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水谷フーカ先生インタビュー【14歳の恋/満ちても欠けても】

ファンタジーに4コマ、百合や恋愛ものから職業ものまで。先日TBSの情報番組「王様のブランチ」にて紹介された『14歳の恋』や、ラジオ局を舞台にした珠玉の連作オムニバスストーリー『満ちても欠けても』などの作者水谷フーカ先生は、様々なジャンルを股にかけながら、その透明感溢れる作画と読後にはじんわりと心が温まるストーリーテリングによって日に日にファンの裾野を広げている。先生の来歴を辿りながら制作の裏側をお聞きした、全4章からなるロングインタビュー!
1章:デビューまでの道のり
2章:4コマと百合作品
3章:『14歳の恋』について
4章:『満ちても欠けても』について

デビュー先が倒産!?波乱万丈な新人時代

絵や漫画を描き始めたきっかけは?

水谷フーカ先生(以下フーカ):実家が造園業者で、家に画材や、図面用のA1用紙など描くためのものが沢山あったんです。その紙の上に転がされて「描いとけ!」と(笑) 物心ついた頃には、紙の上に座って絵を描いていましたね。

それは絵描きになるには最適な環境ですね(笑) それでは、本格的に漫画を描き始めたのはいつ頃でしょうか。

フーカ:高校3年生まではノートに鉛筆で描いていました。本格的にペンを使って漫画を描くようになったのは、3年の夏にそれまで続けていたバスケ部を引退し、部活動から解き放たれてからです。進路もロクに考えていなかったので、そこではじめて「漫画家になろうかな」と思い立ち、専門学校に行くことにしたんです。

専門学校を進学先に選ばれた理由は?

フーカ:とにかく手っ取り早く、一番安い手で技術を習得しようと。ペンの持ち方から教わり始めて、2年間で基本的なことを学びました。2年の最後には、課題で作った作品を投稿して、その作品で賞を頂いたりもしました。

しかし来歴を確認しますと、そこではデビューには至らなかったようですね。

フーカ:佳作を頂いて担当さんが付いたのですが、いきなり挫折してしまったんです(笑) 1番はじめに、「とにかくまずは今の絵柄を変えてください」と指示されたんです。プロの世界ってなんて厳しいんだ!と初っ端から心が折れてしまいまして(笑)、担当さんとの連絡も疎遠になっていき……その後はしばらく、アシスタントなどをちょこちょこやりながら、色んな所に旅行に出てみたりとフラフラしている期間が長かったです。その時期には、3日おきにトップ絵を変えるという期間を設けて思いつく限りのものを毎日毎日量産していたこともありました。

そこから、再び漫画を描くようになったきっかけはありますか?

フーカ:「自分の絵柄で、自分の描きたいものを描きたい」と思い、描いたものを同人誌にしてイベントに出すようになったんです。普通のコピー誌で、ホッチキスで留めて。私が1番好きなのが『ジブリ』作品、特に『ラピュタ』などのファンタジー作品なんですけど、とにかくジブリみたいなのを描きたい!と思って描いていました。3本ほど作品を出したあたりで、司書房という出版社の編集さんに「同人誌をまとめて単行本にしてみないか」と声を掛けて頂いたんです。

声がかかった時のお気持ちは?

フーカ:「で、デビュー!?ウソやろ」と思いました(笑)  司書房さんがもともと成年向けの雑誌を出されていたような会社で、編集部に行ってみたら「肌色ばっかりやー!」ってなりました(笑) とりあえず新たに一般向けの部署を作ったので、そこから単行本を出すからと。ページ数が足りなかったので描き下ろしで短編を1本描いて、初単行本となる『夜盗姫』を出させて頂きました。
そのあと司書房さんからは、全篇描き下ろしの『チュニクチュニカ』も出させて頂きました。半年かけてお話を作って、2ヶ月で1冊分の原稿を描いたんですが、原稿用紙が郵送するとき、ダンボール1箱必要になるぐらいの大変な量になりました(笑)
そんな感じで、藁にもすがる思いで描かせてもらっていたんですけど、その半年後には司書房さんが倒産されてしまいまして……自分の単行本も絶版になってしまったんです。

それは……もし自分なら立ち直れないほどショックを受けそうです……

フーカ:ただ、単行本を世に出してもらったことはすごくよかったと思っています。実際『チュニクチュニカ』をきっかけに、どちらも芳文社さんなんですけど、百合雑誌と4コマ雑誌の編集さんに声を掛けて頂いたのが、今のお仕事につながっていったんです。とにかくいろいろあったので、どこがデビューかと言われると自分でも難しい(笑)

「やってみます!」の精神で受けた「百合」と「4コマ」

百合や4コマもそうですが、先生はとにかく色んなジャンルに挑戦されていますよね。

フーカ:『チュニクチュニカ』が絶版になって以降、次の仕事まで間がかなり空いたんです。その頃には割と年齢も上がってきまして、とにかく働かなきゃいけないというか(笑)、「来た仕事はなんでもやります!」という気持ちになっていったんです。今でも自分のスタンスは、「やってください」と言われたら「やってみたことはなくても、とりあえずやってみます!」なんです(笑)  ダメなら切ってください、みたいな感じで受けた依頼の一つが「百合」なんです。

百合ジャンルは相当癖があるように思えますが、最初お話を受けたときはどう思いましたか?

