディアに取り上げてくれた。CNN出演時の様子を録画したビデオはCNNのサイト上でも見られ、一日に最も視聴された政治関連のビデオとなっていた。

CNNの取材に応じるブライアンとジョー

メディアに露出したおかげで、1箱の値段が40ドルにも関わらず、シリアルは3分間に1個のスピードで売れていった。2日間で2万ドルを売り上げ、最終的には約3万ドル売り上げることができた。特にオバマ・オーズは人気で、すべて売り切ってしまった。

この世に500個しか存在してないことから、コレクションアイテムとなり、クレイグリストやe-bayに転売し始める人が出るようになった。1箱500ドルで売られているのを目にしたブライアンは「40ドルに価格を設定したのは誰だ!?もっと価格を高く設定していれば良かった。」と少し後悔をした。

こうして本業ではなく、シリアルの販売で大金を手にしたブライアンたちはまず借金を返した。そして、残りのお金を創業資金に当て、会社を設立した。「本業(リアル)ではなくシリアルで儲けた」というジョークも生まれた。再度スタート地点に立つことができ、ブライアンたちは少しだけ息を吹き返した。

13. Y コンビネーター

民主党全国大会以降、いくら頑張っても会社は成長しなかった。シリアルの販売で得たお金も借金の返済と会社の創業資金に使い、お金はほとんど残っていなかったので、ブライアンたちはビザ・ラウンドを再びしなければならなかった。当然食べものを買うお金もなく、300箱ほど売れ残ったキャプテン・マケインのシリアルを主食に生活していた。ミルクを買うお金もなかったので、シリアルは乾燥した状態で食べていた。そんな時にリーマン・ショックが起きてしまった。景気はみるみるうちに悪くなり、シリコンバレーでは投資を行う機会が減っていった。

そんな時マイケルが「Yコンビネーター」に参加するための申込書をくれた。Yコンビネーターはポール・グラハムとロバート・モリスによって設立されたベンチャーキャピタルで、Yコンビネーターが主催する起業家育成プログラムは起業家の登竜門とされている。2005年から現在までに様々なスタートアップに投資を行い、Pebble、Heroku、Reddit、 Dropbox、Anywhere.FMなどの有名ベンチャーを排出している。

ブライアンはサービス自体はすでにできており、 過去にメディアにも何度か取り上げられているため、Y コンビネーターに参加する必要はないと考えていた。

しかし、マイケルに「君たちの会社は死にかけている。いい経験になるから Y コンビネーターでスタートアップが成功する方法について学んできなさい。チームもまとまるし、集中してサービスに磨きをかけることができる。勢いを取り戻すチャンスだ。今参加しなかったら次の Y コンビネーターが開かれる1月まで待つことになるぞ。」と言われ、申込書を受け取った。

申込書の受付日はすでに過ぎていたが、マイケルがメールで交渉してくれたおかげで、その日の夜のうちになんとか申込書をYコンビネーターに提出すれば特別に認めると言われた。

ブライアンとジョーは早速ネイトに電話し、Yコンビネーターのプログラムに参加するための書類を作ることを伝えた。このときサンフランシスコは夜 9時で、ボストンは真夜中だった。ネイトは「いいね。CEOの指示に従いますよ。もう夜遅いから寝ます。あとはよろしく。」と言い、参加に承諾した。そして数日後、書類選考に合格し、面接の日時が書かれたメールを受け取った。ブライアンはネイトに電話し、面接に来るようにと言った。

Yコンビネーターの面接では5分間だけ事業のプレゼンができる時間を与えられる。5分で目の前に座るYコンビネーターの面接官たちを納得する必要があることから、ハーバード大学に入学するよりも難しいとされている。ブライア ンたちは5分の間に何を話せば良いのか分からなかった。5分という短い時間では多くを語れないから、Yコンビネーターの面接官は矢継ぎ早に質問を飛ばすと想定し、会社に関するあらゆる情報を事細かくノートにまとめ、お互いに問題を出しあい早押しクイズのように答えるトレーニングを事前にした。

