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鬼塚たくと先生インタビュー【貧乏姫ですが、何か?】

フレックスコミックスにて『貧乏姫ですが、何か?』を連載された漫画家、鬼塚たくと先生。先生は一般誌での連載を獲得するまで、同人、成人向け、イラストレーター……と様々な経歴を経てきた。そんな中でも頭に描き続けていたのは、「漫画家」への道だった……?鬼塚先生の、漫画への熱い想いが詰まったロングインタビュー!


「それでも」目指し続けた漫画家の道!


絵を描き始めたのはいつ頃ですか?

鬼塚たくと先生(以下鬼塚):物心ついた頃には、鉛筆やペンを使って家の柱や壁に落描きしては親に怒られていました。多分3~4才くらいだと思います。新聞紙とか広告の裏、電話帳や窓ガラスなど、描ける場所にはどこでも、当時の漫画やアニメのキャラクターを描いて遊んでいました。小学生になるとノートに鉛筆でコマを割って漫画っぽいものも描いていました。

絵や漫画の描き方は、どのようにして学んだ・覚えていったのでしょうか?

鬼塚:漫画やアニメの好きな場面を真似して落描きしているうちに、少しずつ自分の頭の中で自分独自の物語やキャラクターを創造するようになりました。次はそれを漫画で表現したくなったのですが、当時漫画雑誌に初心者向けの漫画の描き方みたいな記事が載っていて、それを読みながら自分の考えた物語をノートに漫画で描くようになりました。
でも初めの内は全然上手く描けなくて、どうやったら描けるんだろうと思いながら好きな漫画の表現方法を真似したりして……他にも誌面でプロの漫画家さんが使っている道具が紹介されてたりすると、それと全く同じ道具を画材屋さんで探したり。とりあえず上手い人達と同じようなことをしていればそのうちに上手くなれるんじゃないか、という感じで覚えていきました。

影響を受けた作品を具体的に教えてください。

鬼塚:子供の頃は鳥山明先生の『Dr.スランプ』が好きで、いろんなキャラが沢山出てきて大騒ぎするようなギャグ漫画をノートによく描いていました。『キン肉マン』とか『聖闘士星矢』とか『男塾』とか、熱血バトル漫画も好きで、とりあえず当時は自分が少しでも面白いと思った作品は全部真似して落描きしたりしてました。
ある時友人が勧めてくれた『湘南爆走族』という漫画を読んだのですが、それがとても強く印象に残り「ああ、こんな感じの漫画を描きたいなあ」という感情が出てきたのを覚えています。暴走族である主人公達の笑いや涙や恋愛といった物語を描いた内容なのですが、登場するキャラクター達が魅力的で、「表面上はいつもバカやってるヤツらだけど、本当はみんな悩んで苦しんで考えて自分なりに一生懸命生きているんだよ。……でもやっぱりバカで笑えるよ」みたいな、自分が目指している漫画の原点のような作品だと思います。
その後は『カメレオン』とか『GTO』とか、ギャグが大半を占めているけど本筋はすごく真面目というか、そういった作品を読んで影響を受けました。
あと、映画も好きでよく観ているのですが、自分の漫画のアイデアやエピソード等は大抵映画から思いつくことが多いです。『貧乏姫ですが、何か?』の「貧乏」というキーワードも、貧乏人と金持ちの立場が逆転するという昔観たコメディ映画を思い出した事からきているので。

作中でちょくちょくとキャラクターがプロレス技を使っていますが、プロレスもお好きなのでしょうか?

鬼塚:おっしゃるとおり、プロレスが大好きです。十代前半の時「漫画家」を目指すか「プロレスラー」を目指すかで真剣に悩んだ事もあるほどで……悩みながらもプロレスラーが主人公の漫画をノートに落描きしてるのに気付いて「あっ、自分にはやっぱり漫画家かな」といった感じで決めました(汗)
自分にとって、漫画とプロレスには共通する部分がすごく多いんです。どちらも表面上の綺麗さやカッコよさだけでは成り立たなくて、その影にある大事な部分、人物達の背景とか空気の流れとかそういった部分がしっかり出来ていて、初めてお客さんを魅了できるというか……それだけではないのですが、ずっとプロレスを観ていて「プロレス」というものが段々とわかってくると、そこから漫画として学べる部分をいっぱい発見できたんです。ある意味、漫画や映画と同じように自分にとって最も影響を受けたもののひとつだと思います。

学生時代はどのような活動をされていましたか?

