見出し画像

【ボクは東京でリアル】ダビ・ナタナエル先生インタビュー

インターネットでやり取りをしていた人たちが実際に会うこと。ゲイのコミュニティではそれを【リアル】という。集英社の「Cocohana」で連載していた『ボクは東京でリアル』には【ドイツ人ピュア男子のゲイ活なう!】と銘打たれている。この漫画の作者こそ、今回インタビューに応じてくれたダビ・ナタナエル先生。まずは、何故この日本、そして漫画に興味を持ったのかを聞いた。

東京でリアル

ダビ・ナタナエル(以下ダビ):きっかけは、子供の頃に見た日本のアニメなんです。それまで放送されていたアニメはヨーロッパを舞台にしたものが多かったので、日本の絵柄とテーマがとても新鮮でした。
自分自身もそのとき絵を描いていたので、それを機に絵柄を日本風に変えてみたり、色々と作風に取り入れてみました。初めてオリジナル漫画を描いたのは13歳の頃でしたね。

遠い異国の地で、我々と同じように日本のアニメに夢中になり、漫画を描き始めた少年がいたとは感極まる話。しかしドイツでも数多く放送されているアニメの中で、何故日本のアニメがダビ先生をそこまで夢中にさせたのだろうか。

ダビ:主人公が普通の人で、ちゃんと欠点もあるのが印象的でした。親近感を持てたし、自分の日常生活とヒーロー的な生活の両立に苦しむ葛藤も魅力的でしたね。もともと何かすごい力を持った人がヒーローになる話はたくさん見ましたが、自分と同じような境遇にいる主人公が描かれているのは日本のアニメが初めてでした。あとは絵柄の崩し方。汗がたれたり、口が顔からはみ出したり。そういう絵のデフォルメも日本独特のものが多くて面白かった。

日本のコンテンツに惹かれ始めたダビ先生が、本格的に漫画家を目指し始めるのにそれ程時間はかからなかった。ただ、場所はドイツ。直行便で12時間かかる小さな島国へ居を移すことにとまどいはなかったのだろうか。

ダビ:母親が外国にとても興味のある人だったんです。4人家族で住んでいる家には、いつも必ず10人くらい、色々な大陸から色々な人が集まっていました。だから、自分自身も簡単に外国に行けてしまうイメージを持っていましたね。

そして、高校を卒業した3日後には来日。マンガのどんなところが、そこまでダビ先生を突き動かしたのだろうか。

ダビ:一番は、ストーリーを伝えられるところですね。僕自身、映画がすごく好きで、昔は芝居をやっていたこともあるんです。それくらい、映画にも興味があるんですが、漫画は映画で言うところの制作スタッフが全部自分でできる。ストーリーを作って、キャラクターを作って、それを絵にしてシーンのアングルを決める。自分が監督で、全ての制作スタッフが自分。それで、漫画っていいなと思いました。

毎日がネタ作り

今ダビ先生が「Cocohana」で連載している漫画『ボクは東京でリアル』では、先生が実生活で経験した様々なことがエッセイテイストで綴られている。【ドイツ人ピュア男子のゲイ活】という、唯一無二の目を引くテーマのこの作品は、どのような経緯で始まったのだろうか。

ダビ:前に、いろんな女性とデートして、女性がデートに何を求めているかを漫画にするという企画を持ちかけられたんです。その時に、実は女性とデートしたことがないことをカミングアウトしました。それでその企画自体はなくなってしまったんですが、だったら同じ発想で、ゲイの自分が経験してきたことを少女漫画で描くのはどうかと、企画を持ち込んだところから連載が始まりました。

漫画家になるという思いを胸に孤軍奮闘していたダビ先生。その環境下で、ゲイだということをカミングアウトすることに恐怖、躊躇はなかったのだろうか。

ダビ:それまでも周りの人たちには伝えていたので、抵抗はそれ程ありませんでした。ただ、日本の文化でどう思われているのかよく分からなかったので、不安はありましたね。特に仕事関係。卒業した学校からたまに依頼されている講師の仕事がなくなってしまうことも考えましたが、それを差し引いても、本当の自分をさらけ出せる企画を出したいと思いました。結局は講師の仕事もなくならなかったし、杞憂でしたけどね。

そんな覚悟とともに提出した企画が通り、今の連載につながっている。

ダビ:今の作品ではほとんど実話を描いていて、これまでの経験をベースに話を作っています。なぜか僕は恋愛運が悪いんですが(笑) これが逆に漫画的には美味しかったりする。ここは漫画家になってよかったことの一つで、性格がかなりポジティブになりました。何か嫌なことがあっても「あぁ、これは漫画のネタになるな」と思えるんです。自分が経験したことのない気持ちは、漫画に描くこともできませんから。

夢を見続けること

専門学校の講師として教鞭を執っているダビ先生は、漫画家を目指す多くの学生とも交流している。そんなダビ先生に、漫画家になれる人、なれない人の違いを聞いた。

ダビ:個人的な意見ではありますが、編集部の人とか、先生、目上の人に言われること全てを取り入れようとしてしまう人は難しいかなと思います。もちろんその道の先輩の話には耳を傾けるべき。でも、その助言からどれを取り入れて、逆にどこを押し通すのかは自分で決めなければいけない。自分の選択に責任を持つことで、初めて作家としての個性が芽生えてくる気がします。漫画家には色々なタイプの人がいて、話作りが得意な人もいれば、作画が得意な人もいる。みんなそれぞれ持ち味があるから、重要なのはスキルよりも、むしろ人との出会いの方じゃないでしょうか。色々なところに持ち込んで、相手に自分の作品を選んでもらえるように努力するのと同時に、こちらも思いを共有できる編集者を選ぶくらいの気構えが大切だと思います。

多くの壁を乗り越えて、いま日本で漫画家として活躍しているダビ先生。不躾ではあるが最後に、何故ダビ先生自身が漫画家になれたのかを聞いてみた。

ダビ:すごくシンプルだけど、やっぱり夢だったからですかね。だからこそ、そこに向かって必要な努力をすることができたし、諦めないでやってこられた。ドイツから日本に来て、「漫画家になる!」と啖呵を切っても、どうせなれないでしょ、と言われることも多かった。でも不思議と変な自信があったおかげで、結果的に漫画家になることができた。もちろん、今もつらい時期がないわけじゃないけど、夢を見続けることで、これからも漫画家の道を進んでいければと思っています。
ダビ・ナタナエル先生プロフィール
ドイツ出身。高校卒業後来日し、TCA東京コミュニケーションアート専門学校で漫画の描き方を学ぶ。在学中に描いた作品で佳作賞に入賞を果たし、「ボクは東京でリアル」を集英社コーラス(現Cocohana)で連載となる。現在、comico PLUSで新連載「ワークらぶ♡バランス」を連載。漫画作品だけではなく端正な顔立ちとキャラクターも話題を呼んでいる。