フーカ:そもそも「恋愛もの」をあんまり描いたことがなかったんです。最初原稿が載ったときは、「これ百合ファンの方に殴られるんじゃないか、殺されるんじゃないか」と不安でした(笑)
そこで、恥ずかしい話なんですけど「好きってなんだろう、恋愛ってなんだろう」というところまで立ち返って考えたり、いろんな人に話を聞きました。「どうしたの急に!?何に悩んでいるの」と驚かれましたが(笑) それで出た結論として、世間的には認められていないというような面もありますけど、相手がたまたま同性であっただけで本人的には「好き」っていう気持ちは異性に向けるそれとあんまり変わらないんじゃないかと思ったんです。

作品として描くのは、男女ものも同性ものもそんなに変わらないと思われたのでしょうか。

フーカ:とはいえ、自分が作品として描くからには「女の子同士」じゃないと描けないものを描きたいとも思ったんです。たとえばBL作品を読んでいても、男の子なのにすっごく可愛らしい感じで「女の子に入れ替えても全然違和感ないじゃん、男にする必要ないじゃん」と思うことってないですか?もちろん、そういう作品が好きな方もいらっしゃるので、私個人としてはああだこうだと言えないんですけど。
ただ作者としてやるからには、「女の子同士だからのトリック」が使いたいんです。1番最初の作品では「靴」をアイテムとして使ったんですけど、靴って男女だったら絶対履き間違いは起こらないじゃないですか。女の子同士だから始まった話としての理由が欲しかったんです。読んでいて論理的にも矛盾がないこと、「これ女の子同士になるのは仕方ないわ」っていうぐらいじゃないとなにより自分が納得できないので、そこを目指して作品を提供していきたいと思っています。

『ロンリーウルフ・ロンリーシープ』などはタイトルそのものが伏線になっていますが、百合作品に限らず先生の作品では「どんでん返し」が多用されているように思われます。

フーカ:自分は、「どんでん返し」って最高のエンターテインメントだと思っています!ですので、ミスリードを入れるのが大好きなんです。「こっちだと思うやろ~?ちゃうねんこっちやねん!」というのがとにかくやってみたくて。そのひっくり返しが最後の数ページだったりしたときは、その「ちゃうねん」のためだけに描いている感じです(笑)
読者から「やられた!」と言われるのが作者として1番嬉しいですね。もう一度最初から読み返したくなったり、もう一回読んだときに違う印象を持って読める作品が、自分で読むのも好きです。

百合作品とほぼ同じ時期に、現在も連載中の4コマ作品『うのはな3姉妹』を始められています。「4コマ作品は難しい」とおっしゃる先生も多いのですが、先生はいかがでしょう?

フーカ:自分もストーリー作品を考えるほうが楽ですね。4コマ作品は毎月15本の4コマを考えないといけないんですけど、その全てにオチをつけないといけないというのがもう大変。ストーリーは1本起承転結を考えればいいんですけど、4コマは毎月15本!今はだいぶ慣れてきたんですけど最初は本当に大変で、15本考えるのに2ヶ月かかったこともありました……

4コマ作品のお話はどのように作っているのでしょう?

フーカ:15本で一応一つのお話にしないといけないので、誰をメインにするのか、どういうラストにするのかという大体の流れをまず考えます。次に「これだけは描かないといけない」というターニングポイントになりそうな4コマを先にパパっと出しておいて、そのあと間を埋めるネタを順番に考えていきます。15本をオーバーしてしまったり、逆に足りなかったりすることもあるので、調整するのが結構難しいです。

当初の絵柄はストーリー漫画と変わらない感じでしたが、だんだんとデフォルメ度が増していったように思われます。やはり、4コマに合わせた絵柄に変化していったのでしょうか?