面接の日、ブライアンたちはYコンビネーターの面接会場に向かう準備を自宅でしていた。ジョーはYコンビネーターの人にお土産を渡すためにオバマ・オーズとキャップ・マケインのシリアルを1つずつ用意し、カバンの中に入れようとした。それを見かけたネイトは「お土産にシリアルなんか渡しちゃったら受け取った人は驚いちゃうよ。家に置いていこう。」とジョーに言った。そして、 ジョーは「分かった。シリアルは家に置いていくよ。」と返事をした。

面接が始まり、ブライアンが会社サービスやビジョンについて紹介していると、 面接官でYコンビネーター設立者の 1 人であるポール・グレアムが口を開いた。

「嘘だろ!?君たちのサービスを使う人が世の中にいるのか?使う人は頭でもおかしいのか?私なら絶対に使わない。話は変わるが、君たちのサービスにはすでに多くの技術が見受けられるから、銀行のような決済事業をする会社にしたほうが面白いと思う。」と、ポールは自分たちのアイデアを否定した上に、別のアイデアを提案してきた。

そうこうしているうちに、あっという間に5分間が過ぎ、 「インタビューはこれで終わりだ。今日はありがとう。」とポールに言われた。 プレゼンはうまくいったとは言えないものになってしまった。

ブライアンとネイトが部屋を出ようとした時、ジョーがカバンの中からオバ マ・オーズとキャプテン・マケインを取り出し、ポールにお土産として渡した。 ジョーはネイトにシリアルを家に置いておくようにと言われたのだが、内緒でこっそりシリアルを持ってきていたのだった。ネイトはジョーの思わぬ行動をみて、頭に手を置いた。

Y コンビネーターでの面接風景

「これは何だ?俺に買ってきてくれたのか?」とポールが聞くと、「これはシリアルです。買ったんではなく、僕たちが作ったんです。 このシリアルの利益で僕たちは創業したんです。」とジョーが答えた。ポールはお土産にシリアルを渡されたことに驚いたが、同時に彼ら自身がシリアルを作ってお金を工面したことにも驚いた。ポールは急に彼らに興味を持ち始め、どうしてシリアルを作ることになったのかという経緯を説明するように頼んだ。

こうしてブライアンたちはもう一度腰を下ろしてポールと話す機会を得ることができた。ポールはシリアルの話を聞いた後、「君らはゴキブリみたいだね。」と言った。そして、プログラム参加資格の合否については後に電話で伝えるとブライアンたちに説明した。

シリコンバレーからサンフランシスコ市内に帰る途中、ブライアンの携帯が鳴り、ブライアンは電話に出た。「ブライアン、ポールだ。君たちはYコンビネータープログラムに。。。」突然電話が切れた。車はちょうど電波の弱いエリアを通過していたのであった。ポールからの電話に出られなければ他の人に参加の資格が与えられると思ったジョーはひどく慌て、ブライアンは車を飛ばして急いで電波の入るエリアに向かった。

市内に到着すると、再度ポールから電話があ り、「君たちをYコンビネーターのプログラムに招待するが、参加するかい?」 と聞かれた。ブライアンは「少し時間をください。」と答え、携帯をミュートモードに切り替えた。「プログラムに参加するしかないよな?」とジョーとネイトに確認をとると、2人とも頷き、携帯のミュートモードを外して、「プログラム に参加する。」とポールに答えた。

こうしてブライアンたちはYコンビネーターのプログラムに参加することになった。そして、Yコンビネーターから2万ドルが出資され、ブライアンとジョーはこの日を機にシリアルを食べることをやめた。