鬼塚:当時格闘ゲームが流行っていまして、漫画や落描きを少し描いてあとはゲームばかりしている毎日でした(汗)
投稿するでもなく、何かひとつ作品を描き上げるでもなく、全然前に進まない人生を歩んでいたというか……それでも漫画は沢山読んでいましたので、それが唯一の救いだったかも知れません(汗)
いろいろ漫画を読んで、「あー、自分も描かなきゃなあ……どんなの描こうかなあ……昨日考えたあのキャラでこんな世界で……でも自分なんかに描けるのかな……」と頭で考えながら、でも目線と手先はゲームに夢中みたいな。今考えると自信の無さから現実逃避してただけだったのかもしれないですね。
今では「もっと漫画の勉強をしなさい」と過去の自分を叱りに行きたいくらい反省しています……

それでは本格的に漫画やイラストを描き始めたのはいつ頃ですか?

鬼塚:付けペンや原稿用紙などを使って本格的に描き始めたのは高校卒業後の18才くらいからです。その前にもGペンで線を描いてみたことがあったのですが、ものすごく描きづらくてすぐにやめてしまって……結局それまではほとんど鉛筆しか使っていませんでした。
それでは漫画家にはなれないと思い、必死で付けペンと原稿用紙で線を引く練習をしてなんとか人並みには使いこなせるまでにはなれました。

商業以前は同人活動を積極的に行われていたようですが、始めるきっかけになったことはありますか?

鬼塚:自分の周りにはどちらかというと商業よりも同人活動をしている方が多かったので、自分も自然とそっちの方へ流れていきました。当時の自分にはどうしても商業誌は敷居が高いというイメージがあってなかなか投稿する気持ちまで進めず、自分にとって練習というか腕試しみたいな気持ちで同人誌を描き始めたんです。自分の描く作品は見知らぬ人達にどう映るんだろう?という感じで……やってみると少しずつですが読んでくれる人が出てきて嬉しかったです。本格的に付けペンと原稿用紙で描き始めたのも同人誌からだったと思います。

初めて商業のお仕事を得たきっかけは何だったのでしょうか?

鬼塚:成年向け同人誌を描いていた頃に、それを読んでくださっていたコアマガジン様の編集さんからお手紙をいただきまして、それがきっかけで成年向け商業漫画のお仕事をいただけるようになりました。
当時は商業活動に関して右も左も全くわからない状態で反省の多い作品ばかりでしたが、キャラの作り方からプロットやネーム、仕上げ、ひとつの作品を0から作りあげていくという事をこの時期に学ばせていただきました。この経験があったからこそ、今の自分があると思っています。

『貧乏姫ですが、何か?』以前はイラストのお仕事が多かったようですが、先生自身としてはイラストレーターと漫画家、どちらになりたかったのでしょうか?

鬼塚:漫画家です。子供の頃からずっと漫画家を目指していました。イラスト関係は、自分の漫画に自信が持てずなかなか作品が描けない時期がありまして、その時に編集さんから「それならばイラストはどうですか?」と仕事をいただいたのですが、イラストを中心に描いているとやっぱり漫画を描きたい気持ちが強くなってきまして……キャラクターひとり描いているだけでも、描きながら「ここでこんなセリフを喋らせて次のコマでこう動かせれば……」と頭の中で無意識にコマ割りしたりしてしまって、やっぱり自分は漫画が描きたいんだな、と改めて思いました。

フレックスコミックスで初連載を持つようになった経緯を教えてください。

鬼塚:当時成年向け漫画を描きながらも、やはり昔からの目標である一般商業誌でのギャグ漫画やコメディー漫画を描きたいという思いが強くなっていきまして、もうしばらくしたらどこかの雑誌へ投稿しようと考えていたんです。
そうしたら丁度その頃にある方がメールをくださりました。その方がフレックスコミックスさんの編集さんだったんです。以前から自分の成年漫画や同人誌を読んでくださっていて、ダメもとで原稿依頼のメールを送ってくださったそうなのですが、自分としては一般商業漫画を描かせていただけるチャンスだ!と飛び上がって、すぐに「よろしくお願いいたします」とお返事させていただきました。
とはいえ単行本を一冊も出していない身でしたので、最初は読み切りを何本か描いて読者の反応をいただいてからそれに合わせて連載作品を練る方向へ、という予定だったのですが、担当さんとプロット案を何本かやりとりしていくうちに『貧乏姫ですが、何か?』の試作案のようなものができ、その内容をフレックスコミックス編集部に気に入っていただき、連載作品として始めても良いのではないかというお話になって初連載を描かせていただける事になりました。
自分としては初の一般商業作品で初連載というとてもありがたいお仕事をいただけて大変感謝しています。