フーカ:ストーリーだと6等身ぐらいで描いているんですけど、4コマだと5等身ぐらいですよね。4コマでストーリー漫画みたいな絵柄で描いてしまうと、顔がコマの中で米粒みたいになって、表情が描けなくなってしまうので困るんです。なので顔は気持ち大きめにして、デフォルメも強めでどんな表情しているのか分かるようにした感じはありますね。
一度、すべてのキャラをストーリー用の絵で描きだしたことがあるんですけど、みんな全然顔が違ってびっくりしました(笑) みんな、気づかない内にデフォルメしていたんだな~と。

特に3姉妹のお父さんは回を追うごとにデフォルメ度が……

フーカ:すごいですよねー、段々描きやすくなっていってます(笑) 父ちゃんは、単行本の最後にある描き下ろしのストーリーを描くときに困るんですよ。普段の絵柄だとシリアスにならなくて(笑) ちゃんと泣ける感じのエピソードにするにはデフォルメで描いてはいかん!と思いつつ、ちゃんと描いても父ちゃんだとわかるよう描くのに毎回苦労しています(笑)

4月30日最新3巻発売!『14歳の恋』

ストーリー漫画のときのネームの切り方を教えてください。

フーカ:最初にプロットの提出があるので、まずは簡単な起承転結のプロットを書きます。OKを頂いたあと、私は文字だけのシナリオを書きだすようにしています。台詞や、こんな顔をするとかここで間(ま)を入れるとか、こういうコマ割にするとかなどのト書きのようなものをばーっと書き出していきます。言葉にしようがないときは顔文字とかも使います(笑) あとはそれをネームに起こしていきます。
美術でおっきな絵を描くとき、まず小さな紙で構図を決めてから大きなキャンバスに描き写すという方法があるんですが、そのとき描く小さい絵の方を「エスキース」っていうんです。それを自分は漫画でもやっていて、ちっちゃい紙に枠を描いて、そこにコマ割を描いてミニネームを作ります。最初にページを割り振らずに頭から描きはじめて、あとあとページが足りないとか多かったりするとそこから調整するのは大変なので、小さいネームで調整してから普通のネーム用紙に移すようにしています。

現在「楽園」で連載中の『14歳の恋』は、ストーリーの流れというよりもテンポや間、ちょっとした日常の一場面を切り取ることに重点を置かれているように感じます。

フーカ:確かにどんどん話が進んでいくようなものではありませんよね。編集さんには「毎日の出来事を、1日1話ずつで描いていっても良いです」と言われておりまして、そこは意識して描いているつもりです。
1日の、たとえば4時間ぐらいのことを32ページで描こうとすると、その「体感時間の長さ」を表現するのが大切になると思います。ただ、ここの出来事を体感時間を引き伸ばしてしっかりと描きたい、ここでこう視線が動いてとか、主人公の二人がどういう位置関係にいるのかとか、そういうところまで描こうとするとすごいページ数を喰うんです。ただ二人を写しているだけのコマだったり、黙って二人で見つめ合っているだけのシーンが多かったり。描いている方は冷めていることも多いので、つい「喋れよ」とか「にこ、じゃねーよ」とツッコミを入れたくなっちゃうんですけど(笑)
ともあれ、手のちょっとした動きを大きなコマでどーんと見せたりとかそんなことができるのは、贅沢なほどのページ数を頂いているからだと思っています。そういうのを許してもらっているのは幸せだなと。「こんな手だけ描いている1ページで原稿料もらってすみません」とは割とよく思います(笑)

そういった演出もとても素晴らしいのですが、「キャラクターの表情の描き分け」にも目を見張るものがあると感じます。

フーカ:表情を描くのは本当に大好きなので、かなり大事にしているポイントです。「その瞬間にしかできない顔」ってあるじゃないですか。そういうのを描けたらなと思っています。専門学校のとき「喜怒哀楽の表情を描きましょう」という課題が出され、「嬉」にもいろいろあるじゃん!と思って、「すごく喜ぶ」とか「ちょっとだけ喜ぶ」とか、やりすぎって言われるほどめちゃくちゃたくさん描いていったこともありました(笑)
言葉とは違って表情を伝えるのは本当に難しいんですけど、できるだけ細心の注意を払って描いているつもりです。唇の上にトーンを少し乗せたりするんですけど、それが入っているといないでは伝わり方が全然違うんです。あと、鉛筆で描く下書きの方が好きというか得意なんですけど、ペンで描いたときにちゃんと鉛筆の絵との差がないかは気をつけています。

毎回のエピソードはどのように考えているのでしょうか。

フーカ:席替えとかフォークダンスとか、毎回のお題をまず自分の中で決めて、じゃあフォークダンスだったらこの二人はどうするのか、どうしたらこの二人が困るのかだったり読んでて面白くなるのかなどを考えていきます。キャラクターを中心に考えている感じですね。
基本は、中学生のころの思い出を元に描いていることが多いです。別にこんな甘酸っぱいことがあった訳ではないんですけど(笑)、クラスの雰囲気ですとか、廊下の床や壁が冷たかったとか、そういう感覚ってあの頃だけのものじゃないですか。その頃の感覚を思い出して、引き伸ばしに引き伸ばして描いている感じです。