ブライアンはなぜYコンビネーターの面接に合格したのかを後ほどポールに聞いた。するとポールは次のように語った。

「ビジネスで成功する最も確実な方法はビジネス界のゴキブリになることである。諦めないことが大事。私はゴキブリのような起業家を探しており、ブライアン、ジョー、ネイトはゴキブリに思えた。彼らの事業アイデアは魅力的に見えなかったが、彼らには成功する力があると強く確信した。1箱40ドルするシリアルを売ることができるなら、見知らぬ人の家にお金を払って泊まるサービスも彼らなら成し遂げられる。」

Paul Grahamの言葉

14. ラストチャンス

Yコンビネーターのプログラムが始まる前、ブライアンたちはお互いにある約束をした。

「Yコンビネーターのプログラムはたったの3ヶ月。この期間の間は全員100%を出しきろう。全員が100%出しきっても利益が出なかったら、この事業を終わりにして、お互い別々の道を歩もう。これがラストチャンスだ。」

Yコンビネーター初日

ネイトは3人との約束を守るため、彼女を説得し、ボストンからサンフランシスコに戻ってきた。そして、8時頃に3人皆起床し、一緒に食事を取り、一緒に仕事をし、一緒にジムで運動をする共同生活を始めた。

共同生活を再開するネイト

Yコンビネーターの起業家育成プログラムの最終日は「デモデー」と言われており、プログラム参加者はこの日に3ヶ月の成果をベンチャー投資家にプレゼンすることができる。投資家に投資される可能性が高いため、多くのYコンビネータープログラム参加者がこのデモデーを目標にしているが、ポールはデモデーに関して次のアドバイスをYコンビネーター参加者たちにした。

「リーマン・ショックが起こってから景気は後退する一方だ。こんな状況で投資をしようとする投資家はいないと考えたほうがいい。それでも投資家に投資してもらいたいなら、投資家に右肩上がりの利益表を見せて、『自分たちの事業は儲かっている』と言えることが重要だ。『儲かっている』という定義は、自分たちで定義する必要があるが、何としても自分たちの力でデモデーの日までに利益を生み出し、自分たちのビジネスが儲かっていると言えるようにしておくように。」

ポールのアドバイスどおり、ブライアンたちは利益を上げることを3ヶ月間の目標にし、それだけに集中することにした。Yコンビネーターに参加したばかりの頃の売上は週に200ドルほどだったので、儲かっている定義を「家賃を払い、3人分のラーメン代金を支払うことができる分のお金を稼ぐことができたら儲かっていると言えるようにする。」と設定し、週に少なくとも 1000ドル稼ぐことを目標にした。ブライアンたちはこの儲けの定義を「ラーメン収益」と呼んだ。毎日の売上が一目で分かるようにラーメン収益グラフ表も作り、バスルームの鏡の前や暖炉など、部屋中に張った。朝起きて最初に必ず見るものはラーメン収益グラフ表、寝る前に最後に見るものもラーメン収益グラフ表にし、 夢の中でも儲かっていられるようにした。

鏡の前に貼られたラーメン収益表

15. 2つのアドバイス

ポールはあるとき「君たちのサービスを使うユーザーはどこにいるのか?」とブライアンたちに聞いた。「ユーザーは世界中どこにでもいます。」とブライアンが答えると、「ユーザーの大半はどこにいるのか?」と聞かれた。ブライアンは「多いのはニューヨークです。」と答えた。するとポールは「ユーザーはニューヨークにいるんだな。でも君たちはサンフランシスコにいる。君たちは一体ここで何をやっているんだ?」と質問をした。ブライアンたちは返答に困ったが、「Yコンビネーターのプログラムに参加しているのですが。。。」と答えた。すると「ニューヨークに行ってユーザー全員に直接会いに行きなさい。」 と言った。「それではサービスはスケールアップしません。」とブライアンたちが反論すると、「心配するな。スケールアップしないことを今はやりなさい。」 とポールは言った。

Paul Grahamの助言

通常の考えであれば、いかに手をかけずにユーザーを集めて会社を大きくするのか考えるのがスタートアップのやり方である。ブライアンたちはポールからスケールしないことをやりなさいと言われて驚いた。