初連載作『貧乏姫ですが、何か?』を改めて振り返る。


『お嬢様が一転貧乏生活に』という作品のコンセプトがまとまるまでの経緯を教えてください。

鬼塚:初めはいろいろなプロットやキャラクターの案を担当さんとやりとりしていたのですが、これだ、というものがなかなか思いつかなくてお互い四苦八苦していました。ある日、夜の編集部で担当さんとふたりで考え込んで唸っていた時、「お姫様がその地位を無くしてしまう」ような感じの昔話か何かの話を担当さんがしてくださって、それを聞いた自分の頭に「貧乏人と金持ちが逆転する」という昔観た映画が浮かんだんです。そこからすぐに話が進んでいって「大金持ちのお嬢様が真逆の貧乏生活へ」というプロットが出来上がりました。
あとはどんどん案が出て、お嬢様育ちだから超がつく世間知らずで、お嬢様だから取り巻きが左右に二人いて、今まで主人公に勝てなかったライバルのお嬢様もいて、という具合にその場であっという間に形が出来ていきました。その後は数週間かけてキャラクターそれぞれの設定や舞台となる学校や街、毎回の話に入れるエピソードをいくつかやりとりして、正式に連載スタートをいただいたという流れでした。

そのひらめいたアイディアを連載案にまとめていくときに、何か苦労したことはあったのでしょうか?

鬼塚:一番迷ったのは、貧乏になった主人公が「行動も発言もだんだんと落ちぶれていく」のか、それとも「立場は変わってもそのお嬢様性格は何も変わらない」のか、という方向性でした。
「身も心も落ちぶれていくお嬢様キャラ」というのは他の漫画にも登場している例がいくつかあって人気もありましたので、ギャグ漫画としてその行動で笑わせるのならそちらの方が良いかも、と最初は思いました。でもそれでは主役を張るキャラとしての目新しさが足りないかなというのがありまして……無名な自分では少しでも他とは違う部分を入れた作品にしないと見向きもされないかも、という不安もあったので、担当さんと話し合って「どんな状況になってもお嬢様はお嬢様」という内容になりました。作品のテーマ的にもそちらの方が合っていましたし、結果的にはそれが読んでいただいた方々の共感を得ることが出来ましたので安心いたしました。

そのほかの主要キャラは、どのような流れでキャラクターが固まっていきましたか?

鬼塚:主人公である姫理恵のキャラが内容と同時に決まってからは、他のキャラもすぐに出来上がっていきました。ほぼ主役キャラである美咲とまゆらは「お嬢様なら左右を固める取り巻きが必須」という単純な理由で生まれました。「世間知らずの姫理恵にツッコミを入れながらも、幼い頃の経験で貧乏生活をある程度支える事が出来る、普通の女の子」という立ち位置で美咲が、十代女の子だけの貧乏生活というかなり危険な状況を少しでも和らげるため、「このコが一緒なら多分大丈夫だろう」という安心感を出す役でまゆらが、という感じで……まゆらの方は自分の中で少しずつキャラがひとり歩きして、後半は単なる取り巻きキャラを超える存在になっていましたが(汗)、それが読者の方々にも良い形で受け止めていただけたので良かったです。

次に、「1番手だった姫理恵が転落したので、当然2番手だった存在が仕返しにやってくるだろう」という事で美佳子と、主役が3人ならそのライバルも3人に、で明日美と愛菜が出来ました。美佳子は姫理恵が憎くて復讐心に燃えるキャラだとありがちかなと思い、幼馴染として財産や家柄を振りかざして自分自身では何もしようとしないところに憤りを感じているだけで、ホントは姫理恵のコトが好きなのだけど姫理恵がそういうところに鈍いからこっちも素直になれない、というツンデレ的なキャラになりました。
美佳子がまともなので一緒の二人も良いコ達だろうという事になり、普通の美咲に対してちょっと天然な明日美、妹的なまゆらに対して王子様的な愛菜、といった感じで固まりました。明日美と愛菜にはもう少し活躍する場面を作ってあげたかったです。
でもやはり堕ちぶれた姫理恵に意地悪するキャラも必要だと思い麗美と八重子を考えたのですが、あまり悪党すぎると物語が違う方向へと進んでしまいそうだったので、「お嬢様という絶対の信念を貫き通す姫理恵にはやっぱり太刀打ち出来ない」という小物に仕上がりました。結局二人ともホントは良いコ達だよ、みたいになってしまいましたが……どうも自分は根っからの悪者を描くのが苦手なようで(汗)

登場するキャラクターがお嬢様ばかりというのは、キャラ同士の差異をつけるのが難しくはありませんでしたか?