『満ちても欠けても』―ラジオ業界の裏側を描いたオムニバス・ストーリー―

あとがきを読む限り、こちらの作品も担当さんに言われて執筆を始めたようなのですが。

フーカ:担当さんが、私のことを知らない間からずっと「ラジオの漫画を作ってみたい」と思っていた編集さんだったんです。私もラジオは少し聞いていたので、それなら描いてみませんかとお話を頂いて、またしても「とにかくやってみます」精神でお受けしました。

作品を作るに当たって、ラジオについて相当調べたそうですね。

フーカ:実際にラジオ局にも取材に行ったんですけど、現場はめちゃくちゃ熱くて、何よりどこの部署にいっても誰に聞いても、皆さん本当にラジオが好きなんですよ!私はニッポン放送さんに取材に行ったんですけど、「ニッポン放送のことを宣伝してくれ」とは絶対に言われないんです。とにかく「ラジオを盛り上げてください」といわれ、これは本物だ!と思いました。それは、すごいプレッシャーでもあるんです。こんなにラジオに命を掛けている人達がいることを漫画で描くのは本当に大変なんですけど、少しでもラジオのことを紹介するお手伝いができたらな、と思って始めました。

一度にはがきからネット投稿まで、同時に処理してしまうライターさんの超人芸など、それこそ「漫画か!?」というようなエピソードが出てくるのですが……

フーカ:あれは本当にそのまんまなんです。全然盛っていないというか、むしろもっとすごいところはいっぱいあるんですけど、まだ漫画で描けていない(笑)  本当に「びっくり人間大会か」って思えることが沢山あります。今言ってもネタバレになってしまうので、早く漫画で描きたいです!

1話完結のオムニバス形式を取られていますが、このような形は当初から考えていたんでしょうか?

フーカ:それは最初の連載案の頃から決まっていました。一人視点では、とてもじゃないけどラジオ局のすべては描けないと思ったんです。いろんな部署のいろんな人が、自分の専門を持って頑張っているところなので。毎回違う主人公で、いろんな人をいろんな人の目線で、いかに皆が「ラジオ好きか」を描いていけたら素敵だなと思って描いています。

アナウンサーのような華やかな職業だけでなく、ミキサーなど裏方として中々スポットが当たらない人達にも光を当てていくのが、この作品の大きな魅力の一つだと思っております。

フーカ:「ラジオバカ」みたいな、「~バカ」って言い方するじゃないですか。自分はそういう人達が大好きなんです。ウチの両親も造園やっていて、「造園バカ」なんですよね。もう本当にそれ以外は残念なことがいっぱいあるんですけど、造園やっているときは本当に格好良いな!と思います。造園に詳しい偉い教授とかと3人くらいで喋っていると、まったく人の話を聞かずに全員違うことを「それは違う!これはこうだ!」と喋りながら、すごい喧嘩とか始めるんですよね。とても偉い人達なのに、ものすっごい「造園バカ」なんですよ皆さん(笑)
「そのことをやりだすと他のことはまったく手につかないけど、それだけは好きでやらせるとものすごい」人達が、自分は大好きなのでそういう人がいることを知るとどうしても持ち上げたくなってしまいます。バカは格好良いというか、バカなんだけど仕事をやらせるとすごいという「ギャップ」ってすごく良いじゃないですか。
とにかく職業ものをこんなに取材させてもらって描くのは初めてなので、今は1番大変だなと思いながら描いています。毎回毎回手探りで勉強しながら描いているので、どこまで描かせてもらえるのかわからないんですが、連載の続く限り頑張ります!

最後に漫画家を目指す学生の方へメッセージを!

フーカ:今はネットという発表の場があるのがすごく良いことだと思うんですよ。自分も当時の同級生に、「自分のホームページを持ったら絶対変わるからやったほうが良い」と言われたことがあります。漫画っていろんな人に見てもらうために描くじゃないですか。「自分のためだけじゃなくて、見る人の目線を考えて描くためにもやれ!」と言われ、自分のホームページを始めました。ネットだと作品を見てくれる人は世界中にいるので、「見る人を意識して描く」という環境を誰でも作れるのは、やっぱりネットのすごいところだと思います。
それと私が自分自身を振り返って、大事だったと思うのは「作品を完成させること」です。なんでもいいので、とにかく終わりまで描くこと。絶対無駄にはならずに、全てが身になるはずです。そして、その作品を直していくよりもすぐに発表して次に取り掛った方が良いです。「ここがダメだった」というのはいくらでも出てくるので、直していたら一生かけても終わらないので(笑)