また、このときYコンビネーターのアドバイザーであるポール・ブックハイト(Paul Buccheit)からも「サービスを好きになってくれる人が1000人いるよりも、愛してくれる人が100人いることのほうが良い。」という言葉をメールでもらった。

ポール・ブックハイトの助言

投資家たちからは成長を求められたが、Y コンビネーターではサービス利用者のラブ(愛)を求められた。今までの自分たちのやり方では成功しなかったので、ネイトは開発に専念してもらい、ブライアンとジョーは助言に従い毎週末にニューヨークに行くことにした。

ニューヨークのユーザーは20人ほどだったので全員に会うこと自体は難しくなかった。13週間の間に4度ニューヨークとサンフランシスコを行き来する生活を繰り返し、ユーザーと様々な会話をすることができた。

ニューヨークのとあるカフェであるユーザーと待ち合わせをしたときには、パソコンを開いてもらい、普段どのようにサービスを使っているのか20分ほど観察した。するとユーザーは頭をかいたり、首をかしげていて直感的に使えていないことがわかった。

ユーザー・フレンドリーではなく、お母さんでも使える 「マミー・フレンドリー」が必要だとブライアンとジョーは感じた。また、何か分からないことがあれば会社に電話をかけて聞くことができればいいなと思った。

またあるときには写真のクオリティーが良くないことに気がつくことができた。 多くのユーザーが携帯カメラで家の様子を撮影していたが、当時の携帯カメラの解像度は現在ほど良くなく、ページに記載されている写真はとても暗かった。 第一印象が悪ければ予約をしようとは思えないので、ブライアンとジョーは写真を良くする方法を考えた。

そして、ニューヨークでホストをしている人に「無料でプロのカメラマンがあなたの家の写真を撮影しますよ。撮影してほしいですか?」と電話した。

ホストたちは電話にびっくりしたが、多くの人が賛同してくれた。プロのカメラマンといっても彼らを雇うお金はないので、RISDの友人に5000ドル相当するカメラを借り、ブライアンは自分たちで写真を撮ることにした。

撮影を受け入れたホストの家に訪問したときのニューヨークの季節は冬で、しっかりと防寒対策をしてホストの家に訪問していたが外は相変わらず寒かった。けれども、ドアをノックするとホストたちが温かく迎えてくれた。

ホストに簡単な自己紹介を済ませると、どのホストもカメラマンがAirbed&Breakfastの創業者たち自身であることに驚いた。ブライアンとジョーは部屋の写真を綺麗に撮ってあげることができたが、撮影をきっかけにホストと様々なことを話すことができた。

あるホストはゲストがチェックアウトした2週間後にお金が入金されるのはなぜかと聞いてきた。ブライアンは「ゲストから入金されたお金は自動的にホストの口座に振り込まれるのではなく、リストを見ながら手作業でホストに振り込んでいる。口座が凍結することもあり、キャッシュ・フローは正直あまり良くない。お金の取引を代行しているのはホストとゲストに信頼されているからで、入金が遅れるということはホストの信頼を裏切ることになる。お金の入金が遅いことよりも、入金が遅れて信頼を裏切るほうが利用者にとっては悪いから、あえて入金日を遅くしている」と説明した。すると、Airbed&Breakfastがいかに小さい会社か知り、ホストは応援してくれるようになった。

あるゲストは私達の命を救ってくれたと泣きながら感謝の言葉を伝えた。ブライアンとジョーは命を救ったという意味が分からなかった。ホストから話をうかがうと、家賃が払えなくて住む場所を失いそうになったとき、Airbed&Breakfastを使ったら収入を得ることができ、おかげで、家を失わずに済んだと話してくれた。