鬼塚:「お嬢様」という部分は一緒でも、それぞれに性格や立場の違いがあるのでそれほど難しくは考えていませんでした。絶対に自分を曲げないお嬢様、お嬢様っぽくない普通のコ、何考えてるのかわからないけど何でも出来る少女、ツンデレ、天然で巨乳、寡黙で男性的、小悪党、そんな感じでキャラに差を出していくと、各々の相手に対する見方や話し方も違って、服装や髪型等の外見にも性格が出て、といった具合にあまり「お嬢様」という単語を意識しないでキャラを作っていきました。
自分は「お金持ち」とか「上流階級」というものには映画や本などでの知識しか無いので、どちらかというとそういった「お嬢様」部分を表現するのに苦労する事が多かったです。気をつけていないと、すぐに担当さんから「お嬢様はこんな話し方はしないでしょう」「お金持ちにこういう発想は無いのでは」といったツッコミを受けてしまっていました(汗)
でもそのおかげで今まで自分が意識しなかった分野に触れられ、漫画を描く上で表現出来る範囲を拡げる事ができましたので、とても有意義な経験のひとつになりました。

作画の際にこだわっているポイントを教えてください。個人的には、目の描き方が特徴的だと感じるのですが……

鬼塚:確かに、目にそのキャラクターの印象を強く感じてもらいたいので、こだわりを持って描いています。やっぱり第一印象は目が大事かな、と思っているので……作画でも一番最初に目から描き始めることがほとんどです。 瞳や睫毛も、キャラクターそれぞれの性格を表すような形になるよう心がけています。その他髪型や服装、動作などにもキャラの個性を出せるよう大切に描きたいと思っています。まだ未熟なので上手く表現できていない部分も多いと思いますが(汗)

1話ごと、どのようにお話やネームを作っていきましたか?また、全巻通じて会心のできだったのは何話ですか?

鬼塚:世間知らずなお嬢様が初体験する貧乏生活、立場が変わってから見えてくる人間関係、どんな状況でも信念は曲げない、という作品のコンセプトを踏まえて基本1話完結の内容を毎回創っていきました。
こんな話や演出で描きたい、というものはいくつか出来ていたので、それを少しずつ拡げていく感じでプロットを考えネームを描いていきました。また、どの話にも満足いく部分と反省する部分があるので、特別にこれが会心の出来、といった話は無いというか……右も左もわからないままただ必死に描いていた初連載でしたので、ある意味どの話も会心の出来であったりそうでなかったりが同時に存在するみたいな感じです(汗)
全話通した中で、食料確保したりアルバイトしたりゴミ山を漁ったりといった貧乏生活面での話は、自分の経験を元にしているからなのか、あまり悩まず自然に描けました。そういう意味で精神的な余裕もあったので、さりげなく「物を大切にしようよ」とか「ご飯を食べるならきちんと働かないと」といった微妙な訴えというかテーマみたいなものも考えて描く事が出来ました。
反対に苦労したのは、物語後半の生徒会長とのやりとりでしょうか。唯一の数話続きの内容なのですが、その分ページが多いから作りやすいだろうと思っていたところ、毎話の最後の部分でどうやって次へ引っ張るか、盛り上げ方や話の起伏等の全体の構成のバランスをどうするか、そんな問題が沢山出てきて、実際描いてみると自分の経験の無さが露骨に出てしまって反省点の多い内容だったと思います(汗) 苦労はしましたがその分勉強もできましたので、今後の作品創りのための良い経験になりました。

連載当初からラストは考えていましたか?それとも連載しながら徐々にまとまっていったのでしょうか?