ホストから受け取った感謝のメール

ホストと会話しているうちに、彼らは自分たちの味方となってくれた。味方になると、ホストへのお願いも楽になり、「あなたの家の紹介ページは素敵だけど、 もう少し家のことについて僕らが書かせてもらってもいいかな?」「価格が高すぎるから少し値段を下げてみたらどうだろうか?」と提案することができた。 こうして、きれいな写真、手頃な価格、詳細な家情報が記載されたページがニューヨークに20件ほどできた。

16. テイクオフ

数日後、ブライアンたちはニューヨークの売上だけが伸びていることに気がついた。売上がよくなった理由を調べてみると次のことが分かった。

ニューヨークの宿泊ページ全体の質が良くなったことで、泊まりたいと思う人の数が増え、ニューヨークのホストはお金を稼ぐことができるようになった。 ホストは友人に自分の面白い体験を紹介し、興味をもった友人はアカウントを登録する。新たに登録したホストは、既存のページの質の高さを真似しようと自らの手でキレイな写真、家の詳細情報を記載しようとする。すると、次第にニューヨークでは高品質の宿泊場所が多く記載されるようになり、泊まりたいと思う人が増え、稼ぐことができるホストも増えるというサイクルが出来上が っていた。

ブライアンたちは自分たちのサービスを気に入ってくれる人が増えると、喜んで他の人にサービスを紹介してくれる人がいて、彼らのおかげでサービスが大きくなっていることを知り、他の場所でもニューヨークと同じことをやってみようと考えた。そして、シカゴ、サンフランシスコ、マイアミ、ロサンゼ ルスに行き、どの都市も撮影後は売上が伸びた。一方でサービスを利用したゲストは自分の住む場所に帰ると、ゲストからホストになり、サービスは大きく世界に羽ばたいていった。

各都市のミートアップで出会ったホスト

そして、Yコンビネーターのプログラムが始まった13週間後には週に4,500ドル稼ぐことができるようになり、ラーメン収益グラフを達成するようになった。

ゲスト数の推移(1年目)

サービス利用者が増えると自分たちのサービスの幅も広がった。ミュージシャンでドラマーのデイブ(Dave)は1ヶ月のうち3週間はライブツアーで家を空けることがあるから、家全部を貸したいとブライアンたちにメールを送った。家全部を貸したいと言ったのは彼が始めてだった。家全部をゲストに貸すと朝食を提供することができないからAirbed&Breakfastのルール上ダメだったが、よく考えると馬鹿げた規則しばりに思え、家全部をサイト上に記載して貸し出すことを許可するようにした。

彼のおかげで新たな需要が生まれ、マーケットサイズも大きくなり、Airbed&Breakfastのビジネスは大きく変わり始めた。

ドラマーのDaveが記載したAirbnbページ

Yコンビネーターの最終日であるデモデーがやってきた。多くのプログラム参加者たちが最後のプレゼンテーションをする中、ブライアンたちはセコイアキャピタルから事前に投資を得る機会を得たことから、プレゼンテーションを行わなかった。そして、デモデーの発表準備をする代わりに、ブランドイメージの変更を行った。

会社のサービスは家の空きスペースにエアーベッドと朝食を提供するビジネスから個室、家全部を貸し出すサービスへと変化し、次第にデザイナーズハウス、 ボート、ツリーハウス、プライベートアイランド、イグルー(氷雪のかたまりで造るイヌイットの冬の住居)、アートギャラリー、気球など、自分たちのサイトを利用しなければ泊まることができない素敵な場所がサイト上に登録されるようになった。お城では結婚式を挙げるカップルが現れ、サービスは宿泊場所だけでなくアクティビティやイベントを提供する場所となっていった。「Airbed&Breakfast」というコンセプトはもはや見受けられなくなり、ブライアンたちはサービスの名前を変更することにした。そして、新しいサービスの名前をAirbed&Breakfastを省略化した「airbnb」にした。

Airbnb初期のロゴ

17. Belong

airbnbは単なる宿泊ビジネスではなくなった。ブライアンたちは自分たちのビジネスの核となるものは何か考えた。すると、その答えのヒントはあるホストが教えてくれた。

「『知らない人を泊めさせたいと思う人がいるのか?』と言われるが、なぜ知らない人を家に泊まらせるかと聞かれたら、その知らない人たちはまだ会ったことがない友達だから。」

そして、airbnbはハウスではなくホームを提供していると考えた。ハウスは単なるスペースだが、ホームは自分の所属しているコミュニティーで、必ずしも自分の生まれた場所にしかあるものではない。airbnbのコアには「Belonging」 があり、誰もがどこにでも所属することができる世界を思い描いている。

ブライアンたちはユニバーサルなシンボルで、「Belonging」を象徴するようなロゴがあれば良いと考えた。そして、何ヶ月もの時間をかけ1000個のロゴを作成し、その中から「ベロ(Bélo)」と呼ばれるロゴを選んだ。ベロは「人々」 「場所」「愛」「airbnb」の4つのことを表し、このロゴを見た時、あなたはairbnbのコミュニティーに所属していると感じるだろう。

Airbnbのロゴの意味

airbnbは、2010年には720万ドルを売り上げ、2011年には様々な投資家から1億ドルもの資金を調達することができた。サービスは成長し続け、2014年には会社の評価額はついに100億ドルになった。今後も会社はユーザーと一緒に成長していくだろう。

ゲスト数の推移グラフ

おわりに

この本のタイトルは『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家』です。まずはなぜこのようなタイトルをつけたのか説明したいと思います。理由は主に2つあります。

まず1つ目にairbnbは食べる“シリアル( = Cereal )”の販売利益で会社を作り、苦難の時にはシリアルを食べて生活していたという経緯があるからです。非常に簡単な理由ですね。

2つ目にairbnbは創業から現在に至るまでの間、様々な困難に直面したのですが、クリエイティブなアイデアで問題を次々に解決し、問題を解決することで会社も成長することから、「連続的な、ひと続きな」という意味の英単語である“シリアル(=Serial)”という単語を使い、シリアル起業家としています。

そして、現在のairbnbの多くのサービス機能は後者の意味の「シリアル( = Serial )」によって生み出されたものが大半を占めています。

例えば、airbnbの決済にはなぜ現金が使えないのか、airbnbがなぜプロのカメラマンを雇ってリスティングの写真を撮るのを推奨するのか、なぜairbnbの社員はミートアップ に顔を出してairbnbのホストと頻繁に交流するのか、airbnbの部屋タイプにはなぜシェアハウス、個室、まるまる貸切の3つの種類があるのかなどは本書を通して分かっていただけたと思います。

本書では取り扱っていないのですが、airbnbのサービスには他にも例えば1億円のホスト保証プログラム、スーパー ホストプログラム、災害プログラムなどがあり、これらも同様に「シリアル( = Serial )起業マインド」によって生まれました。

現在日本でのairbnb は旅館業法、または借地借家法に触れ、限りなく黒に近いグレーと言われていますが、airbnbには社会にプラスの影響を与える可能性が大いにあると私は考えます。今後法が整備され、airbnbのビジネス環境がよくなると共に、ブライアン、ジョー、ネイトのように問題をクリエイティブに解決し、シリアル起業家となる人が社会に増えることを願います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

Jack

参考文献

『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家』を執筆するにあたり使用した参考文献の紹介です。

Airbnbに関する年表

『Airbnb 僕らは"シリアル"起業家』を執筆するにあたり、時系列を整理するための年表を作成しました。

===============


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

最後まで読んでくれて、ありがとう🙋🏻‍♂️ もし内容が気に入ったら、「❤️」ボタンを押していただくと喜びます🙌🏻 「Twitter」でのシェア&感想ツイートもお待ちしてます👍🏻 PayPayID「jack3」を検索すると、直接の金銭的支援が可能です💁🏻‍♂️

Thank You ✌️
20

#全文公開 記事まとめ

自身の著書を、一部もしくはすべて公開しているnoteをまとめています。
6つのマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。