鬼塚:連載前に全体の内容が固まった段階では「ラストでも元のお金持ち生活には戻らず貧乏なまま」という部分は考えていました。元々長期の連載では考えていませんでしたので、そうなると最終話で元に戻るのは少し早いかなと思いまして……他には、それまではおそらく何でも他人任せのままであろう姫理恵に、何か自分の意思で行動させるようなエピソードを入れて、という部分を考えていたくらいです。
あとは連載過程や読者の反応を見ながら決めようかなと……でも連載が進むにつれて終わり方というものがいかに難しいかという事がわかってきて、他にもいろいろな案を考えたのですがなかなか良いアイデアが浮かばず……最終話を描く前の土壇場で、元の財閥お嬢様に戻るという話も考えたのですが、それだと物語全体が完全に終わってしまうような気がして……
いや、終わらせなければいけないんですけど(汗)、「姫理恵達がずっと続けている日常は、何も変わらずまだまだこれからもずっと続いていくよ」みたいな流れでいくのが作品の雰囲気的に一番良いのかも、という考えもあって、結局これが一番自然な流れかなと思いあのラストになりました。
また、出来るならばいつか続きを描きたいなという思いも強くあるので、そんな気持ちが無意識に表れてしまったラストかもしれないです(汗)

連載を通じて学んだことを具体的に教えてください。

鬼塚:自分にとっての初連載でしたので、いろいろな事を学びながら、反省しながらの必死な毎日でした。連載前にも漫画や本を読んだり他の漫画家さんの話を聞いたりして勉強はしていました。でも実際に自分で連載を始めてみると、それまで学んで得ていたと思っていた事柄が全部、何十倍にも重く感じられるようになりました。自分では既にある程度習得して通過していたと思っていた事柄が、プロの漫画家として連載まで始めるようになるとそれが全部「通過どころかまだスタート地点にも立てていなかった」という事実を叩きつけられた感じで(汗)……それまで読んでいたいろいろな漫画作品や、プロの漫画家さんの話とかにも、読むだけではわからない部分というか、実際同じ立場になって描いて初めて「ああ!あの意味はこういう事だったんだ!」という本当の部分に気付かされたりしました。
その中でも一番学んだのは「読む人の気持ちを考えて描く」事でした。それまでほとんど自分からの視点でしか描いていませんでしたので……プロの漫画家として連載させていただく上で最も大事な部分だと思います。その他、アイデアの出し方や物語のまとめ方から、ネーム作業、実際の作画や技術、モチベーションの維持、職業としての責任や立場まで、全てがそんな感じで新しく学ぶ事ばかりです。正直、連載前に想像していたよりもはるかに大変な毎日です。でも、想像していたよりももっとはるかに充実している毎日でもあります。そんな、漫画を描く喜びみたいなものにあらためて気付かせてもらえたのも、こうして連載をさせていただいたからだと思います。

現在(取材当時)は次回作を準備中とのことですが、準備期間で吸収できたことを教えてください。

鬼塚:連載が終わる少し前から次回作の案をあれこれ考えていたのですが、描きたい事や伝えたい事がまだまだ沢山あるので、どんな内容にするのか試行錯誤しっぱなしでした。その間に何度も何種類もプロットやネームを描き直したりして、その分勉強にも経験にもなりました。その時々の内容に合わせてコマ割りや画面の効果法を変えてみたり、今までやった事の無い技法をいろいろと試してみたり……結構気を使ったのは、自分の考えたアイデアが既存の作品と被っていないかどうか、というところでした。既に他の作家さんが同じような内容を描かれていないか、似ていたとしてもそれに自分なりの個性を入れて別の作品にするにはどうすればいいのか、そんな事も考えながらの毎日でした。実際問題、別の作品と被りすぎていたら編集さんからボツにされちゃいますし……(汗)
また一から作品を創るのはとても大変ですが、それだけやりがいもあって、その過程で次の作品に活かせるものを沢山掴む事もできました。

最後に、漫画家やイラストレーターを目指す学生の方にメッセージを!

鬼塚:自分はまだそれほど偉そうな事を言える人間ではありませんが……一番大切なのは「描き続ける」事だと思います。どの職業どの分野でも全く同じだと思いますが、良い事ばかりではなくて苦しい事も山ほどあります。漫画家やイラストレーター等、この世界でも途中でその苦しさに耐えられなくなって逃げたりあきらめたりする人も大勢います。最終的に自分を支えるのは「描きたい」という思いだけなので、その思いを曲げずに、自分が初めてその道を目指そうと思った時の気持ちを忘れずに大事にして少しずつでも続けていけば、いつか必ず自分が望む方向へ進める筈です。なので、どんな時でもあきらめずに描き続けてください!